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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第47話 最後の置き土産


私たちは星環征途旅団の出船に向けて、準備に追われる日が続いた。

私と曹英は美優に伴われ、物品の準備に奔走する日々だった。


夜になると、紗良と碧衣の特訓を、

私・曹英・琴葉の三人で澪星船から眺めるのが日課になっていた。


「ねえ、曹英――

あの二人、大分月弓と銀の鉄扇を使いこなせるようになったわね」

「うん、碧衣が百本の人の形をした水柱を水面に立て、

それを紗良が一回で全て矢で射抜く」

私は二人の成長を見て、とても頼もしく感じていた。


パシャ …


パシャ …


パシャ …


一定の間隔で百本の水柱が崩れる音が、夜の川面に響く。

澪星の灯花の灯りが、静かに揺れた。


琴葉も話に加わった。

「初日は目の前に水柱を立てるのがやっとだったのに、

今では、視界の範囲に自由に立てていますねー」


私も、頷き紗良の姿を見ながら話した。

「紗良も一度に放てる矢は十本がやっとだったけど、

今では百本以上は確実に放てるみたいね」


船首で並んで練習していた二人が、話し合っていた。

曹英が琴葉に言った。


「ねえ、琴葉――

ちょっと二人の話を聞いてきてくれる?」

「はーい、では、行ってきまーす」


言葉を残し、琴葉は紗良の肩の上で蜘蛛の姿で話を聞いた。

そして、私たちも星紡ぎの呼吸がだいぶ上達していて、

今ではお互い目の届く範囲なら意思を共有できるようになっていた。


私と曹英は、意識を琴葉蜘蛛に集中すると、

琴葉と同期し、琴葉の耳が私の耳になり、

琴葉蜘蛛の目が私の目になる感覚になった。


紗良が真面目な顔で碧衣に提案していた。

「全ての標的を射抜くのは簡単すぎるから…

人型の水柱百本と、同じ大きさで円柱の柱百本を

水面に立てられるかな?」


碧衣は余裕の微笑みを浮かべて答えた。

「そんなの、簡単よ ――

で、どちらの柱を射抜くのかしら?」


紗良も余裕の表情で微笑んで答えた。

「もちろん、円柱の方だよ」


琴葉が私の隣に戻ってきた。

「なんか、凄いのを見られそうですねー」


私と曹英は頷き、私たちは期待の表情で二人を見つめた。


碧衣が銀の鉄扇を開き水平にし胸の高さまで持ち上げた。

紗良は弦を引いたまま、弓を下向きにし静かに構えた。


碧衣が鉄扇の上で手のひらを開くと、川面に無数の人型と円柱の水柱が立つ。

刹那、その方向に紗良が向き弦を離すと、

青白い光を伴った百本の矢が円柱の水柱だけを射抜く。


パシャ …


一斉に円柱の水柱だけが射抜かれ、崩れる音。

残りの水柱を確認していたのか、お互いに頷き、再び矢が放たれる。


パシャ …


残りの、人型の水柱が崩れる音。


よく見ると、四角柱の水柱が一本だけ残っていた。


紗良が碧衣を見て言った。

「何、悪戯しているの?」

碧衣が「気付いた?」と言った。


紗良と碧衣の笑い声が聞こえてきた。

多分、悪戯で四角柱の水柱も混ぜていたみたいだ。


そして、新たな練習を繰り返し始める二人だった。


コツ、コツ、コツ ――


後ろから足音が聞こえたと思ったら声をかけられた。

振り向くと、美優と澪、長い筒を持った麓沙と尚香だった。


美優が澪に言う。

「凄い成長をしているわね、あの二人…

でも、あの二人がいないと守りは脆弱になるわね」


澪はニヤリと笑い琴葉に声をかけた。

「碧衣に川底の土で土壁を作るように言ってきて」

琴葉は頷き、碧衣の肩に移動し、澪の言葉を伝える。


暫くすると、大きな土壁が長江の川面に立ち上がった。


静かに麓沙と尚香が前に出て、筒を構えた。


ズドン!!


