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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第46話 曹家と孫家の模擬戦


曹操は中央集権の強化のため、建安13年(208年)6月に、今までの三公(司空・司徒・司寇)を廃止し、丞相・大司馬に権力を集中させるなど、政府機構の大改革を断行していた。

そして、荊州牧の劉表が背中に疽(悪性腫瘍)を患い、その後継者を巡り、本来は劉表の長子である劉琦が跡目を継ぐのが筋であるが、劉表の後妻である蔡氏や蔡瑁、張允らが弟の劉琮を後継者に擁立しようとし、画策を始めていた。

北方の統一を果たし、次は南の荊州を睨む曹操。

正に時代は大きく動こうとしていた。


その時代の流れにいち早く反応したのが、夢咲の五華たちだった。


◆洞庭湖・君山楼 ◆


六月中旬の君山楼に、妃良、芳美、理沙、美優、華蓮の五華が集まっていた。


君山楼の涼風に混じるお茶の温もり、紅茶の湯気、木漏れ日が差し込む音――

卓には紅茶の香りが漂い、初夏の朝の陽に木々の緑が映えていた。


妃良が今回のお茶会の目的を話した。

「三公(司空・司徒・司寇)を廃止して、丞相に権力を集中させたわね」


芳美が話を継いだ。

「そうね、北方統一の見込みが立ったから――

思いきった政治改革を断行しているようね」


華蓮が魏の軍事状況について話した。

「今や、武具、馬、兵量をかき集めていますわ――

いつ南下してもおかしくない状況ね」


理沙が華蓮に尋ねた。

「南下となると、荊州の劉表だね。

劉表は病に伏していると聞いているが、転生期に入っているのか?」


華蓮は頷いて答えた。

「背中に疽(悪性腫瘍)で八月には冥府に旅立つわよ」


妃良が目を細めて美優に問いかけた。

「七月、八月は私たち夢咲星環府が江陵の地に拠点を置く機会でもあるわね――

星環征途旅団はその頃には動けるのかしら?」


美優は微笑み頷いた。

「澪や黄月英の指揮で、澪星も彗星も完成間近で――

もう、物品の積み込みは始めています」


澪と言う名を聞いて、華蓮は複雑な表情を見せた。

(澪。あの娘しっかりやっているみたいね…許されるなら会いたいな)


妃良は澪の変化に気付きながら、野暮なことは聞かないことにし、

美優にさらに質問した。


「ところで、劉表には二人の子がいるでしょ…

江陵を攻略する上で、どちらと交渉するのかしら――

それとも他の人物を考えているのかしら?」


美優は美しい目に光を宿し答えた。

「どちらも、荊州からはいなくなる人物。

先ずは劉備、その後は南下してきた曹操かしら…」


芳美が頷き同意した。

「そうですね、私もその二人と交渉するのが得策と思います」


一同が頷いた。


妃良が瞳に怪しい光を宿し、華蓮に質問した。

「断絶神である華蓮は、曹操の南下の結末は知っているんでしょ?」


華蓮も目に怪しい光を宿し、含み笑いをしながら答えた。

「ウフフフフ、勿論どこで魂が一番消えるか知っているわよ――

十一月と十二月、赤壁で曹操軍の兵士の魂の多くが冥府に帰るわよ…

残念ながら、断絶神の私が頂ける魂はごく僅かかしら」


茶器の席に、涼しい風が流れ、新たなる道を記した。


妃良がにっこり笑い美優に聞いた。

「面白いわね…

ねえ、星環征途旅団は九月には鳥林――

そして十月以降は赤壁の上にある――

夏口…それに樊口に移動し攻略できるかしら?」


美優は余裕の表情を見せる。

「澪星と彗星の二隻があれば、余裕ね。

しかも、戦の最中だから、攻略するのもかなり楽だと思うわ――

星愛、曹英には、いい勉強になるわね」


妃良は口に手を当て、微笑みながら皆に考えを伝えた。

「曹操の動きに便乗しない手はないと思います――

私たちは曹操より先回りし、江陵、鳥林、夏口、樊口の順に拠点を置いていきます」


他の四人の女神は口を揃えて「良いわね」と言った。


美優は楽しそうに微笑み、独り言をつぶやいた。

「あの娘たち、この話を聞いたらどんな反応を示すかしら――

きっと、大喜びするわね」


華蓮も遠くを見て微笑んだ。


「星愛たちが本当に動き始めたら…面白い人形劇が観れましてよ――

ウフフフフ」


大きな決め事をした後は、女神たちの雑談が始まる。

君山楼のお茶室からは夜遅くまで、女神たちの笑い声が絶えなかった。




◆沙市の澪星食堂 ◆


澪星の建造は帆柱も入り、帆を張る作業と内装のみとなった。

私たちは澪星の食堂に籠り、江陵への出立準備に明け暮れていた。


今日は琴葉が持ってきた江陵の地図を睨み、拠点をどこに置くかを決めていた。


厨房では、昼食の仕込みなのか、ニンニクの焦げる香りが漂っていた。


澪が皆に伝えた。

「五華のお茶会で八月までには、

江陵に拠点を置くことが決まったみたいね」


(えっ、君山楼のお茶会の内容が何で澪にはわかるの)


