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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第76話 澪の置き土産①


昨日の発表の興奮が冷めやらぬ中、君山にある澪工房に集まっていた。

洞庭湖は冬霧が立ち込め、幻想的な景観を作っていた。


澪が真ん中に立ち、私たちを見て悪戯っぽく笑い、手を叩いた。


パン、パン!


「来なさい、ミレイア」


冬霧を切り裂くかのように、音と呼びかけが静寂の湖に響き、冷たい空気を揺らした。

冬霧からは水鳥たちが眠りを覚まされたように飛び立ち……

静かな水をかき分ける音が近づいてきた。


「ねえ紗良、これから何が始まるの?」

私が聞くと紗良も困った顔で頭を左右に振る。

続いて曹英を見ると、私を見つめて頭を左右に振った。

碧衣は冷静に湖を見つめ、琴葉はニコニコ顔で目を輝かせていた。


(さては、琴葉は知っているのね)


「ねえ、琴葉……」と言いかけると、周りではざわめきの声が漏れる。

「えっ」と慌てて湖に目を向けると、ゆっくりと島がこちらに近づいてきた。


「し、島が動いている!」私と曹英は目を見合わせ、思わず叫んだ。

私たちを見て紗良は落ち着いた表情で言った。

「よく見て、浮桟橋がくっつきあってこちらに向かってきているんだよ」

碧衣は考えるように、「でも、彗星や流星のけん引する船の姿がないわね」と呟く。

その横で琴葉が「わーい、できた、できた」と叫んでいた。


(やっぱり、琴葉は知っていたのね)


「琴葉、これはいったい何なの?」

と私が尋ねると、「澪さんとの約束で、内緒なんだよ」と言った。

「でも今は動いて、私たちの目の前に近づいてきているでしょ」

「ダメだよ……澪さんの口から説明するんだって」と困った顔で琴葉が答えた。


やがて、浮桟橋の島は畔まで来て停止しゆっくりと表面は黒で七色に光る桟橋が陸へと延びてきた。


「さあ、皆さんこれから夢咲島に案内するわ」

澪の口は一文字に結ばれ、何かを決意した表情に変わった。

(あっ、襄陽の時と同じ顔をした)

