第37話 曹英の決意
曹英は会談後の曹操陣営の話をしてくれた。
曹操陣営では妃良、芳美、理沙、美優、華蓮を特に恐れていて、
でも、敬意も持ってして、五華と言っていた。
いつしか、『夢咲の五華』で知れ渡るようになっていった。
そして、曹操陣営との会談も無事終わり、私たちは迎賓楼に帰ってきた。
曹英は会談の後、ずっと私たちと一緒に行動していた。
曹英は自慢げに迎賓楼を紹介しながら、私たちを部屋へと案内した。
「私たちは、四階の奥の部屋を使えるようにお願いしたよ」
私は疑問に思い曹英に聞いた。
「えっ、四階の奥の部屋って、何か特別なの?」
「うん、寝所がとても大きいんだよ」
「大きいって、どのくらいの大きさなの?
「子供だったら、五人は寝れる大きさなんだよ」
「えっ、じゃあみんな一緒に寝れるのね」
「そう、だから私、曹兄に四階の奥の部屋を頼んだんだよ」
私たちと一緒に入れることが嬉しいのか、ニコニコ顔で話す曹英だった。
入り口の立派な扉を開けると、許都の全景が目に飛び込んできた。
『うおー!』、皆が思わず声を上げた。
そして、その景観に目を奪われていた。
今では、飛ぶ鳥を落とす勢いの曹操を象徴するような景観だった。
もう日が暮れたというのに、街の中を行きかう人々。
街の人々の声が聞こえていきそうな錯覚を覚える程だった。
灯りが碁盤の目のように並ぶ街は、まるで星々が地上に降りたようだった
きっと曹操は、自身の権力を象徴するために、この地に迎賓楼を立てたのであろう。
街の灯を見て、私はぽつりと呟く。
「なんか、街の灯り暗いわね」
隣で聞いていた紗良も頷いた。
「そうだね、これじゃあ、子供達やお年寄りは怖くて歩けないね」
それを聞いていた曹英は驚いて私たちの顔を覗き込んだ。
「ねえ、紗良、あなたたちが住んでいる君山ってどんなところなの」
「街の灯りだけで言えば、街路灯と呼んでいるオリーブ油灯が三間(凡そ5.4m)ごとに並んでいて、明るさが全然違うよ」
私が紗良の説明に補足を入れた。
「それに君山楼の周りのオリーブ油は、季節ごとに異なる花の香りが漂っていて、君山楼の周りはいつも花の香りで満たされているよね」
曹英は口を開け、しばらく黙っていたが、いきなり私に抱きついて、頬を摺り寄せてきた。
「私、あの灯りの中じゃなくて、星愛ちゃんの光の中で生きたいの…
私の星愛ちゃん、私をお嫁にして、君山楼で一緒に住もうね!」
曹英の行動を見て、いつものように紗良が怒ります。
「曹英、あなた近づきすぎ…離れなさい!」
そして琴葉が大笑いしながら手を叩き、碧衣が二人を諫めた。
「はあ、いつもこんな風に、みんなと一緒にいれたら良いのにな」
いつもの幸せな光景を見て、私は呟いた。
でも、そんな日々がずっと続くとは限らない…そう思うと、少しだけ胸が痛んだ。
◆迎賓楼・大鳳浴場 ◆
神軍の衣は身体の汚れを常に排出し、清潔を保てるようになっていました。
でも、行軍中、お風呂に入って、心もさっぱりしたいと思っていた私の希望で、
私たちはお風呂に行くことにしました。
曹英が自慢げに扉を開け、手を広げた。
「見て、ここが大鳳浴場よ!二十人は入れる檜木風呂が自慢なのよ」
琴葉がニコニコ笑いながら聞いた。
「えっ、すっぽんぽんの曹英ちゃんと、お風呂どっちを見ればいいの?」
曹英は顔を赤らめ両手で体を隠しもじもじした。
「もう、琴葉ったら、そんなこと言わないの…
みんな裸でしょ」
