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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第67話 再会


襄陽の開発が決まったことは、翌日には洞庭湖に琴葉によって伝えられた。

私は華蓮が昨日自分から洞庭湖の開発を申し出たことを思い出していた。


「華蓮様……襄陽に残るのは、澪様と……会えない、からですか?」

華蓮はじっと川面を見た後に、皮肉な笑いを浮かべ呟いた。

「みんな、アルティメットの爺が悪いのよ……」


それ以上は何も語る気がないのか、腕を組んで開発予定地をじっと見つめる……

美しい黒髪が風に揺れていた。

曹英が華蓮に、「開発お任せしましたのでよろしくお願いします」

と言って頭を下げた。


「大丈夫よ……第三機動艦隊は置いていくのでしょ?」

と華蓮が聞いてきたので私は頷き答えた。

「はい、私たちは劉明の船で孝感(シャオガン)区へ向かいます」


華蓮は頷き私たちに質問してきた。

「ねえ、私たち順調に夢咲の街を拡げているけど、人材不足でこれ以上は難しくなるわね」

私は華蓮の言葉に頷いた。

「これからどうするか……」

華蓮がにっこり笑い、「澪に相談しなさい……良い助言があるかもしれないわよ」


ボー――


夏の空に響く流星の汽笛で話が遮られた。

「では、私たちは孝感(シャオガン)に向かいます」

私と曹英、劉明は桟橋を渡り、流星に乗り込んだ。


船はゆっくり埠頭を離れ、華蓮の姿は徐々に小さくなり、やがて見えなくなった。




◇◆◆ 孝感(十日後) ◆◆◇


夢咲星環孝感(シャオガン)区庁舎の屋上から長坂方面を見ていると、土煙が見えてきた。

「見えてきたわ、劉備の軍と難民がきたわよ」

私が言うと、碧衣が青の狼煙を上げるように兵士に伝えた。


青い狼煙が、夏の空に静かに溶け込んでいった。

私と碧衣は直ぐに港へと足を運び流星に乗船した。


対岸では先に受け入れのために渡っていた区民たちが、難民受け入れの準備で慌ただしく働いていた。

岸が近づくにつれ、風に乗り炊き出しの汁の香りが漂ってきた。


陣幕前には、心配気な表情を浮かべた劉明と曹英が、遠くに見える土煙を見ていた。

私が「来たわよ」と声をかけると、土煙から目を離さず二人は黙って頷いた。


暫くすると、土煙の中から二本の土煙が飛び出し、こちらに向かって走ってきた。

やがて、蹄の音が耳に届くところまで来た。


(張飛と趙雲だわ……)


