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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第51話 交渉官 星愛と曹英


美優が江陵と夏口との交渉条約のお膳立てをし、

実務を私たちに任せるかのように、私と曹英を見て頷いた。


私たちは口を結び、真剣な表情を美優に向けて頷いた。

その表情を見た美優は、劉琦、周靖の方に向き直り口を開いた。


「では、交渉の内容を星愛と曹英より説明します」


私と曹英が前に出て、劉琦、周靖、張飛、趙雲に頭を下げた。


劉琦は夢咲を少しずつ理解してきたのか、

娘二人が説明すると言われても全く動じることはなかったが、

周靖は驚いた様子で片眉を吊り上げ、劉琦に話しかけた。


「まだ、娘子ですが…大丈夫ですか?」

劉琦は真剣な顔で答えた。

「大丈夫だ…すぐに分かるよ、夢咲の凄さが」


怪訝な顔で、私と曹英を見つめる周靖 ――

私と曹英は星紡ぎの呼吸で会話をした。


(ねえ、曹英……周靖って男、失礼じゃない?)

(まあまあ、落ち着いて……初対面だし、一般人は皆あんな感じよ)

(ふーん、城主なのに一般人なのね ……

曹英あなたの神経はどうなっているの?)


曹英はにっこり笑い、私を見つめた。

(曹兄の口癖が移っちゃったみたいね……

曹兄はいつも役人城主をそう言っていたの)

(まあ、いいわ ……

私から紙幣や夢咲特産品を説明するから、

曹英は私の話が終わったら書類に署名を貰ってね)


曹英は横に頭を傾けて、にっこり笑った。

(了解です…頑張ってね、星愛!)


私は深呼吸し、視線を前に向けた。これからが本番だ。

そして、気負うことなく、卓をはさんで四将の前に立った。


サッ、サッ、サッ ――


衣服の絹がすれる音と、卓に黒い木箱を置く音が食堂に響いた。


コト ――


「劉琦さんと『しゅ・う・せ・い・さん』は初めましてですね。

星愛てぃあです ――

よろしくお願いします」


私は人への転生で神核を閉じ込め、

神威も神としての記憶も何もないはずだった。

ただ、竈の神として家庭の中心、

そして政治の中心に座ることを許された、女神ヘスティアの血が騒ぐのか、

交渉ごとの場面では圧倒的な存在感が表出するのだった。


(あら、周靖が委縮しているみたいね……

こちらに聞こえる声で、娘子に任せて大丈夫かとか言うからよ。

フッフーン、なんか気持ち良いわね)


前に座る四将は恭しく頭を下げた。


曹英がすました顔で、星紡ぎの呼吸で茶化した。

(キャー、星愛ちゃん、素敵ねー!)


そして、食堂のドアの外から星紡ぎの呼吸で話す三人が何やら暴れていた。

(こらっ、曹英……抜け駆けは協定違反だぞ!)

(ちょっと、紗良!いま入っていったらまずいって)

私は碧衣が紗良の上半身を押さえる姿を想像した。

(そーです、今入ったら、お母さん(美優)に叱られます)

琴葉は腰を押さえていそうだと思った。


(はぁ、はぁ、はぁ――)

やがて、三人の息切れする呼吸が、星紡ぎの呼吸で聞こえてきた。

そして、冷静になったのか静まり返った。


私は美優と曹英を一瞬見た。

美優は袖で口元を隠し、曹英は両方の手を握り締め、

二人とも肩を震わせていた。


(あーあ、もうみんなったら …… 

せっかくの私の晴れ舞台がお笑い劇になっちゃうわよ)


そんなことを心に思いながら、箱から五種の紙幣を手に取り、

卓に並べた。


スッスー ――


衣がすれる音と、新札の香りが静寂の部屋を満たした。


完成品を見るのは張飛も趙雲も初めてだった。


「見てください、暗がりでも数字が浮かび上がる ……」

私が言い、曹英に星紡ぎの呼吸で曹英に指示を出した。

(曹英、灯花を消して)

(了解です)


食堂の照明が消えると、食堂の中は厨房から漏れる光だけになる。

そして、しん紙幣に印刷された、

『一星、十星、百星、千星、壱萬星』

の文字が青白く光り、浮かび上がった。


食堂の四人の将はその数字に見とれ、ため息が漏れた。

(うん、うん、良いわね …… 曹英、灯花を点けてちょうだい)


