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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第61話 防衛構想


江陵の開発も一段落つき、私たち五華は澪星(れいせい)で夏口(現在の武漢)を目指していた。


江陵夢咲星環府については府長の美優(みゆ)に一任してきた。


理由は、夏口は千人規模の夏口夢咲星環市とすることが一番の理由で、劇場を作る予定がないこと。

そして、夏口は漢水と長江が交わる重要拠点で、河川の防衛の要になることから、彗星級の船を三隻、流星級の船を十八隻停泊できる、巨大防衛拠点とすることになった。


以上の理由から、開発当初から助言をしてきた美優を江陵府長とし、夢咲の軍師としての経験が深い芳美(よしみ)が、夏口の開発の導き手として携わることになった。




◇◆◆ 夏口防衛港予定地 ◆◆◇


私たちが乗る澪星は長江を遡り、やがて漢水の河口が見えてきた。

水面には夏の陽光がきらめき、両岸にはまだ荒れ地が広がっている。

江陵では聞こえなかった水鳥の声が、夏口では響いていた。


「ここが……夏口」 私は胸の奥で呟いた。

私の左には、紗良と碧衣が、右には曹英と琴葉が立ち、荒れた台地をじっと見つめていた。

川風が私たちの髪をなびかせ、夏の日差しの下、涼を運んでいた。


江陵の華やかさとは違う、無骨で広大な大地。

ここに千人規模の街を築き、未来の要衝とするのだ――そう思うと、胸が高鳴った。


既に、設置されている浮橋には私の母であり、夢咲の軍師である芳美が立っていた。

母と共に街を築くことへの誇らしさや緊張で胸が高鳴る。

その胸の高鳴りとは裏腹に、澪星は静かに芳美の待つ埠頭へと接岸した。


夏口の河岸に降り立ったとき、思わず深呼吸をした。

湿った風が頬を撫で、遠くで水鳥の声が響く。


「ここからが始まりね」

芳美が私たちに静かに言った。

江陵を美優に託し、私は母と共に新たな街を築く。

その事実が、不思議と心を落ち着かせていた。


芳美(ファンメイ)様、これからよろしくお願いします」

公の場では芳美のことは『ファンメイ』と呼び、家庭では『よしみ』と呼ぶように言われて育ってきた私は自然と公の呼び名で呼んだ。


(曹英があなた達、漢字の読み方が変だよと言っていたわよね。

まあ、私たちの先祖はギリシャ人らしいから仕方ないのよ …… たぶん)


