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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第58話 星環機


陽が昇る前に彗星が港へと入って来た。


ボー ――


まだ、暗い明け方の大地に汽笛が鳴り響く。


港では、外灯用の灯花の灯りの下、人々がにわかに動き出していた。

浮桟橋が新たに追加設置された頃には、辺りは白みかけていた。


彗星の汽笛の音で、私たちは目を覚ました。

私は半身起こして、両手を上げて伸びをした。


その様子を見ていた紗良が私に声をかけた。

星愛ティア、今日の予定はどうなっているの?」

「今日はね、『希望のパン』の公演の準備があるから、

中心広場の測量と、その周りに作る建物の中でも劇場を作らないとね」

碧衣が頷き私に尋ねてきた。

「今日の測量は、江陵城の北東門と西中央門から中央広場への道だね」

「それと、測量した後は外用の灯花を設置していってね」

碧衣は微笑みながら頷いた。


曹英が私に尋ねてきた。

「私と紗良は劇場の建材や外用灯花の運搬の指揮で良いのかな?」

私は曹英の方に視線を移し頷いた。

「うん、劇場の組み立ては『夢咲舞踊団』がするから、荷物の運搬が中心だね」

曹英は心配そうに私に尋ねた。

「港から中央広場までは遠いけど ……

黒層鋼や多重層の壁は重いから、全ての建材を今日中に運べるかしら ……」

私は微笑みながら答えた。

「運搬用の蒸気機関式運搬機が今日の船便で届いているはずだから、それを使えばかなり捗るはずだよ」


皆が口を揃えて言った。


「何それ!」


(うわー、皆息が合っている)


「えっ、え、えっとね、私も詳しくは分からないけど ……

蒸気機関と雷式機関を組み合わせた、車輪のついた澪星みたいなものだよ」


(自分で言って何なのですが、思わず船が車輪の上に乗っている絵を想像してしまいました)