土壁の上の方に無数の穴が開き、崩れた。

そしてほのかに硝煙の香りが漂う。


何ごとかと走り寄ってくる、紗良と碧衣。


続けて大きな音が、夜の長江に鳴り響く。


ズドン!!――


ズドン!!――


ズドン!!――


完全に土壁が崩れ落ちた。


澪は私たちを見て、微笑みながら話す。

「これが最後の置き土産よ」


澪は私たちとの別れを感じているのか、寂しい顔をしたが、

直ぐに、元の表情に戻り黒筒の説明をした。


「この黒筒は一度に十個の濃縮オリーブ弾を打ち出すわ。

そして、連続で三十回放つことが出来るのよ」


曹英が聞き返した。

「のうしゅくおりーぶだん?」


澪は微笑みながら答えた。

「曹英は好奇心旺盛ね。

濃縮オリーブ弾は当たった物の中にめり込み、

そして破裂、引火するの」


私は目を見張り澪に尋ねた。

「人に当たるとどうなっちゃうの」

「もちろん中で引火、当たった人は消えてなくなるわ…

そして火のついた油が周りにも飛び散るから、周りにも火が移る」

「そんな、恐ろしい武器…誰にでも持たせると危ないのでは?」


澪は私たちを見て話した。

「実はこの筒は作るのに特殊な技術が必要なの。

まあ、私しか作れない代物 …

この世に六つしか存在しない。

美優、星愛、曹英、琴葉、麓沙、尚香に渡すわ」


私は黒筒から濃縮オリーブ弾が入った箱を取り外し、澪に尋ねた。

「この、箱の中身が無くなったらどうするの?」

澪は優しく微笑んで、私を見て答えた。

「黒筒は今の人の子には作れないけど、

弾が三十個入った箱は、洞庭湖の澪工房で作っているわ…

好きなだけ使って大丈夫よ」


私はできれば使わずに済ませたいと思いながら、

ゆっくり頷いた。


美優は澪を見つめて礼を言った。

「ありがとう、澪」

そして私たちを見て話した。

「これで、紗良や碧衣がいなくても守りは万全ね」


私たちは頷き、黒層鋼製の黒光りする黒筒を手に持ち、その重厚感を感じ、

気持ちを引き締めた。

初夏の河風はまだ冷たく、興奮した頭を冷やすには十分だった。




◆荊州・襄陽 ◆


荊州の劉備の謁見の間では、劉備と孔明が額を寄せて話していた。

そして、琴葉蜘蛛が天井の梁でその様子を見ていた。


(ふふふ、皆が旅の準備や修練に励んでいる時、

私もこうやって、諜報活動をしているのですよ…

皆は勘違いするけど、何もしていないわけではないのですよ。

でも、いつも一人だと、ちょっぴり寂しいな)


劉備と孔明は、既に琴葉が梁に来ていることに気付き、

劉備が琴葉に優しく声をかけた。


「琴葉様、蜘蛛の姿ではなく――

一緒に茶を飲みながら話を聞いてください」


(まあ、それもそうね。

あの二人は何故だか私の気を感じるみたいだし…)


