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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第50話 交渉官 美優


私たちが澪を見送りに外に出た時、食堂に残った劉琦が張飛と趙雲にいろいろと尋ねていた。


「張飛よ、夢咲とは何なんだ?」


劉琦が張飛に質問すると、張飛は腕を組み、

初めて五華と会った頃のことを思い出しながら話した。


「儂らが夢咲の五華と会ったのは、黄巾の乱の頃よ ……

戦乱の中、乱後の村を襲う黄巾残党や傭兵として動いていた群雄から逃れ、路頭に迷った子女を引き連れ、流浪の旅を続けておったわ。

そして武神のような華蓮 ……

断絶神と名乗っておったが、あれには肝が冷えたわ」


劉琦が驚き、さらに質問をした。


「女、五人で、それだけの民を ……

何の得もないではありませんか?」


趙雲が静かに答えた。

「損得は関係ない、義のためですぞ。

義を重んずる方たちだからこそ、澪殿を静かに送りだしている。

そして澪も、我が弟子のために動く決意が揺るがなかった」

張飛も頷く。

「ここに、曹英と孫尚香がいるのは知っておるか?」


劉琦が再び驚いた。

「その二人、曹操、孫権の妹ではないか ……

しかも二人とも、とても大切にされていると聞いておるぞ」

張飛が静かに頷き答えた。

「その二人が、夢咲の義に惚れたんじゃよ。

そして、二人の兄も夢咲を信頼した ……

だからここに、曹英と孫尚香が国を捨て、夢咲におるんじゃよ」

趙雲が言葉を付け足した。

「我が主、劉備玄徳様、諸葛亮孔明も ……

夢咲の義に対する姿勢には絶対の信頼を置いているのじゃよ」


劉琦が納得したように、これまでの堅い表情から、

柔らかい表情に変化した。


「それで、劉備殿は夢咲に私のことを頼んだのか ……

よほど、夢咲は信頼されているのだな」


張飛と趙雲が頷くのを見て、自分も夢咲を信頼しようと思ったのか、

劉琦が夢咲の持っている物に興味を移した。


「ここにある、照明や食事を保温している器具、

それにこの汁やパン、チーズ、バターや紅茶なるもの ……

全て夢咲の物なのか?」


劉琦が張飛に聞くと、張飛は頷く。

「そうじゃよ、全て夢咲の物だ ……

他にも見たことのない物がいろいろあるぞ」


趙雲が張飛に続く。

「この船を見よ、この大陸にこれ程大きい船を見たことがあるか?

