第57話 港作り
江陵に拠点を作るにあたって、まずは港を作る必要があった。
当初の計画では、碧衣が銀の鉄扇を使って、地形を変化させ港を作る予定だった。
この方法だと碧衣がいないと港は作れないことになるので、浮桟橋式の港を作ることに変更になった。
私が紗良に話しかけた。
「でも良かったね、洞庭湖用の浮桟橋を製造しているから、停泊用の桟橋は直ぐに作れそうだね」 「うん、澪星だったら三橋あれば足りるしね」
「でも、澪星で二橋しか曳航できないのよね」
私が不満な顔をすると、紗良が微笑みながら言った。
「荷物の積み下ろしをする浮桟橋だからね、それなりの大きさになるよ ……
たしか幅五間(約9m)、長さ二十二間(約20m)だからね」
「まあ、仕方ないか …… 」
曹英が私たちを見つけて、近寄ってきた。
「紗良、抜け駆けはしてないわよね」
「抜け駆けって …… 星愛とおしゃべりしていただけだよ」
湖の風が心地よく吹き抜け、私たちの間を吹き抜けた。
「まあ、そうね …… 紗良は抜け駆けなんてしない性格だよね」
私は二人のやり取りを無視して、澪星が動くのを待っていた。
ボー ――
澪星が出発の汽笛を鳴らすと、それに答えるように彗星と流星が汽笛を鳴らした。
ボー ――
ポー ――
私が湖を見ながら呟いた。
「やっと、私たちの計画が動きだしたね」
紗良が私の左に、曹英が私の右に並んで頷いた。
「あっ、いた …… あおいー!!星愛たちここにいたよ」
大きな声を出す琴葉。
直ぐに碧衣もやって来て、五人で湖の風を感じた。
今回は江陵に、澪星と彗星が浮桟橋を二橋ずつ曳航して、
流星は曳航される浮桟橋の方向を直す曳航船として参加していた。
琴葉が指をさして大声を出した。
「ほらほら、造船所が見えてきたよ ……
私たちが引っ張っていくのは、真ん中に荷物がたくさん置いてある、
あの浮桟橋なのかな?」
私は頷いて答えた。
「そうよ、少しでも多く荷物を運びたいでしょ? ……
そうだね、盗賊の目にとまりやすい船団になっちゃったね」
私が言うと碧衣が頷き話を続けた。
「今回は浮桟橋を引っ張っていくから、速度も上がらないのよね ……
「うん、でも玉筒を各船に5本ずつ積んだから大丈夫だよ」
碧衣も納得したのか、私を見て頷いた。
ボー!! ――
到着を知らせる汽笛が私たちの会話を遮った。
船の後方から二本の極太の楓綱と黒と黄の縞模様の線が浮桟橋に投げられる。
浮桟橋で待っていた衛女三人が作業を始めた。
横置きにされた樽に楓綱を通し、樽を次々水面に落としていった。
黒と黄の線を雷式機関の線と接続し、赤いレバーを引いた。
ウィー ――
浮桟橋に固定された携行雷式機関が回転しロープを巻き上げていく。
黒色の太い黒層鋼の鎖が水面下から見え、樽が澪星と浮桟橋の間に浮いた。
桟橋の衛女が雷式機関の線を抜いて手を振り、澪星が巻き上げた線。
ボッ、ボー!! ――
ボッ、ボー!! ――
ポッ、ポー!! ――
出発を知らせる三艘の船の汽笛が洞庭湖の湖面に波を作り、
ゆっくりと動きだした。
琴葉が私に聞いた。
「いま、お昼だけど、江陵に着くのはどれくらいなの?」
私は風に揺れる髪をさえながら答えた。
「そうね、大体半日以上はかかるわね」
「えー、そんなにかかるんだあ ……」
「大きな浮桟橋を曳航しているからね、普通の船と同じくらいの船速しか出せないのよ」
私たちは初夏の光に反射する湖面を見つめ、
新たな街作りに心を躍らせていた。
◇◆◆ 江陵の西北の門の河辺 ◆◆◇
ボー ――
ボー ――
ボー ――
寝床まで聞こえてくる三艘の船の汽笛で目を覚ました。
半身を起こし、目を擦りながら周りを見ると、皆も目を覚ましたようだった。
私は両手を挙げ、伸びをしながら隣の紗良に聞いた。
「到着したみたいね …… 今の刻はどのくらいかしら?」
紗良も伸びをしながら答えた。
