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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第48話 碧衣と銀の鉄扇


劉備のところで決まった話を報告に、

琴葉蜘蛛は澪星船内の自室にいた美優の肩に現れた。

花灯の灯りと、花の香りが微かに揺れた。


「琴葉、おかえりなさい。

今日は何か収穫がありましたか?」


ぽん ――


煙を残し琴葉が人の姿に戻り、美優の膝に座った。

美優は優しく琴葉を抱きしめ、頭の上に口づけをした。


「お母さん、劉備と孔明が密談している時に華蓮が来たよ」


琴葉は、他の者がいる時は美優様と呼んでいるが、

美優と琴葉だけの時は子どもに戻り、お母さんと呼んでいた。


「あら、華蓮が登場したという事は大きなことみたいね」

「うん、二つ重要なことが決まったよ」

「そうなのね、教えてくれるかしら」


琴葉は母のふくよかな胸に寄りかかりながら話し始めた。

母からはとても落ちつく、優しい香りがしていた。


「まずは、劉表の長子の劉琦を太守として夏口に送ることになったよ」

「あら、弟の劉琮と上手くいっていないのかしら?」

「うん、命も危ない状況になりそうだからと言う事なの」

「後から詳しいことは華蓮に聞けばいいかしらね」

「そうだね、華蓮さんに聞くのがいいと思う」


久しぶりに母に甘えて、ご満悦な琴葉は大きなあくびをした。


「あらあら、寝ちゃう前にもう一つのことを教えてくれるかしら?」


「襄陽の孔明のところに澪が帰ることが決まったよ」


美優は少し、目を細め、遠くを見つめ悲しげな顔をしたが、

すぐに琴葉を見て微笑んだ。


「そうなのね、で、どんな日程になるのかしら?」

琴葉は美優の胸に頭を埋めながら答えた。

「六日後に江陵で澪さんは船から降りて、

入れ替わりで、劉琦が乗って来て、夏口まで送るの。

そして、その後は、澪星は途中彗星と合流して江陵で拠点を作るんだって。

その後は、夏口に移動して拠点をつくるんだって」


美優は後ろから琴葉を抱きしめ、頭を撫でた。


「琴葉ちゃん、頑張ったわね。

たまには、お母さんと一緒に寝ますか?」


琴葉は美優の膝から飛び降り、首を振った。


「ありがとう、でも私は星愛たちと一緒に寝るね……

おやすみなさーい」


手を振って部屋を出ていく琴葉を見送り、美優は呟いた。

「やっぱり、本当のお母さんの星愛と紗良が良いのかしら……

それとも琴葉ちゃんも成長したのかしらね」


暫くすると麓沙が入って来た。

麓沙の表情を見て、話したい事を察知したのか、

美優の顔が少し曇った。


気を取り直し、美優は麓沙にこれからの予定を話した。

麓沙は唇をかみ、呟くように話した。


「アクエス島の大地震の時に、聖女である私が、

星愛や紗良、琥珀を救えば、澪も自殺なんか考えずに……」

美優は諭すように言った。

「それは、あの時いた女神も一緒……

私と、芳美、理沙が澪の側にいた華蓮を空に呼び出さなければね……」


美優は少し考え言葉を付け足した。


「私たち女神は、地震が来る前からアクエス島民全員が亡くなるのを知っていた。

でもね、亡くなった魂の転生先はもう決まっていたし、

歴史を変えたら全てが変わり、禁忌に触れてしまう事になるから……」


二人は静かに瞳を見つめ合っていた。



◆星愛達の寝室 ◆


寝床では私たちが澪を囲って話を熱心に聞いていた。

遥か遠くのギリシャやローマ、トルコなどいろいろな国の話を、

面白おかしく話してくれていた。

皆の笑い声に、寝床は満たされていた。


そこに部屋の扉を開けて、琴葉が帰ってきた。

澪が、「おかえり、琴葉ちゃん」と、声をかけた。

琴葉は澪のところに走り寄り、澪に抱きついた。

「ただいま、澪さん」

そのまま、澪の膝の上に座り澪に甘えた。


澪が琴葉の頭を撫でながら聞いた。

「今日の諜報活動で新しい情報はあったかしら?」

「うん、いろいろあったんだよ」


と言いながら美優に話した内容と同じことを話した。


私たちは澪が襄陽に帰る話を聞いて、

澪に抱きついて、肩を震わせ、声を出し涙した。

当の澪は、覚悟を決めていたのか、落ち着いて皆を慰めていた。


「外国の話をしたでしょ、この星には行けないところはないのよ……

それに、私が設計した澪星、彗星は海だって超えられるわ。

会いたいと思えばいつだって会えるのよ」


私たちは手で涙を拭い、笑顔を作ろうと努力した。

そして、自由に動ける琴葉はあまり気にしていないようで、

曹操と孔明、そして華蓮の話を始めた。


その時、澪は唇をかみしめ、遠くを見つめ、何かを考えている様だった。


(やっぱり、澪さんと華蓮さん何かあるのかな……

他の五華は澪さんとよく一緒にいるけど、華蓮さんとは一緒にいないわよね)


