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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第53話 追うもの


蒸気機関が唸りを上げた。

音と振動が船を包んだ。


黒層鋼製の推進花スクリューが勢いよく回転を始めた。

ゆっくり動き出す澪星。


徐々に、夏口の城が闇にのまれていった。


前方灯花が漢河の水面を映し出した。


私たちは甲板に残り、風を感じながら星を眺めていた。


私が皆に質問した。

「どうして、荊州水軍の前に出て、

先に張飛と趙雲を襄陽に送る必要があるのかな?」

曹英が同意するように頷いた。

「別に、暗い川での航行なんてする必要ないと思うな」

紗良が腕を組み答えた。

「きっとね、蔡瑁派は劉琦に夏口太守になるように誰が言ったのか、

そして、襄陽からの脱出行の手引きをした人物を血眼になって、

探していると思う」

私は納得したように話した。

「確かに、蔡瑁より先に襄陽にいないと疑われるわね」

曹英も頷いた。

「それに、この特徴がある船を見られると、

夢咲が手引きしたと言うわね」


コト、コト、コト


足跡が私たちの所に来て、立ち止まった。

見上げると孫尚香が立っていた。


「これから、照明を落としての航行になるから、

揺れるかもしれないので気を付けて ――

それと、碧衣は私と一緒に操舵室に来て」


碧衣は微笑みながら頷き、尚香と一緒に操舵室へと歩いていった。


私は碧衣の背中を目で追いながら、

少し不安な表情をした。


紗良が私の表情に気付いた。

星愛ティア、なんか浮かない表情だけど……

心配事があるのかな?」


私は静かに頷き、自分の気持ちを伝えた。

「私たちって、凄いと思わない?」

曹英が頷く。

「そうね、今回の件も千人の荊州水軍を追い返し、

沙市の盗賊の本拠地の件も解決して ……」

ここまで言って、曹英も気付いた。


私は曹英の顔を見て頷いた。


「それは、紗良や碧衣、琴葉、華蓮様、澪さんとか ……

凄い人がいたから成しえたんだよね」


曹英が神妙な面持ちになった。

「拠点が拡大、拡散すればするほど ……

凄い人がいない状況が沢山出てくる。

その時どうするかが問題ね」


紗良と琴葉はその凄い人だったからか、

言われるまで気付かずにいたが、言われてハッとした表情になった。


「そして、もう一つあるの ……

今の私たちの拠点は洞庭湖と沙市に、

これから江陵と夏口の二カ所が増えるでしょ?」


紗良が頷く。

「うん、交渉もうまくいき、これから開発していくんだよね」


私は目を細めて、腕を組み伝えた。

「でも、この規模の拠点を増やしていったら、人が足りなくなる ……

技術者の育成が追いつかない、警備体制が分散するなど、

問題が山積みになると思うの」


曹英が後に続いた。

「蒸気機関、雷の技術、オリーブチップなどの戦略的な技術流出とか、

不安がたくさんあるよね」


私は曹英の目を見て、手を握った。

「確かに、不戦とは言っているけど ……

どの国も欲しがる技術よね」


(キャッ、星愛から手を握ってきた ――)


