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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第82話 星環の光、知将の功績


孫瑜が夢咲の志を胸に逝った後も、三国の情勢は止まることなく動き続けていた。

劉備は益州を平定し、荊州南部の三郡を掌握。

孫権はその返還を求め、魯粛を益陽へと派遣した。

魯粛は言葉を尽くし、兵を動かさずに三郡を取り戻したが、荊州の均衡は常に揺れていた。


一方、浮島夢咲もまた、大きく前進しようとしていた。

孫瑜に施された多能性獲得細胞による骨髄移植は成功し、彼の容態は安定していた。

その成果を受けて、夢咲ではある計画が静かに議論され始めていた。


会議室には、妃良、芳美、理沙、美優、華蓮、ミレイア――そして、芽衣ことペルセポネが集っていた。

議題は、多能性獲得細胞を神核に融合させ、神を誕生させる計画について。


「今日は、孫瑜に使用した多能性獲得細胞について話があるの」

妃良が身を乗り出し、静かに口を開いた。


「浮島夢咲は、港地区を除いて人の子禁制の島。ここに住むのは、神と神予備軍の人子だけ」

芳美が頷きながら言う。


美優は寂しげな表情で呟いた。

「島にいるのは、百人にも満たないわね……」

理沙が腕を組み、目を細める。

「本来の目的は、まだ生まれぬ神の神核をこの島で誕生させることだったわね」


華蓮が皮肉な笑みを浮かべる。

「妃良、まさか……神核に多能性獲得細胞を纏わせようなんて考えてるんじゃないでしょうね?」


妃良は微笑み、ミレイアに視線を送った。

「そのまさかよ。ミレイア、説明してくれるかしら?」


ミレイアは得意げな表情で頷き、説明を始める。

「劉明が開発した多能性獲得細胞は、生物のあらゆる細胞をコピーできる万能細胞なの」


芽衣が慎重な面持ちで問いかける。

「神核と融合させて、胎内で育つ過程に沿って細胞分裂させる……ということかしら?」


ミレイアはニヤリと笑った。

「信仰を持つ星愛や紗良なら、神の胎内で神核を宿せば、宿主の細胞から分裂して身体を生み出せる。

でも、信仰を持たない神核は、細胞分裂ができない。

だから、神の細胞ではなく、多能性獲得細胞を分裂させれば――人の子の身体を持つ神を誕生させることができるのよ」


理沙が澪に向かって問いかける。

「それでは、肉体は歳をとる。つまり、永遠の命を持たない神……人の子と同じではないのか?」


ミレイアは微笑みながら答えた。

「うふふ。古くなった細胞は、新しい多能性獲得細胞と入れ替えれば――永遠の命の完成でしょ?」


華蓮は袖で口元を隠し、目を細めながらくすりと笑った。

「人の子が聞いたら、神への冒涜とでも言うかしら……ふふ、面白いわね」


繊細な面持ちの芽衣が、静かに言葉を継ぐ。

「春を告げる女神が、星愛たちに託した手紙――今日、開かれるわ。

多能性獲得細胞の新たなデータが得られるはずよ」


華蓮の瞳に、淡い紫の光が宿る。

「また、面白い人形劇が見られそうね」


ミレイアは目を細め、端末を指先で軽く叩いた。

「ええ、しっかりデータは取らせてもらうわ。すべて、記録に残します」




◇◆◆ 浮島夢咲・五華謁見の間 ◆◆◇


女神たちが議論を交わしている頃、私たち五華は謁見の間に集まっていた。

机の端には、一通の封筒が静かに置かれている。


「……ペルセポネから預かっていた手紙。開封指定日は、ちょうど今日ね」


私はそっと手を伸ばし、封筒の端を指でなぞった。

淡い銀のインクで記された。


日付は――建安二十二年、西暦二一七年、四月五日