私は笑顔で馬が来る方へと歩み寄る。

土煙の中から現れた英雄が、私に気付いて馬から飛び降り、ゆっくり歩み寄り私の前で片膝ついて頭を下げた。


「こんにちは、張飛さんに趙雲さん……劉琦の一件以来ですね」

私がにこやかに二人に声をかけると、二人は顔を上げて苦笑した。

「あの時は、大変お世話になりました」趙雲が答えると――

「あの、夜の無灯火の漢川登りは忘れられませんぞ」と張飛が言葉を足した。

私が、「ちょうど、澪星の船腹を川底に擦りながら荊州水軍を追い越したのが――

ここ、孝感(シャオガン)でしたよね」とにこやかに言うと、

張飛が、「あの時は胸が躍りましたぞ」と言った。

「私は、ドキドキでした」と苦笑いを浮かべ答えた。


そんな世間話をしていると、難民の人々が視認できる距離まで来て止まった。

その中からゆっくり現れた四人……

劉備玄徳、諸葛亮孔明……そして澪と。


「皆さん劉琦の一件以来ですね……でも、今日はかなり疲弊している様です」

劉備が一礼して答えた。

「ははは、面目ございません……でも、足も手もあります」

「生きてお会いでき何よりです」


孔明が一礼して話しかけてきた。

星愛(ティア)様は、また一回り大きく成られたようですね」

「そうですね……いろいろありましたので」


私は後ろで控えている民や兵士を見てから劉備に提案した。


「ここにおられるのは皆さん、難民ですね」

ニコリと笑い劉備が答えた「はい、左様でございます」

「皆さん、夏口には仕事を探しに行く……中には仕官する者も……」

「左様ですね……でも今はただの難民で、浪人です」と言いながら劉備がニヤリと笑った。

「夏口までは、まだ十八里(約72㎞)あります……それに、夏口の城は対岸です。

ここで対岸に渡り、今日は私たちの夢咲星環府 孝感(シャオガン)区で一晩休んでいってください」

劉備は目を潤ませ、身体を少し震わせながら頭を下げた。

「皆も喜ぶことでしょう……ありがとうございます」

「民を助けるのが私たちの義です……粗末ですが、ここに用意した炊き出しを召し上がりながら船を待ってください」

劉備に変わり孔明が静かに頭を下げ……

「何よりも代え難い、心づくしを感謝します」と声を震わせながら言った。

「さあ、お腹を空かしている子供たちも沢山いるのでしょ……皆さんにお伝えください」

趙雲と関羽は難民の前に出て今あった話を説明すると、子供が泣き笑いし、母親が肩を抱き合っい、一斉に安堵の声が大地に広がった。


話を終わるのを待っていた澪が私に駆け寄り、ギュッと抱きしめた。

澪の温もりと神衣の心地よい香りが私の全身を包み込んだ。

星愛(ティア)、あなた本当に大きく成ったわね……

もうこの世界では会えないと思っていたけど、また会えたね」


その様子を見ていた、曹英と碧衣、そしていつの間にか帰って来ていた琴葉が私と澪に抱き着いてきた。

「ホント、また会えたんだね」と曹英が涙を隠さず……

「澪さん……」静かに再会を喜ぶ碧衣……

「良かったねー、良かったねー」と満面の笑顔で抱きつく琴葉だった。

「そう言えば、碧衣はどうしたの?」と鼻の頭を赤くした澪が私に尋ねた。

「紗良は夏口府で守りを固めています」と答えると、

「戦なんてつまらないわね」と呟く澪だった。


そんな私たちの様子を、袖で涙を拭きとりながら黄婉貞(こうえんてい)が見守っていた。




◇◆◆ 夢咲星環府 孝感区庁舎屋上 ◆◆◇


屋上で夢咲と劉備陣営でこれからのことについて話し合うことになった。

夢咲側は私と芳美、曹英、劉明、碧衣、琴葉が席に着き、

劉備陣営は劉備と諸葛亮、張飛、趙雲、澪と黄婉貞(こうえんてい)が席に着く。


卓の上には夏口を中心にした地図が広げられていた。

往復輸送をしている船の汽笛の音と、民の活気ある声が地上から聞こえてきていた。


「私たちはいつも民の安寧を願っています。それは劉備さんも一緒ではないですか?」

私が問いかけると、劉備は大きく頷いた。

「もちろんです……

しかし私は未だ至らず、民を安んじる力が足りぬ。だからこそ、あなたのような方の助けが必要なのです」


私は大きく頷き、「私たちに、難民の中から希望する者を預ける気持ちはありませんか?」

と問いかける。


「……彼らは私の背を支えてくれる者たち。しかし、私の力では皆を食わせることも難しい。もしあなたが受け入れてくださるなら、それは彼らにとっても救いとなりましょう」


私は孔明を見つめて頭を傾げ、無言の問いかけを投げた。

「殿のお心と星愛様の志は、同じく民を思うもの。

ここで希望する者を夢咲に託すことは、決して損ずることではなく、むしろ殿の仁を広げることとなりましょう。

どうかご安心ください。これは必ずや、我らの力ともなります」


私は微笑み、「曹英、難民の受け入れの説明をお願いします」

と言うと曹英が頷き説明を始め、碧衣がその人数を地図に書き込んでいった。


「夏口に五千人、襄陽に一万人、老河口(ろうかこう)に五千人、鉱山の黒鉱谷に五千人の……合計で二万五千人を受け入れることができます」


碧衣が地図に書き終えるのを待ち、

「どうですか、これだけの人数を夢咲に託してみませんか?」と言い、劉備を見た。


劉備は目を潤ませ、深く頭を下げる。

「……これほどの数を受け入れてくださるとは。私には到底できぬこと。

星愛様の志に、ただ感謝するばかりです」

民を託すことへの後ろめたさをにじませつつも、夢咲への信頼を強く示した。


