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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第75話 新たな拠点


―― 夢咲星環襄陽府庁舎屋上(妃良視点) ――


襄陽の午後は、風が静かだった。

屋上の円卓を囲み、私と芳美、理沙、美優、華蓮がお茶を楽しんでいた。

小春日和の陽に、香る紅茶の湯気も柔らかく揺れていた。


私は地上の広場に立つ銅像を見て微笑みながら、華蓮に話しかけた。

「神ではなくて、人として銅像を建てられた神は華蓮だけね」

華蓮は広場に見える自分の銅像を眺め、まんざらでもない微笑みを浮かべた。

「ウフ、私がここまで夢咲襄陽府を発展させたということで……

人の子からの強い要望があって仕方なくたてましてよ」

ティーカップを口元に持ってきて、香を楽しみながら美優が言った。

「私たち転生神は人の子の信仰を集めるためにも銅像も必要だけど……

断絶神のあなたは、人の子の魂を取り込んで力を得ているから銅像はいらないのにね」


華蓮がティーカップを乗せたソーサーを手に取り、香りを楽しみながら目を細めた。

「夢咲襄陽府の人の子はみな、綺麗な魂の持ちばかりで……」

芳美がニヤリと笑い「となりの襄陽内に黒い魂を探しに行っているのかしら?」

と華蓮に言うと、ソーサーを卓に置き、「ウフフ……」と含み笑いを浮かべた。

理沙が、「また鬼女姿で遊んでいるんでしょ?」と流すような眼で華蓮を見つめた。

「あら、あの衣装はとても効果的で面白いのですよ」

華蓮は口元に袖を持っていき、ニヤリと笑った。

芳美が呆れた顔で華蓮を見た。

「巷では、夏口の鬼女は死神と言われて恐れられているみたいね……

悪戯好きな子に、死神が来るよと言うと、静かになるほどよね」

華蓮は嬉しそうに、「わっ、そうでしたの」と満面の笑みを浮かべた。


私が行きかう人の流れを見ながら言った。

「もう一つの、神が創っている成都の澪から頼みごとをされました」


皆の視線が集まるのを感じ、私は一人ひとりを見返した。


「澪はね、夢咲成都府の開発は黄婉貞(こうえんてい)に任せていて……

自身はこれから二千百年の間に人の子が世に送り出せる、創造物の設計図を書いていたの」

華蓮が私を見つめ、問いかけた。

「二千百年って、三千年の呪縛の残り年数じゃない……澪は夢咲を出るつもりかしら?」

静かに頷く。

「やはり、昔から仲の良かった星愛(ティア)や紗良たちに自分のことを話せないのが辛いみたいね。

残りの呪縛は夢咲から離れて受けたいと言っていたわ」

華蓮を含め皆が心配な表情を浮かべた。

「人の子と触れることで、純白の神気が黒く染まるかもしれないけど……

見守り役はつける予定だから、危なくなったら夢咲に戻すわ」

華蓮は寂しそうに「お願いね」と小さく呟いた。


気を取り直して、澪から申し入れのあった話を続けた。


「その禁書とも言える設計図は夢咲成都府に保管されているけど、

皆も知っている通り人の子は争いごとが絶えないわよね……

争いごとの混乱で人の子の手に渡る可能性もあるわ」


理沙が冷静な表情で目を細めた。

「人の子に渡れば、手に入れたものの独裁が始まるわね」

美優が心配そうに言葉を紡ぐ。「地獄以上の地獄の始まりね」


悲しい表情の美優の言葉に頷き、話を続ける。

「だから、浮島を作って、私たち神と聖女、そして神に認められた人だけで管理して欲しいってことなの」


場の空気から紅茶の香りが遠のいていくのを感じた。


華蓮が腕を組み考えた末に遊び心が刺激されたのかニヤリと笑う。

「面白いわね……

私たちの目的は宇宙神星愛(ティア)紗良(サラ)を誕生させること。

そのために、私たち五華は転生先で彼女たちを待ち、育ててきた……

