表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/126

第62話 南征開始


私たちが夏口入りした後は忙しさを極めた。

また、曹操軍が南下を始めた情報はその対応策を講じるため、忙しさに拍車をかけた。

それは、どの地域でも同じであった。


曹操軍と最初に接触すると考えられる江陵星環府では、新たに江陵城から希望して星環府民となった者が、一万人のうち八割を占めていた。

洞庭湖と沙市から希望して江陵に来た府民を中心に、星環機の操作や玉筒の射撃練習、集団演習に合わせて、新府民のための組み立て工房での生産を軌道に乗せることで手一杯の状況だった。


沙市では薬品や保存食品の増産に追われ、怪我や病気で動けなくなった流浪の民を受け入れるための住宅建設。そして五環院所属の自衛隊・保安隊は訓練に明け暮れていた。


そして何よりも忙しさを極めたのが洞庭湖だった。黒層鋼、星環機(船舶や星馳(せいち))、建材の増産で、交代制勤務で工房はフル稼働を続けていた。


当然、夏口も同様だった。

一日目には区画整理と、区画に合わせて外灯用の灯花を設置した。

二日目には指令の要となる、夏口星環区庁舎を建設した。


私たち五華は、完成半ばの庁舎の仮の屋上に立って、街並みを眺めている。

「区画に沿って並んだ灯花の光、とても美しいわね」

私が、星空のもと、荒れた台地に区画に合わせて並んだ灯花を眺め呟いた。


曹英が手すりに背中を預けて、風で揺れる髪を片手で押さえ振り向きながら言った。

「明日は、この五層建ての建物に、さらに五層建ての建物をのせるのよ」


紗良が頷き言った。

「十層からの眺め、この大陸では一番高い建物になるみたいだよ」


そう、この塔は河を行きかう船の道標となり、夏口の象徴になるのだ。


碧衣が神妙な面持ちで、「でも、人が足りないわね」と、私を見つめた。


私もため息をつき、頷く。

「そうね、母が劉琦に話し、星環区民を募ったけど集まったのは五百人 …… 

やっぱり、劇とかで人を集めるのが効果あるよね」


皆が静まり返り、夜の闇に呑まれそうになる。


(これ、私の言葉がいけなかったのかしら …… 落ち込んでいる場合ではないのよ)


私は慌てて、言葉を続けた。

「でも、ここで立ち止まるわけにはいかないよ。

他の拠点でも皆頑張っているのだから、少しでも良い街を作れば人は集まると思う」


皆も落ち込んでいる暇はないことに気付いたのか、私を見て頷いた。


「さあ、明日も頑張ろう。

きっと明日この塔が完成したら、夏口から新たな人が集まると思うよ」

私は明るい声で、皆に言った。


―――


翌朝、私は庁舎の屋上から定期船が入ってくるのを見ていた。

今では、彗星級の旅客貨物船が朝と昼に定期運航していた。


浮桟橋に着岸し、その様子を見ていると、百人以上の人々が降りてきたのだ。

よく見ると、親子なのだろうか、工具を担いだ男と子供を抱いた女、若い男と女の集まりや、武具を持った男……様々な人々が下船してきたのだ。

その意味はすぐに分かった。


「みんな来て!」私は思わず叫んだ。


私の慌てようを見て、紗良、曹英、碧衣、琴葉が駆け寄ってきた。

私と同じように皆が港を見て驚いた表情を浮かべた。


「すごいね、どこも大変なのに、人員を夏口に送ってきたよ」

私は目頭に熱い物を感じながら、皆の方に振り向いた。


「私たち、頑張らないとね」と私は笑顔で皆に伝えると、

皆も笑顔で「頑張ろうね!」と答えた。


―――


星々の下、私たちはいつものように、完成した庁舎の屋上に立っていた。

いつもと違うのは、十層建ての建物で、さらに高い位置には全方向型巨大灯花が備え付けられていた。

この巨大灯花は雷式機関モーターで駆動し、全方向照らし出すことができる構造になっていた。


琴葉が操作版を楽しそうにいじっていた。

後ろでは心配そうに紗良が覗き込んでいた。


「エイッ」とかけ声とともに、小さな操作棒を手前に引くとカバーが開き、灯花が夜空を照らした。

私は雲に丸い灯りが照らされるのを見て「わぁ」と驚きの声を上げた。

「ソレッ」と再びかけ声とともに、今度は操作棒を左右に、さらに上下に器用に操る。

「ほら、こっちが海だよ」と言い、長江を円弧を描くように照らし出す。

「ホレッ」と操作棒を器用に操る。

「こっちが、長江の上流……そして、こっちが漢川」


「すごい、良く見える……これなら夜間の警備も安心ね」

私が感心してみていると、「最後は……ここ!」と灯花を動かす。


「はい、こちら、ぐっすり眠っている夏口城門の兵士でーす」


(うわっ、本当に居眠りしていた)


