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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第41話 澪


朝早くからドアを叩く音が聞こえた。


「開けてー、まだ寝ているのー!」


私は、半身起こして、眠い目をこすりながら周りを見た。

他の四人はまだ寝ていたので、起こさないように寝床をゆっくり出た。


(こんな早くから、一体誰だろう…若いお姉さんの声ね)


私は扉のつっかい棒を外し、開き戸を開けた。


「おはよー、星愛!ゆっくり眠れた?」

「えっ、澪さんじゃないですか、こんな早くからどうしたのですか?」

「実はね、曹英ちゃん用に楓生地のトガを持ってきたのよ」

「楓生地って、あの楓草から作った生地なのですか?」

「そうなの、楓草の茎は、紙幣の原料の他に、洋服の生地にもなるんだよ」


私たちの声が、他の四人を起こしてしまった。

四人も起きて澪を取り囲んだ。


「はい、これ」

澪は、曹英にトガを差し出した。

「えっ、これを私にですか?」

曹英は頬を赤く染めてトガを受け取った。

「曹英ちゃん、ちょっと来てみましょーよ」


澪は曹英の着替えを手伝いながら話しかけました。

「昔はね、一枚の布を身体に巻き付けて着ていたのだけど、

今はチュニックの裾を長くしただけだから…」

「澪さん、上からかぶって着るだけなのね。

この帯を巻き付けるのかな?」

「そうよ…お似合いね」

「エヘッ、そうかな…これで私も夢咲の人かな」


青地に縁は、白い糸で水をイメージした刺繍の入ったトガを着て、

両手を広げて、くるくる回る曹英。


「ねえ、みんな、私似合っているかな?」

笑顔で私たちの方を向いて、喜ぶ曹英。


私たちは皆、似合っているよー、と声をかけた。


―――


私は、竈に火を入れてお湯を沸かし、お茶の準備をした。

皆は、おしゃべりをしながら、卓の周りに座り、私が作る朝食を待っていた


碧衣が、「今日は隅中(九時)に広場に集まる様に、お達しが出てたね」

と言うと、紗良がお茶をすすりながら話す。

「昨日、会議があったから、これからの夢咲について、五華から話があるんではないかな」

と、静かに話す。

琴葉が「きっと、会議の後の五華のお茶会で話し合ったんだよ」

碧衣がぽつりと呟く。

「許都では星愛たちは美優様と夢咲舞踊団のみんなと旅に出るけど、

その間、私は一人になるのかあ…寂しくなるな」

紗良が碧衣に話す。

「最初は洞庭湖と沙市の近くから、範囲を広めていくらしいから、

ちょくちょく会えるさ」と、声をかけた。


―――


私は竈の前で料理を終えて、盛り付けをしようとしたとき、

ギュッと抱きしめられ、頬にキスされました。

背中に柔らかい物を感じましたが、きっと曹英だと思い窘めた。


「もう、止めなさい曹英!いくつになったの」

「十八よ」

「えっ」

驚いて顔を見ると、澪がニコニコ顔で抱きついていました。


「澪さん、何するんですか?」

「だって、星愛はいつ見ても可愛いから、我慢できなかったの」


それを見ていた、紗良と曹英は間髪入れずに怒鳴りました。


「私の星愛に何するの!!」


星紡ぎの呼吸の練習の賜物で、息はぴったり合っていました。


―――


朝食後、私たちは中央の広場へ足を運んだ。

私の左右は紗良と曹英がしっかりガードし、その光景を見て澪は苦笑いを浮かべ、一言言った。

「あなた達三人、仲が良いわね」

紗良が、「澪さんは曹英以上の危険人物です」

「ちょっと、どさくさに紛れて、人を危険事物扱いしないでよね」

と、曹英は頬を膨らませていた。

私は曹英の膨らんだ頬を指で押して、笑うしかなかった。


(あら、曹英の頬って、思った以上に柔らかく、気持ちがいいのね)


そんなことを思い、少し頬を赤らめた。


広場には、もう多くの人たちが集まっていた。


規律に厳しい碧衣が、「ねえ、そろそろ隅中の鐘が鳴るわよ」と言うと、


カーン!


