第49話 旅立ちの朝
◆ニケの神殿 ◆
琥珀と瑠璃が興奮しながら、映し出される3D映像に見入っていた。
「なあ瑠璃、私もこの時代に転生したかったよ」
瑠璃は苦笑いしながら言った。
「あなたの陽彩の聖女としての血が騒ぐのかしら?」
「私がいれば、武力で大陸を制圧できたのに」
華蓮が薄笑いを浮かべ、話に割り込んだ。
「それじゃあ、意味がないと思わないかしら」
瑠璃が微笑み頷く。
「そうよ、今も流通している世界通貨 星貨幣はこの時代に生まれたのよ」
琥珀が笑いながら答えた。
「そうだね、夢咲が武力でない統一を目指した結果だよね」
瑠璃が華蓮に尋ねた。
「星愛も凄いと思ったけど、この曹英って子、面影があるんだよね」
コツ ――
コツ ――
コツ ――
足音が聞こえ、風が揺れ、三人が振り向くと、
そこには碧髪のセミロングの、いかにも秀才の顔立ちをした、
夢咲学園の制服を着た美少女が立っていた。
「曹英って子、誰の面影があるのかな?」
琥珀が驚いて大きな声を出す。
「水の女神 アクア!」
納得した顔で瑠璃が言う。
「そして3年H組の曹英でもあるのよね」
アクア(曹英)は口に手を当て笑う。
「ウフフフフ ……
寝ている星愛に紗良、碧衣、琴葉に澪は試練を受けているのね」
そして、笑いながら軽く会釈をし話を続けた。
「私は曹英でもあり、水の女神アクアでもあるのよ。
でも、星愛と紗良の家族は不用心ね ――
白い塔の入り口のドアが開けっ放しでしたよ」
琥珀が頭を掻きながら答えた。
「華蓮にも同じこと言われたよ ……
でもここはオーディンの領域だし、関係者以外は入ってこないはずだよ」
華蓮と曹英は顔を見合わせ、苦笑いした。
琥珀が曹英の顔を見て尋ねた。
「どうして、曹英は水の女神アクアなの?」
曹英は微笑み逆に尋ねた。
「ネタバレになるけど、話してもいい?」
琥珀は慌てて手を振って断った。
「いや、いいよ。続きを見よう」
曹英は3D映像を見ながら呟いた。
「あら、これから劉琦と会うところね ……
ここから、さらに話は面白くなっていくわよ」
一人増え、四人の視線は再び3D映像に移った。
神殿の空気は静かで、映像の光だけが壁に揺れていた
◆江陵第一西門 ◆
朝日が昇り、江陵の第一正門に馬群が現れた。
土煙が、風に流され尾を引いていた。
馬軍の群れは迷うことなく、澪星に向かっている。
「髭だるま(張飛)、稜堡を上っていったら駄目だよ……
堀に沿って進んでいくんだよ」
張飛は琴葉の頭を撫でながら上機嫌で答えた。
「おう、助かるぞ、琴葉 ……
皆の者続け!」
馬群が、澪星からも見えるところまで近づいてきた。
馬の蹄の音がはっきり聞こえてきて、地が揺れた。
馬上には、張飛、趙雲、黄婉貞と知った顔の他に、劉琦の姿もあった。
劉琦が澪星を見て、静かに眉をひそめた。
「勝手に江陵の城の横に停泊場を作り……
あの大きな船が…江陵に停泊しているのか」
張飛が「夢咲の船だ。お前も乗るんだぞ」と言った。
劉琦が「乗る前に、話を聞かせてほしい」と冷静に返す。
劉琦の目に映った、どう見ても難攻不落の稜堡。
大型船も余裕で侵入できる、幅が広く、深い堀。
そして見たことのない三本帆柱で、帆がたくさん並び、梁の黒層鋼が黒光りする船。
その壮大さに押され、不安を隠しきれぬ表情をしていた。
(この船が…本当に民を守るものなのか?)
不安気な、劉琦を見て張飛が笑い飛ばした。
「儂に任せておけ、何も心配はいらぬぞ」
趙雲がその横で、微笑むのを見て、少し安心した劉琦だった。
澪星の前で、真ん中に美優と澪、左右に私と曹英が立ち、馬群を迎え入れた。
馬が嘶き、馬上の将たちが馬を降り、片膝をつき、頭を下げた。
美優が頷き、劉備陣営の将たちに声をかけた。
「皆さん、顔を上げてください」
劉備陣営の将たちが面を上げ、私たちを見つめた。
その中の一人、黄婉貞が感極まり澪に声をかけた。
「澪師匠、御迎えに上がりました ……
どうか私たちに力を貸してください」
澪は婉貞を見て優しく声をかけた。
「そろそろ、迎えが来る頃と思っていたわ……
それよりどうかしら、この船、凄いと思わない?」
婉貞は目を潤ませながら、頷く。
「はい、お師匠様の設計ですね。
それを実現できる夢咲にも感服します。
まさか、居心地が良すぎて、襄陽に戻らないのでは ……」
「安心しなさい、私は弟子を見捨てるような真似はしないわよ」
澪の胸に顔を埋めている婉貞を見て、目を細め、頭を優しく撫でた。
「お師匠様」と言い、婉貞は涙を流しながら澪を抱きしめた。
「まあ、まあ、困った子ね……
女官と一緒に、お風呂でその涙と旅の汚れを落としてきなさい」
「えっ、お風呂があるのですか?」
婉貞が尋ねると、澪は頷き微笑んだ。
「琴葉ちゃん、婉貞と女官をお風呂に案内してくれるかしら?」
「はーい」と言い、婉貞の手を引く琴葉だった。
琴葉に連れられ、婉貞は船内へと消えていった。
美優は残った、張飛、趙雲、劉琦と従者の兵士四人を見て言った。
「男性の皆さんは、女性が湯から出てくるまで、
食事をして、旅の疲れを癒してください」
張飛の顔が綻んだ。
「そうだな、儂らは先に食事を頂こうとするかのう……
なあ、趙雲もそう思うだろ?」
「そうですね、腹が減ってはこれからの話も集中できなかろう、
劉琦殿もどうですか?」
「う、うむ …… 皆がそう申すのなら」
劉琦は話に流されるように、食事の提案を承諾した。
美優に伴われ、劉琦一行は船内へと入っていった。
白灯花の明かりが、船内の廊下を明るく照らしていた。
灯花からは、ほのかに花の香りが漂い心地よい気持ちにさせた。
劉琦が船内に入り、その明るさと広さに驚愕の声を漏らした。
「のう、張飛殿、これは誠に船か?
