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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第72話 成人式と試練


今日は、夢咲にとっても私たち五華にとっても特別な日だった。

私こと星愛(ティア)、紗良、曹英、碧衣、琴葉の五人は揃って、笄礼(かんざしれい)を迎えた。

笄礼とは、少女が髪を結い上げ、笄を挿されることで大人へと移る通過儀礼。その一瞬に『少女の終わり』と『大人の始まり』が凝縮されている。

数え十五となった私たちは、今日、民衆の祝福と灯花の光に包まれながら、その儀をとり行った。


洞庭湖君山の大広場には、朝から色とりどりの旗と花で飾られ、まるで春祭りのような賑わいを見せていた。

星環府の民は家族連れで集い、屋台が並び、子どもたちは灯花を手に走り回る。

空には紙鳶が舞い、地には太鼓と笛の音が響く。


笄礼(かんざしれい)は、もはや一部の者だけの儀式ではなく、夢咲に生きるすべての人々が待ち望む祝祭そのものとなっていた。


やがて広場の中央に設けられた壇上に、初代五華が姿を現す。

彼女たちの歩みに合わせて、群衆は自然と静まり返り、やがて大きな拍手が沸き起こった。

長きにわたり夢咲を導いてきたその姿は、民にとって母のような存在であった。


「我らの務めはここまでです」

妃良(へら)が声を張る。

その声は厳かでありながら、どこか晴れやかでもあった。


「今日より、政は新たな五華に託します。

星愛、曹英、劉明、そして仲間たち。夢咲の未来を導くのは、汝らなのです」


その言葉に合わせて、私たち五人が壇上に進み出る。

民衆からは歓声と拍手が湧き上がり、花びらが舞い散った。私は胸に手を当て、深く一礼する。


「我らは、この地に生きるすべての人と共に歩みます。

血統や力ではなく、灯花の光と星紙幣の信をもって、未来を築きます」


私に続いて仲間たちも次々に誓いを述べた。


紗良が胸に手を当て、「平和のために我が力を国防にそそぎます」

曹英が続ける。「争いではなく、結びによって国を強くします」

碧衣が、「肥沃な大地と資源の開発に心血を注ぐ所存です」

琴葉が最後を締めた。

「私たちの関係のある国々と有効な関係を築き、仲良くできるように頑張ります」


一斉に民衆から拍手が巻き起こり、私たち五華は深く頭を下げて民衆に応えた。


劉明が五華とは別に星環府の民を代表して壇上に上がり――

私たち五華に宣言した。

「漢の血を継ぐ者として、過去を誇るのではなく、民の代表として未来に仕えることを誓います」


その言葉に、民衆は涙を浮かべながら拍手を送った。

太鼓が鳴り響き、笛が高らかに吹き鳴らされる。

灯花が一斉に掲げられ、広場は光の海となった。

初代五華は静かに壇を降り、その背を見送るように新たな五華が壇上に立ち並ぶ。

世代の交代は、ただの儀式ではなく、夢咲という共同体の新しい時代の始まりを告げる祭礼であった。


私は振り返り、民衆を見渡す。


「今日、この瞬間から、夢咲は新たな歩みを始めます。どうか共に、この光を絶やさぬように」


その声に応えるように、無数の灯花が暮れかけた空に舞い上がった。

光の粒は薄く輝きだした星々と溶け合い、夢咲の未来を照らす大河のように広がっていった。


やがて夜が訪れると、広場の灯花が一斉に消された。

ざわめきは静まり、闇の中にただ星々の光だけが降り注ぐ。

初代五華が壇上に立ち、古き詞を唱え始めると、空気は一変し、祭りの熱気は厳かな静寂へと変わった。


風が止み、星が一層輝いた。


私たち五華は星空の下に進み出る。

頭上には天の川が流れ、まるで神々が見守るかのように輝いていた。


私は胸に拳を当てて民を見渡す。

「ここに誓う。我らは夢咲の民と共に歩み、光を絶やさぬ」


その声に呼応するように、再び灯花が一斉に点じられ、広場は光の海に包まれた。

初代五華は静かに頷き、政の継承を宣言する。

民衆は涙を流しながら頭を垂れ、夜空と灯花の光がひとつに溶け合った。

こうして笄礼の儀は、人の祝祭と神の承認を兼ね備えた、夢咲の新時代の幕開けとなった。




◇◆◆ 洞庭湖夢咲連環府・政務室 ◆◆◇


建安19年11月13日(西暦215年1月1日)