私は澪と華蓮の関係を聞きたくて仕方なかったが、

今までの華蓮の行動や名前が出た時の反応を考えると、

触れてはいけないような気がして、聞くことが出来なかった。


話が終わり、皆が澪を囲むように横になった。

澪が言葉は分からないけど、優しい子守唄を歌うと、

そよ風の音のような大地の優しい旋律が聞こえ皆眠りについた。

皆が眠りについたのを確認し、澪が呟いた。

「やっぱり、ガイア母さんの子守歌は効果抜群ね」


空には月が昇り、優しく澪星や彗星に淡い光を落とした。




◆五日後の朝 ◆


三本の帆柱と複数の帆を備えた大型船、

澪星が造船工房を出ようとしていた。


澪の「出航!!」の声で澪星が動き出した。


青い空に白い帆が映え、誰もが驚く船だった。

そして、蒸気機関が動く音が造船工房内に反響した。


ボー ――


太く、大きい警笛の音が鳴り響き、ゆっくり進み始めた。

水をかき分け、力強く前進する。


一つ目の水門を通過したところで、停止し水門が閉じられた。

水門を閉じる時、蒸気機関が動く逞しい音が聞こえた。

水門も蒸気機関で動かしているようだった。


そして前方の水門がゆっくり開くと長江の河の水が流れ込み、

長江の水位に合わせ船が上昇し、水門係の手旗が降られる。


ボー ――


再び、汽笛を鳴らし、再び進み始めた。

目的地は江陵だった。

川の流れに逆らいながら進むが、

蒸気機関のパワーと、複雑な帆の操作でさらに速度を上げていく。


操船は、衛女と夢咲舞踊団員が担当した。

何度も練習したのであろう、

複雑な帆の操作もお互いに連携を取り難なくこなしていた。



私や紗良、碧衣、琴葉に曹英はその壮大さに驚き、

言葉を失い、やっと長江に出て船速が安定したところで、

我に帰った。


「すごいよ、みんな!馬より早い」私は興奮して叫んだ。

紗良も興奮していた。

「それに周りの船がどんどん置いていかれる」

曹英は自分の常識を超えた存在に感動していた。

「これで、大陸を回るのね。

これなら、本当に海でも余裕で航行できるわね」

碧衣も興奮していた。

「こんな船襲う賊なんて、余程の物好きだけだよ」


琴葉だけは冷静に感想を話した。

「この船は、食堂、お風呂、寝床までついているのですよ。

外で野営する必要はないんですよ」

と、笑顔で喜んでいた。


後ろから澪がやって来て、私の肩に手を乗せた。

「ほら、もう江陵が見えてきたわよ、分かるかしら?」


皆は目を凝らして遠くを見ると、城壁の影が遠くに見えた。


皆が口を揃えた「は、早い」


澪はにっこり笑い、私たちに言った。


「あなた達、この船を活用して、

しっかり自分たちの夢を実現しなさい」


船の周りには河鳥が競争するように、追いかけ

河風が初夏だというのに涼を運んでいた。


徐々に、城壁が見えてきた。


ボー ――


警笛を鳴らすと、聞き慣れない大きな音に、全ての人が振り向いた。

澪星は桟橋には入らずゆっくり河を上っていく。