私は、澪がどんな方法で、

情報をいち早く手にしているのか気になり聞いてみた。


「澪さん、五華のお茶会は君山楼で今行われているのに、

どうしてそんなに早く分かるの?」


澪は悪戯っぽい笑顔を見せて答えた。


「それはね、あなた達の星紡ぎの呼吸と一緒で――

私たちには華の呼吸があり、どんなに離れていても分かるのよ」


(まさかここで、全員女神だからとは言えないわよね)


紗良が頷き、澪に質問した。


「じゃあ、私たちも星紡ぎの呼吸の修練を積めば、

離れていても意思疎通ができるの?」


澪は苦笑いを浮かべ答えた。

「ええ、できるわよ」


(人の子の能力は良く分からないのよね――

ここはできると言っておいた方が、自信にもなるし得策よね)


「ところで、碧衣ちゃん――

銀の鉄扇を使って、湖や堀を作れるようになるまで、どのくらいかかりそうかしら?」


澪が尋ねると、碧衣は腕を組み、少し考えてから答えた。

「多分、二週間あれば、できるようになると思います」


(碧盾の聖女(へきじゅんのせいじょ)碧衣ならこの大陸を真っ二つにすることもできそうだけど…

やっぱり人の子としての碧衣ならそのくらいかかるのかしら)


澪はにっこり笑い、話した。

「上出来ね、拠点を置く七月には間に合いそうね。

碧衣ちゃんには長江から水を引いて、湖と街の周りに掘りを作って欲しいの。

出来るわよね?」


碧衣は地図を見て湖の形を思い描き、自信に満ちた表情で答えた。

「立派な湖に、堀を作って見せます」


「うん、いい顔しているわね」


澪は、碧衣の成長を見られて優しく微笑んだ。

碧衣の返事に満足すると、今度は曹英と孫尚香に視線を移した。


「さて、五華の予測だと十一月から十二月にかけて、

赤壁で曹操軍と孫権・劉備連合が戦をするわ」


曹英も孫尚香も、夢咲の一員になっているので慌てた様子はなく、

むしろ涼しい顔で澪を見つめていた。


二人の表情を見て、ニヤリと笑い澪が話を続ける。


「この戦で、曹操は戦に敗れ敗走することになっているわ」


皆の顔が驚き、私は思わず質問した。


「えっ、どうしてそんなことが分かるの?」


「それはね、私たち夢咲は星紡ぐものでもあるの…

五華の占星術が将来を映し出したのよ」


(まさか、ペルセポネの転生者予約名簿を見て、

予想を立てたなんて言えないわよね…

ここはお茶を濁すしかないわよね)


怪しげな澪の答えに、全員が納得し頷いた。

そして、澪は話を続けた。


「赤壁で敗れた曹操は北方へと敗走する――

さて、曹英はこの時、殿しんがりをどの地に置くかしら?」


曹英は曹兄のことを思い出し答えた。

「やはり、北方への陸路の入り口となりえる江陵に部隊を置くでしょう。

城壁に守られたこの地は、守りやすいのも一つの理由になります」


澪は頷き、さらに質問をした。

「では、どの武将を置くかしら?」


「経験豊富で、城の守りを得意とする曹仁しかいないでしょう」

曹英は答え、澪はその答えに満足した。


(本当に、曹家の血を継いでいるのね)


そして、澪は尚香の瞳を見つめ問いかけた。


「そんな堅牢な江陵に孫権は誰を当ててくると思うかしら?」


尚香は頷き答えた。

「孫兄は、知勇に優れた周瑜を当ててくると思います」


「うん、いい読みしているわね」

澪は頷き、次の質問を尚香にした。


「周瑜はどのような攻め方をすると思うかしら?」


尚香はしばらく腕を組み考え、答えた。

「長江と陸路の補給路を断ち兵糧攻めを行うでしょう」


(孫家もいい血筋ね、孔明も本腰入れないと置いていかれるわね)