ちらっと、曹英の方に目を向けるとニヤリと笑った。

そして、何を思ったのか紗良は突然私と手を繋ぎ曹英を睨んだ。


「みんな来て早々に悪いのだけど、陽が沈むまでの間に開発の方針を決めますね」

芳美が申し訳なさそうな顔で言った。

「そうね、澪星の食堂の方が広いから、そこで話し合いましょうか?」

と、芳美が提案してきたので、私たちは「はい」と答えて、再び澪星の船内へと戻って行った。


―――――


食堂に着くと、芳美は侍女に持たせた夏口の地図を広げた。

地図には地形以外何も記入されていなかった。


「ここに、あなた達の思いを記入していくのよ」

私たちはお互いの目を見て、期待に胸を膨らませた。

「でも、知っておいて欲しいことがあるわ」

私は「知っておいて欲しいこと?」と疑問を口にした。

「ええ、曹操が南征の準備を終えたわ ……」


曹英が不安を隠さず、芳美の目を見た。

「それは、明日にも進軍をということですか?」

芳美は首を振り、話を続ける。

「もう一つあってね、病に伏している劉表の命が風前の灯になったわ」

「それって、亡くなるということなのですね」驚いた表情の曹英。

「ええ、そして曹操はその時を待っているのよ」


曹英の顔色が心なしか悪くなった。


曹英のことが心配になり、私は声をかけた。

「曹英、大丈夫 …… 顔色が優れないけど」


曹英の手が震えていた。

「ええ、曹兄が来ると思ったら、怖くなって」

「でも、曹英と曹操は兄弟だから …… 許都でも大切にされていたじゃない」


曹英は悲しい表情で首を振る。

「うん …… 堅実だと思われがちだけど、曹兄はかなりの臆病者なの。

だから、家臣の声に心が揺れることあるし、身を守るために残忍になることもあるの」


「大丈夫、私たちがいる限り夢咲に攻め入る暴挙には出ないわよ」

芳美が諭すように言うと、曹英はゆっくり頭を左右に動かした。

「心配なのは、私たちの友人の劉備たちよ」

琴葉が頷いた。

「いま、髭だるまたちは樊城(現在の湖北省襄陽市・樊城区)にいて、劉備は良政の主として民からも愛されているよ」


芳美の目が細くなる。

「まずいわね、劉備はきっと民を捨てることができないわね ……」

私は芳美の言葉を聞き、自分ならどうするか考えた。

「芳美様、きっと、劉備は江陵に活路を見出すのでは?」

紗良も頷き 「最終的には、劉琦がいる、ここ、夏口に来そうだね」と言った。

芳美も私や紗良と同意見を持っていたようで、軽く頷き、少し考えているようだった。

そして私を鋭い眼で見た。


「星愛 …… 今は夢咲星環府に指示を出す場面よ」

私は芳美に顔を向けて、言葉の意図することを汲み取った。


(私の言葉が夢咲の、そして親友の劉備たちの運命を左右するかもしれない)


澪星の食堂は静寂が支配した。

そして、椅子を引いて立ち上がろうとした。


ギー ――


椅子の音を合図に、私たちの将来を左右する布陣を皆に伝えた。

曹英、紗良、碧衣が筆をとり、私を見て頷いた。


墨の香りが、静かな衝動を満たし、私の気持ちを引き締めた。


「夢咲の基本は武人には水すら与えず、完全中立を貫きます。

そして、流浪の民には、助けの手を差し伸べます」


曹英たちは私の言葉に合わせて筆を走らせ、楓紙に書きとめていった。

私は皆が書き終えるのを待ち、次の言葉を続けた。


「江陵府は府長の美優様に一任します。

そして、流星を八隻、武装した星馳を東西南北の灯花塔にそれぞれ二台配置。

その内、六隻の流星は劉備の後を追って長江を移動」


芳美は目を閉じ、私の言葉に静かに耳を傾けていた。


(次から次へと考えが生まれてくるけど …… 私って凄い!!

でも、この決断が誰かの命を左右するかもしれないのね)


私の心の眼は澪星を通り抜け、未来の逃れる劉備軍と追う曹操軍を見ていた。


「沙市星環区の指揮は区長の理沙様に一任します。

そして、洞庭湖の指揮は妃良様に一任 …… 

華蓮様は洞庭湖で待機、戦となったときに防衛軍の総指揮を一任します」


ここまで言って 私は深く息を吐き、気を引き締めた。


「夏口の開発は変更します ……

千人規模の市ではなく、五千人規模の軍港区として開発します」


皆が私を見つめ、静寂の時が一瞬流れた。


そして、静かに書き写しが終わるのを待ち、芳美が優しく微笑んだ。


「星愛、しばらく見ないうちに大分成長したわね ……

八歳とは思えない、大人顔負けの布陣ですね」


私は最愛の母に褒められ、頬を朱色に染めながら琴葉を見た。

「布陣の書状を妃良様と理沙様、美優様に届けてくれるかしら」


琴葉は嬉しそうに微笑み三通の書状を受け取った。

「任せてくださーい」

私を見て、片目を瞑り、微笑んだかと思うと ……


ポン ――


書状を持ち、煙と共に書状運びの仕事についた。




◇◆◆ 江陵夢咲星環府 ◆◆◇


澄んだ鐘の音が響く江陵府庁。

琴葉が煙とともに現れると、美優は筆を止め、静かに顔を上げた。


「星愛ちゃんが……ここまで考えたのね」


書状を読み終えた美優の瞳は、驚きと誇らしさに揺れていた。

「江陵は任せて。星愛ちゃんが安心して夏口に専念できるように、私が必ず守るわ」


琴葉はその言葉に安堵し、軽く頭を下げて次の目的地へと消えた。




◇◆◆ 沙市夢咲星環区 ◆◆◇


沙市の港町は、船の帆音と人々の声で賑わっていた。

理沙は港の見張り台で指揮を執っていたが、琴葉の姿を見ると眉を上げた。


「……ふふ、やっぱり来たわね」


書状を開き、星愛の布陣を読み進めると、理沙の口元に笑みが浮かんだ。

「夏口を軍港区に拡張、か。あの子、もう立派に軍師の顔をしているじゃない」


理沙は港に停泊する船団を見渡し、声を張り上げた。


「聞け! 沙市は今日から戦の要だ。星愛の布陣に従い、準備を始めるぞ!」


港の空気が一瞬で引き締まり、琴葉はその迫力に思わず背筋を伸ばした。




◇◆◆ 洞庭湖夢咲星環府 ◆◆◇


洞庭湖の水面は夕陽を映し、黄金色に輝いていた。


湖畔の君山楼で琴葉を迎えた妃良は、書状を受け取ると静かに目を通した。

「……星愛は、もう未来を見ているのですね」


妃良は湖面に視線を落とし、遠くに浮かぶ船影を見つめた。

「この湖は、必ず星愛様の盾となりましょう。華蓮様にもすぐに伝えます」


その声音は柔らかくも揺るぎなく、湖の静けさと同じ深みを帯びていた。

琴葉は胸の奥が温かくなるのを感じ、最後の任務を果たした喜びと共に再び煙に包まれた。




◇◆◆ 夏口夢咲星環区 ◆◆◇


私たちは夏口の地図を見て、街の配置について話し合っていた。


ポン!


