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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第54話 鬼女再び


水先案内人の澄波すみはは地図の上の船を動かし、

「次は右への蛇行ね」と呟いた。


「右への蛇行、警戒準備!」

張りのある声が、操舵室に響く。


孫尚香そんしょうこうが操舵室と伝令室をつなぐ真鍮の伝声管に叫んだ。

「右への蛇行、警戒準備!」


伝令室には、金属音に似た尚香の声が届く。


伝令が受け持ちの場所に走り、声を張り上げる。


「右への蛇行、警戒準備!」


各部屋から、聞こえた伝令の声を反復した。


私たちも大きな声で叫んだ。

「右への蛇行、警戒準備!」


「反対の壁に走って!」と、紗良が叫ぶ。


私たち三人は一斉に右の壁へと走った。

因みに琴葉は、蜘蛛になり私の肩に乗っていた。


私と曹英が両手でしっかり手すりを掴み、

紗良が私たちを包み込むように両手で手すりを掴んだ。

紗良の心臓の鼓動が、曹英の呼吸が私に届いた。


私は自分の緊張を解すため声を張り上げた。

「みんな、高速のまま曲がるみたいだから、

しっかり手すりにつかまって!」

真っ暗な船室の中、触れ合う身体で皆が頷くのがわかった。


操舵室では碧衣を抱え、反対の台に移動した澄波が数を数えていた。


「十、九、八、七」 碧衣がごくりと生唾を飲み込んだ。

「三、二、一」



澄波が叫んだ。

「推進花伝動切断!続き、右六十」

水音みおんが続く。

推進花スクリュー伝動切断!続き、右六十」

水音が伝動を切断する緑のレバーを手前に引き、

続いて舵を右に六十度切った。


惰性で前に進む船体が右に傾いた。


ギ、ギ、ギ、ギーーー!


澪星が軋む音が船内に鳴り響いた。

私たちは固唾を飲んで、収まるのを待つことしかできなかった。


「推進花伝動百、続き、左十」と叫ぶ澄波。


「推進花伝動百、続き、左十」と答えた水音。


澪星が体勢を立て直し、推進花が高回転で回転する。


クォーーーーーッ!


澪星が軋んだ船体を戻す音と共に、船尾を振り前進を始めた。


「左二!」と叫んで、澄波が肩の力を抜いた。


その時、見張り台の伝声管が割れた声を発した。


「第三蛇行に灯り確認!ネズミを捉えた!!」


澄波がニヤリと笑った。

「ネズミの尻尾を捕まえたわよ」

華蓮も続いた。

「ウフフフフ …… いいわね、いいわね、いいわね」

暗い操舵室で、赤い瞳を光らせた。




船が体勢を立て直したところで、私が皆に言った。

「次は左ね、窓際に急ぎましょう」

皆が頷き窓際へと移動していった。


真っ暗な船室、外を見ても黒い水面、その先は何も見えなかった。

感じるのは、紗良と曹英の息づかいだけだった。


静寂を破るかのように伝令の声が廊下に響く。


「左への蛇行、警戒準備!」


そして各部屋からの大きな声。


「左への蛇行、警戒準備!」


私たちも大きな声で「左への蛇行、警戒準備!」


他の部屋からの声を聞いて、皆が無事と気付き、私はホッとした。

そんなことを思っていると、急に船体が悲鳴を上げて傾いた。


ギ、ギギィーーーーーーィ!!


曹英が声を上げた。

「み、水よ!」


窓が完全に水面に触れたまま、船は走っていた。


クォーーーーーッ!


船体が体勢を立て直し、船尾を振り、再び前進を開始した。




操舵室では見張り台からの伝声管が割れた声で叫んだ。


「ネズミを全て捕捉、距離半里(2Km)!!」


華蓮が、見張り台の伝声管に駆け寄った。

「ネズミが蛇行して消えたら教えなさい!」


伝声管から、「了解!」と一言返事が返ってきた。


華蓮が舌なめずりをし、怪しく微笑む。

「フフフフフ ……

夏口で忘れた黒い魂三つ、断絶しますわよ」

大鎌を担ぎ、伝声管の前で声を待つ華蓮。


その様子を見て、華蓮を見慣れない水音と澄波は呆気にとられた。


暫くすると見張り台の伝声管が割れた声で伝えた。


「ネズミの船団、右への蛇行完了!」


尚香が華蓮を見て頷いた。

「華蓮様、ネズミどもの翻弄をお願いします」

「フフ …… 任されたわよ」


大鎌を担いだ華蓮が甲板へと走り出した。


甲板に出るや、刹那 ――


ダンッ!!