今度は琴葉を見て、質問した。

「江陵を見てきたと思うけど、どのくらい城の食料は持つかしら?」


琴葉は得意げに手帳を出し答えた。

「十か月から、長くて一年だと思います」


今度は私を見て質問した。

「戦の間、私たちは何をすべきだと思うかしら?」


私は自信をもって答えた。

「私たち夢咲の門は戦でも、常に開き、

行き場を失った民たちを受け入れるべきと考えます」


「そうしたら、拠点はどこに作るべきかしら?」

澪が私に尋ねた。

「城門の隣、または城壁の隣で、

後から碧衣が門を作ってもいいと思います…

弱い民たちに戦場を歩かせるわけにはいきません」


澪は満足そうに微笑み、最後に紗良に質問した。


「では、そこに拠点を作るべきだと思うかしら?」


紗良は、ゆっくり地図をなぞりながら答えた。

楓紙がすれる音を一同の目が追った。


「江陵城は北側は川、東側は交通の要衝、南は川がありません。

そして、西側は比較的開けた平地が広がっていて、

軍事的には防衛しやすく、

周瑜や曹仁の戦闘が集中する東側・北側から距離を取れます」


澪は満足して頷いた。

そして、次の課題を話し出した。


「次は、夢咲の街の構造をどうするかよね…

誰か案はあるかしら?」


紗良が澪に声をかけ、頷くのを見て話し出した。


「私の月弓は一度に複数の矢を放てるので、

死角がない堀の形が都合がいいと思います」


「具体的にはどんな形がいいのかしら?」

澪が紗良に尋ねた。

「星型です――

これならどの位置からでも相手に効果的な攻撃が出来ます」


澪は嬉しそうに微笑み、頷いた。


「うん、凄くいい案だわ…

各稜堡には、楓草畑、オリーブ畑、麦畑、澪式工房、牧場、船着き場とドッグ――

これなら長期の籠城にも耐えられるわね」


「ちょっと待って、ねえ、琴葉ちゃん、あなたのペンを貸してくれるかしら?」

琴葉が頷き、ペンを澪に手渡しながら尋ねた。

「やっぱり、書き物はペンの方が書きやすいですか?」


カリ、カリ、カリ ――

澪は楓紙に、琴葉から借りたペンで図面を書きだす。

食堂は奥で、昼食を作る音と、ペンが走る音が静かに聞こえていた。

他の者たちは、黙って澪が書いている図面をじっと見つめる。


「琴葉ちゃん、やっぱりこのペンは書き心地抜群ね!

これ、私に譲ってくれないかしら?」


(創世神話記録用ペン…やっぱりいいわ、この神器 ――

まあ、譲るなんて到底無理よね)


「いくら澪さんの頼みでも無理です…

これは私の大切な日記専用のペンなのです!」


(だよねー)


「はい、出来上がり!

これからは、この図面通りにあなた達の拠点を作っていきなさい」


そこには、堀に囲まれた六つの稜堡を備えた要塞の図画あった。

私たちは図面をのぞき込み、目を見合わせ、

希望に満ちた微笑みを確認し合った。


「澪さん、この街の構想図 ――

凄すぎます。

中央に夢咲星環府と周りには夢咲五業院が配置され、

さらに、職人・農民・商人が暮らす生活圏、

そして、各稜堡には生産の基盤が配置されている…

私、早く街を作ってみたい」

碧衣は腕を組み、興奮していた。


紗良も頷いた。

「この形なら、本当に死角がなく守りやすい地形ですね」


曹英が目を輝かせ提案した。

「街道と城門に直結する道には、貸出できる店舗と倉庫…

そして宿泊施設を隣接させるの」


私は宿泊施設に目を輝かせた。

「もちろん、温泉施設も大切ね。

自由市場にして、旅人や旅の商人も立ち寄りやすくなり、

星紙幣の流通拠点にもなるわね」


尚香が「劇場も忘れないでよ…

全ては劇場から始まる。

最初に作る施設なんだからね」

と笑いながら言った。


澪が微笑みながら、図面に名前を記入した。

「『星澪郭せいれいかく』。

うん、我ながら良い名前が付けられたわ」


皆は笑いながら、澪に抱きついた。


「あなたたち、どうしたの…」

私は目を潤ませ、「ありがとう、澪さん」と感謝の言葉を口にした。

皆も、肩を震わせじっと寄り添っていた。

皆の温もりを感じ、澪の頬にも、一筋の涙が流れた。


そして、今の感情に合わない寂しい顔を浮かべた。

(二週間後には、孔明も今の情勢に気付き、

きっと私のもとに迎えをよこすかな…)


やがて来る別れを考える澪だった。

お昼を食べにくる、衛女や工女の話し声が聞こえてきていた。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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