しかも、帆も一枚ではなく、帆柱ごとに複数の帆が備わっている」


劉琦も相槌を打った。

「今日の夜に出航して、夏口には朝着く予定であったな ……

孫権自慢の早船でも二日はかかるであろうに」


張飛が笑いながら答えた。

「だから、夢咲は違うと言ったであろう ――

そう言えば、夢咲は日常生活用品を取り引きしたいみたいだぞ」


趙雲も続いて話した。

「なんでも、夢咲の物を『星』と言う貨幣を用いて、

世に広め、少しでも人々の生活を豊かにしていきたいという思いがあるようだ」


劉琦は、目を細め、腕を組み考え込むように黙った。


――――――――


一方、澪を見送った私たちは、しばらく馬の残像を目で追っていた。

美優が私と曹英を見て口を開いた。


「そろそろ頃合いね ……

張飛と趙雲の宣伝が終わって、劉琦を懐柔した頃よ」


美優は目を細め、口元には笑みが浮かんだ。


私と曹英はお互い見つめ合い、頷いた。

私が、「曹英は書類を用意して」と曹英に告げた。

すると曹英が私に告げた。

「星愛は紅茶とワイン、チーズとクッキー ……

それに、花灯と花灯の実を忘れずにね」


私と曹英は走って船内へと消えていった。


美優が残った者たちに告げた。

「そろそろ、のんびりした江陵の役人が動き出す頃よ。

残りの者は、迎える準備をしてくれるかしら」


皆が返事をし、頭を下げた。


美優が、江陵城の第一西門の上を見上げ呟く。

「今頃、狼煙を上げているわ ……

昨日の夕方には稜堡の一部は形になっていたというのに、

見張りは、居眠りでもしていたのかしら。」


孫尚香も頷いた。

「本当ですね、許都とは違ってのんびりしている城ですね ……」


もう、人々が動き出している時間に、やっと緊急を知らせる赤い狼煙が、

今にも途切れそうな細い線となり、弱々しく朝の冷たい風に揺れていた。


――――――――


美優は私と曹英を左右に従えて食堂の扉を開けた。

劉琦とその左右に張飛、趙雲が奥の席に一列に座っていた。

美優は一瞬視線を巡らせ、衣の裾を整えた。


劉琦は娘子を従え現れた美優に、少し驚いた表情を見せるが、

左右の二人は落ち着いた表情で、席を立ち、劉琦は少し遅れて席を立った。


ギー ―――


椅子を引いて床とこすれる音が食堂に響いた。

三人が美優に向かって恭しく頭を下げた。

美優が三人に声をかけた。


「どうぞ、お座りください」


そう言い、柔らかい夢咲絹の擦れる音を残し、席に座る美優。

私たちは、身長がまだ低いので、左右に立った。

そして、黒い書類箱と、花灯や小物が入った箱を卓に置いた。


コト ―――


私と曹英の息が合い、卓に箱を置く音に乱れがなかった。


美優はにこやかな表情で前に座る三人に声をかけた。

「皆さん、朝の食事はお口に合いましたか?」


劉琦は落ち着いた表情で答えた。

「大変美味しくいただきました ……

スープ、チーズ、バター、私は今まで、口にしたことがありません。

それらは、異国の物なのですか?」


美優はにっこり笑い頷いた。

「私たちは遠く離れたギリシャという国に源があります ……

そして、私たちの祖先は、様々な国を歩いて、この地まで来ました。

食事も多くの国に影響を受けてきたのだと思います」


劉琦は納得した表情で頷いた。

「そうでしたか ……

この部屋を照らす灯花もそのうちの一つですか?」


灯花の灯は、明るく、ほのかに季節の花の香りを漂わせていた。


美優は頷き、劉琦に質問をした。

「灯花が珍しいようですね ……

そう言えば、張飛も趙雲も沙市の賊討伐のときに、

灯花の明るさに驚いていましたね」


張飛が頷き、髭を撫でながら答えた。

「左様、あの灯の明るさには、心底驚きましたが、

それよりも、捕らわれていた子女に温もりを与えておりましたな」


劉琦が腕を組み、目を細めて話した。

「これだけの品々が、民たちの生活にどれだけ潤いを与えるか ……」


美優は曹英を見ながら話を続けた。

「こちらの曹英が同じことを言っていました」


曹英は劉琦と目が合い、軽く会釈をした。


美優は話を続けた。

「私たちはこの環境で育ったので、これが当たり前と思っていました。

私たちの物がどれだけ、この地の民に潤いを与えるか、

その価値が分かりません ……


美優は再び曹英を見て、話を続けた。


「曹英が、この地の民に潤いを与える品を夢咲だけのものにするのは、

もったいないと言っていました」


曹英と劉琦の目が合い、曹英が軽く頭を下げた。

劉琦は曹英を見て、緊張した面持ちになる。

曹英はその表情の変化を見逃さず、声をかけた。


「劉琦さん、安心してください。

曹兄は大切な兄弟ですが、丞相との関係を断ちました ……

今、私は夢咲の一員です」


美優は微笑みながら劉琦に尋ねた。

「劉明から固く口留めをされているのですが ……」

劉琦が驚きの表情を浮かべた。

「今何と …… 劉明ですと!」

美優は静かに頷き、一瞬目を落とした。

そして視線を落とすと、ゆっくり口を開いた。


「このことは他言無用でお願いします。

張飛と趙雲も劉備はもとより、他の者に話さないでください」


劉琦、張飛、趙雲は静かに頷き、美優の話に耳を傾けた。


「実は黄巾の乱のときに、焼け焦げた家の隅で泣いている劉明を拾いました。

首には、星璽――漢王室の子にだけ与えられる印がかかっていて、そこには『劉明』と彫られていたのです」


そして、美優は象牙で作られた、玉璽より一回り小ぶりな星璽を静かに卓に置いた。

象牙は年月を経て飴色に変わり、刻まれた『劉明』の文字は ――

近年彫られたのであろう、白色が際立ち、深く、力強かった。

劉琦は星璽を震える手で取り、驚きを隠せなかった。


「まっ、まさに中山靖王劉勝が作らせた星璽 ……

この刻まれた名の彫り、間違いなく漢王室に伝わる彫り方」


(えっ、私の従者の劉明が漢王室の末裔だったの ……)


