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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第63話 孝感区(シャオガン区)


私たち五人はいつものように夜の屋上に立つ。

満天の星空に、銀河が浮かび上がり、静かに私たちを見守っていた。


「ねえ、大分夏口も街らしくなってきたね」

私は夏口の街を見渡しながら呟いた。

居住区はほぼ完成し、港も大型港の様相を呈してきていた。

「ねえ、みんな……あの計画を実行するのは今しかないと思うの」

私は、皆の顔を覗き込むように言った。


曹英も同じ気持ちだったのか、すぐに賛成してくれた。

「そうね、曹兄が南下してきたら実行するのが難しくなるわね……

今、(くさび)を打てば、襄陽が見えてくるわね」


みなも、真剣な面持ちで頷いた。


「じゃあ、明日の朝会で進言するわね。

曹英と碧衣……あなた達に頼むから、頑張ってね」


曹英と碧衣は、自信に満ちた表情で頷いた。




――― 夏口夢咲星環区定例朝会 ―――


私たちは新たな計画を胸に秘めて、今日の朝会に臨んでいた。

窓から差す柔らかい朝の陽光が、私たちを後押ししているかのようだった。


毎日、行われる朝会で私は、昨日までの夏口区の状況と今日の予定を説明した。

いつもなら、ここで解散になるのだが、芳美が手を上げた。


「星愛、ちょっと話していいかしら?」

(私も話したいことあるけど、お母さん何の話をするのかしら……)

「どうぞ、芳美(ファンメイ)様」


「私たち初代五華は黄巾の乱のときに、側から子女を守りながら旅を続けていたのは知っているわよね……だからこそ、民の動きには敏感なの」

「はい、小さい時から沢山話を聞いてきました」


「ウフフフ、今も八歳の娘だけど、本当にあなたたちは大人顔負けの心を持っているわね」

「華蓮は余計なことを言わなくていいのよ……

その経験からだけど、曹操が襄陽を視野に入れる一週間前から難民が爆発的に増加します……」


芳美は一旦話を切り、皆を見た。

私たちは真剣な表情で、芳美の次の言葉を待ちました。


「言いかえれば、星環府民を増やす好機でもあると思うの……

星愛(ティア)はどう思うかしら?」


(昨日の夜皆に話したことを、話せるチャンスがきたー!)


皆の顔が期待の表情で私を見つめ、私は自信をもって私たちの案を話した。


「はい、実は私たち、夜の漢川をさかのぼった時に気付いたことがあるのです」

華蓮の眼が一瞬光る。「へえ……どんなことに気付いたのかしら?」


私は碧衣を見た。「碧衣、説明をお願いしていいかしら?」

「はい」と、碧衣は頷き説明を始めた。


「銀の鉄扇で川底を見ながら、夜の漢川を遡っている時、ある地域……

ちょうど、船腹を擦りながら遡っていた付近です。

その辺りは、黒晶鉱を多く含む砂地で、船腹を調べたら黒晶鉱の砂が残っていました」


「ウフフ、しっかり銀の鉄扇を使いこなしているわね……」

華蓮が碧衣をほめると、碧衣が静かに答えた。

「はい、銀の鉄扇は面に映されたものの成分までわかります。

だから、川底の鉱石の種類も即座に判別できるのです」


華蓮が私の方を見て尋ねた。

「星愛はどうしようと考えているのかしら?」


「はい、その場所は孝感(シァオガン)(現在の湖北省孝感市)です。

丁度、襄陽と夏口の中間に位置します。

二つの都市を結ぶ中継地としては申し分ない位置です。

そして、襄陽からの難民は江陵を陸路で目指すか、漢川に沿って夏口を目指してくると思います。

ここに、鉱山の街……夢咲星環孝感区を作るのです」


芳美は私たちに期待の目を向けた。


「区だから五千人規模の街ね……難民を受け入れるには十分ね。

それに、黒晶鉱の採掘の仕事も与えられるし、良いわね」


ニッコリ芳美が微笑んだ。

(お母さんが機嫌のいい時の笑顔だ……)

