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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第59話 新夢咲連環府拡大戦略


江陵の地の開発を始めて六日目の夜、私たちは江陵夢咲連環府の府庁舎の屋上に立って、私たちの築いてきた街並みを眺めていた。

屋上には、私たち五人が暮らす居住棟が並び、いつも寝る前に江陵府の街並みを眺めるのが日課になっていた。


夜空には、一面の星たちが輝き、風が心地よく吹き抜けていた。


区画整理が済んだ西側は、遠くに江陵城の城壁の影を望み、綺麗に碁盤の目のように外灯用の灯花が優しいオレンジ色の灯りで街並みと行き交う人々を照らしていた。


風に乗って、灯花の甘い香りが、屋上まで優しく包んでいた。


私が街並みを眺めながら呟いた。

「とうとうここまで来たね」

隣にいた紗良が、街並みを見ながら静かに頷く。

「やっぱり、星馳せいちの力が大きかったね。

星馳がなければ、ここまで建設が進んだか怪しいよね」

曹英が風になびく髪を押さえながら、私の方に振り向き笑う。

「うんうん、最初は操作に手間取ったけど、もう手足のように操作できるわよ」

琴葉が曹英の顔を怪訝な表情で見た。

「でも、曹英ちゃんは、最初は涙を浮かべていたよね」

「うるさい!琴葉は黙っていて」

両頬を膨らませる曹英だった。


三日目には、私たちのいる六階建ての府庁舎を完成させていた。


碧衣が含み笑いをしながら私を見た。

「憶えている?

この庁舎を作ったとき、血相を変えて江陵城主の周靖が飛んできたわよね」

「あはは、城壁より高い建物は困るって言っていたわよね。

あの時は美優様が『何か不都合でも』と言ったら、何もありませんと言って、引き上げて言ったね」

私が言うと、琴葉も頷く。

「私ね、蜘蛛になって様子見に行ったけど、かなり落ち込んでいたよ」

「ちょっと、可哀そうなことしたかしら」

「大丈夫、大丈夫」と、紗良が私の肩を叩く。


この庁舎と私たちの居住棟ができたのと、裏の倉庫に三台の星馳を駐車していたので、

三日目の夜には、もうここでの生活が始まっていた。


「そして四日目には中央広場に、食品や花灯の店舗を作ったよね」

私が言うと、曹英が答えた。

「この日から積み荷も、薬や灯花、保存のきく紅茶やチーズ、いろいろな物品が運ばれるようになってきたね」

「うん、翌日からは気の早い江陵城の人が来ていたわよね」

私が頷き、碧衣がうんざりした顔になる。

「『私が、しん紙幣でないと取引できません』というと、庁舎に紙幣を換金する人が殺到して、大変だったのよ」


琴葉が皆に伺うように聞く。

「その中に周靖がいたのを知っているかな?」

皆が首を振ったが、私は少しうれしい気持ちになり微笑んだ。

「なんやかんや言って、周靖も心の中では夢咲を認めているのね」


この時点で、既に星紙幣が流通を始めていて、これは、嬉しい誤算でもあった。


さらに、五日目には江陵城の北西門通りと正門通りに、店舗と温泉施設を備えた宿泊施設を建造した。


「私が温泉を探してくれって言った時のこと憶えている?」

私が碧衣に尋ねると、苦笑いしながら碧衣が答える。

「うん、あの時は、てっきり星愛ティアは特別な能力を嫌っていると思っていたから、頼まれたときは意外に思ったのよ」

「エへへ、誰も特別な能力は使ってはいけないと言ってないでしょ?