蜘蛛の糸を出しながら床に降り、


ポン ――


白い煙を出しながら、琴葉の姿に戻り、用意された椅子に座った。

そして、琴葉は劉備に髭だるま(張飛)のことを尋ねた。


「今日は髭だるまは、話し合いには参加しないの?」


劉備に変わって、孔明が答えた。

「これから、人を救出する話をするので、

先ずは私と劉備様で、その方法を話し合うところなのですよ」


琴葉は劉備の膝の上を見て少し考えて、劉備に声をかけた。


「ふーん、じゃああなたの膝の上に座るね」

と言い、琴葉は劉備の膝の上に座りニコニコ顔で呟いた。


「まあ、まあ、座り心地の良い膝ですね」


劉備は琴葉が膝の上に座っても動じることなく、琴葉の頭を撫でた。

そして、真剣な面持ちになり孔明の報告に耳を傾けた。


「劉表が病に伏しているようで、劉琦から相談を受けました」

劉備も知っていたのか驚く様子はなく、話を促した。

「本来、第一子である劉琦が跡を継ぐのが習わしかと思うのですが…

蔡婦人の子劉琮を蔡氏一族が推す動きが強まっています」


劉備が頷き、口を開いた。

「劉表に劉琦は疎まれているという話もあるようだな」


孔明は頷き、話を続けた。

「このままでは命も危ういと考え、

江夏太守として夏口に赴任することを勧めました」


劉備は頷き孔明に尋ねた。

「して、劉琦の反応はどうだった?」

「はい、複雑な表情を浮かべつつも、了承を得ました」


劉備と孔明は神妙な面持ちになり、劉備が先に口を開いた。

「だが、芽は摘んでおきたいもの…

私も劉表には世話になっているから、表立っては動けないな」


その時、低い上空を流れ星が劉備邸に近づき、

一筋の光が庭を横切り、風が空気を静かに揺らした。

風に乗り女神の気が謁見の間に流れ、孔明が微笑んだ。


「孔明よ、あなた姑息ではありませんの?

琴葉を呼び寄せて、私に気付かせるようにしましたでしょ」


劉備と孔明、琴葉が声のする方を向くと、華蓮が立っていた。

劉備と孔明は深くお辞儀をし、琴葉は嬉しそうに手を振った。


華蓮が怪しい微笑みを浮かべ、口を開いた。

「話の内容は、琴葉の目と耳から伝わっているから、分かっているわ…

夢咲連環府に護衛を頼みたいという事で良いのかしら?」


孔明は真剣な面持ちで頷いて、答えた。

「はい、夢咲の商船に乗せてもらえばと考えております」


華蓮は孔明を見て、口を開いた

「あなた、夢咲が星貨幣を広げるために、

拠点を置くことを見通しているわね。

面白い、夢咲は夏口にも拠点を置きたいと考えているわ…

良いでしょ、協力しましょう」


劉備と孔明は恭しく頭を下げ、孔明が華蓮に願い事を言う。

「そして、もう一つお願いがあります…」

「分かっているわよ、澪のことね」

「はい、そろそろ私の師匠として帰ってきて欲しいのです」


華蓮は少し考え提案した。


「今から一週間後、江陵に劉琦を連れて来れるわね…

但し条件がありますわ」


孔明が答えた。

「劉琦が夏口太守として夏口に赴任の命を受けていることですね。

それと、夢咲が夏口に拠点を置く許可が欲しいという事ですね」


華蓮が満足気に微笑み、頷いた。

「夏口太守じゃないと意味がないことは分かっていますわね。

私にとって、人の子の命なんてどうでも良いこと…

澪星で江陵から夏口を往復するだけでも、良い宣伝になるわね」


そして、少し寂しげな表情を浮かべて話を付け加えた。

「澪は江陵で降りて、あなた方のところに向かいますわ。

女将と女官の護衛をしっかりつけてくださるかしら?」


劉備と孔明は深く頭を下げ、同意することを示した。

華蓮が二人を見て澪の事を考えていた。


澪が夢咲に客員技師として来て、私や紗良、琴葉、碧衣、曹英に大きな影響を与えた。

それに、夢咲が大きく花開くために、色々な物を創造した。

創造神としての澪の力は夢咲にはとても大きかった。


それに、華蓮は会うことが出来なくとも澪を感じることが出来た。


「澪とあの子たち寂しがるわね…

これで夢咲とは疎遠になるし、私も寂しくなるわね」


ここに、今から一週間後に星環征途旅団の旅立ちの日と、

澪との別れの日が決まった。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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