これから残りの転生もそうするのでしょ?」


私が頷くと、華蓮は言葉を続けた。


「宇宙神の試練を受けるための転生を含めると、残り十三回の転生があるわね……

その都度、今回のようなことをしているのは楽しいけど、大変でしょ?」


私を含め四人が頷く。


「転生先の近海に浮島を移動させておいて、

私たちや星愛たちの後ろ盾にできるようにしておけば楽だし……

島にいるだけで星愛(ティア)達の転生の後ろ盾をしたことになるわね」


と言い、芳美がニヤリと笑った。


「そうすることで、星愛(ティア)達が宇宙神になったときに、宇宙神を後ろ盾した者としての経験が積まれ、宇宙神への昇格にも近づけるわね」


「そういう事です」と言い、私は頷いた。


理沙が心配そうに、「設計図があっても、物を作るための資源はどうする?」

と尋ねてきた。


静かに微笑み理沙の質問に答えた。


「澪はガイアとレアの間に生まれた子。

二人とも地球を創りし女神、そしてその女神の子だから地球のどこに何があるかは全て掌握している……」


芳美が驚いた表情で尋ねた。

「まさか、資源を転送する神器を澪は作ったとでも言うのかしら?」


芳美の言葉に、場の空気が一瞬張り詰めた。

黙って頷き、他の四人は驚きの表情を隠さず私を見た。


「私たちは神だから、禁書に記されている順番に物を作っていけばいいそうよ。

極端な言い方をすれば、明日には人が二千百年後に作るものを手に入れることも可能ってことよ」


芳美が思慮深く考え、「作りましょう、浮島を」と言う。

理沙も頷き、「いいだろう……なかなか面白そうだな」と笑いながら賛成した。

浮島の様子を想像しているのか美優は、

「天界に住むより、浮島の方が居心地良さそうね」と微笑んだ。

頭の中で浮島に配置する人形を並べているのか華蓮は、

「神も人の子も、住人は慎重に選ばないといけませんわね」と呟いた。


皆を見渡し、「この計画は皆も賛成と受けとめたわよ」と告げた。


こうして、私たちが宇宙神になるまで成長を見届ける浮島の計画が始まった。




◇◆◆ 洞庭湖夢咲学術院大講堂 ◆◆◇


私たち五華は大切な発表があると聞いて、夢咲学術院の大講堂に足を向けた。


「今日は、どんな話があるのかな」と琴葉なら知っているかもと思い尋ねてみた。

琴葉は頭を左右に振り、

「何も聞いてはいないけど……いろいろな人に声がかかっているみたい」

何が待っているのか想像するのが楽しいのか、琴葉は笑顔で答えていた。


講堂に入ると座る席が決まっていた。


私と曹英は龐統、荀彧が座る政治・経済の分野の席に誘導された。

そして紗良は周瑜と孫尚香がいる防衛術の席に着く。

碧衣は黄月英、婉貞(えんてい)姉妹、劉明がいる科学の席へ、

琴葉は麓沙(ロクサ)、星蓮(伏皇后)、徐庶がいる外交術の席に着く。

さらに、医術の席には貂蝉(ちょうせん)貂糜(ちょうび)小喬(しょうきょう)の姿があった。


「ねえ、曹英……」周りを見回し言葉を続けた。

「これって、専門分野に色分けされて座っているけど」

曹英も周りを見回し頷きながら答えた。

「うん、私たちの席は政治・経済でしょ、紗良の所は防衛術、碧衣は科学……」

頷き曹英の言葉の続きを言う。

「琴葉は情報や外交だね……そして貂蝉さんの所は医術」

しばらく腕を組み考えて曹英に耳打ちをした。

「きっと、学術院の学科の発表でもするのかしら?」

というと曹英は頷きつつも、「でもそれなら、予め私たちにも説明がありそうだけど」


そんな話をしていると壇上に人影が現れた。

中央に妃良と澪、左右に芳美と理沙、美優が座った。


壇上の女神たちは神気を隠さずに立っていた。

講堂は一気に緊張した空気に支配され静まり返った。


(なに、この威圧する空気……今までに感じたことがない)