それに、どうしても温泉は外すことができないのよね。

お蔭で立派な宿泊施設になったでしょ?」


曹英が真面目な顔で深く頷いた。

「おかげで、あの施設、江陵に訪れている人や、江陵城の人にも評判が良くて、

ここでも星紙幣を求める人で混乱したわよね …… 

結局、私が換金所を宿泊施設に作らせて事なきを得たけど」


「それで、周りのお土産屋さんや、夢咲製品販売店も大盛況だったのね」

合点がいった顔で私がそう言うと、皆が一斉に頷いた。


私は、今日のことを思い出しながら、江陵府の南側に視線を移した。

「そして、今日は南東に一般の居住棟、南西に子女のための居住棟を建設して …… 

これで江陵市民の受け入れ準備も完了したね」


まだ一般の居住地区には人が入っていないが、南西の子女地区には港や街作りに働く、府民が入居をし、どの家の窓からも、明るい灯りがこぼれていた。


「明日からは彗星二号船が運搬に就航するから、開発に拍車がかかる」

私は皆を見て真剣な顔で言った。

「明日は『希望のパン』の公演初日 ……

この日から府民権の公募と、星紙幣の流通が本格的に始まるね」


皆が私の顔を見て頷いた。


街の明かりは、明日からさらに輝きを増すだろう。

私たちはその光を胸に、静かに夜を迎えた。


―――――


いよいよ今日は、『希望のパン』の公演初日だ。

この公演の目的は二つあった。

一つは、公演で人を集め、夢咲製品の売り込みとしん紙幣の流通。

そして、もう一つは、人材不足の夢咲に府民を増やす。


今日は初日なので、公演は夜の部だけだった。

明日以降は、昼2公演、夜一公演となる。


私は江陵府庁舎から開発の進捗を見ながら、地図に目を移し手書きで進捗を書き込んでいた。


(やっぱり、屋上から街を見ながらだと、状況の確認も捗るわね)


今日は一般居住区と子女居住区建設班の二班に分かれて行動していた。

紗良が操作する星馳が西門前を港に向かって走っていくのが見えたが、何故だか止まった。


(えっ、何であんなところで止まっているのだろう ……)


不思議に思い目を凝らしてみると、多くの江陵の住人がこちらに向かって歩いてくるのが分かった。


(ひょっとして、公演を見に来る人たちなのかしら …… まだ、お昼前よ。

そんなことあるわけないわよね)


ポン!


煙と共に、琴葉が慌てた表情で表れた。

「どうしたの、そんな顔して …… 

あそこに紗良の星馳が止まっているけど、何かあったの?」

「それが、もう江陵の人たちが、公演を見るのだとこちらに向かっているのですー」

「まだ、お昼前よ、どうしてそんなに早く ……」

「なんでも、沙市の南州夜影賊衆討伐を題材にして、

荊州でも人気の関羽、張飛、趙雲、そして孫尚香は本人が演じる。

それに、貂蝉様も曹英役で出演 ……」

「江陵では話題になっているということね」

「そうなんですよー、で、星馳が通ったものだから、あっと言う間に人だかりができて」


「はあ」

私は深いため息をつき、これから公演期間中こんな騒ぎになると思うと ……

想像もしたくなかった。


「まずは、紗良の所に行って、回り道になるけど子女居住区を抜けて建材を運ぶように言って」

「了解ですー」

「あっ、まだ行かないでね ……

あとは、換金所に直ぐに換金できるように準備をすることを伝えるのと ……

店舗には早く販売準備をはじめるように伝えて」

「ほーい、じゃあ行ってくるねー」


私は西門の方に目を移すと、紗良の星馳が方向を変えて、子女居住区へと走り出していくのが見えた。


(取り敢えず一安心ね、星馳は最先端の重要機密が詰まっているの ……

そうやすやすと近くで見せるわけにはいかないわよね)


やがて人の流れは劇場へと向かった。

色とりどりの衣を揺らしながら、老若男女が笑顔で劇場へと足を速めていく。


(うーん、まずいわね ……

劇場の収容人数が千人だから、それを超えると混乱しちゃうわね)


(早く琴葉、戻ってこないかしら ……)


心配をしていると後ろから声をかけられた。


「どうしたの?」


(あっ、この声は美優様!?)


後ろを振り向くと、美優が微笑みながら頭を少し傾け立っていた。


「美優様、もう江陵城から人が劇場に向かっています」

美優の視線が江陵城の北西門から正門に移り、目を細めた。

「入れない人はたくさん出そうだけど、公演は明日から三回あるし、

入れなかった人のために日付指定の入場権を発行しましょうか?」

「是非お願いします!」


美優は手を叩き侍女を呼び出した。

侍女に状況を説明すると、頭を下げこの場を後にした。


「ところで、美優様?」

「あら、何かしら?」

「今日は初公演ですけど、劇場に行かなくてもいいのですか?」

「ウフ、今回の劇の座長は麓沙だから、彼女にすべてを任せているのよ」

「でも、心配ないのですか」

「あら、私が選んだ麓沙だから心配はいらないでしょ?」


(そうか、それが信頼するということなのだ …… 私たちは、そこまでは達していないわね)