孔明は冷静に地図を見つめ、戦略的な意味を補足する。

「これで殿の負担は大きく減り、軍も民も安んじることができます。

夢咲の庇護を受けた者たちは、やがて殿の仁を語り継ぐでしょう」

と言い劉備の決断を理で支え、未来への布石を打った。


趙雲は静かに頷き、現実的な安心感を示す。

「これで子供や老人も飢えずに済みます。兵も心置きなく戦に臨めましょう」

実務的な視点から、夢咲の提案を歓迎した。


張飛は感情を隠さず、豪快に賛同する。

「ははは! これで民も腹いっぱい食えるってわけだ! 星愛殿、恩に着るぞ!」

率直な喜びを表し、場を明るくした。


こうして、難民の受け入れについては話がまとまった。

そして私は孔明を見て話しを切り出した。

「今曹操軍は烏林(うりん)に兵を集めています……

いずれ江陵も曹操軍に落ち、さらに兵力を増強するでしょう。

劉備軍としては孫権と密談を交わしたいのでは?」

「お察しの通りです。曹操軍は烏林に大軍を集め、江陵もいずれ陥ちましょう。

殿の兵のみでは抗し難く、孫権殿との同盟は避けられませぬ」

孫尚香(そんしょうこう)を通して魯粛(ろしゅく)に同盟の件を伝えましょう……

あとは孔明さんの交渉次第ということで、どうでしょうか?」

「魯粛殿は温厚にして義を重んじる方。まずは彼を味方につければ、孫権殿も動かざるを得ませぬ。星愛様の仲介は、まさに天の助け」


私は満足げに頷き、澪と黄婉貞(こうえんてい)を見て最後の交渉へと挑んだ。

「劉備さん、劉備さんが国を構えるまで、夢咲に澪さんと黄婉貞(こうえんてい)さんを学術教授として夢咲に招待したのですが……どうですか?」


劉備が二人の顔を見て静かに答えた。

「……澪も婉貞(えんてい)も、私にとってはかけがえのない者たち。

本来ならば傍に置きたいが、国を興すまでの間、夢咲で学びを深めることは、彼女たちにとっても幸いとなりましょう。

星愛様に託せるのなら、私は安心して任せられます」


頷きながら横で聞いていた孔明も、

「殿のお心遣い、そして星愛様のご厚意、まことにありがたく存じます。

澪殿と婉貞殿が夢咲にて学を広めれば、それはやがて我らの力ともなりましょう。

国を構えるその時、彼女たちが持ち帰る知識と経験は、必ずや殿の礎となります」

と最後に優しく笑った。


(やったーーー!最後の交渉が一番夢咲で必要なことだったのよね)


私の心と裏腹に静かに微笑み、

「ありがとうございます」と感謝の意を伝えた。


この交渉を最後まで見届けた芳美は、娘である私の成長を心から喜び、その微笑みは夕陽に照らされて一層やわらかく見えた。

地上では、輸送も終わり夕餉を準備する香りが屋上にも届いていた。




―― 夜の孝感区庁舎屋上 ――


私は屋上の手摺りを背中に、風に髪が流されるのを感じながら星を見ていた。

隣では澪が両腕を手摺りに乗せ、区画整理された街並みに碁盤のように並ぶ灯花を眺めて呟いた。


「しっかり、この街は私の技術が生きているわね」

曹英が髪を抑えながら頷いた。

「澪さんの創造が全部詰まっているんですよ……

澪さんがいなければ、夢咲がここまで飛躍的に勢力を拡大できなかったと思います」


婉貞(えんてい)が目を輝かせて澪に尋ねた。

「新野にいた時は、ここまで教えてもらえなかったけど……

ここで息づいている技術と私に享受してくれた技術には、天と地の差がありませんか?」

澪は婉貞(えんてい)を見つめて答える。

「それはね、使う側の生活水準に合わせているだけなのよ……

創造される技術は薬にもなるけど毒にもなるの……

今の人の子には私の創造は毒でしかないのよ」

その声は夜風に溶け、灯花の光と重なっていった


婉貞(えんてい)が少し納得していないのか、腕を組み、首を傾げていた。

婉貞(えんてい)さん、洞庭湖には月英さんもいますよ……

一緒に仕事をすれば、澪さんの言っていることが分かると思います」

と私は声をかけると、婉貞(えんてい)の瞳が再び輝きを取り戻した。


「お姉さんと一緒に仕事ができるの?」

「はい、実は学術として、科学を月英さんと婉貞(えんてい)さんに、

生物、薬学を劉明さんに、医学を貂蝉さんに、それぞれの礎を作ってもらいたいのです……

そして総合的に澪さんに夢咲学術院の礎を作って欲しいのです」


澪がにっこり笑った。

「まあ、私と婉貞(えんてい)を欲しいと言った時に、そう言うんだろうなとは思っていたわよ」

と言いながら再び街の灯りを見て呟いた。

「創造って、正しく使えば美しい物なんだよね」

そう言いながら、満足げにいつまでも街の灯りを見ていた。

その声は夜風に溶け、灯花の光と重なっていった


私と曹英、碧衣、劉明、琴葉、婉貞(えんてい)も澪と同じように、両手を手摺りに乗せいつまでも街の灯りを眺めていた。


いつしか、曹英は静かに胸に手を当て、碧衣は目を細め、琴葉は小さく口笛を吹き……

私はこの心地よい時間がいつまでも続けばいいのにと思い……


灯花の灯りがまるで未来を照らす星々のように、夢咲の人材不足という不安を静かに押しのけていた。

夜空の星々と街の灯花が溶け合い、まるで地上と天が一つになったようだった。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

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