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第08話 明かされる真実

私が理事長室のドアをノックした。乾いたノックの音の向こうから聞き慣れた私のママの声が聞こえた。


「どうぞ、星愛ちゃん、鍵は開いているわよ」


(えっ、まるで私、言え私達が来るのが分かっていたみたいじゃない)


私はゆっくり理事長室のドアを開けた。私のママ(灯里高等部理事長)、サラのママ(弓月高等部校長)、風羽夢咲学園総合理事が静かな顔でモニターを見ていた。理事長室は広々としていて、窓からは夢咲学園の校庭が一望できた。でも、今はその景色よりも、無表情で窓際に立ち並ぶ謎の男女の存在が、まるでマネキンのようだと感じた。


風羽は真剣な表情でモニターを見ていた。私達が理事長室に入り、琴葉が最後にドアを閉めた音が聞こえたのか、こちらを振り向き私達に声を掛けてきた。


「やあ、そろそろ来る頃だと思っていたよ。6人とも成長した顔つきしているね」と話し、モニターに顔を向け、私達も見る様に促し話しを続ける。


「ここに来た理由は白洲さんのことでしょ」


私達はモニターに視線を写すと、モニターには地図とライブ映像が映し出されていた。ライブ映像にはモノレールのドア側に立っている夢咲学園の制服を着た女の子が映し出されていた。地図を見ると川に架かる橋を渡っているあたりだった。


「これって、どういう状況なんですか?」と碧衣が冷静に尋ねた。


「見ての通り、モニターには、夢咲学園周辺の詳細地図。赤い点が白洲さんを追っている尾行要員の現在地を示し、黄色の点が他の尾行要員の位置を示している。ライブ映像の、モノレールのドア側に立つ制服姿の女子高生が白洲さんだよ」


私は澪ちゃんと教えてもらい一瞬安心したが、同時に『なぜ事前に分かっていたの?』という疑問が沸き上がり、少し腹立たしさを覚えた。


「そこに立っている方たちも尾行要員で、他の方たちも尾行中なんですか」


(どうも、この風羽を見ていると私の方が上の立場であることを教たくなる心境になるみたい…)


私は、風羽の方に一歩前に出て言葉を続けた。


「まるで、今日魂抜きがあるって分かっていたみたいじゃないですか」


風羽さんがニヤリと笑い、手をパンと叩いた。


「ご明察、その通りだ」


風羽は壁に立つ尾行要員を見て退出するように促してから話を始める。


「まず、この話しを理解するには、白洲澪がどんな存在なのかを知る必要があるね」


私達は真剣な眼を風羽に向けます。


「白洲さんはね、女神で紀元前700年に人への転生をし、転生した時に行ってはいけない禁忌を犯し、3,000年の人としての生の呪縛を受けているんだよ」

(えっ、澪ちゃんは2700年以上人として生きているの…それがどんなことなのか、私には想像できない)


私達は驚きの表情を浮かべた。そして、風羽は琴葉の方を向いて話を続けた。


「その禁忌を犯した理由は、琴葉さんの『創世神話』には書いていなかったでしょ。その創世神話はね、天界で二人の女神に仕えていた聖女が、転生の記録を残すためにいつも一緒に転生していたんだよね」


私は自分たちの考えを交えて風羽に質問した。


「私達は、澪ちゃんが夢咲学園に現れたのは二人の女神がいるからだと思っているのだけど、ひょっとして、その聖女さんも女神の側にいるの?」


「うん、いるよ。いつも側にいて二人の女神を観察し、記憶の日記に書き移しているんだ。そして、女神が地上に降りていた期間の事しか書いてないんだ。実は、創世神話って二人の人への転生日記でもある。だから、女神が人への転生をしていない時代のことは書かれていないんだよね」


風羽が、じろりと琴葉を見てにっこり笑う。


琴葉は突然頬を赤らめ、慌てて手を振り始めました。


「えっ、えーっと…、私違いますよー、聖女じゃありませんよー」


全身で否定をする姿。その様子を見て、この場の雰囲気が和んだ。


「それと、夢咲学園の秘密も話さないといけないな。この学園の創始者は表向き私の父、風羽一郎となっているけど、実は全知全能の神ゼウスなんだ」


琴葉が持っていたスマホを胸に押し当てて目を丸くして風羽に尋ねた。


「えっ、えーっと…本当に、あの全知全能の神が存在するんですか?」


目をキラキラさせながら質問する。風羽は琴葉の目を見つめ、片手で顎をさすりながら、謎めいた微笑みを浮かべた。言葉での肯定も否定もしないまま、ただ意味深そうに微笑んでいる。