私は、麓沙を信頼するという言葉の意味をかみしめた。


美優が地上の様子を眺め、私に視線を移した。

「今日は、ここで私も人の流れを見させてもらうわね」

「はい」

私は安心からか、思わず顔がほころんだ。


「ほら、あそこ」

美優は目を細め劇場を指した。

「劇場へ人がどんどん集まっているでしょ …… 

でも、少しずつ換金所のある宿泊施設と江陵府庁舎に流れている」

「はい、公演を見るには入場券が必要で、入場券は十星以上の紙幣が必要。

だから、換金所に流れているのだと思います。」

「そうね、でもこれは失敗ですね …… よけいに混乱を引き起こしています。

例えば、一週間前から入場券を販売していたらここまで混乱はしなかったわね」


「あと、もう一つの流れに気付いたかしら?」

「えっと …… 職業相談所へ流れています」

「そうね、しかもそちらの方がかなり多いわね …… どう思うかしら?」

「たぶん、換金できる物がないのですね」


美優は腕を組み、片方の人差し指をこめかみに当て少し考えているようだった。


「思ったより、江陵の人たちは仕事がないのかしら ……

これは、少し想定外ね」

「えっ、それはどういう事でしょうか?」

「仮に、一万人の江陵の人に府民権を与えても、

この街には職のない人を受け入れるだけで、働いていない人で溢れかえるということよ」

「でも、港の仕事や、建設の仕事もあると思います」


美優は私の頭を優しく撫でて、微笑み諭すように言った。

「それは、町が完成するまでの間だけでしょ ……

完成した後はどうなるのかしら?」

「そ、それは、美優様の言う通り、職のない人たちで溢れてしまいます」


美優は満足げに頷き、私の瞳を覗き込んだ。

「どうするのかしら …… 世界の中心に座るあなたの考えはあるかしら?」

「せ、世界の中心ですか?」

世界の中心――その言葉が、灯花のように静かに心に灯った。


私は唐突な質問に、頭を横に傾け美優の顔を眺めた。

「あら、ごめんなさい …… 

星愛の顔見ていたら、ある神様を思い出しちゃって。

で、星愛は何か策は思いつきますか?」


(なに、ある神様って、たまに話に出てくるヘスティア様かしら ……

そういえば、竈の神様で家庭や政治の中心に座ることを許された神様だったわね)


そんなことを考えつつ、両手を頭の後ろに回し指を組み、何となく灯花の灯を頭に浮かべていた。


(灯花、灯花 …… あっ、そうだ、いい考えを思いついた)


「美優様、私に良い考えがあります」

美優が私に微笑み、私の瞳を見た。

「星愛ちゃん、何か思いついたの?」

「ええ、灯花です …… 

灯花も黒層合金で作られていて、黒層合金は機密事項です」

「そうよね、錬成から加工まで、全て機密事項よね」

「でも、灯花の部品までは機密ではないですよね」

美優が手を叩いて、明るい表情で私を見た。

「いい所に気付いたわね」

「ええ、そうです……

灯花の組み立て工程は機密ではないんです。

だから、江陵には組み立て工房を建てて、夢咲製品を製造すれば ……」

美優が人差し指を立てながら頷く。

「職の問題は解決ということですね」

私は自分の想像が楽しくなり、つい、声のテンションも上がってきた。


「はい、それに新しい星環府には農業と製造を任せて、

信頼が置ける星環府になった拠点は、徐々に機密製品を製造するようにして行く」


美優が胸の前で手を合わせて言った。


「そうね、とてもいい戦略ね」


ポン!


煙と共に琴葉が姿を見せた。


「琴葉ちゃん、お願いがあるの」

美優は琴葉に、組み立て工房を江陵に置く理由を説明した。

「それでね、月英と劉明に江陵で組み立て、製造できる製品の一覧を作ってもらうのと ……

組み立て工房用の建材の準備をするように伝えてもらえるかしら」


琴葉はじっと美優を見つめ考えていた。


「お母さん、一度ギュッとしてくれたら、元気が出るから嬉しいな」

「もう、琴葉ちゃんったら、甘えん坊さんね」


美優は琴葉を抱きしめ頭を撫でてあげた。


「これでいいかしら?」

「うん、じゃあ行ってくるね」


ポン!


煙を残し、笑顔でこの場を後にした琴葉だった。


(私の芳美お母様には、江陵と夏口の街作りが軌道に乗ったら沢山褒めてもらうんだ)

「ムフフフフ ――」


私はこの二人のやり取りを見て、母の芳美を思い出したが、今は不思議と甘えたいとは思わなかった。

屋上から見える、徐々に増えていく人の流れを見ながら、他に問題がないか思考を巡らせた。

この街の未来は、まだ始まったばかりだ――そんな予感が胸に灯った。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は木曜日、日曜日を予定しています。

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