と、隅中(初刻九時、正刻十時)の諸国を知らせる鐘がなった。


その鐘に合わせて五華が天幕から姿を現した。


紗良が「あら、今日も華蓮の姿が見えないわね」と言うと、

碧衣が「昨日は、何か予定があると言う事だったし、その用事を済ませていると思うよ」

と、応えた。

その会話を聞いて、澪の表情は少し寂しい影を宿した。


妃良が手を上げると、広場に集まった人々は静まり返った。

その後、竪琴と縦笛が奏でられ、五つのバラの花びらに囲まれた二つの星が刺繍された、大きな旗が掲げられました。


妃良が大きな声で話し出しました。

「私たちは国を持たない流浪の民でしたが、ここに『夢咲星環府』の設立を宣言します。

この旗印の下に集うのは、個人の自由です」


広場は大きなどよめきと、歓声、拍手が鳴り響いた。

妃良が再び手を上げると、広場は水を打ったように静まり返ります。


この後は、『夢咲五業院』、『星環征途旅団』の話をしました。

人々の目は希望に満ち溢れていた。


理沙が最後に人々に大きな声で告げた。


「沙市の掲示板に今の話は掲示した。

字の読めぬ者は、胸に夢咲星環府の旗印を付けた、黄色のトガの女衛に聞くが良い。

以上!