洞庭湖の水面は、朝日を受けて黄金に輝いていた。

私はあることを決めるため五華会議を招集した。


黄金に輝く湖面を眺めながら、あの時を思い返していた。


初代五華は政務から退いといっても、襄陽府は違ったようで、華蓮の人気が凄まじかった。

そのため、華蓮を含む初代五華は襄陽府に移り住んでいた。




そして私たち五華は笄礼の翌日から念願の海を目指し開発計画を進めていた。


夢咲が掲げる千里――中国で一里は約一キロにあたる――の開発行軍だった。

私たちは湖の玄関口・岳陽に立ち、長江の大動脈へと船団を進めた。

湖を背にしたその姿は、まるで新しい時代の門出を告げるかのようであった。


最初の拠点は武漢。漢水と長江が交わるこの地は、古来より軍事と物流の要衝である。

ここで私は、灯花の灯りを街に広め、夜の闇を照らした。

民は驚きと共に歓声を上げ、星紙幣の流通も始まった。

貨幣はただの紙切れではなく、未来への信頼を象徴するものとして受け入れられていった。

そして、国防の要衝となる武漢には紗良が残り、国防力の強化にあたった。


さらに二百里を下れば、九江に至る。

廬山を背にし、鄱陽湖へと通じる水運の結節点である。

ここでは自然と人の営みが交わり、文化と交易が栄えていた。

私たちは湖畔に灯花を並べ、夜の市を開いた。

光に誘われた人々は集い、歌い、語り合い、経済の力が人の心を結びつけることを実感した。

九江の豊かな水と肥沃な大地の開発に、碧衣が力を注ぐために残った。


六百里を越えたあたりに現れるのは古都・南京。

六朝の都として栄えたこの地は、伝統と革新が交差する場所であった。

伏皇后の「正統」を重んじる声も強く、夢咲の理念は容易には受け入れられない。

だが私は語った。

「伝統は過去を守るものではなく、未来を照らす灯りに変えられる」と。

その言葉に若者たちは共鳴し、古都の街に新しい風が吹き込んだ。

多くの若者の共感を得たとはいえ、漢王朝復興を唱える声は根強く、曹英がその風土と向きうこととなった。


さらに下れば、鎮江や揚州の地に至る。

ここは塩の交易と商業で栄えた都市であり、経済の力を試すには最適の場であった。

星紙幣は商人たちの間で急速に広まり、灯花の灯りは夜の市場を活気づけた。

人々は「血統」ではなく「暮らしの豊かさ」にこそ未来を見出し始めていた。

琴葉は揚州に留まり、各地から集まる情報を収集・分析する仕組み作りにあたった。


そして千里の果て、長江はついに海へと注ぐ。

上海の河口に立った私は、仲間たちが各地に残ったことを思い返しながら、東シナ海の水平線を見つめた。

そこには無限の可能性が広がっていた。

内陸から始まった灯花の光は、いまや海を伝い、次なる目標の黄河へと繋がる……

そして外の世界へと広がっていく。


こうして洞庭湖から海までの千里の道程は、単なる開発の旅ではなかった。

星紙幣と灯花の灯りは、民の暮らしを変え、人々の心に「血統ではなく未来を選ぶ」という新しい価値観を芽生えさせたのであった。




そんなことを考えていると、会議の時間となり皆が集まってきた。


私は黒い重厚な箱から一通の手紙を出し卓の上に置いた。

予測していたのであろう、皆がニヤリと笑った。


琴葉が、「やっぱり封筒だったんだね……開けるの?それとも燃やすの?」

と聞いてきた。