皆も、ぽかんと口を開けて私を見つめた。


「まっ、まあ …… まずは朝ご飯にしようね」


私は身支度をしながら、皆を食堂に誘った。


―――――


食堂に入ると、黄月英と水音みおんがお茶を飲みながら談笑していた。


「おはようございます、月英さんと水音さん」

私が挨拶をすると、月英がこちらに視線を移し、微笑みながら私たちを手招きした。

私たちは食事をお盆にのせ、月英が待つテーブルに座った。


「今日は蒸気機関式運搬機の説明できたのですか?」

私は卓にお盆を置き、席に座りながら月英に聞いた。

「そうよ …… 夢咲式建運機『星馳せいち』の運用について相談に来ました」


上品に微笑みながら茶をすする月英。

私は、澪星の操縦士の水音に視線を移し尋ねた。


「水音さん、夜間の無灯操船凄かったですね。

ひょっとして、星馳も水音さんが操縦するのですか?」

水音はにっこり笑い、頷いた。

「夢咲の動力付きの星環機は皆操作が統一されているのよ。

だから、しばらくの間あなた達に操作を説明しに来たの」

月英が湯飲みを置き、私たちを見ながら話を始めた。

「夢咲の星環機はこの時代には創造もできない先端を行く物なの。

だから、操作する物は信用をおけるものだけに限られる ……

簡単に言えば、自分の墓に持って入れる覚悟がある者だけなのよ」


その言葉に、食堂の空気が一瞬静まり返った。


「えっ、でも初代五華や麓沙さん、孫尚香さん、貂蝉さんはどうなんですか?」

私の質問に月英はしばらく考え、ゆっくり答えた。

「彼女たちは人の子ではない人なの。

だから、星環機のような物を必要としない方たちなのよ …… 

もちろん、気まぐれで、操作したいということであれば説明はしますよ」


ここで、月英はゆっくり茶をすすり、私たちを真剣な瞳で見つめ話した。


「星環機はね、神に選ばれし人の子だけが操縦できる物なの。

それは神が創りし、千年以上先を行く最先端技術 ……

とでも言っておこうかしら」


にっこり笑い、さらに月英は話を続けた。


「今ね、零星や彗星、そしてこの星馳、小さい物だと印刷機まで ……

沢山の最先端技術が稼働していて、正直、操縦士が足りないの。

そして、これから先、夢咲の活動が広がれば広がるほど、操縦士が必要になる。

だから、あなた達にも星環機の操作を覚えてもらいたいというのが本音ね」


私たちは月英の言葉の重みを噛みしめ、ゆっくりと頷いた。

そして私の胸の奥に、まだ見ぬ責任の重さが静かに灯った


―――――


朝食後、私たちは月英と一緒に、新たに設置された浮桟橋の上にいた。

そこには黒い布で覆われた、大きな四角い箱のような物が二つ並んでいた。


月英が合図をすると、月英直属の侍女が黒い布を降ろした。

二台とも光を反射しない黒と深い緑の塗装。

朝の陽を浴びても、まるで影のように周囲に溶け込んでいた

威圧感のある箱型の一台には大型の玉筒が装備されていた。

もう一台は、大きな腕のような物を装備した台車のような星環機が並んでいた。


「水音さん、操作をお願いしていいかしら?」

「はい」と返事をし、大きい方の星環機のドアを開けて乗り込む水音。


グォン ! ドッ、ドッ、ドッ ――


大きな音とともに、オリーブチップが焼ける匂いが漂った。


私たちは船とは違う、動力機関の音に驚き、

港で作業をする者たちも、聞き慣れないその音に皆こちらを振り向いた。


大きな音がした後、規則正しい駆動音が続いていた。


月英が合図をすると、威圧感のある星環機がゆっくり移動をした。


ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ ――


黒層鋼の左右の帯のキャタピラがゆっくり回転をして、前進を始めた。

そして、台車のような星環機の前で停車した。


月英の侍女が駆け寄り、両方の星環機に装備されている、黒層鋼の輪を連結した。


ガチャン ――


連結音に再び振り向く、港で作業をする人々。


侍女たちは水音が操作する星環機に乗車し、私たちは月英と一緒に台車の方に乗った。


ゆっくり、動き出す星環機。

地面がわずかに震え、浮桟橋の端に波紋が広がった

大地の上を帯の輪が回転する振動が伝わってきた。


(馬や、馬車よりは振動は少ないけど音が大きいわね)


星環機が今日届いた積み荷の山の前で停車した。


私たちを見て月英が言った。

「これが、陸上防衛星環機 『星馳』」


私は月英に質問した。

「陸上の流星のような位置づけですか?」

月英はニヤリと笑い、私を見つめた。

「そうね、星愛は良い表現をするわね。

天井には3連式の大型玉筒、左右には2連式の玉筒を2基ずつ ……

そして、軽量黒層鋼の筐体、駆動は小型蒸気機関と雷式補助機関。

ここまでは一緒よね、他に何か感じない?」


紗良が手を上げて答えた。

「流星と違うのは、見た目で言うと ……

黒層鋼の帯の輪で大地を駆りながら前進することと、

けん引している台車の大きな腕のようなものと、

この遮光塗装だと思います」


月英は嬉しそうに微笑んだ。

「そう、この遮光塗装は劉明の考案よ。

これなら、見つかりにくいから、今後の星環機には採用しようと思っています ……

他にはないかなあ?」


再び紗良が答えた。


「この蒸気機関、蒸気機関とは少し違う気がします。

だって、オリーブチップの匂いが強いし、直接引火させ駆動している …… 

だから爆発音のような音が、連続的に聞こえるのかな?」


月英はニンマリ笑い、紗良の頭を撫でた。

楓草畑の情景を思い出し、ほのかに朱色に変化する紗良の頬。


「さすが、華蓮様が目を置く紗良ちゃんね …… 

あなたも、華蓮様の聖女にならない?」


後ろに下がる紗良と月英の間に、私と曹英が手を広げ立ちはだかった。


「ダメです!!」


「そう、残念ですね」

月英は本当に残念そうな顔をした。


(紗良、星環機には本当に詳しくなっているわね)


技術の核心に触れるなんて……少し誇らしい気持ちになり、

私は、意外な面で紗良が成長していることに驚かされた。


「さて、まずは劇場用の建材を積みましょうか ……

危ないから、皆さんは私の後ろに下がって」

月英はそう言うと、私たちが下がるのを確認してから、操縦桿を操作し始めた。


カタ、カタ、カタ ――


カラ、カラ、カラ ――


ゆっくりと折れた腕が伸びて、鎖につながれた鉤爪を積み荷に下ろした。

下で待っていた作業員が積み荷の縄に鉤爪を引っかけた。


作業員が手を振るのを確認し、月英が操縦桿を操作した。

鉤爪が積み荷を持ち上げると、台車全体がわずかに沈み込んだ。

緊張の余韻が冷めぬうちに、積み荷を台車に乗せ終えた。


「一度に全部は無理ね」

月英はそう呟き、載せられる積み荷を台車に乗せて私に視線を移した。


「星愛は府長としての仕事があるから、残って指揮を取ってね。

他の皆は、私たちと一緒に来て星馳の操縦を覚えてくださいね」


(あー、私も操縦覚えたいなあ …… でも、私がいなくなるのは問題よね)


私は少し残念な表情で皆を見てから、台車から降りた。


月英が合図すると、ゆっくりと前進を始める星馳。

その後ろ姿に手を振りながら、星馳を見送った。

背中を見送りながら、胸の奥に小さな羨望が灯った


そして、澪星の甲板にある指令用の卓に目を移すと、美優が優しく手を振り微笑んでいた。

私も微笑み美優に手を振り、美優の待つ甲板に歩いていった。


私を見ると美優が優しく声をかけた。

「本当は、星愛ちゃんも一緒に行きたかったのでしょ?