それと、星愛、紗良、碧衣、琴葉、曹英、澪は天幕内にくること」


私たちは顔尾を見合わせ、私が皆に聞いた。

「何か心当たりある?」

皆は首を振り、琴葉が言った。「まあ、行けば分かるでしょ」


一斉に笑い、私たちは天幕へと歩を進めた。


―――


天幕の中では、妃良、芳美、理沙、美優が談笑して私たちを待っていた。


私たちが天幕に入ると、澪は妃良の横に座り、私たちは対面に座った。


妃良が口を開いた。

「碧衣、まだ掲示板見ていなくて知らないと思うけど、あなたも星環征途旅団に加わってもらうことにしたわよ」


碧衣の表情が一瞬喜んだが、その後疑念の表情が浮かんだ。


「えっ、お母さん、本当なの?でも、どうして…」

「澪が設計した新しい船の操船技術を学んで欲しいからよ。良いかしら?」


今度は、心から喜んでいる表情に変わり、笑顔で返事をした。


「妃良様、謹んでお受けします」


妃良は満足げに微笑み私たちを見て、続けて本題を話し出した。


「実はね、私たち、紙幣を作ると言ったけど、困ったことに、紙幣の単位や価値を考えていなかったのよ…

澪ちゃん説明してくれるかしら?」

澪は頷き説明を始めた。

「原版を作っていたのだけど、肝心の単位が決まっていなくて…

数字の原版が作れずにいたの。

で、立案者の星愛の意見が聞きたくて、許都から帰るの待っていたのよ」


私は驚いて聞き返した。

「単位ですか…総帥の妃良様が決めてみてはいかがですか?」

「うーん、それでは面白くないと思うのです」

どうやら、五華の女神たちには神の気まぐれが発動していた。

困った顔をしている私を見て理沙が助け船を出した。


「実は私、考えていました。

星愛の星から、シンと言う単位はどうでしょうか?」

妃良が満足げに頷いた。

「いいわね、短いし、響く言葉ね」

他の者も満足げに頷いていた。


更に曹英も続いた。

「私、南州夜影賊衆の本拠地を開放した時に、囚われの身になっていた物に配給されたパンを忘れられないでいました…

私の握りこぶし大のパンでしたが、空腹を癒し、心を温め、希望をもたらせてくれました。

その、希望のパンを最小単位にしてはどうでしょうか?」


妃良は満足のいく回答が返ってきたためか、顔をほころばせました。


「希望のパン一つが一星。良いわね、皆はどう思うかしら?」


皆も、納得がいっているようで、微笑み頷きました。


妃良が澪に尋ねました。

「澪、数字のところの原版を作って、明日には紙幣の印刷できるようになるかしら?」

澪は余裕の表情を見せて頷いた。

「大丈夫です。それと、しばらく星愛達を借りてもいいかしら?」

と、妃良に聞いた。

「もちろんいいけど、何をするのかしら?」

澪は私たちの方を振り返り言った。


「あなたたち、私が工房巡りに招待してあげる。

星環征途旅団の一員として旅する前に、今の澪様と夢咲星環府の力を肌身に感じることは、大切だと思わないかしら?」


私たちは顔を見合わせ、言葉の意味を理解し、大きな声で応えた。


「はい、行きまーす!!」


星紡ぎの呼吸が効果を発揮し、一糸乱れぬ返事をする五人だった。


―――


澪と五人が訪れたのは女神ヘラの神殿だった。

神殿には沙市の一般の人も、祈りに訪れているようで、

トガやチュニックを着たもの以外に、漢服を着たものも多くみられた。


澪は自慢げに話した。

「ここが、神殿よ。漆喰の白さが映えて、とても綺麗でしょ」


中に入ると、民が女神ヘラの像の前で両膝を突き、祈りを捧げていた。

壁の漆喰の冷たさを感じ、線香の香りが漂っていた。


私たちは女神ヘラの像の前に立ち、その姿をまじまじと見た。

私は思わず口を開いた。

「ねえ、何だか妃良様に似ていると思わない?」

紗良も顎に手を当てて頷く。

「確かに、似ていると言えば似ているけど…

碧衣、妃良様はあなたのお母さんでしょ、碧衣はどう思う?」

「私のお母さんの方が美人で、優しい顔をしているよ」

琴葉が「そうね、妃良様はもっと小顔美人よね」といったので、

曹英を含めた五人は、女神ヘラと妃良は関係ないということで納得した。


そのやり取りを見ていた澪は、口に手を当てクスクス笑っていた。

「全く、変な子たちね…どう見ても妃良とヘラは一緒でしょ」

と、五人には聞こえない声で呟いた。


澪を先頭に妃良の後ろの方に回ってくると、

卓に置かれた虹色に輝く、子供の拳くらいの玉の周りに、昔ながらの白い一枚の布を巻き付けた巫女が六人立っていた。

三人一組なのか、それぞれ一人が箱を持ち、二人が腰までの高さの白杖を持っていた。


澪がニコニコ顔で話す。

「ちょうど今、星紡ぎの玉の交換の時間ね」

と、三人の巫女が虹色の星紡ぎの玉を木製の箱に収納した。

箱を閉じると、カチッと金属音がし、巫女の安堵の息が聞こえた。

次に、も片方が透明の星紡ぎの玉を置いた。

置かれた球は、少しずつ光を宿しているように見えた。


虹色の星紡ぎの玉を持った三人は、澪に一礼して裏手に歩いていった。


澪が説明を始めた。

「星紡ぎの玉はね、祈りによって生まれる星の粒子の一部を吸収しているのよ」

私は、そんなことをして女神ヘラ様が怒らないか尋ねた。

「大丈夫よ、ヘラはとても優しい女神だからね」

と言い、更に説明を続けた。


「星の粒子を吸収して、虹色の星紡ぎの玉は、紙幣の数字を印刷するためのインクの側に置くのよ」


曹英が興味ありげに質問した。

「インクの側に置くことで、星の粒子が吸収し、紙幣の数字だけが光るのね」


澪は頷き、曹英の頭を撫でた。

「曹英ちゃんは賢いのね、まるで神に仕える賢者みたいね」

というと、曹英はまんざらでもないような顔で、微笑んでいた。


澪が私たちを見て言いました。

「今日は工房見学はここまでにしましょうかしら…

これから造船所を見学して、新しい船に泊まるわよ」


私たちの目は輝き、私は喜びの声を上げた。

「えー、船に泊まれるんですか!?

凄い、とっても楽しみです」


私たちの喜ぶ顔を見て澪が満足げに言った。

「さあ、ついてきなさい、未来の英雄さんたち」


私たちは澪の後を追うように、歩いていきました。

澪の小さな身体が、不思議と頼もしく大きく見えた。


そして、巨大な船影が昼下がりの陽を受け、揺らいで見えた。




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