隣にいる曹英を見ると、額に薄っすら汗をかいていた。

小声で耳打ちした。「曹英、どうしたの?」

曹英の瞳だけが私を見つめ、顔は引きつっていた。


(えっ!?何よその顔……頬を叩こうかしら)


同じ席の周瑜と龐統もまた、額に汗を浮かべていた。


(何よ、何よ、一体どうなっているの)


壇上を見ると、妃良が立ち微笑み話を始めた。

「今日ここで話すことは他言無用でお願いします。

もし、守れない方がいるのであれば席を外してください」


一気に重い空気がなくなり、身体が軽くなったような気がした。


そして妃良が話を続けた。

「この先、夢咲に命を捧げる者だけ残ってください」

そう言うと、妃良は壇上から私たちを見回した。

「どうやら、皆さんは私たち夢咲に命を捧げる覚悟がおありのようですね」

満足げに頷き、壇上の袖に視線を送った。


すると、白いトガを着た、若く美しい女性が壇上に出てくると、春の花の香りと冥界の冷気が同時に漂った。


その顔を見て、龐統の顔色が変わったのを私は見逃さなかった。


妃良の方は壇上に出てきた女性の紹介を始める。

「こちらはペルセポネさんです。

春を呼ぶ女神でありながら冥界の后でもあります」


(何よ女神って、それにあの延命の手紙を書いた張本人さんが降臨なんてありえない)


一息入れて話を続ける妃良。

「もうお会いしている方も、存在を知っている方もいるようですね。

そう、人が亡くなった後の魂の案内人であり、死を司っています」


再び壇上の女神の気が会場を包み、誰一人として話すことができなかった。


ペルセポネが微笑み皆に伝えた。

「ここにいる人の子は次の転生では皆、神か人の子として再び地上に立つかを選択できる者だけです」


私は思わず声を上げてしまった。「えー、私死んだら神になるのー!」


驚きの声が暖かい空気を運び、壇上の神気を打ち消すと、会場は一斉にざわめいた。


芳美が困った顔で私を見て言った。

「あなたは、人の子として死んでも選べないのよ」


(えー、嘘でしょ……私だけ違うの……)


肩を落とす私の手を曹英が手を握り耳元で囁いた。

「落胆しないで、人の子としてって言い方変だと思わない?

まるで、星愛(ティア)はもともと人の子ではないような言い回しね。

たぶん神かそれに近い何かかもしれない……だからここに呼ばれているのよ」


落胆を隠せず頷くのみだった。


(うー、私は一体何なの……鬼女か何かかしら……)


そんなことを考えていると、妃良が話を続けた。


「これより、黄海上に浮島の建設を始めます。この浮島の役割は夢咲の船舶の中継基地……」

壇上の妃良がさらに静かに告げた。

「そして、神々が住まう島となります」


その言葉に講堂がざわめく。龐統が思わず手を上げた。

「ペルセポネ様の他にも、神がいるというのですか?」


妃良は頷き、壇上を示す。

「ここに並ぶ女神たちは、それぞれ芸術・正義・光を司る存在。

そして澪もまた、名を明かせぬ理由があるが、皆の想像に委ねます」


壇上の四人が軽く会釈すると、会場に驚きと畏敬の気配が広がった。


(えっ……光の女神って、私のママなの? じゃあ、神でない私は……捨て子で拾われたのかしら)


胸の奥に不安が広がり、思わず視線を落とす。


妃良はさらに続けた。

「そして、皆と同じ席に座る者の中にも、神と契りを交わした聖女がいます」

その言葉に、周瑜が驚きの声を上げた。

「孫尚香が……聖女だと?」

徐庶も目を見開き、「貂蝉に黄月英まで……」と呟く。


講堂は再びざわめきに包まれ、星愛の胸はますますざわついていった。

私の胸のざわめきをよそに、会議は一方的に進んでいった。


妃良が浮島の概要を説明する。

「浮島の目的は、人の子がこの先二千三百年かけて取得する技術を澪が記した禁書の保管と、その禁書に書かれた創造物を作る場所」


二千三百年先の技術と禁書の言葉に、誰もが耳を疑い、会場にはどよめきが広がった。


(二千三百年先の技術……そんなものを人の子が扱えるの?)