 

「夢咲学園はね、神様や聖女、お使いが人界に出るための準備をする神のゆりかご的な役割を持っている」


(えっ何々、ますます分からない…じゃあ、ここにいる関係者は神様や聖女、お使い様だらけっていう事。嘘でしょ…)


「今や地球は人類にとっては住みやすい星で、人口が爆発的に増えた。天界では地上にいる関係者をしっかり管理しているが、地上の爆発的な人口増加で天界人を追いきれなくなって、そこで、安心できる年齢まで勉強してから地上に旅立つ転生システムに変更したんだ」


風羽が話し終えたところで紗良が反応した。


「じゃあ、澪ちゃん…いえ、女神ミレイアの消息も追い続けているっていう事なの?」


隣で琴葉がスマホを抱きしめ、頬を赤らめもじもじして呟いている。


「えー、私たち神様なのかなあ、えへへ、えへへへ…」


風羽はスマホを抱きしめ笑っている琴葉を横目に見て苦笑し、紗良の方に向き直り質問に答えた。


「言えることと、言えないことを承知の上話を聞いてくれ。ミレイアは一緒に転生した女神二人とその子になる女神とともに仲良く過ごしていたんだよ。ただね、不幸にも女神4人に先立たれ、それを苦に自殺をした」


(えっ、何それ、澪ちゃんにそんなことがあったなんて…何か言いたそうにしていたのはそのことなのかしら…)


先程までにやけていた琴葉は一瞬で表情が曇り、他のみんなも呆気にとられ、言葉が出てこなかった。そんな中、紗良が私の手を優しく包み、私を心配するように見つめる。


「紗良、ありがとう。大丈夫だよ…。風羽さん、話しを続けて」


風羽はゆっくり頷き真剣な表情で話を続ける。


「自殺は転生した時には禁忌でね、罰として3,000年の人として神の記憶を持ちながら生きながらえる呪縛がかけられたんだよ」


一同その壮絶な過去を知り沈黙する。


「そして、ミレイアの神気が黒いのは…」風羽は一旦言葉を切った。


「人にその年代に合った知恵を授け、その知恵から発生した利益の一部を貰って生活を立ててきたんだ。でも…」 彼は沈痛な面持ちで続ける。


「中には犯罪や戦争に使われることもあり、その都度純白の神気が黒く汚されていったんだよ」


その事実を知り一気に理事長室の空気が重くなる。


理事長室の窓から差し込む陽光が、風羽の顔を柔らかく照らしながら、彼の言葉に重みを加えるかのように輝いていた。重い空気を変える様に春を感じさせる暖かい風が白いカーテンを揺らす。その風を合図にしたのか風羽が話をつづけた。


「星愛さん、ここまで話したけど、ミレイアの願いは何だと思う」


私は紗良の方を見ると、紗良が私を優しい目で見守っていたことに気付く。そして、私と目が合い微笑んで、頷いた。多分、私と紗良の想いは同じなんだと直感で感じ取り迷わず答えた。


「紀元前700年に別れた女神とまた同じ時を過ごすことかな」


私の答えに風羽の表情が微笑み、満足気に頷く。


「そうだね。一緒に過ごす方法はいくつかあるんだけど、今すぐ実行する方法は一つ。その女神と一緒に亡くなり、一緒に天界に帰るという方法だけだと思う」


琥珀と琴葉は頷き、私は驚きのあまり、紗良とつないでいる手の力が抜けたが、彼女は逆にぎゅっと握り返してきた。その手の温もりが、私の不安を少し和らげてくれるようだった。瑠璃と碧衣は深く考えていた。そして瑠璃が質問する。


「でも、澪ちゃんは命を落とすことはできないんじゃないの?」


風羽はニヤリと微笑む。


「一つあるんだ、月黄泉の儀だ。方法は祭壇を作り、新月の日に抜いた魂2つと、満月の日に抜いた魂2つを供えると、黄泉の国への扉が開く。これは、どんな存在でも黄泉へと導く絶対的な道なんだ。この道を女神2人を連れて歩いていけば、3人一緒に亡くなり、天界に帰れるということになる」


私は澪ちゃんが2700年の間、純白の神気を黒い神気に変えてまで耐えてきた気持ちを考えると、今やっていることがいけないことだと言い切れないと思った。他のみんなも同様に感じるのか、今までに見たことのない複雑な表情をしていた。


風羽の話しが終わり、室内には深い沈黙が流れた。突然、窓から強い風が入り、まるで私たちの未来を予感させるかのように、強くカーテンを揺らした。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


初めて小説を書いて、投稿した作品です。


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