あんな、おもちゃ見せられたら人の子なら、触りたくてうずうずするわよね」


私は思わず美優の胸に顔を埋めて言った。

「そんなことありません、美優様」


美優は私の頭を優しく撫でながら呟いた。

「さあ、小さな夢咲星環府長さんの仕事を始めましょう」

私は美優の優しい瞳を見て、頷いた。

気持ちを切り替え椅子に腰を下ろして、地図を見た。


「今日は何をする予定かしら?」

美優が尋ねてきたので、私は筆を執り地図に印を入れていった。


「まずは、中央広場沿いに夢咲舞踊団の劇場を作ります」

赤く地図に丸印を入れた。

「それと、江陵城正門と北西門から中央広場の道となる場所に外灯用の灯花を配置していきます」

私はゆっくり道の左右に赤い点を入れていった。


赤い丸と点が、白地図の上に新しい街の骨格を描き出していった。


「劇場の組み立ては夢咲舞踊団が、測量と灯花の配置は紗良、碧衣、曹英、琴葉が指揮を取ります」

私が美優の瞳を見ながら伝えると美優が頷いた。

「そして、紗良たち四人は星環機の操縦も覚える予定です」

「良いわね、では私も劇場が気になるからそちらにいかせてもらいますね」

美優が微笑みながら私に言った。

「はい、後の指揮は私に任せてください」

「日に日に、星愛ちゃんは成長しているわね …… では、後は任せますね」

そう言い残して美優は席を立ち、馬車で劇場へと向かっていった。


―――――


最初に報告があったのは一刻(二時間)後だった。


ポン!


琴葉が私の前に姿を現し報告した。

「いま、劇場用の建材を全て運び終わったよ。

みんな真剣に星環機の操作に取り組んでいるけど、結構難しいみたい」


私は少し羨ましく思えたが、気を取り直して琴葉に尋ねた。

「琴葉はもう操作したの?」

「まだだよ、今は碧衣が操作の練習をしているところ」

「結構大変なのね …… 碧衣は操作を憶えたのかしら?」

「それがね、まっ直ぐの運転はできるようになって、今は曲がる操作を覚えているところなの」

「あら、意外と難しいのね …… 

でも、この後は測量をしながら外灯を設置していくのでしょ?」

「うん、外灯を設置している間は紗良が星馳を操作して、曹英が台車の起重機の操作を覚えるんだって」


(紗良はすぐ覚えられそうだけど …… 曹英は機械物が苦手そうだし、負けず嫌いな性格で、きっと悔しさで唇を噛みしめながら、それでも諦めずに…泣きながら覚えていそうな気がする)


私は少し心配になった。


「ところで琴葉は操縦を覚えなくていいの?」

「えっ、私は楽しそうだしやってみたいけど、情報屋さんの仕事があるから断ったよ」

あっけらかんと言う琴葉の言葉に、励まされた気がした。

「そうね、私もしっかり自分の役割をこなさないといけないね ……

曹英に、あまり根を詰めないように伝えてくれるかな?」

「うん、伝えておくよ!じゃあ、紗良たちの所に戻るね」


ポン!


琴葉が残した煙を見て、劇場の方へ視線を向けた。

遠くからも分かる大きさの建物で、もう壁を組み立てる工事に入っていた。


そしてこちらに向かって、土煙を上げながら走ってくる星馳が視界に入った。


◇◆◆ 夕方の澪星の甲板 ◆◆◇


卓の上の地図は、全て予定を終えた印が入っていた。

私は地図を見ながら明日の予定を考えていると、皆が仕事を終え甲板に帰ってきた。


「星愛!全部の仕事を終えてきたよ」

自信に満ちた紗良が元気に声をかけてきた。

その横には、少し目を腫らした曹英が腕を組んで立っていた。


(あらら、やっぱり泣いちゃったのね …… )


私は曹英に近づき黙って手を握り、夢咲の地を眺めた。

皆の視線も夢咲の地に移った。


江陵の城門から夢咲の地の中央広場に向かって伸びる道に沿って、綺麗に並んで灯る花灯。

城門からは花灯の灯りに誘われ、江陵の人々の人影が見えた。

そして、視線を右に向けると、巨大な劇場が目に入る。


(こんな工事をわずか二日で終わらせるなんて …… )


「美しいね …… 設計から物作り、そして組み立てまで ……

全部、夢咲の人々で作ったんだよ」


西の空は茜色から群青へと変わり、灯花の光が一層際立っていった。


私が曹英の手を握り、うっとり街に見とれていると、曹英の手に力が入り笑顔になった。

その笑顔は、悔しさと達成感が入り混じった笑顔だった。

紗良が反対の手を握り、琴葉が曹英の手を、碧衣が紗良の手を握り、

互いの手の温もりが、今日の努力を確かに感じさせた。


陽が沈むまで、皆で美しい灯花の灯りと白い劇場、港、倉庫を黙って見つめていた。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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