第05話 衝撃の事実
三人は理事長室へと廊下を急いだ。
廊下には冬の終わりを告げるかのような柔らかい陽光が ―― それとは対照的な硬い表情の三人の顔を柔らかく包んでいた。
理事長室のドアの前に立ち、真ん中に立っていた星愛がノックをする。
中から「どうぞ」と柔らかい星愛の母親であり夢咲学園高等部の理事長である、灯里理事長の透き通る声が響く。
三人は固く手を繋ぎ、顔を見合わせ頷き、紗良が冷たいドアノブに手をかけドアを開けると、中には灯里理事長、紗良の母であり高等部の月弓校長、そして見慣れぬ男がソファーに座り話しをしている途中だったようだ。
男はこちらを見て軽く会釈をする。その目は鋭く、まるで三人の内面まで見透かすかのようだった。
私は男の顔を見て、遠い記憶の彼方で見たような気がしたが、どうしても思い出せず、心に小さな棘が刺さったような感覚を覚えて、「この方は?」と尋ねる。
灯里理事長は「こちらは、学校法人夢咲学園の総合理事長の風羽凌さん」と紹介した。
驚いた表情で風羽を見つめる瑠璃。
「えっ…神聖な神威を感じる…えっ風羽凌さんって、いえ風羽凌様はひょっとして神様なのですか?」
瑠璃は直ぐに風羽凌の神威を感じたようだけど、紗良は感じた様子もなく、私も何も感じることがなく二人顔を見合わせ、呆気にとられた。…… そして、私は瑠璃を見る。
「ちょっと、瑠璃ちゃん落ち着いて、いくら何でも神様がここに居る訳ないでしょ」
私は瑠璃に落ち着くように促した。
「まあまあ、君たち、いきなり入ってきて僕の顔に何かついているのかい」
風羽凌は神であることを肯定も否定もせず、少しおどけたような表情で苦笑いした。
「君たちはここに何か大事な用事があったのではないかい?」
と返され、三人は固く手を繋いだ。互いの手のひらから伝わる冷や汗と、鼓動が速まる感覚を共有しながら、一斉に頷いた。
私はママ(灯里理事長)の瞳をしっかりと見つめた。
「ママ、大切な話があるの」
私は風羽凌の方を一瞥してママの瞳を見る。
「分かっているわ …… あなたたち三人が顔を揃えてここに来るっていう事は、あなたたちクラスにいる邪神の話しでしょ?風羽凌総合理事長もその話でここに来たの。総合理事長に話しても大丈夫よ」
星愛、紗良、瑠璃の三人は顔を見合わせ、頷き私が話すことにしました。
「私たちのクラスの白洲澪さんが、空港から感じている気の正体、私達は邪神か神と推測しているの。瑠璃ちゃんの話しだととても強力な気を感じたの」
風羽がニコリと笑い私達を見た。
「そうそう、先程ね、空港の職員は正気を取り戻したという情報を貰ったんだ」
瑠璃が予想もしなかった話を聞き、驚愕の表情を浮かべ質問する。
「でも、何のために魂を抜いたの、それとも、魂を抜かれたのではなくただの貧血か何かで倒れたとでも言うんですか?政府も神隠しと認めていたのでは?」
瑠璃は矢継ぎ早に質問した。
私は空港職員が正気に戻ることは嬉しいことだけど、白洲澪の掌の上で弄ばれているような感情を持ちました。そして紗良と瑠璃も困惑の表情を浮かべているのを見て、自分たちの力のなさを実感し次の言葉が出ませんでした。
押し黙る三人を見て理事長は校長と風羽を見つめ、二人とも軽く頷いたのを確認し口を開いた。
「まず、神楽坂(瑠璃)さんの疑問の答えは、空港職員は間違えなく魂は抜かれていた。ただあなた達が思う魂を取り込むという目的ではなく、2年I組に何気なく居座るためのきっかけ作りのために魂を抜かれたの」
(私の頭に疑問が沸きだした。何で2年I組なの…他のクラスは、他にも団体さんはいるでしょ。不思議に思いながらも、私はママの話しに耳を傾けた)
「言い換えれば、39人の生徒の中に40人目の生徒として入り込み、前から2年I組は40人だったと思わせるための神能を発動させるには、衝撃的な事故が必要だったの。その衝撃の記憶に40人目の生徒の記憶も埋め込んだのよ。並大抵な邪神や神では真似できない神能よね」
紗良の母の月弓校長が話を受け継ぎ語る。
「でもね、相手が悪かったね。勘のいい瑠璃ちゃんは薄々感づいているみたいだけど、この学園はね神が創造した学園なのよ。だから、直ぐに2年I組の白洲澪さんが紛れ込んだことには気付いた。だって、大切な生徒の情報は結界で守れているからね」
その話を聞いて紗良が固い表情で口を挟んだ。
「そこまで分かっているのなら、学校を休校にするとか、白洲澪を封印することも神の学園ならたやすかったのでは?」
月弓校長がサラの眼を見て有無を言わさない口調で話す。
「今こうやって静観しているのは神の意志よ。今はそれしか言えない」
(何が神よ、修学旅行から帰るまでは、私達生活には神も邪神も、魂すら、意識することなんてなかったんだから。それをいきなり神の意志だなんて、そんな一言で済む問題ではないのよ)