甲板を強くけり、高く飛び上がり、風を切りながら下を見る華蓮。


「あらあら、皆さん仲良く並んで ……

ネズミというよりは、まるで鴨ね。黒い魂はあそこと、あそこ、待ってなさい」


蔡瑁が乗る船に狙いを定め、身体を丸めて落下体勢に入った。

両手両足を大きく広げ、蔡瑁の船に向かって落下していく。


バタ バタ バタ ―— 


黒のぼろ衣装と長い黒髪が風になびく、大鎌を手に持って、

見る見るうちに蔡瑁の船が大きくなっていく。


ダン!!


船が大きく揺れ、眠っていた蔡瑁が目をこすり身体を起こした。

目の前には、黒のぼろを纏い、大鎌を持つ華蓮が立っていた。


華蓮は蔡瑁の顔を覗き込んで言った。

「見つけたわよ、さいぼう・くん」


「ひっ、ひぃー!!」

蔡瑁は腰を抜かし後ずさりした。


他の眠っていた兵士も目を覚まし、慌てて剣を構える。


「あらー、か弱き乙女に剣を向けるなんて無粋な兵士さん」


蔡瑁が震える声で華蓮に怒鳴る。

「なな、何者じゃ?」

華蓮は口に手をやり、クスクス笑いながら答えた。

「あなたに教える名前なんてないわよ ――

それとも、私に惚れたのかしら?」


蔡瑁は徐々に平常心を取り戻してきた。

「うぬが、黙っておれば調子に乗りおって!!」


その時、一人の兵士が華蓮に切り込んできた。


「この、鬼女がーーー!」


蔡瑁を睨んだまま、後ろに目があるかのように大鎌を後方に構え、

切っ先を切り込んできた兵士の喉元に向けた。


「ひ、ひぃー」

剣を落とし、へたり込む兵士。


「あらあら、乙女に剣を向けてへたり込むなんて、なんて無礼な兵士さんだこと」



周りの船も蔡瑁の船に、異常を感じたのか、船を寄せてきた。


「あらあら、私から行かなくても寄って来たわね…… 

なんて、心がお優しい方たちなのかしら」


華蓮が蔡瑁の奥、川の蛇行部を見ると大きな影が現れた。


「フフフ、頃合いね」

華蓮は呟き、舌なめずりをし、怪しく微笑んだ。


ダン!!


再び高い跳躍をした。

この時、髪の毛三本がまっ直ぐに伸び、銀色に輝く。

そして華蓮が睨んだ三人の兵士に向かって飛んでいった。

シュッ ――

銀糸が突き刺さった当の兵士は平静を保ったままだった。


ドン!!


華蓮は張允の後ろに降り立ち、大鎌の切っ先を喉元に当てる。


「動くと首が飛ぶわよ」


「ひぃ」

張允は動けず立ちすくんだ。

「あなたー、張允でしょ ……

まあまあ、腹黒い魂ですわね。将来有望よ」


澪星はもうすぐそばまで迫っていた。


華蓮は上流方向に自分の持っていた大鎌を投げた。

どの兵士も大鎌を目で追っていった。

そして、回転しながら水面に音を立てて落下した。


華蓮が指を鳴らす。


パチン!