音と煙と共に琴葉が帰ってきた。

「おかえり、琴葉 …… 書簡を渡したときの皆の様子はどうだった?」

私が琴葉の方に振り向いて尋ねると、琴葉がニッコリ笑い答えた。

「皆、快く引き受けてくれたよ」

「良かった …… でも、時間は待ってくれないわね。

琴葉もこちらに来て、夏口の開発について一緒に考えて」


私は妃良、理沙、美優に承諾してもらい、心から安心した。

その反面、こうやって話している間にも時が過ぎ、焦りを覚えていた。


(あとは、夏口をどのような街に開発するだけね)


「みんな、夏口はとても大切な軍港区にする必要があると思うの」

皆の視線が私に注がれた。

「ここは、漢水への入り口になる場所 …… 

北へ遡る漢川は澪星なら襄陽まで、

西へ伸びる長江の上流は江州(現在の重慶)まで。東へ伸びる長江の下流は建業(現在の南京)、呉郡(現在の上海)、そして海へ。


海は次の目標の黄河へとつながります」


曹英が私を見て、「夏口は長江での防衛、物流の要となるのですね」と呟く。


私は頷き、「はい、なのでこの港は絶対的な武威を示す必要があると思います」と、決意を新たに硬い表情で言った。


絶対的な武威の言葉に、紗良が目を輝かせて語りだした。

「武威と言えば、今は洞庭湖と襄陽を就航している流星型十六保安隊を夏口にも三隊配置する必要があるね」


曹英と碧衣は筆をとり、曹英は楓紙に、碧衣は夏口の地図に筆を走らせた。

一同が紗良の言葉の続きを待った。

「そして、今回の件で私たちは河の上の保安は強いけど、陸の上の機動力が弱すぎる」

曹英と碧衣が筆を止めて、紗良を見た。

「騎馬隊二隊にそれぞれ星馳(せいち) を二台配置した部隊を艦載できる、彗星改機動艦の製造を提案したい。そして ……」

「そして ……」私は思わず身を乗り出し呟いた。

食堂の時間が止まったように静まり、厨房から料理を作る鍋の音が聞こえてきた。


ジュー ―― カン、カン、カン ――


その音を合図にしたように紗良が口を開いた。

「澪星型司令艦一隻、彗星改機動艦二隻、流星型護衛艦四隻からなる機動艦隊を二艦隊配置する」


再び筆が走りだし、埠頭の規模を地図に書き込む碧衣と、指示書に艦隊の規模を書き込む曹英だった。


紗良が満面の笑みを浮かべ、「これで、長江の防衛は完璧だよ」と言った。


(紗良は江陵での経験で大分成長したのね …… 

でも、この話を聞いたら、きっと洞庭湖では澪星の月英があまりの注文の多さに心配になった)


江陵での経験が彼女をここまで変えたのだ。

私は自信に満ちた紗良の顔を見て、誇らしく、そして頼もしく思った。

そして、月英やそこで働く人々のことを思うと、絶対に報えなければと握る手に力が入った。


新たな防衛構想に希望を抱き、再び地図を見て、川から陸地へと目を移した。


「長江上流、下流、漢水の大型倉庫を四棟ずつ配置して、その横に星環防衛隊の修練所建屋と埠頭を配置」


私たちは、次々に夏口の街並みが頭に描きだしながら、意見を出しあった。


みるみるうちに地図は墨で黒く染め上げられていった。


「まずは、流浪の民を受け入れられる居住区と、長江と漢川見渡せる庁舎、澪星型の船を二隻と流星型の船八隻を停泊できる埠頭建設を急ぎましょう」


私が右手を地図の上に差し出すと、紗良、曹英、碧衣、琴葉が右手を重ね頷き合った。

私たちの姿を後ろから芳美が見て誇らしげな表情でほほ笑んでいた。


ここに、この先千八百年、夢咲を守り続けた防衛機構の走りが産声を上げ、その始まりを誰もが胸に刻んだ。


もう陽が暮れて、明日からの夏口開発に気を引き締める、夢咲の五華だった。




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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