紗良が、「星愛(ティア)は燃やすときは、一人で燃やすよね」と言う。

「うんうん、星愛(ティア)は一人で罪を背負う性格だからね」と曹英が頷く。

碧衣が「一人は良くないよ……で、開けるのでしょ」と訊いた。


私は頷き、封筒に鋏を入れて赤い紙をテーブルに置いた。



――――――――――――――――――――


建安十九年十一月二十日


伏皇后は曹操により「過去の暗殺計画を企てた」として罪を問われ、

その場で殺害される。

その後、彼女の二人の皇子も毒殺され、一族も多くが処刑された。


死因:斬首


裁定:延命を許可する


――ペルセポネの記録――

曹操の企てを逆手に取り、伏皇后に過去の名を脱ぎ捨すて、夢咲の「星」と、皇后の清らかさを象徴する「蓮」を合わせる、星蓮(せいれん)として再び輝くことを許す。


――――――――――――――――――――


曹英が苦々しい顔で呟いた。

「かなりの強敵よ……彼女、漢王室復興の信者みたいだから」

碧衣が頷く。

「この間、襄陽まで行ったときにも、華蓮様から暗殺の噂が広がっていると聞いたわ」

紗良が肩をすくめる。

「叩かなくても埃が舞い上がりそうだね」


(私も琴葉から話を聞いて知ってはいたけど……)


「二つ、大きな壁があるわね」

私は静かに言った。

「一つは、漢王室復興に傾倒し過ぎていること。あの考えを捨てない限り、夢咲ではやっていけない。

もう一つは、皆の言う通り。叩かなくても、過去の埃が舞い上がる」


皆、それぞれ難しい顔になる。


碧衣がぽつりと言った。

「初代五華がいない今、新たに加わった軍師や才女に縋るのも、悪くないと思う」


その言葉に、道が開けた気がした。


私は琴葉に声をかける。

「洞庭湖には龐統、荀彧、徐庶、劉明、貂糜がいるから……

夏口の周瑜夫妻に、すぐ来るよう事情を話して呼んでくれるかしら。

そうね、夏口からなら――陽が沈むころには会議ができるわね」


琴葉が頷き、「じゃあ、行ってくるね」と言うと――


ポン!


煙とともに姿を消した琴葉だった。


私は残った紗良、曹英、碧衣を見た。

「今回のペルセポネさんの手紙は、とても難しい作戦になりそうだけど……

きっと、今日の夜には、いい答えが見つかると思うよ」


三人はそれぞれ、期待を込めた面持ちで頷いた。

灯花が静かに揺れていた。




―― 夢咲星環洞庭府大会議の間 ――


灯花の間に、夕陽が差し込む。

水面が金色に染まり、夢咲の政庁には静かな緊張が漂っていた。

扉が開く音がした。


陽が沈むころには、洞庭湖にいた面々が大会議の間に姿を現した。


龐統が目を細めて、

「空気が……揺れているな。伏皇后の周辺は風が動いている」

と言うと、荀彧が私を見て深く頭を下げた。

「理念の地に立つ者として、我々も覚悟を持って来ました」

隣に座っている徐庶は、

「民の声を届けるために。伏皇后がその光を受け入れられるかどうか、見極めたい」

と言い、目を細める。


静かに劉明が、「私は、彼女の背を支えるために来ました。血ではなく、意志で」

と言うと、貂糜が微笑みながら――

「夢咲の民の暮らしを守る者として、ここにいます。

過去を赦すためではなく、未来を選ぶために」


そのとき、外から水音が響いた。

流星が静かに着岸する。

紗良(窓辺から)