刹那、三人の兵士が大きな声でもがき苦しみだした。

目は真っ赤に充血し、首の欠陥が紫色に浮き出て、歯を打ち付けていた。


張允は丸腰の華蓮を討つなら今とばかり、自分の剣に手をかけようとした。

「えっ」

あるはずの剣がない …… 

見ると張允の剣を持ち、その剣で自分の肩を叩いている華蓮がいた。


「うぬがーーー!!」


「おやおや、あなたの周りを見なさい。

もがき苦しんでいる兵士さんが三人もいますわよ ……

あれー、これって呪いというやつかしら」


「ひっ、ひー」

再び腰を抜かす張允。


「ウフフフフ

人の子って面白いわねー ――

この剣で叩かれると、もがき苦しむことになるわよー」


華蓮は澪星とは反対に視線が移るように、兵士の尻を張允の剣の腹で叩き回っていた。


叩かれた兵士は一様に叫び声をあげうずくまっていた。

「ギャー、死にたくない、助けて―」


(ホント、人の子は単純ね …… 面白いわー、ホント面白いわ)


パチン


華蓮が指を鳴らすと、華蓮の糸で苦しんでいた兵士が煙となって消えた。

そして、人々の記憶からも消えた。

そう、完全に輪廻転生の輪を断絶されたのだった。


(さあ、そろそろ仕上げね)


ビュン! ――― ブスッ!


最後列の張允の船に支援が集まった。

見ると、張允の剣が、股間を貫くように半ばまで突き刺さっていた。


「ウフフ …… その剣を抜けた者は勇者になれるかしら。

神様が言うことは正しいのよ」


ダン!!


船を揺らし澪星に向けて大きく跳躍した華蓮が、夜空に消えていった。




◆澪星では ◆


時間を遡り、四つ目の蛇行を抜けて体勢を立て直した澪星。


操舵室からも荊州水軍の船団がはっきりと見えた。


澄波が地図の白い線を確認し、指示を出した。

「左5」

「左5、良」と、水音が答えた。

「原点戻せ」と澄波が言うと、「原点良し」と水音が答えた。



澄波がこの作戦最後の指令を出した。

「下からの衝撃に備えよ」


尚香が頷き、伝令の伝声管に命令を出した。

「下からの衝撃に備えよ」


伝令が自分の持ち場に走り大声で叫んだ。

「下からの衝撃に備えよ」


私たちも自分の部屋で叫んだ。

「下からの衝撃に備えよ」


私たちは、一斉に寝床で四つん這いの姿勢を取った。

琴葉が呟いた。

「皆さん、蜘蛛みたいですねー」

ただ、今の私たちには琴葉の冗談に答える余裕はなかった。


私たちは、寝床からじっと窓の外を見ていた。

すると、窓に明かりが移り、何やら動き回っている兵士の姿が見えた。

そして、すぐに通過し何も見えなくなった。


「やったね、これで一安心かな」

私が微笑みながら言うと、皆も微笑んだ。

紗良が、「まだ、姿勢解除の命令がないから安心できないよ」

と言った時に船底から音がしてきた。


ゴト ――、ゴトゴト ――、シャー ――、カラカラ ――、キン ――


様々な音がして、時々大きな音も聞こえてきた。


ガン ――、シャー ――、ガン ―― 、カーン ――


大きな音がした時は驚いたが、やがて静かになり最後の命令がきた。


「衝撃姿勢解除」


そして、ゆっくり船は蛇行していった。


ドン!!


突然、天井から大きな音がした。

そしてお互い笑い合いながら、口を揃えていった。


「華蓮様のご帰還だね」


そして、無灯航行も解除された。


碧衣から後から聞いた話だと、浅い部分を通過した時に、

大きな岩などが船底に当たった音、とのことだった。


船底は黒層鋼で守られているから、問題は何もないとのことだった。


やがて、東の空が白みかけ、遠くに襄陽の城壁が見えてきた。

川面が反射し、朝の冷気が心地よく感じられた。


私が呟いた。

「澪もこの船でくれば、早く襄陽に帰れたね」

曹英は首を振り答えた。

「澪が乗っていたら、華蓮は乗らなかった」

紗良が頷く。

「今回の作戦とは、全然違うものになっていただろうね」


私は人の関係性の複雑さと、

夢咲が言っている人の登用についての疑問が重なり、

五華の顔が思い浮かび不安を感じた。


まずは、四人に話してみようかと考えた。


新たな交渉の始まりを感じた朝となった。




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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