食堂に明るさが戻ると、五色刷りの紙幣に見入る四将の姿が見られた。

感慨深い表情になった劉琦が、壱萬星を手に取り、

楓紙の感触を確かめながら私に尋ねた。


「これが、紙幣ですか ……

この壱萬星しん紙幣に描かれている、美しい女性は誰ですか?」

私はにっこり笑い答えた。

「私たちが信仰する女神、ヘラ様です」

「他の紙幣の女性も皆、女神様なのですか ……

十星しん紙幣の女性は美優様ではないですか?」

「こちらは女神ミューズ様です、皆異国の女神なのですよ」


劉琦は納得したように頷いて話し出した。

「これだけ精巧な紙幣、しかも暗がりで数字が光る ……

誰も偽造はできますまい。

ぜひ、夢咲でなく夏口、江陵でも流通させて欲しいと思います」

私は、自分から流通させて欲しいと言った劉琦の気持ちが知りたいと思い質問した。


「劉琦さんはどうして、流通させたいと思ったのですか?」

「今流通している通貨は、偽造も多く信用されていないのです。

市場はもっぱら物々交換が主流で、物流の効率が悪い。

でも、これだけの精巧な紙幣は誰も偽造できないと思います ……

この紙幣を流通させることで、市場に活気が出ると考えたのです」


私はにっこり微笑み、頷いた。


しん紙幣がお役に立てるのであれば、とても光栄に思います」


こうして、難なく紙幣流通の交渉は成立した。


そして、紙幣の説明の後は持ってきた夢咲の品々の説明をした。

劉琦や周靖、張飛、趙雲が驚いたのはオリーブの種だった。


私は、テーブルに蝋燭のような形をしたオリーブの種を並べた。


劉琦が尋ねてきた。

「これはただの蝋燭のように見えますが、何か特別な物なのですか?」

私は、優しく微笑んで答えた。

「これは、灯花や調理器具に使う固形オリーブ油です ……

オリーブ油を精錬して作られ、屋外用灯花に使うものはこれで」

と言いながら、大型のオリーブの種を手のひらにのせて見せた。


オリーブの種は淡い黄金色で、手に持つとほのかに油の香りがした。


「これで、一度火をつければ十日は火を灯し続け――

これ一つで、竈の火の代用ができる、高火力のものです」


張飛が驚いて口を挟んだ。

「儂が知っている物よりさらに高性能になったのか?」

私は頷く。

「はい、このオリーブの種は劉明の研究の賜物です」


(本当は澪が開発したオリーブチップが最高火力を生み出すけど ……

絶対に教えられないわよね)


その後は、食品、薬、絹と楓生地、楓紙や船などの製品を紹介した。


劉琦は興奮した様子で自ら申し入れてきた。

「ぜひ、灯花、食品、薬品などの夢咲の物品を夏口、江陵に流通させたい」


(あら、本当にすんなりと決まっちゃった ……)