「これでは曹操は防げないね」と、悲しい顔で紗良が呟き、笑いが凍りついた。


江陵の時もそうだったが、劉表の軍の腑抜け加減に落胆した。


「まあまあ、私たちは中立なのよ……私たちは、私たちの仕事をしっかりしましょ」


(あーあ、嫌なもの寝る前に見ちゃった)


居眠りをしている兵士を見て、将来の劉表軍を危惧する私たちだった。


夏口城とは別に、私たちの夏口区の灯花の光は、夢咲の未来を照らす希望でもあった


―――


翌朝、その知らせは突然あった。




◇◆◆ 宛城 琴葉視点 ◆◆◇


遡ること半刻前の宛城(現在の河南省南陽市宛城区)の城門。


「あらー、皆さん集まっていますわね……いよいよ、動きますわね。

琴葉蜘蛛には筒抜けでございますのよ」


「進軍――!」 


号令とともに城門が大きな音を立てて開かれた。


ギィー ――


城門が開くと同時に馬の嘶きが聞こえ、蹄の音が地を揺らした。

夏侯惇・夏侯淵を先頭に騎兵が砂塵を巻き上げる。


「先頭は夏侯惇・夏侯淵ね ――」


ザッ、ザッ、ザッ、ザッ ――


揃った足踏みの音が、恐怖を運ぶようだった。


「こ、これはまずいですねー、ここまで多いとは…… 

オッ、曹仁ではありませんか」


ピュッ ――


曹仁の黒光りする甲冑に蜘蛛の糸を飛ばした琴葉。


(後で、曹仁に話しを聞くのであります)


「オッ、この黒い馬に跨るのは間違いない……

曹操さんね」


ピュッ ――


今度は曹操の甲冑に蜘蛛の糸を飛ばした。


(取り敢えずは、いつでもこの二人とは会えるわね……ムフフ)