まるで城の中のようじゃ ……」
張飛も驚き同調した。
「左様ですな …… 儂もここまで凄いとは思わなんだ」
趙雲がニヤリと笑い、張飛に声をかけた。
「ここは、夢咲の領地と同じ、こんなこと当たり前ですぞ」
劉琦が声を震わせ趙雲に尋ねた。
「こ、こ、これが夢咲と言うのか?」
趙雲はすまし顔で頷いた。
「左様、人ならざる者の世界へようこそ」
美優は後ろで話す三人の声が聞こえたのか、
笑いをこらえるも、背中の肩は震えていた。
(趙雲とは、何とも言えぬ面白い人の子だこと)
私と曹英が先回りして食堂のドアを開けた。
再び驚く劉琦。
「えっ、まさか船内にこのような場所があるとわ ……」
私が、驚く三人と衛兵四人に声をかけた。
「そちらのテーブルから好きなだけ取ってください。
今日は、コーンスープと白身魚、ベーコンと青野菜、それと希望のパンとバターです」
張飛が驚いて叫んだ。
「なんじゃ、随分変わった食事だな」
曹英が涼しい顔をして答えた。
「毒味が必要ならば、私がしましょうか?」
張飛が頭を掻きながら謝る。
「いや、済まなかった ……
あまりにも我らと食事が違い過ぎて」
その横では趙雲が食事を始めていた。
「いや、これは旨い物ですね。
とろみのあるこの黄色いスープは何でできているのですか?」
私はにっこり笑い答えた。
「トウモロコシとチーズでできているのですよ」
趙雲は頷き、感心して食べ続けた。
「ほれ、衛兵もしっかり食べなさい。
張飛も劉琦も食べないと、無くなるぞ!」
と、趙雲はパンを食べながら、まだ食卓に座らない二人に声をかけた。
慌てて、自分の食事を取り席に着いて食べ始めた。
「張飛殿、まさか船で、温かくて美味しい食事が食べれるとは思わなんだ」
劉琦は張飛に話しながら、おいしそうに食事を始めた。
「うむ、上手いのう、上手いのう」
食事に夢中になり、食堂は食器が当たる音と、
追加で料理を取りに行く者の足音しか聞こえなかった。
もう、食事が終ろうとしする頃、廊下から華やいだ笑い声と話声が聞こえてきた。
入浴を終えてきた、澪と婉貞たち八人だった。
琴葉は張飛を見つけると、膝の上に座りパンを一つ取った。
「琴葉、何やらいい香りがするのう」
「うん、シャボンでお姉さんたちに頭と体を洗ってもらったの」
「なんじゃ、そのしゃぼんと言うのは」
「えっ、知らないの?泡がブクブク出る白くて四角い塊だよ」
「ふむ、儂も後で風呂を使わせてもらおうかのう」
琴葉と張飛の会話を聞いていた劉琦は警戒心より、
好奇心が勝ってきた。
(うむ、気になるのう …… ここには儂が知らぬ物が沢山ありそうじゃ)
美優が澪の隣に座り尋ねた。
「食事が終わったら、襄陽に帰るのかしら?」
美優は婉貞と女衛兵と従者を見て、頷いた。
「私には襄陽に守らないといけないものがあるから ……
信頼を裏切るわけにはいかないの」
美優は私と曹英、琴葉を見ながら言った。
「寂しくなるわね …… 」
心配な顔で澪を見つめる婉貞を見て、美優は微笑んだ。
「大丈夫よ、私たちは信じる気持ちを大切にし、それに応えてきたの。
澪も同じ気持ちよ」
やがて、澪と婉貞たちの食事が終わり、出発の時がきた。
下船し、私と紗良を始め多くの人に囲まれる澪。
(昨日の夜、沢山お話したし、お別れの挨拶もした ……
でもやっぱり寂しいな)
澪たちは馬上に跨り、私たちに手を振った。
「技術的なことは月英と劉明に託したから、何かあったら彼女たちに聞きなさい」
最後まで私たちの心配をする澪だった。
澪が振り返り、私と目が合った。
その目は光を宿していた。
婉貞が澪のところに馬を寄せ、頷き合う。
「じゃあ、みんな元気でね!」
手を振ったかと思うと、馬の腹を蹴り走り出した。
馬が嘶き、走り出す。
力強い蹄の音が大地を揺らし、離れていく姿にたなびく土煙だけが残った。
私が紗良に言う。
「行っちゃったね」
紗良も頷く。
「うん、行っちゃったね」
曹英も頷く。
「まるで嵐のような人だったよね」
碧衣が頷く。
「そして、私たちにいろいろなものを与えてくれた」
琴葉が頷く。
「私のペンを取り上げられなくて良かったです」
そして、私たちは澪星を見て頷く。
これからの夢咲の未来を占う交渉に向けて気を引き締めた。
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