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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第85話 華やかなる檻


会議の後、曹英の縁談をどう破談にするかという宿題を背負った周瑜は、腕を組んで沈思していた。

私を含め、紗良、曹英、碧衣、琴葉、荀彧、徐庶、龐統、孫瑜、魯粛、そして星蓮も席を立たず、彼を見守っている。


周瑜は皆を見回し、苦笑を浮かべた。

「皆さんも残ってくださるのですか……。国や軍を動かすのは得意ですが、縁談の破断となると勝手が違いますな」


困惑する周瑜に、星蓮が静かに口を開いた。

「曹英が一度は『縁談を受ける』と宣言するのです」


曹英が不安げに視線を向けると、星蓮は柔らかく微笑んだ。

「安心してください。実際には洛陽でのお披露目の場で、星愛(ティア)様や私が用意した“理念の演出”を披露するのです。

黄河開発の計画を曹英様が語り、『私は夢咲の未来と結婚します』と宣言すれば、婚姻を理念にすり替えられるでしょう」


荀彧が目を細めて頷いた。

「なるほど。ただし曹操だけなら通じようが、程昱ら文官に『ならば、婚姻を結んで夢咲と魏が同盟を結べばよい』と返されれば、うやむやになりかねぬ」


琴葉がにこにこと手を挙げた。

「じゃあ、曹英が『お嫁に行くくらいなら黄河に飛び込む!』って大騒ぎするのはどう? 曹操も呆れて縁談を取り下げるわ」


貂糜が曹英に問いかける。

「曹英様、琴葉様のようなことができますか」


曹英は困った顔で首を振った。


私は曹英の顔を見つめた。 (ですよね……琴葉だから言える台詞。夢咲の才女と呼ばれる曹英には似合わないし、たとえ叫んでも誰も信じない)


重苦しい沈黙が流れる。

その空気を破るように、龐統が手を叩いた。


パン!――乾いた音が会議室に響き渡った。



皆の視線を受けた龐統が、大胆不敵な笑みを浮かべた。

「妙案がありますぞ。孔明の策を利用するのです」


龐統が策の概要を語ると、場の空気が一変した。

皆が頷き、表情に光が差す。


「曹英殿、いかがですかな……納得いただけましたか」


曹英はにっこりと笑みを浮かべ、力強く頷いた。

「素晴らしい策です。必ず成功いたします」


龐統は魯粛、孫瑜、貂糜へと視線を移す。

「どうです、実行できますかな?」


魯粛が孫瑜と目を合わせ、口元に笑みを浮かべて答えた。

「もちろんですとも。いや、実に愉快ですな」

貂糜は袖で口元を隠し、静かに微笑む。

「ええ、本当に愉快ですわ。これなら成功間違いなし」


龐統は自信に満ちた笑みを浮かべ、声を張った。

「ミレイア先生、相談に乗っていただきたいことがあります」


すると、ホログラムではなく、ドアを開けてミレイアが入室した。

「面白い話をしているものだから直接来たわよ。

龐統君、なかなか面白いことを考えたわね」

「この功績に……磁気学の単位を一つ頂ければと思いまして」


(そんなことで夢咲学園の単位を稼ごうだなんて……龐統さん、ほんと抜け目ないわね)


「龐統君、そういうところが駄目なのよ。で、私を呼んだのは――華蓮を呼び出して欲しいのでしょう?」


龐統は頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。

「さすが先生。華蓮様を呼んでいただけますか」


「襄陽にいる華蓮様を呼び出していただけませんか」

ミレイアは琴葉の席に視線を移し、ふっと笑った。

「もっと察しのいい人が、いなくなっているわね」


その言葉と同時に――上空から光がぐんぐん迫ってきた。


グァン――!