「たぶん、鶏鳴(午前2時頃)くらいじゃないのかな」
「ちょっと、甲板に出てくるね」
私が言うと、私も、と皆がいい、羽織るものを持って甲板へ向かった。
琴葉は転がり起きながら、「おいていかないでー!」と言いながら、
私たちの後を追ってきた。
―――
私たちは甲板に出てきた。
天空には星が雲のように広がり、
天の川がより際立って存在をアピールしていた。
初夏と言えども、まだ風が少し冷たい。
羽織り物が風に煽られないよう、手で押さえ、周りを見る。
東側には江陵の城壁が影となり薄っすらと見え、
南側には広がる大地と、碧衣の作った稜堡が立ちはだかっていた。
そして長江が北側から西側へと曲がり流れていた。
「ここに、私たちの街を作るんだね」
私がぽつりとつぶやくと、紗良が私に寄り添い答えた。
「うん、明日から忙しくなるね ……
これから毎日、洞庭湖と沙市から荷物が送られてくるね」
江陵と洞庭湖の距離はおよそ三十里(約120㎞)。
浮桟橋を曳航していると半日かかるが、曳航していないと一刻半(三時間)。
毎朝、貨物を降ろし、それを使って街を築いていく予定。
「来週からは、彗星二号船が就航するからますます忙しくなるね」
私が呟くと、今度は右にいた曹英が寄り添い答えた。
「夢咲だけの人員じゃ足りないわね ……
江陵からの人材集めも頑張らないとね」
紗良と曹英の温もりを感じながら、私は頷いた。
皆が静かに江陵の暗い大地を見つめ、それぞれの街を想像しているようだった。
―― 翌朝 ――
私たちは朝食を済ませ、甲板に出た。
日の出とともに、浮桟橋の設置工事は行われ、
四橋目の浮桟橋を流星が位置を調整しながら押し込んでいた。
「いよいよ始まるね」
ボー ――
彗星が汽笛を鳴らし、できたばかりの浮桟橋に接岸した。
彗星は補給船として設計されていて、
後部に大きな扉がついていてそこが開かれた。
続々と、夢咲府民が降りてきて、積み荷を降ろしていった。
あっという間に、浮桟橋は荷物の山となった。
やがて、後部の扉が閉められた。
ボー ――
再び、洞庭湖へと向かい、出航する彗星。
ボー ――
それを見送るかのように澪星が汽笛を鳴らし、浮桟橋に接岸した。
私たちは下船して、目の前にある要塞の態をなした稜堡を見上げた。
「碧衣、先ずはこれを元に戻さないとね」
琴葉が少し残念そうな顔をした。
「えー、戻しちゃうんですかぁ ……」
碧衣が微笑み、銀の鉄扇を開き指先を動かしながら言った。
「これからは、府民のための街づくりをしないとね」
巨大な稜堡は、大地へと吸収されるように消えていった。
私たちは改めて、広大な土地を見た。
ふと、江陵城の城門に目を移すと、緑の狼煙が上がっていた。
(前に来た時には城主の周靖が、対応が遅いと劉琦に叱られていたわね ……
今回は良い対応している。
直に周靖が来るけど、対応は美優様にませるとして ……)
私は澪星の方に目を移すと、積み荷を降ろし終え、
百人以上の府民が整列して私たちを待っていた。
―――――――
私は用意された台に乗り、皆を見渡した。
皆、希望に満ちた良い顔をしていた。
私の左横には紗良、曹英、碧衣、琴葉が並び、
右横には麓沙、貂蝉、孫尚香が並んだ。
そして、甲板の中央に目を移すと、従者を横に立たせ、
脚を組んでティーカップを持ち微笑みながら、手を振る美優がいた。
(美優様、完全に私たちに街づくりを任せるつもりね)
私は再び、整列している府民に目を向け演説を始めた。
「皆さん、これから夢咲の第一歩が始まります」
風が静まり、皆の視線が私に集まった。空気が張り詰めるようだった。
「この、江陵の地は重要な意味を持ちます。
それは、洞庭湖と同様の府民を抱える大きな街にする予定です。
この街作りを夢咲の理想の体現とし、諸国に示したいと思います。
どうか、皆さんの力をお貸しください」