私はにっこり笑い頭を下げ、曹英に後を託した。

「交易などの条約は曹英より説明があります」


曹英はまずは、不戦条約書を卓に置いた。

劉琦が夏口用の条約書、周靖が江陵用の条約書を見ながら、

難しい顔で、曹英の説明を聞いた。


二人は頷き、署名し、公用印を押した。


次に交易条約の説明を曹英がし終えると、

周靖から質問があった。

「星澪郭内の市場は自由に交易を行うと言うことですが、

そうなると、税金をかけている城内の市場が不利になると思うのですが」


曹英は頷き答えた。

「安心してください、夢咲は利益を求めていません。

民の生活の安寧が基本方針です。

星澪郭を維持する費用や人件費など ……

必要な経費以外の利益は全て、隣接する城に納めます」


劉琦、周靖が驚いた表情で何かを言おうとしたところ、

張飛が手で遮った。

「もう良かろう …… 

夢咲は民の安寧を、城に収める利益で買うと思えばよいであろう」

趙雲も頷く。


二人は顔を見合わせながらも、これ以上は言わない方が良いと考え、

条約書に署名し公用印を押した。


『希望のパン』の公演許可の交渉もでは、

孫尚香や貂蝉の名前を聞いて、歓迎する表情を劉琦も周靖も見せ、

難なく上演許可が得られた。

そして最後は市民権付与・保護対象者の登録交渉を残すのみとなった。


夢咲の発端となったのは、天界では男神の節操のない行動から、

神が溢れ、生まれることができずに神核として、

人口が増えるのを待つ政策を取っていたのです。


当然、夢咲の発起神、ヘラ、テイア、テミス、ミューズ、カレンドールは極端に男を嫌っていた。

そのため、夢咲の市民権を与えられるのは子女のみだった。


劉琦と周靖は憤慨した表情で、

趙雲は兵士たちの蛮行を目の当たりにした経験から、

致し方ないと言った表情で首を振り、

驚いた表情ではあるが、さして気にしていない張飛が質問した。

「何故に、男は市民権が与えられぬ」


曹英は臆することなく、淡々と答えた。

「戦で泣くのは、いつも子女や弱き者。

特に敗軍に属していた国の女は酷い扱いを受けます ……

戦で昂った男の格好の餌食になるのです。

中には、そうなる前に自害を選ぶ者もいます」


曹英は悲しい瞳で遠くを見つめ言葉を続けた。


「私も南州夜影賊衆の一件では、危うくそうなるところでした……

私が曹操の妹でなければ、私の従者は守られず、

今頃は沙市で自由を奪われていたでしょう」


四将は曹英の話を聞き、冷静を取り戻していた。


「夢咲の殆どの子女は皆そのような過去があります ……

そのような夢咲に男性を受け入れるのは危険と考えました」


曹英はやるせない表情の四将を見て話しを続けた。


「ただ、こうすることで、人口の比率は維持できると考えています。

男性も夢咲が受け入れるとそのほとんどの者が、夢咲に移住すると考えています」


四将は黙って、曹英の言葉を認めるように頷いた。


「なので、成人男性は城に居を構え、家庭を築くものも城に居を構える。

こうすることで人口の偏りが無くなると考えています。

また、これにより城と夢咲の経済も安定します」


じっと話を聞く四将を確認し、さらに話を続けた。


「もちろん、昼間の入場は男性も可能です。

また、傷病で夢咲の治療が必要な者、

学問を学びたい未成人者は寮を提供します」


劉琦が質問をした。

「市民権については承知した。

ただ、戦になった時、弱き者を受け入れてもらえぬか?」


曹英は冷たい表情で伝えた。

「一度でも武器を持って、戦に出たものは受け入れません。

武神の意に反するからです。

武器を持った魂は武神に帰すのです。

ただ、戦闘能力のない者は受け入れます」


劉琦は受け入れの条件を聞き、安堵の表情を浮かべた。


こうしてすべての条約は締結された。


一息つく暇もなく、廊下から声が聞こえてきた。


「あら、紗良に碧衣、琴葉までこんなところで何しているのかしら?」

「あっ、華蓮様!?ゴミ拾いをしていました」

咄嗟に答える紗良の声が聞こえたかと思うと、ドアが開いた。


ドアが開き、華蓮と貂蝉が入ってきた。

後ろからは紗良、碧衣、琴葉が顔を覗かせた。


「蔡瑁と張允が動きましてよ。

一昨日、襄陽を船で千の兵士を連れて出たわよ」


珍しく美優が戦闘意欲を示した。

「面白いわね ……

でも、澪星の初陣にしては相手が貧弱ね」


劉琦が焦った表情になり、訴えた。

「蔡瑁、張允が率いる荊州水軍が千人です!

船にして二十から三十を船一艘でどうやって……」


趙雲が手を横に出し、劉琦の口を止めた。


「小僧は黙れ!哀れは荊州水軍 ……

美優様、華蓮様、どうぞお話をお続けください。

私と張飛は両御大将の指示に従います」


劉琦は口を開け、身体を震わせていた。

そんな劉琦の肩を張飛が叩く。


「まあ、夢咲の実力をこの目で見れるのだぞ。

我らは、指示に従うまでだ」


美優は全員を見回し、笑みを浮かべて話した。

「我らは、日没とともにここを出立 ――

平坦の初刻(午前三時)に夏口で迎え撃ちます」

華蓮が続いて話した。

「日が昇る前に、半数を落としちゃいましょうか ……

紗良ちゃん、月弓で音もなく魂を冥界に帰せるかしら?」


紗良は静かに頷いた。

「なるべく、本人が亡くなったことにも気付かないように射抜きます」


華蓮は微笑みながら、美優に話した。

「ベルセポネの話だと蔡瑁と張允は十二月に亡くならないと歴史が変わるわ……

生かして襄陽に敗走するようにしてくれるかしら?」


美優は頷いた。

「そうね、歴史を変えることは私たちの意に反しますものね」


そして華蓮は張飛と趙雲に向き直った。

華蓮の黒髪が後を追うように、美しく揺れた。


「今回は特別よ、襄陽まで澪星で送ってあげるわ ――

蔡瑁立ちより、三日は早く襄陽に着くわ。

事情を孔明に話して、直ぐにでも孫権を頼りなさい」


完全に華蓮のことを信頼している二人は質問もなく頭を下げた。

「御意」


美優が手を叩くと、麓沙と孫尚香が現れた。

「あなた達は乗員に伝えてください……

夜間の船員以外は黄昏(二十時)に就床、鶏鳴(午二時)起床、

その後、荊州水軍と一戦交えて一気に襄陽を目指します」


「承知しました」

二人は静かに返事をし、食堂を後にした。

そして急展開を迎え、条約交渉もすべて結ばれた。


―――


私と、曹英、紗良、碧衣、琴葉は澪のいなくなった寝床で、

今日の振り返りをしていた。

寝床には、まだ澪が環の中心にいるかのように、

ほのかにシャボンの香りが漂っていた。


私が最初に発言した。

「何で、昨日、江陵の船着き場に、

船を付けなかったか不思議だったんだよね」

曹英が頷いた。

「こうなることを見越していたんだろうね」

紗良も頷いた。

「碧衣に、星澪郭の一部を作らせ ――

現物を見せるのが一番だからね」

碧衣が微笑みながら話した。

「絶対的な強さを持つ者の特権かな」

琴葉がまとめた。

「そうですねー、ずるいかもしれないけど ……

力を見せて、信頼を得るのが一番早いですね」


船は明日の鶏鳴(午二時)には夏口に着くように、

夜間出発の警笛を鳴らした。

船体がわずかに震え、蒸気機関が稼働を始めた。


暗い大地に、力強い警笛が鳴り、こだました。

空の星々が、明るく私たちを照らし、水先案内をしているようだった。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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