その表情を見て、澪さんがもう戻らないのでは、と言い知れぬ不安が胸をかすめた。


そして背中を向けて出てきた桟橋を渡っていく。

桟橋からは「コツ、コツ、コツ」と歩くたびに固い靴音が聞こえてくる。

その後を妃良、芳美、理沙、美優、ペルセポネが続き、私たち五華と聖女、延命した英雄が後を追っていった。


私に顔を引きつらせしがみついている曹英に声をかけた。

「ねえ、この桟橋、歩くと虹色に輝いて、赤い光が網目状に走るわ」

「えっ、えっ、そうね……あなたよく平気でいられるわね」

と、震えながら桟橋を渡る曹英だった。


相変わらず未知の物には弱い曹英だった。


その様子を苦笑いしながら見つめる紗良、冷静な表情で島を観察する碧衣。

そして、今にも走り出しそうに目を輝かせて、はしゃぐ琴葉が続いた。


皆が島に渡ったところで澪が振り向き言った。

「そうそう、ここからは二千百年先の技術が詰まった場所になる……

言いかえれば二千百年先の世界になるの。

だから、言葉もその年代に合わせたものにするわ」


女神を除いた者たちからはざわめきが漏れた。

龐統が「質問はその都度して構わぬか?」と澪に声を掛けた。

「ええ、構わないわ」と答える澪。


再び歩き出す一行、歩きながら龐統が尋ねた。

「あの、美しく光る桟橋は何だったのか?」

「あー、あれは……この後説明するからお楽しみにしてくださいな」

にこやかに答えた澪。


やがて私たちは塀に囲まれた大きな工房に着いた。

澪は工房の奥へ歩を進め、私たちも後に続いた。

そして、口が開いた大きな箱の前で立ち止まり私たちの方を振り向いた。


隣にいる曹英を見ると顔を引きつらせていたので、紗良に声を掛けた。

「ねえ、随分と大きな箱ね……家一軒分はあるわよ」

「うん、ひょっとしてこれが昨日言っていた神器の転移箱なのかな?」

「さすが紗良、きっとそうね」と言って、真剣な眼差しを箱に向けた。


澪が箱の側面を叩きながら説明を始めた。

「これが、神器の転移箱よ。使い方は三通りになるかしら。

先ず一つ目は……星蓮と小喬、こっちに来てくれるかしら?」

と澪が二人を呼ぶと、星蓮と小喬は顔を見合わせて澪の横に歩み寄ってきた。


「ここに住むか家族と話し合ったかしら?」と澪が聞くと二人は頷いた。

そして星蓮と小喬は一緒に住むと澪に答えた。


「じゃあ二人とも自分の子供のことを箱に向かって願ってみて」と澪が言うと、

星蓮と小喬は目を閉じ箱に向かって両手を合わせて願った。

すると箱の中は柔らかい光に包まれ、人影が現れた。


「えっ、えーーー!」思わず大きな声を出したが、他の者たちも驚きの表情を浮かべていた。

箱の中には星蓮の子二人と小喬の子三人が姿を現していた。


澪はニヤリと笑い説明を始めた。

「これが一つ目、願うとこの箱に物が現れるの……今回は人だったけどね」

荀彧が手を上げて聞いた。

「では、暗殺したい敵将を呼び出したりすることもできるのか?」

澪はニヤリと笑い答えた。

「出来ますよ……でも人には使わないでください。

呼び出される側が何をしているか分からないし、厄介ごとを持ち込むかもしれませんので」

周瑜が手を上げ質問する。

「では、相手と時刻を決めて呼び出すのであれば構わないのではないか?」

「それなら大丈夫です。この箱の運用方法については皆さんで話し合って決めてください」

と澪が話に区切りをつけた。


そして澪は真剣な表情になり、更に付け加えた。

「ひとつ、覚えておいてほしいことがあるの。

この転送箱は万能に見えるけれど、神が描いた未来を変えるような物や人は決して呼び出せない。

それは人類が自らの手で掴むべきものだから。


また、想像したものを生み出すこともできないわ。

この箱は“創造”ではなく、“繋ぐ”ためのもの。存在するものを結び、ここに転じるだけ。


そしてもうひとつ。記憶が曖昧なまま願えば、違うものが現れるかもしれない。

呼び出す者の心が揺らげば、箱もまた揺らぐの。


だからこそ、願うときは心を澄ませ、真実を思い描きなさい。

それが、この神器を正しく使う唯一の道よ。

それは神である私にも変えられない(ことわり)なの」


徐庶が「我々ではなく、神が使うのが妥当だな」と言うと皆が頷き、同意した。

その様子を見て、澪も頷き次の説明を始める。


ただ一人琴葉はニコニコ顔で碧衣に耳打ちをしていた。

「私ね、ゴマ饅頭なら自信があるの。今度呼び出してみようよ」

「あなたっていう子は、今の徐庶殿の話を聞いていなかったの?」

とたしなめる碧衣に、しょんぼりする琴葉だった。


「二つ目と三つ目はまとめて説明しますね」


澪がそう言うと、自動的に桟橋と同じ板が滑るように石を山積みにして澪の前まで来た。


紗良が「その板は先程の桟橋の板ではないの?」と澪に聞くと、澪は静かに頷いた。

「そうです、先程の桟橋の板と同じです」と澪が答え紗良に付け足した。

「全て、ミレイアが動かしています」


(何よ、ミレイアって人なの……でもどこにいるのかしら)