「来たわ。夏口からの流星」


扉が再び開く。

周瑜が先に入ってきた。背筋を伸ばし、軍略家としての威厳を纏っている。

その後ろに、小喬が静かに続く。江南の風を纏ったような柔らかな気配。

周瑜が大会議の間に入って来て、一同に頭を下げた。

「夢咲の理念を通すために、軍略は後方に回す。今日は、思想の場に立ちます」

後ろに従っていた小喬が灯花を見つめながら、

「伏皇后が選ぶなら、江南の民もその光を信じます。誇りだけでは民は救えない。だからこそ、ここに来ました」

星愛が立ち上がる。

灯花が一斉に揺れ、誰もが息を呑んだ。会議の始まりを告げるようだった。


私は皆の前に立ち深く頭を下げた。

「皆、揃いましたね。今宵、夢咲の理念が試されます。

伏皇后を迎えるかどうか――そして、誰がその旅に同行するか。

この場で、答えを見つけましょう」


沈黙が落ちる。

灯花の光が、過去と未来の狭間を照らしていた。

灯花が揺れ、誰かの息遣いが静かに響いた。


最初に口火を切ったのは荀彧だった。

「彼女は漢王室の正統性を背負う者です。夢咲がその光を拒むなら、理念の根が揺らぎます」


即座に曹英が荀彧の言葉に反論する。

「その“光”が、民を焼くこともある。誇りに縋る者が、未来を語れるとは思えません」


劉明が荀彧を擁護した。

「誇りを捨てて何が残りますか……彼女は伏氏の血を継ぎ、漢の皇后として生きた。

夢咲がその重みを否定するなら、理念など空虚だと思います」


二人の言葉に現実を見続けてきた曹英が立ち上がった。

「空虚なのは、血に縛られて動けない者だ。

夢咲は選択の地だ。血統ではなく、意志で立つ者だけが未来を照らせる!」


劉明が曹英を睨みつけた。

「ならば聞きます、伏皇后が意志を持って立った時、曹英はその背を支えるのですか? 

それとも、過去の埃を探して引きずり下ろすのですか!」


曹英はあくまでも冷静を保ち答えた。

「支える価値があるなら支える。だが、夢咲の理念を汚すなら、私はその背を斬る」


空気が張り詰める。灯花が一瞬、強く揺れた。


小喬が静かに口を開く。

「彼女は、かつて江南に来たことがあるの。

伏氏の使者として、建業に滞在した数日間――私はそのとき、彼女と話した」


皆が小喬に目を向ける。


「彼女は誇り高く、静かで、でも……民の声に耳を傾ける人だった。

市場で子供に道を譲り、老女の話に頷いていた。

伏皇后としてではなく、一人の人として」


目を瞑り、腕を組んでいた徐庶が私の目を見つめた。

「それが本当なら、彼女は変われる。民の声を知る者なら、夢咲の光を受け入れられる」


隣にいた龐統が頭を左右に振り静かに答えた。

「だが、許都は過去の象徴だ。

彼女がそこに立てば、伏氏の亡霊も呼び起こされる。

夢咲の理念が試されることになる」


紗良が私を見て意見を言う。

「護衛として言わせてもらう。

彼女を連れて行くなら、誰が守るかを明確にすべきだ。許都は曹操の牙城だ」


紗良の師である周瑜が静かに頷きながら、

「軍略の観点から言えば、許都は動かぬ岩だ。

伏皇后がそこに立つことで、揺らぐのは敵か、我々か――それは同行者次第だ。

思想を通す者が必要だが、理念が揺らぐなら、戦は避けられない」


私は全員の顔を見渡し、ゆっくりと立ち上がった。


「この旅は、過去を赦すためのものじゃない。

未来を選ぶためのものよ。

伏皇后がその選択をするなら、夢咲はそれを支える。

だが、支える者もまた、理念を背負う覚悟を持つ者でなければならない」


灯花が揺れ、会議室に静寂が訪れる。


私は一人ずつ見つめながら、

「徐庶、民の声を届けて。琴葉、空気を読むのはあなたの役目。紗良、護衛を頼む。小喬、江南の民の声を添えてほしい。劉明……あなたが彼女の背を支えるなら、覚悟を持って」


一人ずつ頷く者たち。私は最後に、灯花の揺れを見つめながら言った。


「明朝、許都へ向かい、伏皇后を迎えに行きます。

この旅は、過去を赦すためのものではありません。未来を選ぶためのものです。


伏皇后は、漢王室の象徴として生きてきました。

その誇りは尊い。ですが、夢咲は血統ではなく、理念で立つ地です。


我々は、彼女がその理念を受け入れられるかどうかを見極めます。


民の声を届ける者、理念を試す者、護る者、読む者――

それぞれの役割を持つ六人が、私と共に許都へ向かいます。


劉明、曹英、徐庶、小喬、紗良、琴葉。


私たちは、夢咲の光を携えて、過去の闇に向かいます。

伏皇后が夢咲の民として立つならば、我々はその背を支える。

理念を汚すならば、夢咲はそれを拒む。

この旅は、夢咲の理念そのものです。

どうか、心してかかってください。


灯花の光が、過去と未来の狭間に、静かに道を描くように――」


こうして長い一日が終わった。

私は風が吹き抜ける空に、北の星が微かに瞬いていたのを見て、一抹の不安を覚えた。


(きっと、全てが上手くいく)


そう願うことしか、私には許されなかった。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

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