紗良が難しい顔になり頷いた。

「拠点が広がれば広がるほど、

それを守る人と武力が必要になるっていうことだね」


私は頷いた。


―――


◆操舵室 ◆


澪星を操船していたのは水音みおんだった。

夜間の航行はかなり気を使うのか、操舵室の中は張り詰めた空気を感じた。


水先案内人(航海士)の澄波すみはの声が通った。

「右十、そのまま」

「了解」

水音は少し舵を傾けた。


静かに船体が傾く。


扉が開き、尚香と碧衣が入ってきた。

尚香が、水音と澄波に声をかけた。


「碧衣を連れてきた」


水音は前方灯花が照らす水面から目を離さず、碧衣に声をかけた。

「助かるわ、碧衣ちゃん。

そろそろ荊州水軍が見えてくると思うわ ……

この船速を維持して、気付かれずに追い越したいの」


水先案内人の澄波が碧衣に声をかけた。

「この地図を見て」


碧衣と尚香が地図に目を移す。

地図の上には模型の青い船が上流に置かれ、

白い船が下流に置かれていた。

青い船と白い船の距離はおよそ、二里(8Km)の距離だった。

そして、上流に目を移すとS字に連続蛇行していた。


「あと少しで、漢水は右へ、左へ、蛇行を始める ……

川の蛇行で、抜く前と、抜いた後、直ぐに陸に視界が遮られるわ。

抜くのはここと考えているの」


碧衣は腕を組み、目を細めて頷いた。


澄波は地図と地形を確認しながら説明を続けた。


「川が曲がっている時は、外側の方が深いの ……

蛇行している川で操船するときは、

外側から外側を通るように操船するのよ」


水軍の知識のある尚香が頷き、答えた。

「荊州水軍は艦隊を組んでいるから、

間違いなく外から外を狙って、操船するわね」


澄波は目を光らせ、大胆に微笑む。

「私たちは、河の真ん中を突っ切って、最短を操船します」


水音が苦笑いを浮かべて、茶々を入れた。

「まったく、澄波は偉そうに …… 操船するのは私よ」


緊張の中に一瞬、笑いの空間が生まれたが、

直ぐに碧衣が真剣な表情で尋ねた。


「そして、真っ暗にしての航行 ……

銀の扇子で川底を見て欲しいということですか?」


水音、澄波、尚香が頷いた。

そして、尚香が気になっていることを話した。

「ただね、一瞬だけ接近する時間が出来ると思うの ……

五百人の兵士がいるからね、誰かしらこの船に気付くと思う」


「ウフフフフ …… 私に任せなさい。

あの集団の中に三つ黒い魂が残っていたから、

魂を断絶してあげるわ

そうすれば、夏口の鬼女に皆の視線が集まるでしょ」

声の主を見ると、化粧は大分落ちていたが大鎌を持った華蓮が立っていた。


碧衣はクスッと笑い華蓮に尋ねた。

「華蓮様、余程その姿が気に入ったみたいですね」


華蓮もクスッと笑い答えた。

「人形劇を楽しくするものは、私は全部好きよ」


澄波が地図を見て、伝えた。

「尚香、そろそろ、灯花の明かりを消さないと!」


尚香は頷き、操舵室と伝令室をつなぐ真鍮の伝声管に口を寄せ、短く命令を送った。

「これより、無灯航行に入る。全員安全姿勢!」


船内は伝令が走り、灯花に黒い蓋がされ、暗闇にのまれた。




◆私たちの船室 ◆


伝令の緊張した声が部屋の中まで聞こえた。


「無灯航行に入る。全員安全姿勢!」


「無灯航行に入る。全員安全姿勢!」


声はだんだん近づき、そして離れていった。


私と紗良、曹英、琴葉は顔を見合わせた。


紗良が私たちに声をかけた。

「私が灯花に蓋をするから、みんなは窓側の手すりを掴んで」


私たちは急いで窓側にある手すりを掴み、

それを見た紗良が灯花の蓋をした。


部屋が暗闇に包まれ、後ろから紗良が来て同じように手すりに摑まった。

私たちは窓に顔を寄せ、肩を寄せ合い、微かに光る川の流れを見つめた。

皆の緊張した呼吸、心臓の鼓動が感じられた。


私が呟いた。

「いよいよ始まったね。

碧衣が行ったんだから、上手くいくよね …… 」