私は紗良の手を握り、怒りを露わに校長の言葉に噛みつきました。
「神の意志なんか私たち生徒には関係ないの!私はこの学園の生徒を生徒会長として守る義務があるの、風羽さんはそのことをどう考えているのですか?」
風羽総合理事長は片手を上げ、もう片方の手は口下で人差し指を立て、全員を静かにするようにと手で制した。校舎には始業を知らせる鐘が鳴り響く。
一方2年I組の教室では白洲澪が私達が始業の時間に居ないのに気付いていました。
(あら、あの3人組もう始業の鐘が鳴っているというのに姿現さないはね、ちょっと調べてみるかしら)
白洲澪は強い探索の神能を一瞬だけ発動した。
(あらあらあの三人、理事長室で神三人と話しているみたいね。まあ、私の手の内には青木桃花の魂があるし、そう簡単には手を出せないでしょ)
可愛い顔で一人微笑を浮かべる白洲澪。
理事長室では強い神気が一瞬通り抜ける。私は固まり、紗良のツインテールは微かに揺れ、瑠璃はわきの下に汗が通るのを感じた。
「うん、始業の鐘が鳴っても現れない君たち3人が気になるみたいだね。やっぱり調べにきたね」
にこりと笑いこちらを見る風羽。
「察しの良い瑠璃ちゃんは気付いたみたいだね、そうこれは神能の気だよ。しかも相当強力な神能を持った神の気だね」
私は紗良の手を握り、顔を見合わせ瑠璃の表情を見ると、信じられないという表情で瑠璃は立っていた。
灯里理事長がこちらを見て語り始めた。
「そおね、実はね私たちは白洲澪さんがこの夢咲学園の敷地に入った時から気付いていたのよ。彼女が創造神だということをね」
私と紗良は驚きの表情を見せるが、瑠璃は好奇心の表情に変わり質問する。
「私は白洲澪の気の中に純白の神気を感じているので、彼女は女神ではないかと思っていたのですが、女神で創造神は数少ないと思います」
暫く考え込み、再び話しだす瑠璃。
「ひょっとして『創世神話』に出てくる紀元前700年に消息を絶った創造神ミレイア様のことですか?」
ニヤリと風羽は瑠璃を見て話を始める。
「その通り、私達は必要な創造女神が不在のまま計画を始めてしまったんだよ。でもね、偶然、創造の女神ミレイアが現れた。できれば彼女を計画の中に入れたくてね。これは偶然ではなくて必然かな」
意味深な笑顔を私と紗良に顔を向ける風羽だった。
灯里理事長が風羽の言葉に頷いて口を開く。
「政府は青木桃花さんの神隠しの件は隠蔽して、通常通りに学園は開講しなさいとの指示だったでしょ。ちょうど良かったのよね、政府の指示を隠れ蓑に私たちの計画が進められると思ったの。」
そして、私達3人を見つめ直す。
「白洲澪が何のためにこの学園に来たのかはまだ目的が定かではないけど…いずれ分かる」
風羽の眼が真剣な眼差しになり、声も力強い声になる。
「私たちは、もっと大きな問題を抱えているんだよ。その問題に対応するため、19年前に対策委員会が設置され、この夢咲学園が委員会の本拠地になった」
「ちょっと、何それ。そんな話知らないし、その計画って何なの?」
(どうも私は風羽を見ると彼の方が年上のはずなんだけど、下に見えてしまう……言葉使いも敬語が使えないし、風羽もそのことは気にしていないみたい)
「うーん……そうだね、地球を守る計画とでも言っておこうかな。そして君たちはその計画の中心に立つことになる。もうじき知ることになる。嫌だと言ってもね」
風羽は何かを隠そうとしているのか、冗談を言っているような口調で話し、灯里理事長が話をまとめるように口を開いた。
「風羽が言っていることは本当よ。それまでは私たち夢咲学園を信じて、あなたたちは勉学に励みなさい」
(風羽って今ママ言ったよね…風羽って総合理事長でしょ。ママまで呼び捨てにしている…なんかいろいろ裏がありそうな感じがする)
星愛たち3人は不満な表情を浮かべるが、お構いなく月弓校長が続ける。
「そうそう、あなた達仲良し6人組は一緒にいた方がより安心かも、私が残り3人、早坂琥珀さんと田中蒼衣さん、月島琴葉さんのご家族には連絡しておくから、あなた達6人は灯里さんの家で寝食共にしなさい。来る日が来れば答えは出るよ。さあ、1限目の授業には間に合うから早く教室に戻りなさい」
追い立てられるように理事長室を後にする3人だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
初めて小説を書いて、投稿した作品です。
皆様の評価、ブックマークがとても励みになります。
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援・評価お願いいたします。
作品作りの参考にしますので、よろしくお願いいたします。