衝撃波が窓を震わせ、そこには華蓮が浮かび立っていた。

その肩には、琴葉蜘蛛がしがみついていた。


ガラスを通り抜け、華蓮が部屋に入ってきた。

肩に止まっていた琴葉蜘蛛は通り抜けられず――

「あっ、落ちた」私は思わず声を上げたが、煙とともに元の席に戻り、何食わぬ顔で座っていた。


そんな琴葉には目もくれず、華蓮は龐統に視線を移す。

「龐統さん、何か面白い人形劇のシナリオを描いたのかしら?」


華蓮の妖艶な立ち居に身じろぎもせず、龐統は語り始めた。

その内容を耳にした瞬間、私は――この策は必ず成功すると確信した。


「あら、面白いことを考えるわね。曹操と程昱の顔が思い浮かぶわ……うふふ」


華蓮は満足げに微笑んだ。

一同は頷き合い、それぞれの役割を果たすべく動き出した。




◇◆◆ 出港の朝 ◆◆◇


夜のあいだに、浮島夢咲は扈渎(ことく)(上海)の沖合から静かに東営(黄河河口)へと移動していた。

その第一ふ頭には、夢咲機動艦隊が停泊している。


朝陽に照らされて輝く海とは対照的に、緑と黒の遮光塗装を施された船体は、異様な威容を漂わせていた。

艦隊の構成は、澪星型司令艦一隻、彗星改機動艦二隻、流星四隻。


操舵室に立つのは、私と紗良、曹英、琴葉、星蓮、そして流星と劉蓮親子。

皆の瞳には、自信の光が宿っていた。


その様子を、操舵室の隅の椅子から眺める華蓮。

「いいわね、今回の役者が勢ぞろいね。

いい顔をしているわ。しっかり私を楽しませてちょうだい……うふふ」


曹英は胸に手を当て、華蓮に微笑みかける。

「華蓮様、しっかり主役を務めさせていただきます」


私はミレイアに命じた。

「さあ、ミレイア、出航よ。自動操縦を任せるわ。

全速前進――目的地は洛陽港!」


「任せなさい、遠隔操作でしっかり洛陽まで送り届けるわ」


カラン、カラン……

ボォォォォォ――……


鐘と汽笛が重なり響き、船体がゆるやかに動き出す。

夢咲機動艦隊は、静かに、しかし確かな決意を秘めて出港していった。




◇◆◆ 黄海から洛陽へ ◆◆◇


七十ノットの速力で海面を切り裂く夢咲機動艦隊。

朝陽を背に、緑と黒の船体は矢のように黄海を駆け抜けていく。


甲板に立つ者たちは、潮風に髪をなびかせながら、その疾走感に胸を高鳴らせていた。


操舵室の窓辺では、私と華蓮が並んで外を眺めている。


「まるで舞台の幕が上がる前みたいね」

華蓮が銀糸を指先で弄びながら笑うと、私は静かに頷いた。

「ええ。けれど幕が上がったら、もう後戻りはできません」


「だからこそ面白いのよ。あなたは真面目すぎるわ」

二人のやり取りは、緊張と余裕が交錯する舞台裏の囁きのようだった。


一方、後部甲板では星蓮の子供たちが琴葉と一緒にはしゃいでいた。


「見て見て! 波が跳ねて虹になった!」

「わあ、本当だ! 次は誰が一番遠くまで声を届かせられるか競争よ!」


子供たちの笑い声が響き、琴葉も負けじとはしゃぎ、艦隊の硬質な空気を和らげていた。


「はしゃぎすぎないでね」

星蓮が心配そうに声をかける。


その少し離れたレールガンの陰で、紗良が曹英に小声で釘を刺す。

「……私を差し置いて星愛(ティア)に抜け駆けかけたら、絶対に駄目だからね」

曹英は一瞬きょとんとした後、頬を赤らめて視線を逸らした。

「わ、分かっています。私は夢咲の未来と結婚するのですから」

その言葉に、紗良はふっと笑みを浮かべる。


二人の間に漂うのは、八歳の頃から続く、甘くも鋭いライバルの空気だった。


やがて艦隊は黄河を遡り、切り立つ峡谷を突き進んだ。

断崖に反響する汽笛の轟きは、まるで戦の号令のように大地を震わせる。


ミレイアの自動操舵に導かれ、艦隊はひた走り続け――

ついに、夕陽に染まる川面の彼方に、洛陽港の灯が瞬き始めた。


「さあ、舞台は整ったわ」


華蓮の囁きに、星愛は静かに目を閉じた。

夢咲の理念を賭けた“人形劇”が、いよいよ幕を開けようとしていた。


―――――


港には、馬上の曹仁と程昱が姿を現した。

その背後には、太常卿と光禄勲が並び立ち、礼と武を兼ね備えた威容を示している。


星蓮はその光景に目を細め、すぐに意味を悟った。

「……これは、曹操の術中ね」


「どういうことなの?」

私は星蓮に尋ねた。


「……あの二人、ただの役人じゃないのよ。

太常卿は礼儀と祭祀を司る儀典の長官。

国家の大事を“儀式”として正統化する役目よ」


私は威容を整えた武官の方を指さした。