交渉の場で心を乱してはいけないと、顔には出さないようにしたが、

私も驚いていた ――


(劉備も中山靖王劉勝の末裔と言われているから、

劉明は劉備と同じ血筋ってことになるわね。

あの、眼鏡をかけた私の優しいお姉さん的な従者の劉明が ……)


私の顔が心なしか引きつっているように感じた。

ただ私より、はるかに驚いていたのは劉琦だった。


「そ、それは、一大事ですぞ ――

劉明はまさに、漢の希望。

夢咲にこれだけの力があるのなら、

劉明を立てての挙兵は考えなかったのですか?」


口元を袖で隠し、目を細め微笑む美優。

「ウフフフ ――

漢王室復興のために夢咲が挙兵をするとでも、つまらないですわ」

そして真剣な面持ちで付け足した。

「それに、劉明が望みません――

だから、私を信頼して星璽を預けたのですよ」


張飛が話に割って入る。


「のう、劉琦殿 ……

はっきり言うぞ、夢咲が本気になれば、この大陸は火の海よ。

一緒に戦った儂にはわかるぞ」


趙雲も頷き、言葉を継いだ。

「興味がないのだよ、力で制圧することに ……

夢咲は、戦ではなく、交易で ……

民の生きる力を残し、安寧のために用いようとしているのだよ」


劉琦は趙雲の言葉を繰り返した。

「安寧のため ―― ですか」

劉琦は少し考えた。

(そうだ、世が戦の世でなければ、私も命を狙われることは無かったか)

そして再び口を開いた。

「戦で求める安寧より、交易で得られる安寧ですか」


美優は優しく微笑み、劉琦に尋ねた。

「交易で得られる、安寧について話していいでしょうか?」


劉琦も微笑み頷いた。


「是非に」


―――


ここで、麓沙ろくさが食堂に入ってきて声を上げた。


「美優様、江陵城主・周靖なる者が江陵城から参りました」


美優は、にっこり微笑んだ。

それとは対照的に劉琦の顔は険しい。


「美優様、周靖は信用ある私の部下です。

ここに呼んでもよろしいでしょうか」


私は、美優を『様』付けで呼んだ劉琦の心変わりの早さ ――

そして、こうなるように会話を進めた美優の心の読みの深さ。

これから江陵城主まで交えて交渉をするお膳立てをした手際の良さに、

驚き曹英を見ると、曹英も同じように驚いていた。


私と曹英はお互い見つめ合い微笑んだ。


―――


しばらくすると、麓沙と尚香に伴われ周靖が食堂に入って来た。

周靖は年の頃は四十前後、鋭い目つきだが礼儀正しい。

劉琦は席を立ち、一旦周靖と食堂を出た。


「いったい、江陵城はどうなっているのだ ――

城の隣にこんなにも、大きなものが出来たというのに、

来たのは今か?」

周靖は青い顔になり、深く頭を下げた。

「申し訳ございません ……」

「もう良い、これより大切な話がある故、周靖も同席しなさい」


劉琦と周靖は食堂に戻り席に着いた。


その様子を見て、にっこり笑い美優が話を始めた。

「劉琦さん、そちらの御方はどのようなお方なのですか?」

「はい、江陵城主の周靖でございます」


劉琦も美優から漏れる神気を感じるのか、口調が完全に変わった。

美優は城主であることは知っていたが、知らぬふりをしていた。

そして、含み笑いを隠すかのように、袖で口元を覆った。


「江陵城主でしたか、それはちょうど良かったです ……

これから劉琦さんと夏口での、不戦条約や交易条約を結ぶところでした。

周靖さんにも条約を結んで欲しいと思っていたところなのです」


周靖は劉琦の顔をのぞき、劉琦が頷くのを見て答えた。


「江陵は劉琦様に絶対の信頼を寄せています。

夏口太守となられる劉琦様が条約を結ぶというのであれば、

江陵も従うまでです」


美優は私と曹英を見て頷いた。

いよいよ、私と曹英の交渉官としての初めての仕事が始まった。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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