疑念が渦巻く会場に、月英の歓喜の声が響いた。

「二千三百年先の技術を、今ここで先取りするのですか?」

澪が頷き答えた。

「そうよ、そしてその資源をこの星の至る場所から転移させる神器も創造しておいたから、月英なら簡単に再現できるでしょ?」

「はい、もちろんです」月英は妹の婉貞(えんてい)と抱き合いながら嬉しさを隠せない様子だった。


再び妃良が話し始めた。今度はこの浮島に住む住人についてだった。

「ここに集まった者は全員、浮島に居を構えてもらう予定です。

また、家族がある者、呼びたいものについてはペルセポネの魂の裁定で、許可を得られたものだけとします」


会場にどよめきが走った。

小喬と星蓮が顔を見合わせて質問した。

「私たちの子供はどうなるのですか?」

妃良は優しく微笑み、「もう裁定はしてもらっています。ここにいる者の家族は皆浮島に住めるとのことでした」

二人は顔を見合わせて安堵の声を漏らした。


「この島には神として生まれていない神核を覚醒させ、誕生させて住まわせます。

ただ、その神々は信仰する人々を持たないので、神威が発動できません。

彼らは神でありながら神威を持たぬ者。永遠を生きる人の子のような存在です……

どうか共に歩んでください」


妃良に続き、澪が浮島の構造を説明した。


「この浮島――星環島は、壁に守られた極秘の星環府区を持ち、規模は小さいですが夢咲の船舶の中継基地港となります」


周瑜が手を上げる。

「それほど大きな島なら、すぐに人に見つかるのでは?」

澪は余裕の笑みを浮かべた。

「まずは静止衛星で星環灯の周囲を監視します。将来的には航空機や他の衛星に発見される可能性もありますが……」

「な、な、な、なんですか、その“せいしえいせい”とか“こうくうき”とか……意味が分からないのですが!」

曹英が声を上げる。


澪は慌てて言い換えた。

「ごめんなさいね。星環島の上に“お星さま”を打ち上げて、その星が島を見守るの。船の航行データを集めて、常に安全な場所へ自動で移動する仕組みよ。計算は量子コンピュータ、判断はAIが行います」

「ウキー! でーた、りょうしこんぴゅーた、えーあい……」

(あっ、曹英が壊れた……真面目だから何でも吸収しようとするのよね)

「曹英、しっかり!」ペシペシと頬を叩くと、ようやく正気に戻った。


龐統が腕を組み、問いかける。

「動いている島に、夢咲の船はどうやってたどり着くのですか?」

「夢咲の船にはGPS内蔵の自動誘導装置を取り付けます。あとは島が船を導くのです」

澪はニヤリと笑った。


続いて私が手を上げる。

「これだけ大きな島を、どうやって動かすのですか?」

澪はゆっくり頷き、答えた。

「動力は常温超電導モーターと無負荷磁力軸受け機構を組み合わせたシステムで、半永久に稼働します。浮桟橋のブロックを流用し、それぞれにこのシステムを搭載することで、最大40ノット(約70㎞/h)で航行可能です。万が一発見された場合は、衛星追尾機能付きのレールガンで“見た者”を消し去ります……転生からの出直しですね」


琴葉が手を叩き、無邪気に笑った。

「なんだか、すごーく強い要塞みたい!」

講堂は笑いに包まれ、やがて静まり返ると、全員がその計画を信頼できるものと理解した。

『見たものを消し去る』の言葉に誰も異論を唱えなかった


澪は最後に壇上の女神だけに聞こえるように呟いた。

「二千七百年後、呪縛から解放されたとき、夢咲等を天空に浮かべましょう。やり方はすでに知っていますが……今はその時ではありません」


得体の知れない星環島の建設計画は承認され、あまりにも想像を超える話に頭がいっぱいになり、私は自分の出生のことをしばし忘れていた。


星環島は、まだ計画段階で小さな光にすぎなかったが――

その灯は、二千年の時を越えて未来を照らす道標となるのだろう。






ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

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