私の演説が終わると、拍手が巻き起こった。
拍手は広がり、波のように岸辺まで響いた。
この時、私は必ず江陵の街作りを成功させるんだと誓いを立て、
胸の奥に灯った決意は、誰にも揺るがせないものだった。
―――――――
演説の後、直ぐに街作りの工事が始まった。
今日は新しい街の測量と、外灯用の灯花の設置。
そして、埠頭に倉庫を設置する工事をした。
私は、澪星の甲板に戻り、美優の席の隣の席に座った。
卓には地図が広げられ、工事予定の場所に印が入っていた。
美優は食堂へ出向き、江陵城主 周靖の対応をしていた。
目の前の、紗良と曹英が指揮を取る倉庫の設置工事の様子に目を移した。
私たちの建物は作るのは簡単で、
断面が『エ』の字の形状をした、黒層鋼に多重構造の板をはめ込むだけで完成する。
今は基礎となる、黒層鋼を埋めるための穴を掘っていた。
コト、コト、コト
(上品な香りに乗って聞こえる足音…多分、美優様ね)
思った通り、後ろから美優が声をかけてきた。
「星愛も大変ね、突然夢咲星環府の府長になって」
「いえ、まだ仮なので …… 表向きは妃良様が府長です」
ギー ――
従者が美優の椅子に座り、美優が腰を下ろした。
「星愛は動きたいと思って、じっとしていられないかと思っていたけど、
しっかり、見守っているわね ……
竈の火を家の中心で見守っているヘスティアを思い出させるわ」
「ヘスティア様 …… ギリシャの神様ですね」
「そおね、彼女はいつもこうやって、家の安寧、国の安寧を見守っていたのよ」
「美優様、まるでヘスティア様を見てきたような口ぶりですけど ……」
ウフフと笑い、私の質問には答えなかった。
「人の長に立つものは、動いては駄目よ ……
動いたら、皆が方向を見失い混乱する時が来るからね」
私は、美優の瞳を見て静かに頷いた。
(動かないことの大切さ ……
私、竈の炎を見守り、みんなの話を聞いて過ごすが好きだったな)
ぽん ――
煙と共に琴葉が現れた。
「北東の角の測量を終えて、灯花塔を立て終えたよ」
地図を指さしながら報告した。
私は指さしたところに印を入れて、琴葉に声をかけた。
「碧衣の組は順調に進んでいるみたいね」
私は北東を見てみると、灯花塔が霞んで見えた。
じゃあ、また碧衣の所に戻るね。
煙と共に、琴葉は消えて碧衣の所に戻って行った。
遠くで槌音が響き、土の匂いが漂った。
―――――――
もう陽が傾きだしたころ、最後の報告がきた。
ぽん ――
煙とともに現れた、琴葉。
「北西の角の灯花塔が設置できたよ」
といい、地図に印を自ら入れた。
そして、手を振りながら甲板に上がってきた紗良と曹英。
紗良が笑顔で報告した。
「第一倉庫が完成したよ」
曹英も続いていった。
「倉庫の周りも外灯用の灯花の設置が終わりました」
やがて、土煙と共に馬の蹄の音が近づいてきて、一人の少女が甲板に駆けけ上がってきた。
「夢咲五環府の敷地の四隅の灯花塔の設置と、人員の配置も終わったよ」
碧衣の報告を最後に、今日の目標が無事終了した。
日が暮れた台地には、灯花塔の明かりが遠くに見え、
倉庫の周りは明るく灯花の灯で照らされていた。
風に乗って、灯花からの花の香りが漂ってきた。
ふと、洞庭湖を思い出し、今は少ない灯りだけど灯花の明かりが溢れる街を想像して、
思わず微笑んだ。
「みんな、今日はお疲れ様。
先に一緒にお風呂に入って、それから夕飯にしようか?」
私が皆に聞くと、笑顔で「さんせい」と答えが返ってきた。
明日の劇場作りや、商いの街作りに胸を膨らませ、
私たちは浴室へと足を運んでいった。
空に現れた星々が、私たちの街を祝福しているように輝きだした。
その光は、これから築く街の未来を静かに照らしていた。
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