「さてさて、その後に続くのが張遼・張郃……

しんがりは徐晃ね」


しんがりの部隊を見送り、呟く琴葉


「ざっと、十五万は下らないわね……ちょっと曹仁と話してこようかしら」


旗が風に鳴り、黒い波のように続く兵列が城門を後にした。


煙と共に、曹仁の甲冑に付けた糸の上に転移した琴葉蜘蛛。

曹仁の耳元で囁く。

「曹仁さん、曹仁さん……お久しぶりです」

「ぬ、ぬしは、夢咲の蜘蛛娘」

「蜘蛛娘だなんて……琴葉と言う名前があるのですよ。

実はね、今回の南征の件、曹英が心配していましてね」

「安心しなさい、夢咲には手を出してはならんと、曹操様自らの御達しだ」

「ありがとうございます。ところで今回の南征の軍は十万はいるのですか?」

「いやいや、琴葉殿……どう見ても二十万であろう」

「そうでしたか、私が数を間違えるなんて…… 

では、これで失礼いたします」




◇◆◆ 夏口 ◆◆◇


曹仁の肩から、夏口にある寝床に転移した琴葉は大声で星愛を起こそうとしていた。


「星愛、星愛……起きてください……星愛」


まだ寝床に入っていた私は目を擦りながら、半身を起こし声の主を見た。


「あっ、琴葉ちゃんどうしたの」


と私が言うと同時に、私たちの部屋に二人の女性が入って来た。


「あら、星愛様はお目覚めしたばかりかしら……ウフフフ」


そこには、黒のトガをまとった華蓮と、純白のトガをまとった芳美が立っていた。

黒と白のトガが並び立つ姿は、まるで運命の二柱のようだった。


琴葉は華蓮と芳美を一瞬見て、今度は大きな声で報告した。


「星愛、曹操が南征を始めたってば―!!」


「えー、ついに始まったの!?」


「まだお子様なのね……こういう時は落ち着くのよ」

芳美が優しく星愛の頬にキスをした。


この騒ぎに、まだ寝ていた紗良と曹英、碧衣が目を覚ます。


「ウフフフ、やっと五華様たち全員お目覚めですわね」

華蓮が楽しそうに笑った。


「でも、腑抜けの劉表陣営は何もできずに、進行を待つだけになるし……

何となく予測はつきますけどね」

芳美が呟き、華蓮が私たちに声をかけた。

「さあ、あなた達、着替えて、顔を洗って区長室に来なさい…… 

おししい紅茶を飲みながら、ゆっくり話しましょう」


華蓮が言い残し、一緒に芳美と琴葉が寝床を後にした。


「ねえ、星愛、どう思う?」着替えながら紗良が私に尋ねてきた。

「お母さんが言った通りだと思う、劉表陣営で気骨のある将はいないし……

それに、私たちの知っている城主たちも頼りないし」

着替えを終え、階段を下りている時に曹英が重い口を開いた。

「弱者は何もしない方が、救われる民が多くなる。

だから、直ぐに降参するのが得策だと考えるわね」


私たちがドアを開けると、芳美たちは紅茶を楽しんでいた。


私たちが座るのを待って、芳美が私に声をかけた。

「琴葉の報告の通り、曹操は今朝日の出とともに南下を始めたわよ…… 

軍勢は十五万といったところかしら」

「はい、十五万と踏んで曹仁に十万と聞いたら、五万の差を足した二十万と答えたので、多分十五万で間違いないですー」


(えっ、琴葉が真剣に答えている……それと、曹仁と駆け引きして、琴葉も成長しているのね。

でも、十五万という数は想像もつかないけれど、きっと圧倒的な迫力なのだろう)


「星愛夢咲星環府長、ご指示をお願いします」

優しさの中に威厳のある声で、芳美は星愛に指示を求めた。


「曹英、先ほど話した内容を皆に伝えてください」

曹英は頭を下げ、腰を上げた。

「私が見るところ、劉表の陣営には劉備以外に気骨がある将はいないと思います……

曹操の軍勢を見たら、自身の命惜しさに簡単に開城するものたちばかりです」

「ありがとう、曹英……私も曹英と同じ考えです。

問題は無血開城した場合、その兵力はそのまま曹操陣営に吸収されていくことになるでしょう」


華蓮が目を細めて私を見た。

「星愛、あなた成長したわね…… 

で、襄陽に着くころには曹操陣営はどのくらいの規模になると考えているのかしら?」

「はい、およそ二十万と考えます…… 

そして、劉表を飲み込んだ後は、襄陽から陸路で江陵。

もう一方漢川を下り、夏口を目指すと考えています」

「そうね、私もそう思うわ……何故そう思うのかしら?」

「一気に孫権まで飲み込もうという考えです。

そうすれば、この大陸の統一も簡単になると思います」

「いいわね、星愛……」


「ただ気がかりは、劉表の下にいる劉備の陣営です。

私たちが予想した通り必ず、彼を慕う民を引き連れて南下するでしょう」

芳美が頷いた

「間違いなく南下します…… 

孔明がいるので彼は孫権を動かすために、賭けに出ると思います」


華蓮は口元を袖で隠し、ニヤリと笑った。

「孔明らしからぬ行動になるわね……面白そうな劇が観られそうですわ」

「あの、華蓮様……孔明の師匠の澪様は大丈夫なのですか?」

「フフフフ……大丈夫よ、澪の力はこの大陸を壊して創造し直すこともできるのよ」

「え、創造し直す?」


芳美が苦笑いをしながら、「まあ、人知を超えることは存在するの…… 

華蓮の言うことは気にしなくていいのよ」と言った。


「曹操が駐屯していた宛城(現在の南陽市)から襄陽までは五十里(約200Km)です。

他の城を飲み込みながらの行軍なので、襄陽には七月下旬に到着すると思います。

私たちはそれまでに、準備を怠らずに進めていきましょう」


私が最後に今後の方針を伝えると、一同が頭を下げた。


(私たちの戦略が成功するか楽しみね)


一カ月後のことに恐怖を超えて、未来を楽しみにしている自分に気付いた。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

■ 気に入っていただけたら、☆☆☆☆☆評価やブックマークをお願いします!

■ ご意見・ご感想はコメントへお気軽にどうぞ。


更新は偶数日の夜22時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