私は芳美の笑顔を見て自信をもって皆に方針を伝えた。


「澪星弐号に八十名の人員で、交渉官は曹英、鉱山調査は碧衣を任命し、夢咲星環孝感区計画を実施したいと思います」


満場一致で、夢咲星環孝感区計画が動き出した。


―――――


昼前には、孝感計画の準備を済ませ乗員の乗船も終わった。


私が、「曹英に碧衣……孝感のこと、頼んだよ」

と言うと、曹英が「任せなさい」と言いながら抱き着いてきた。


(えっ、曹英……何で抱きついてくるの)


私が驚いた顔をしていると、紗良が割って入ってきた。

「こら、二人とも離れなさい!全く油断も隙もないわね」

碧衣が「あんたら、いつまでそんなことを続けるつもり?」と呟いた。

曹英が紗良に怖い顔で言った。

「私がいない間の抜け駆けは禁止よ!」

ニッ ――

と、笑う紗良と、冷ややかに紗良と曹英を見つめる碧衣だった。


琴葉が「朝、晩の二回は会いに行くからね!」と元気よく声をかけた。


ボー ――


出航を知らせる合図とともに、碧衣と曹英は手を振り桟橋を駆け上がり乗船し、こちらに向かって手を振った。

私と紗良、琴葉も負けずに大きく手を振った。


ゆっくり澪星弐号は桟橋を離れ、船速を上げていった。

みるみる小さくなる船に、私たちは期待を込めて手を振り続けた。




◇◆◆ 孝感の曹英と碧衣 ◆◆◇


澪星弐号が孝感の河岸に静かに着岸したのは、まだ丘陵に陽が落ちる前だった。

漢川の水面は鏡のように滑らかで、岸辺の柳が風もなく垂れていた。

曹英は船の縁に立ち、遠くに広がる丘陵地帯を見つめた。


「ここが……孝感(シァオガン)。静かね。

けれど、地の底には語られていない力が眠っている気がするわ」


碧衣は銀の鉄扇を開き、川辺の砂をすくうように風を送った。

扇面に浮かび上がった微細な鉱粒が、淡く青白く光る。


「黒晶鉱、間違いありません。粒度も安定しています。

ここなら、星環機の外殻材にも使える品質です」


曹英は頷き、「明日の朝から、計画に取り組んでいきましょう」

「そうね、もう陽も沈むし明日から私たちの仕事をしていきましょう」


―――――


曹英と碧衣は岸辺に設けられた仮設の浮桟橋を渡った。


「碧衣、まずは鉱脈の分布を確認して。

私は地元の村長と接触して、土地の使用許可を取りつけるわ」

「了解しました。調査班はすでに丘陵の南端に展開しています。

一刻半(三時間)後には初期報告が出せるはずです」


二人は言葉少なに、それぞれの任務へと動き出した。


孝感の地はまだ眠っている。だが、夢咲の灯がともる時、ここは星環の新たな鼓動となるだろう。




◇◆◆ 三週間後の夏口区庁舎区長執務室 ◆◆◇


私と紗良は夏口区と孝感区の稟議書などの書類の承認に追われる毎日だった。


「紗良、だいぶ夏口の開発は落ち着いてきたわね……

これで、孝感の対応に専念できそうね」

紗良が、孝感からの書類を広げて言った。

「輸送用の星馳(せいち)、掘削機、粉砕機の依頼や定期船と保安船団の就航依頼……

稟議書見るだけで、開発の内容や計画が順調に進んでいることが分かるね」

「孝感の北へ十五里(約60Km)の一に『黒鉱谷』の発見が大きいね。

黒層鋼の原鉱「黒晶鉱」の埋蔵量が、洞庭湖の百倍だしね」


私はさらに話を続けた。

「孝感はもともと千人の村だったけど、ここで強い勢力が入ることで安心が欲しかったみたいね。