たまりかねて聞いた。「ミレイアさんはどこにいるの?」

澪は微笑みながら、「あそこの上にいるわよ……あとで皆さんに紹介しますね」

と三十層はあろうかと思われる建物を指さした。


指された建物の最上階を目を凝らしてみると、星が瞬いているように見えた。


「この石は黒層鋼と炭素、銅を含んだ石。

そして、設計図と転移場所を記した紙を乗せて箱に移動させます」


「あっ、消えた」

目を丸くして見つめた。

私と同様、他の者たちも唖然として空になった箱を見つめた。


「ふふふ、皆さんあの紙には設計図が書かれているのですよ……

そしてこれがその設計図です」


―――――――――――――――――


◆ダイヤモンドナノチューブ設計書◆


ベース組成(原子比の目安)

・炭素: 85–95%

・鉄+ニッケル(合計): 0.5–3%(触媒・点在ナノ粒子)

・コバルト(任意): 0–1%(チューブ直径・配向微調整)

・硼素(B)ドープ: 0.1–0.5%(屈折率・発光中心調整、導電性チューニング)

・窒素(N)ドープ: 0.1–0.5%(発光中心・色相域拡張)

・銅(Cu)微量添加: 0–0.2%(プラズモニック交差結合、虹色の干渉強調)


地球の核で生成

温度:5,000〜6,000℃

圧力:約 330〜360 GPaギガパスカル

核での高温・高圧+鉄ニッケルの場が「ダイヤモンド相のナノ管」成長を選択的に促す。


(以降は、完成品の図面が書かれている。)



◆星鋼設計書◆


1. Layered heterostructure

・上層(Cu系導電層):Cu–Oに相当する“銅酸化ネットワーク”を炭素基板上に置換構築(Cu–C–O複合格子)。

・中間界面(量子井戸):Fe–X層(X = Se/S/少量B/N)を薄層で挿入。界面で電子対形成が強化される設定。

・下層(C支架):グラフェン/ダイヤモンド相のカーボンを多層積層し、ひずみ・配向・フォノン結合を調整。

2. Doping and strain

・炭素の役割: 格子歪みを“凍結”し、電子相関を最適化。局所sp²/sp³混相でフォノンモードを設計。

・微量添加: O・B・Nを総計0.5〜1%程度で界面のキャリア密度とクーパー対安定化を調整。

・磁束ピン止め: ナノスケールのFe粒子を0.2〜0.5%残留させ、実用時の臨界電流密度を向上。

3. Synthesis story hook

・「地球核の圧力場で層状ヘテロ構造を形成し、帰還後も相を保持」

・「地球磁場・ミレイアの場との共鳴下で臨界温度が常温域にシフト」

・「虹色板(D-NT)を隣接させると光励起で界面結合が強化される」——光と電子の二重共鳴。


(以降は、完成品の図面が書かれている。)