そして岸辺の城壁が切れたところで、錨を降ろし固定した。

眼前には西側の大地が広がっていた。


数週間後には再びこの地に来て、水を引き、土を盛り星澪郭を築くのだ。


美優がやって来て碧衣に声をかけた。

「碧衣、この船が泊められる港を作ってくれるかしら……

星澪郭の堀で長江の水を引く箇所を港として、

今日は船を停泊させますね。


碧衣は静かに頷き、銀の鉄扇を開いた。

鉄扇を水平にし、胸の高さまで移動し、扇面を見つめた。


私は碧衣に囁くように尋ねた。

「扇面には河のそこまで見えるの?」

碧衣は扇面から目を離さず、静かに頷いた。

「見えるよ、河のそこから地面まで……

今は、視界の中に入っているもの全てが私の見方よ」


沙市では水柱や壁を操る碧衣の姿は見てきたが、

地面を動かす姿はあまり見たことがなかった。

私たちは、神経を集中させ扇面を見つめる碧衣の姿に、

後ろから固唾を飲んで見守った。


碧衣が扇面の上に左手を移動し、操り人形を動かすかのように指を動かす。

静かに地面が川の中に隠れていき、奥の大地が動き、せり上がってきた。

そして、石が護岸のように大地に積みあがっていった。

これだけ色々な物が動いているというのに、静かに土地が整地された。


河鳥が帆の上で、羽根を休め、心地よい風が吹き抜けていた。

大地で起こっていること以外は変わらぬ時を刻んでいた。


碧衣がにっこり、私たちの方を振り向いて言った。


「出来たわよ、船は堀の奥の方に止めるといいわ」


そこに出来ていたのは、澪が図面で描いた星澪郭の稜堡。

深い堀に守られ、大地は高くせり上がった稜堡の一部だった。



いつの間にか澪も後ろに来て、出来上がった星稜郭の稜堡を見て呟いた。

「上出来ね、本当にみんな成長が早いんだから…」


澪の目は少し潤んでいた。

そんな澪の肩を抱き寄せながら、美優が私と曹英に声をかけた。


「さあ、大変なものを江陵の横に作ってしまいました……

私たち交渉官の出番よ。

どうしたら良いと思うかしら」


私は曹英と小声で相談した。

私が小声で曹英に語りかけた。

「ねえ、今から江陵城主・周靖しゅうせいと会うのは難しいわね」

曹英が頷き同意した。

「まず、会うまでに三日は待たされるわよ」

私があることを思い出し曹英の耳元で囁いた。

曹英は私を見てニコリと笑い頷いた。


私が、美優と澪を見て私たちの考えを伝えた。


「明日、劉備陣営の武将に伴われ、劉琦殿がここに来ます。

太守・劉表の長子である劉琦殿と劉表に信頼されている劉備陣営の将……

劉琦、劉備陣営の武将の理解を得られれば、許可も得られると思います」


曹英が続いて話した。


「劉備陣営には夢咲は絶大な信頼を得ています。

それに、夏口への逃避を手伝う夢咲を劉琦も無下にはできないと思います」


美優は満足げに頷き二人の頭を撫でた。

「もう立派な、交渉官になりましたね」


澪も私たちを抱きしめた。

「本当に、あなた達は人の子なの?