村長は孝感村民全員を夢咲星間孝感区の区民とすることを条件に、土地を差し出してきたしね」

「うん、皆協力的で、あっという間に街の体裁を整えたよね」

笑顔で頷く紗良だった。


八月に入り暑さが厳しくなっていたが、十層にある執務室の開け放った窓からは、川からの涼しい風が通っていた。


そんなのどかな雰囲気を壊す一報が届いた。


「入るわよ」の言葉と同時にドアを開けて入って来た華蓮。

その後ろを厳しい表情の芳美と琴葉が続いた。


「劉表が亡くなって、後を継いだ劉琮が曹操に降伏したわよ」

華蓮の鋭い声が執務室に響いた。


私は琴葉を見て命令した。

「琴葉、今すぐ夢咲星間府、区に戒厳令を発令しなさい」

琴葉は黙って頷き、煙と共に姿を消した。


私は華蓮に「状況は?」と聞いた。

「曹操から逃れたのは、劉備だけよ。

劉備は劉表の庇護を受けつつ、避難民や旧劉表配下の兵を糾合していたのよ。

そして今、避難民10万人以上と数千台の荷車を伴って移動中よ」


そして、芳美が話を引き継いだ。

「江陵を目指したのは歩ける者たちで……

関羽の進言で歩けぬものは、漢川を下って夏口を目指しています。

五百隻の船と、八千の兵と二万の避難身を引き連れてね」


華蓮が悪戯っぽく笑った。

「曹操は五百隻の船を持ち出されたことに、いたく腹を立ててね……

五千の騎馬隊を組んで追撃しようとしているのよ」

芳美は華蓮の断絶神特有の遊びに捉える態度に困った顔を見せながら、

「曹操は荊州水軍を接収したけど、一部兵力が関羽に持ち去られたわけよね。

それでも、五万の兵を千二百隻の船に乗せ漢水を南へと下らせようとしているわ」


遂には腹を抱えて笑い出す華蓮。

「まったく、曹操はお子様よね。ウフフ……

戦は数ではないのよね。全部燃やしてしまおうかしら」


(きっと、曹英が怒りそうね……なんやかんやで曹操のことを尊敬しているみたいだし。

でも、兄弟のこと悪く言われても、きっと星環府の交渉官として中立を貫くかな……)


私は、「華蓮様、私たちは中立です……

攻撃されたら報復しますが、あくまでも防衛の一環としての報復です。

華蓮様は口にしたこと本当にやりそうだから、そんなことは言わないでください」

「あら、やらないわよ……

でも、船団なんか燃やすのが一番楽ですわ……ウフフフフ」




◇◆◆ 孝感(曹英視点) ◆◆◇


上空の青い空とは対照的に、山間部では黒い雲が広がり遠くで雷鳴が聞こえていた。

私と碧衣は孝感区庁舎の屋上で、漢川の上流を静かに見つめていた。


下から聞こえていた昼の蝉の鳴き声が、夕方の蝉に変わった。

戒厳令を引かれた孝感区は、まだ陽が沈んではいなかったが、区民たちはこれから起こるであろうことを感じたのか、自分の家の中で息をひそめていた。


銀の鉄扇を水平に構えていた碧衣が呟く。

「来た……距離一里(約4㎞)」

私は伝令に声をかけた。「距離一里、警戒態勢の狼煙を上げなさい!」


庁舎の屋上から赤い狼煙が上がる。


新たに地上と艦船に設置された大玉筒が上流を捉えた。

第一機動艦隊と保安隊の艦船は臨戦態勢に入った。


私は、「大玉筒が火を吹かないことを祈るわ」と碧衣に言った。

碧衣も頷き「そう、願うまで」


私と碧衣は庁舎を後にし、保安隊の隊長艦に乗船し船を押し出した。

そして、曲がった川の上流に影が見えてきた……


(来た……間違いないな、関羽たちの船団だ)