「じゃあ、あの隣の武官は?」


星蓮は目を細めて続けた。

「光禄勲。宮殿の門を守る近衛を統率する卿官。つまり“武”の象徴ね。

礼と武、その両方を揃えて出迎える……

これは単なる婚約の儀ではなく、曹操が“国家の儀式”に格上げしている証拠よ」


曹英の方を見ると、両手を胸に当て、その表情はわずかに強張っていた。

やがて、曹操の迎えの大行列が整然と並び、星愛らを囲むように進み出す。


星馳六台が華やかな雰囲気の中で港を後にし、洛陽の丞相府へと向かっていった。

その光景は祝賀の行列であると同時に、曹操の権威を誇示する檻のようでもあった。


―――――


やがて華やかな行列は丞相府に入り、賓館へと向かった。


石段の左右には、絢爛に着飾った女官たちが整然と並び、私たちを迎える。


星馳から降りて見上げると、曹操と曹真を中心に、文官と武官が左右に列を成していた。


私たちはゆっくりと石段を登る。


曹操が一歩進み出て、深く頭を下げた。

「お待ちしていました、星愛(ティア)殿、それに夢咲の皆さま。どうぞ中へ」


賓館の扉をくぐると、絢爛豪華な広間が広がり、数百の文武百官が一斉に一礼した。


「わー、すっごいね」――琴葉の声が場の緊張を和らげる。


私たちは最奥の円卓に案内され、腰を下ろした。

神座には曹真が座し、周囲の文武と歓談している。


(ここまで準備を整え、私たちを囲い込むつもりなのね……)


私はにっこりと曹操に微笑んだ。

「曹操殿、とても黄河の開発許可を話す席には見えませんね」


曹操は含み笑いを浮かべる。

「いやいや、星紙幣を握る夢咲星環府との会談には、このぐらいが相応しいと思いましてな」


華蓮が頬杖を突き、曹操を見据える。

「襄陽と同じように、黄河一帯も星紙幣で潤う計算でしょう?」


「……まさしくその通りです」曹操は視線を返した。


「そうすれば、こんな宴を毎晩でも開けますわね」

華蓮の挑発的な笑みに、曹操と程昱は顔を見合わせ、静かに笑った。


やがて華蓮が鋭い眼差しを向ける。

「もう、黄河開発の交渉は成立でよろしいわね」


私は書類を取り出し、曹操に差し出した。

「署名と丞相印をお願いします」


曹操は書類を素早く一読し、程昱に渡す。

程昱も目を通して頷くと、曹操は筆を執り、重々しく署名し、丞相印を押した。


「これで、交渉は成立ということでよろしいでしょうか?」

私の問いに、曹操は静かに頷いた。


その仕草に、広間の空気がわずかに揺らいだ。

やがて晩餐の席で、曹操は杯を掲げた。


「黄河の開発、夢咲に任せよう。お前たちの力を借りたい」


場がざわめき、星蓮がこの機を見逃さず曹英を見て静かに頷いた。

そして、曹英が立ち上がった。


「ここで、もう一つご報告がございます」


彼女は胸に手を当て、曹真の隣へ歩み寄る。

「このたび、兄上の希望で曹真殿と私、曹英は婚約を結ぶこととなりました」


場内が一層どよめき、武官も文官も顔を見合わせる。

祝賀の拍手が広がる中、曹英は懐から二通の書状を取り出し、卓上に広げた。


「ただし――」

彼女は微笑み、曹操を真っ直ぐに見据える。


「私は安くはありませんわ、曹兄」


その言葉に、曹操の手が止まった。

杯の酒がわずかに揺れ、場の空気が凍りつく。


曹英は一歩前に進み、はっきりと告げた。

「私は夢咲と同じく中立。どこにも属しません」


沈黙が落ちる。


曹操の瞳が大きく見開かれ、次の瞬間、わずかに揺らいだ。

慌てて程昱が書状を覗き込み、みるみる顔色を変えていく。

その動揺を見逃さず、星蓮は静かに微笑んだ。


華蓮は足を組み、頬杖を突いて意地悪く笑う。

「協力したかいがありましてよ……良い人形劇が鑑賞できましてよ、うふふ」


琴葉は周囲の緊張など気にも留めず、劉星と劉蓮と一緒に菓子を頬張っていた。

一方、紗良は曹英が余計なことを口にしないよう、鋭い眼差しを向ける。

曹英はその視線に気付き、苦笑を浮かべた。


私はといえば、曹操や程昱の顔色よりも、紗良が曹英を睨みつけるその表情の方が気になって仕方がなかった。


――こうして、様々な思惑を孕んだ宴は、華やかさの裏に不穏な影を宿していった。

いつしか、外では五月の雨がしっとりと石段を濡らしていた。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

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