皆が頷いたのが、密着したお互いの肩の動きで分かった。

船が川の流れを切る音と、上下に揺れる振動が船室を支配した。



◆操舵室 ◆


船の明かりは全て消え、残ったのは地図の横にある携帯灯花の明かりだけだった。


碧衣は静かに銀の鉄扇を見つめ、扇面を指でなぞっていた。

「うん、見えた」


碧衣が地図を見て、地図上の船を少しずつ動かしている澄波に伝えた。

「澄波さん、船の位置は正しいわ」


尚香が腕を組み、地図の四つ目と五つ目の蛇行を指さした。

「抜くのはここね ……

右に曲がりながら入り、左に抜けていく」


澄波が頷き、碧衣に聞いた。

「碧衣ちゃん、この蛇行部の真ん中を突っ切っても大丈夫かしら?」


碧衣は頷き、扇面の上で指を動かし、水面下の地形を見た。

「船底と川の深さの差は、小さいところで一尺(30㎝)です」


尚香と澄波は互いに顔を見つめ合い、頷いた。

そして、尚香が決断した。

「いけるわ!

澪星の船底は黒層鋼で守られている …… 

このまま石を砕く覚悟で前進するわよ!」


澄波が碧衣に声をかけた。

「碧衣ちゃん!

地図の四つ目と五つ目の蛇行で船の通り路に、

線を引いてちょうだい」


碧衣は頷き、線を引いた。


スー


筆が走る音が聞こえ、華蓮がニヤリと笑った。


「じゃあ私は四つ目の蛇行に入ると同時に飛べばいいのね ……

ウフフフフ …… 楽しくなりそうですこと」


―――


澄波は船速を船の音、波の音で判断し地図の上の船を指で動かしていた。

「そろそろ、一つ目の蛇行に入るわよ」


澄波が碧衣を抱き寄せ、碧衣を自分の前に立たせ、

両腕手のひらを広げて地図を敷いている台の上に乗せた。

そして碧衣の耳元でささやいた。

「さあ、始まるわよ …… しっかり台につかまりなさい」


真っ暗な闇の川を遡る澪星。

澄波の声が操舵室の闇を切り裂いた。


「左十五」


水音が「左十五」と言いながら左へ舵を切る。

川の流れがさらに船を傾き始める。


「右五!機関全開そのまま」


水音が「右五」といい舵を右に五度傾けた。

同時に尚香が操舵室と機関室をつなぐ真鍮の伝声管に叫んだ。

「機関全開!そのまま」


機関室に響く、尚香の声。

「機関全開!そのまま」

皮の手袋をした機関士の澄火すみかが、

50㎝はある赤いレバー、開閘杆かいこうかんを全力で押し上げた。


蒸気とオリーブチップが燃える臭いと、熱が一段と強くなった。


澄火が額に玉のような汗を腕でぬぐい、オリーブチップを鷲掴んだ。

唸りを上げる蒸気機関にさらにオリーブチップを受け口に投入した。




◆私たちの船室 ◆


私たちはいつ来るか分からない揺れに備えていた。

四人の小さな顔が寄せ合い、真剣な表情で窓の外を覗き見ていた。


ザッ、ザー …… ギィー――


波の音と船がきしむ音が、船内を、私たちの船室を包んだ。

左に大きく傾く船、水面が窓に触れた。


私たち四人は固唾をのみ、水面に触れた窓を見た。

私の背中に触れている、紗良の胸から心臓の鼓動が伝わる。

曹英は私の肩に頭をのせ、歯を食いしばる。

琴葉は私の腰にしがみついた。


ブゥウオ――――― ―――― ッ!!


全開の蒸気機関の音と、振動が船を包む。

泡をまとい、高回転で推進花が回った。


船は流されるように、船尾を振り、体勢を立て直し、

川の流れに逆らい、顔を切り裂くように前進を始めた。


私たちは窓から水面が離れ、肩の力を抜き、

お互い暗くて見えない顔を確かめるかのように顔を寄せ合った。


三つ目の蛇行先には、荊州水軍の船団が川をさかのぼっていた。

もう、澪星は荊州水軍を捉えていた。


操舵室は命令と操作音、船室は息遣いと船体のきしみが暗闇を包んでいた。




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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