まるで、神の成長を見ているみたいよ……」

と、目に涙を浮かべて、いつまでも抱きしめていた。




ボー ――


警笛を鳴らし、船が稜堡の一部へと進んでいった。

船が停泊場に近づくにつれて、その精巧さに気付かされた。


稜堡の大地は斜めに切り込むような構造で、

灰色、白、黒色の横模様が入った岩盤でできていた。

まるで、地下の岩盤がそのまま地上に出てきたようだった。

何者も寄せ付けぬ構造は、まさに要塞の風格だった。


停泊場に船を付けると、稜堡の大地までの階段が形作られていた。

一度に大人数が昇れないように、一人しか通れない幅だった。


美優が、「皆で上まで行ってみましょうか?」

と言うと、皆が笑顔になり下船を始めた。


澪が碧衣に言った。

「あなた、本当に防御に関しては神の領域にいるわね」

碧衣は、珍しく頬を朱色に染めて頷いた。

「澪さんの銀の鉄扇のお陰です」

澪は満更ではない表情で頷いた。


澪は美優に話しかけた。

「あとで、月英に蒸気機関で動く昇降機を作って貰いなさい」

美優も同意して頷いた。

「この階段は非常用ね。

すぐにでも昇降機の準備を伝えますね」


やがて、稜堡の大地に私たちは立った。

道となる部分は固い土で、他は柔らかい土で構成されていた。


美優は満面の笑みで、碧衣に言った。

「碧衣、あなたここまで操作できるようになっていたのね。

素晴らしいわ ……

この大地に畑が、住む家が、人が行きかう姿が想像できるわ」

澪も頷いた。

「ここまで使いこなせるようになるなんて……

碧衣、一体あなたは扇面で何を見ているの?」


珍しく、碧衣は鼻の頭を掻き、照れ笑いを浮かべて答えた。

「うん、目で見えるところ以外も、扇の上では見えるの。

最初はよく分からなかったけど、一つ一つ地上に出して確認して……

そんなことしていたら、地下の構造も分かるようになったの」


私は思わず碧衣を抱きしめた。

「碧衣、凄いね!こんなことできるなんて、信じられない」


碧衣は他の者たちにも囲まれ耳まで赤くした。


もう日が西に傾きはじめ、稜堡の大地も赤く染まり始めていた。




◆夜の甲板 ◆


皆は夕食を終え、お風呂も終え自由な時間を思い思いに過ごしていた。

私は澪の姿がないことに気付き、甲板に出てみた。


(いつも、澪さんは一人の時は甲板で空を眺めていたわよね……)


コン ――  コン ――  コン ――


私は階段を駆け上がり、甲板に出てみた。

夜風がとても気持ちがよかった。


(あっ、やっぱりいた)


私は澪の横に並んで立った。


「あら、星愛ちゃん、あなた一人なの?」

「うん、澪さんの姿が見当たらなかったから ……」

「心配になって、探しに来たのかしら?」


澪と華蓮の関係が気になり続けていた。

それに、明日で澪とはお別れ、その代わりではないが華蓮が来る。

何となく気になっていたのは事実。

でも、あまり澪に心に踏み入ってはいけない気がしていたので、

私は返事はしなかった。


「まあ、まあ、大した交渉官ね、

でも、もっと美優から学ばないとね。

星愛ちゃんの顔には心配の文字が浮かんでいるわよ」


私はその言葉に顔を赤らめた。


「確かに、澪さんのことは気になったけど ……」

「いいのよ、あなたは何となく私と華蓮のことも気になっていたでしょ?」


私はゆっくり頷いた。


「大丈夫よ、私と華蓮は大親友なの ……

でも、華蓮のおじいさんのせいで、会うことが制限されているの」


私は少し驚いた表情を見せた。


「そんなに驚かなくても、

ところで星がきれいだと思わない?」

「はい、とても綺麗だと思います」

「あの星々は何年輝いているのかしらね?」

「うーん、私よりは長く輝いていると思います」


澪は私の顔を見て頷いた。


「そう、私の知る限り、千七百年以上輝いているわよ」


澪の瞳には、天空の星々が美しく輝いていた。

私は澪の瞳の中の星を見ながら尋ねた。


「えっ、そんなことどうしてわかるのですか?」

「星愛ちゃんは何で自分の歳より長く輝いていると思ったの?」

「それは、……」


言おうとしたところで、気付いた。


(澪さんは千七百年以上、生きているという事なの……)


澪が私の肩に手を乗せ抱き寄せた。


「ね、これから先、また星愛とは会うことになるわ ……

少なくとも二千百年後には必ずね」

「えっ、二千百年後ですか?」


澪は笑うだけで、その質問には答えなかった。


「無限の命があるとしたら、二千百年なんてあっという間でしょ?」


私は想像できなかった…

でも、澪の優しさに包まれていたいと思い、身体を寄せた。

そして、二人で静かに星を眺めていた。


暫くすると、紗良、碧衣、琴葉、曹英がやってきた。


澪は皆の顔を見て満面の笑顔で応えた。


「さあ、明日はそれぞれの道に旅立つのよ」


もし、無限の命があれば、朝の別れもほんの些細なこと ……

有限の星の輝きが、無限の命を持つ神を優しく包む夜だった。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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