―――――――――――――――――


皆の目が、設計書に釘付けになる。


「な、なんですか……この呪文は」徐庶が顎に手をやり困り果てた顔になった。

周瑜は「うーむ、さっぱりわからぬ」と言い、設計書に穴が開くのではと思えるほど睨みつけていた。

荀彧は眉間に皺を寄せ、まるで兵法書を読み解くように設計書を睨んでいた。


琴葉が設計書の文字を指でなぞり、「わー、みみずさんが一杯」とはしゃいでいた。

その様子を見ていた曹英の引きつっていた顔が綻んだ。


「ふふふ、未来の言葉ですし、未来の人の子も一部の者しかわかりませんので安心してください」

と優しく微笑んで、話を続ける澪。

「皆さんは『ダイヤモンドナノチューブ』とかの単語を覚えて、残りはミレイアに書いてもらってください」と言った。


「ミレイアさんってどんな人なんですか?」と尋ねると、

「最後に紹介するから安心して」と答え、含み笑いを浮かべる澪だった。


暫くすると、ダイヤモンドナノチューブと星鋼と呼ばれる物質の板が箱に現れた。


「みなさん、まだ高温なので手で触らないでくださいな」

慌てて声を掛ける澪が皆を見回して説明を続けた。

「こんな感じで、物を目的地に送り、設計図があれば加工し元の場所に戻してくれます。

これが、更に遠い未来の工場を凝縮した仕組みです。

だからこそ、これは人類が未来に辿り着くべき道標でもあるのです」


星蓮が手を挙げて澪に質問した。

「これって、地球と言う場所の中心にさっきの石を運んで作ったのですか?」

「ふふふ、理解に及ばないかもしれませんが……

あなた方人の子は地球と言う星に住んでいるのですよ」

「嘘よ、天は大きな蓋のように覆い、地は平らな盤のように広がっているのよ」

曹英が澪に反論した。

澪は優しく微笑み曹英を諭すように言った。

「そうですね……でも千四百年後に皆気付くと思います」


周りの人は釈然としない表情で澪を見つめていた。


妃良が「今度、夢咲島に学園を作りましょうか……

そこで、人の子や神の子の基礎教育をしないと困ったことになりますね」

芳美は少し困った顔で妃良に進言した。

「そうですね、夢咲学術院とは違う、この島での学問を学ぶ夢咲学園を設立しましょう」

妃良が頷き皆の方を見て言った。

「皆さんが今の状態を受け入れない気持ちはよく分かります。

未来の技術に触れるのは今の常識をひっくり返すことでもありますよね」


周りにいた英雄たちが妃良を見て頷いた。


「今はこの世界の真理を学ぶより、この島の運営を学ぶのが先決です。

なので、今起こっていることをそのまま受け入れてください」


妃良がそう言うと、龐統も頷いて同意した。


「確かに、今の私には理屈は分からぬが、現にこうやって起こっているのだ。

ここは澪様の言葉を信じることとしようではないか」


まだ釈然としない空気が流れる中でも、龐統の言葉に皆が頷いていた。


澪の表情は少し心配しているかのように曇っていたが説明を続けた。


「このダイヤモンドナノチューブと星鋼は神しか作りえないものだけど……

私の予定だとカーボンナノチューブはこれから千八百年後に人の子でも作れるように文明の種を蒔くわ。それと、超電導の技術もね」


文明の種を蒔くという言葉で澪さんは創造を司る神だったことを思い出した。

そして曹英に耳元で囁いた。

「ねえ曹英、澪さんは創造神だったでしょ。

たぶん人の文明や技術の発展をもう頭の中で組み立てていると思うの」

「そうね、私たちの遥か上を歩いている神だったわね。信じるしかないのよね」

と言い私を見て微笑んだ。


澪が私を見て、「星愛(ティア)ちゃん、人の話はしっかり聞きなさい」

と注意すると、クスッと笑う者が何人かいて場の雰囲気が和んだ。


「さて、このダイヤモンドナノチューブだけど、これから夢咲を支える先端技術になるのよ。

光の量子コンピュータを実現させた物質よ。

そしてこちらの黒の鋼材が常温超電導を実現した鋼材……浮いているのは地球の磁力に反応しているから。

そして無限のエネルギーを供給し続ける物質なの」


何か凄いことを言っているのだろうけど、人の子たちは互いに顔を見合わせて首を傾げた。

喜んでいるのは女神と古くから女神についている聖女麓沙(ろくさ)と天界図書館で本ばかり読んでいた貂蝉(ちょうせん)だけだった。


澪はあまりに人の子の反応の無さにがっくり肩を落とし呟いた。

「まあ、動いている現物を見れば驚くでしょう……フフフ」

気を取り直して皆に声を掛けた。


「じゃあ、静止衛星を放ちに行きましょうか」


「放つって、静止衛星って動物か何かで、牧草地に放つのですか」と真面目に聞いた。


私の言葉に澪は再び肩を落とし「やれやれ」と小声で呟き、

大きな声で、「付いてきなさい」と言い歩きだした。


誰もが不安と期待を胸に抱きながら、澪の言葉を信じて歩き出した。




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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