「この日が来たら開けてほしい。そう言われていたの」


声は静かだったが、部屋の空気がわずかに震えた。

誰もが、その手紙に込められた意味を察していたからだ。


「開けましょう。ペルセポネが残した言葉なら、今こそ聞くべきだわ」

曹英妃が頷き、私を促す。


私は深く息を吸い、封を切った。

その瞬間、夢咲の空気が、静かに変わった。


――――――――――――――――――――


建安二十二年四月十二日


魯粛は呂蒙との対談中に意識を失い、

そのまま帰らぬ人となる。


死因:心筋梗塞


裁定:延命を許可する


――ペルセポネの記録――

心臓に血液を送る冠動脈が血栓で塞がれ、心筋に酸素が届かなくなる。

血栓の粉砕・溶解。心筋の一部再生が必要。


――――――――――――――――――――


「……魯粛が……」

私の声は震えていた。


紗良が拳を握りしめる。

「未来が、こうして記されているなんて……」


曹英は目を伏せ、低く呟いた。

「死因まで明記されています。これは予言ではなく、記録……」


碧衣は袖で口元を隠し、目を細める。

「延命を許可、ね。つまり、私たちに託されたということ」


琴葉が静かに頷いた。

「ならば、応えるしかないよ。夢咲の力で、魯粛さんを救うんだ」


私は深く息を吸い、手紙を胸に抱いた。

ペルセポネの筆跡が、今も指先に残っている。

――未来は定められているのか、それとも変えられるのか。

答えは、これから私たちが示すしかない。


「そうよ、琴葉の言う通り。魯粛さんを救うのよ!」


私は皆の眼を見て、気持ちを切り替えた。


紗良が心強い眼差しで頷く。

「まずは、医療班に相談しましょう」


私たちは互いに見つめ合い、頷き合いながら、

夢咲学園付属医術院へと歩を進めた。


―――――


「そう、心筋梗塞なのね。

心臓に血液を送る動脈が血栓で塞がれ、心筋に酸素が届かなくなる……」

貂蝉(ちょうせん)は目を伏せ、しばらく沈思した。


劉明が口を開く。

「血液の溶解剤はどうでしょうか?」


「ええ、命の灯は繋ぎ止められるでしょう。

けれど、心臓の深い傷は残ってしまうわ。」


貂蝉は腕を組み、指先で机を叩きながら思考を巡らせる。

沈黙が、永遠のように長く感じられた。


やがて彼女の眼が開き、延命の方針が告げられる。

「まずは洞庭湖で血栓の粉砕術を行います。――エミリア、聞こえるかしら?」


「はい、聞こえています。血管造影の設備は洞庭湖にあります」

通信越しの声に、貂蝉は静かに頷いた。


「血栓を砕けば血流は戻り、これ以上命の炎は失われない。

その後、浮島夢咲で多能性獲得細胞を編み込み、欠けた心筋を新たに育てる。」


貂糜が不安げに問いかける。

「でも……欠けた心臓は、以前と同じように鼓動できるのですか?」


「完全に同じではないかもしれない。

けれど、新しい細胞が力を合わせれば、再び命を支える鼓動を刻めるはずです」


貂蝉は満面の笑みを浮かべた。


私たち五華は誰も、その意味を完全には理解できなかった。

それでも――彼女の笑顔を信じ、ただ頷くしかなかった。


「ミレイア、いま魯粛さんはどこにいるのかしら」

私はミレイアのホログラムに向かって声を掛けた。


「――現在、魯粛は濡須口(安徽省蕪湖市)に滞在しているわよ。

呉軍の前線指揮官として、曹操軍との対峙を外交交渉によって終息させたの。

戦闘の拡大を防ぎ、呉の防衛線を維持したことは、彼の最後の功績になるでしょう。

ただ、交渉と軍務の両方を担っていた影響で、心身の負担は限界に達しているわ。

心拍は不安定で、心筋への酸素供給も断続的に低下している。