「川を封鎖せよ!」私が命令を出すと、情報伝達用の灯花が瞬きをした。


カチ、カチ、カチ――


灯花が命令を出すと、川を封鎖するように第一機動艦隊と保安隊の船が並んだ。


関羽の率いる船団は下流に下れぬと思い、岸辺へと船を寄せていく。

見ると、幼い子から年老いたものまで、多くの民が怯えた目で黒い私たちの船を見ていた。


一艘の船が近づいてきた。

青龍偃月刀を片手で立て構える人物……間違いない関羽だ。


「お久しぶりです、関羽様」

私は優しく微笑みながら挨拶をした。

関羽は深く頭を下げた。

「これは曹英殿、申し訳ありませぬが見ての通り……我ら大切な命を運んでおります。

通しては頂けぬか」

口元は穏やかだが、目は引かぬ光を宿していた。


「もちろん、我らに危害を加えぬのであれば……

でも、見れば船に慣れぬ者も多そうですね。皆様お辛そうです」

私が問いかけると、関羽が再び頭を下げた。

「すみませぬ……船に慣れぬ者や病弱の者にはきついようです……

ここでお預かりして頂くわけにはまいりませぬか?」


見えぬ曹兄の追っ手に、焦りを覚えているのか単刀直入に出た関羽の言葉。

私はその気持ちを汲んで、言葉を飾らす関羽に答えた。


「私たちは、兵士は助けませぬが、迷う民は受け入れる準備はしています。

曹兄の追っ手は今朝、襄陽を出航しています……

受け入れられるのは五千人です……早々に人選を」


私たちは待っている間、船に乗る民たちへと希望のパンと水を配給した。

着の身着のまま出てきた民が多く、皆配給には喜んでいた。

この後の関羽たちの手際は早かった。

人選は半刻(一時間)で終わり、ここに残る者は陸に上がり、安堵の表情を浮かべていた。


関羽が両膝を突いて私の両手を握り、深く頭を下げた。

「この御恩、一生かけても報いたいと思います」

私は少し恥ずかしくなり碧衣を見ると、碧衣は私を見て黙って頷いた。


「私たち夢咲星環府は民の安寧を祈る国を持たぬ組織です……

理念に沿った行動をしただけです」

私が答えると、関羽は腰を上げ深く頭を下げ自船に戻って行った。


関羽たちの姿を見送り、私は碧衣に声をかけた。

「関羽さんは、本当に義の人ね……」

碧衣は漢川の下流を見ながら答えた。

「無事に夏口につくのを祈るばかりです」


私は明日のことが頭をよぎり呟く。

「明日のお昼には曹仁叔父さんがここを通過しますね」

碧衣は静かに頷いた。

「ことを構えることにならなければ良いですね」

「曹仁叔父さんが私たちに手を出さなければ、そのままここは通すつもりよ」

私は灯花が照らす川を見ながらそう呟いた。


灯花の灯りが艦船と街を照らし出し、この灯りを守りたいと心に誓った。



―― 翌日の昼前 ――


私たちは雨の中、再び屋上に立ち、漢川の上流を見ていた。


「来たわね」

私がそう呟くと碧衣は静かに頷き銀の鉄扇を見つめた。

「船は千二百隻、兵士は5万人ね」


私は警戒態勢の赤い狼煙を上げさせた。

雨の中、一直線に赤い狼煙が上がっていった。


一斉に上流に向けられる、大玉筒。

黒層鋼にたまった大粒の水玉が雫となり獲物を待つかのように滴った。


軍船がみるみる川を埋め尽くし、真黒になる。

私は夢咲星環府だと分かるように、岸辺には星環旗を並べさせておいた。


「功名を立てたい将が攻撃してきそうね」

碧衣が呟き、私は艦隊の指揮を取っているであろう曹仁を思い浮かべ答えた。

「曹仁がいる限り、そんな暴挙に出る輩はいないと思うけど……

新たに曹操軍に加わった荊州水軍なら襲ってくるかもしれないわね」

「そんなことしたら、火の海になるわね」

碧衣は黒い軍船の塊を見ながら、冷たく答えた。


やがて、千五百隻の軍船は孝感の港を素通りして、下流へと消えていった。

雨音だけが静かに響く屋上で、私は思った。


「新たに曹操陣営に加わった荊州水軍の中には、早く曹操に認めてもらいたくて、攻撃してくる輩がいそうね……」

碧衣が頷き同意した。

「夏口区で何もなければいいけど……この後、曹操が孫権とことを構えるとしたらひと悶着ありそうね」

碧衣は冷たい視線を下流に向けて、静かな口調で答えた。


髪を滴る雫を感じながら、私たち二人はいつまでも夏口へと続く川面を見ていた。




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の夜22時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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