このままでは、数日以内に致命的な発作が起きる可能性が高いわ」


ミレイアは一拍置いて、静かに続ける。


「彼は……誰にも弱音を吐いていないわ。

呉の未来を背負って、孤独な決断を重ねているのよ」


曹英が明るい表情で私に言った。

「私たちは、夢咲星環府・蕪湖府の完成式典に行く予定よね」

「呉の孫権に声を掛けていたから、魯粛はそのまま式典に出席する予定かしら」

私がそう言うと、琴葉が頷いた。

「濡須口の戦場で魯粛と呂蒙が話していたから、出席すると思うよ」


曹英が目を細めて私を見た。

「夢咲星環府の先端の街を見れば、魯粛が倒れた時間違えなく頼ってくるわね」

「そうね、なるべく早く頼れるように、医療院のアピールをした方が良いわね」

私は頷いてしばらく考えた。


「とりあえず、これから夢咲星環府・蕪湖府の完成式典に出発します。

式典に出席するのは五華と貂蝉、貂糜、小喬の医療班」


皆が納得し頷いた。


「劉明はここに残って、多能性獲得細胞の準備を進めてくれるかしら?」

「ええ、星愛(ティア)様、任せてください」


「エミリアは洞庭湖の黄月英に、血管造影の設備がいつでも稼働できるように伝えてくれる?」

「わかったわ」


こうして、私たちは魯粛の延命に向けて動き出した。




◇◆◆ 夢咲星環府・蕪湖府 ◆◆◇


建安二十二年四月十日


長江の水面に星環の光が揺れる夕刻、夢咲星環府・蕪湖府の開府記念式典が静かに始まった。

呉からは魯粛・呂蒙・蔣欽・潘璋・孫皎(そんこう)・張昭が参列し、夢咲側は星愛(ティア)・紗良・曹英・碧衣・琴葉の五華に加え、貂蝉(ちょうせん)貂糜(ちょうび)・小喬、そして開発に尽力した孫尚香が並ぶ。

式典の中心では、魯粛の功績――濡須口の和睦交渉が讃えられ、呂蒙がその意志を継ぐ決意を語った。

星環府蕪湖孤児院の子どもたちが孫瑜の詩を朗読し、長江に浮かぶ都市が静かに未来を照らす。

呉と夢咲の代表が協定文を交わすと、星環の光が水面に広がり、式典は希望の余韻を残して幕を閉じた。


式典後の夜の宴で、私は魯粛の姿を見つけ、声をかけた。

「魯粛さん、濡須口の和睦――実に見事でした」

「これは星愛(ティア)様。お変わりないようですね」


魯粛は孤児たちのテーブルを見つめ、窓の外に広がる街並みに目をやり、感慨深げに頷いた。


星愛(ティア)様、しっかり孫瑜殿の意志を継いでおられる。

間違いなく、この街は文化の中心として発展していくでしょう」


潘璋も頷き、魯粛の言葉に続けた。

「聞けば、呉軍の負傷兵のみならず、曹操軍の兵も手当てしているとか」

「ええ。戦場を離れれば、皆平等と考えるのが夢咲流です」


孫皎(そんこう)が大きく頷いた。

「兄・孫瑜の意志を、しっかり継いでおられるようですね。

戦災孤児の受け入れや、蕪湖の民にも夢咲学術院の門戸を開いていると聞いております。

ぜひ、明日はこの街をご案内いただきたい」


張昭も真剣なまなざしで私に言った。

「孫権様からも、しっかり見てくるようにと命じられておりましてな……

ぜひ、見学をさせていただけますか?」


思い通りに事が運び、私は思わず笑みをこぼした。

「もちろん。明日はそのつもりでした」


こうして、蕪湖の宴は子どもたちの声が響く中、戦に明け暮れた兵たちに安らぎを与えながら、

ゆっくりと幕を閉じていった。


夜空には、満天の星と青い月が静かに輝いていた。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

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