私はそう言い、曹英の手を引いて浴槽へと歩いていった。
先客がいたみたいで、直ぐに私たちの周りに数人のお姉さんたちに囲まれた。
「きゃあ!星愛ちゃんたちも来たんだね。
私が星愛ちゃんを綺麗にしてあげる」
「じゃあ、私は紗良ちゃん」
「私は琴葉ちゃん」
「碧衣ちゃん、いつも軍の指揮大変ね。
でもここでは私がお姉さんよ」
「あら、曹英さんも来ていたのね、お姉さんがきれいにしてあげる」
あっという間に、私たちは頭や体を洗われる羽目になった。
曹英が頬を赤くして、隣で頭を洗ってもらっている星愛に尋ねた。
「ねえ、星愛…夢咲の人たちってみんなこんな感じなの?」
「うん、仕事の時は、上下関係は厳しいけど、それ以外は家族だよ」
「ふーん、居心地いいね、家族か…」
曹英の身体を洗っている、李鈴々が話しました。
「私たちね、みんな戦で家族や大切な人を失っているのよ…
路頭に迷っていた私を妃良様が、夢咲で家族になろうといって救ってくれたの」
私の頭と背中を流している徐揚華が頷いて付け足した。
「夢咲は仕事が終われば、皆家族だよ」
と言い大きな声で笑った。
―――
湯に浸かると、檜の香りがふわりと鼻をくすぐった。
私たち五人は並んで檜木に両手を置き、その上に顎をのせ、湯船につかっていた。
曹英が私に話しかけてきた。
「皆、家族のように声をかけ、身体も洗うのも上手だし、夢咲にも皆が入れる大浴場があるの?」
「うん、温泉施設が十ヵ所以上あるよ」
「えっ、そんなにあるの…それに温泉って何?」
「温泉はね、地面に深く穴をあけて、そこから湧いてくるお湯を使った浴槽だよ」
「えっ、地面からお湯が沸くの」
「うん、それに木ではなくて、大理石って言う、白い石でできているんだよ」
「えっ、なにそれ…妃良様や星愛ちゃん、紗良ちゃんとかみんな彫りが深くて、美しい顔立ちしているけど、どこか他の国から流れてきた人たちなの?」
「うん、私のお母さんが言うには、もともと千七百年前にギリシャという国の人々がご先祖様なんだって」
「ふーん、そうなんだ…
こんな場所があるなら、私…もう魏に戻りたくないかも」
湯舟からのお湯は透明で心地よい温かさで、白い湯気越しに、綺麗な肌をした女性が入れ替わり、大鳳浴場に入って来ていた。
この様子を見るだけでも、お風呂に入り慣れているのが分かった。
曹英はますます、夢咲に入りたいと考えていた。
そして、曹英は皆に声をかけた。
曹英の話を四人は頷き、真剣に、時には笑い、熱心に聞いていた。
はたから見ると、可愛い子供たちがこそこそと秘密の相談をしているようにも見えた。
最後に私が言いました。
「じゃあ、明日の朝のお茶会の時に妃良達に話してみようね」
湯気の中で、五人はそっと手を重ねた。誰も声には出さなかったが、心はひとつだった。
皆が頷き、曹英を夢咲に引き抜き作戦が静かに動き出した。
湯から上がった私たちは、髪を乾かしながら、明日の朝のことを話し合った。
「ねえ、夢咲の五華はどうしてお茶会が好きなの?」と曹英が首をかしげる。
琴葉が笑いながら答えた。
「理由なんてないよ。その五人は、気まぐれで、優雅で、ちょっと変わってるの」
「でもね」と紗良が続けた。
「お茶会の席では、どんな話でも聞いてくれるの。戦のことも、夢のことも、恋のことも」
碧衣が頷いた。
「だから、曹英のことも、きっと真剣に聞いてくれるよ」
私は浴場の出口で立ち止まり、振り返った。
湯気の向こうに、まだ笑い声が残っている気がした。
「明日の朝、夢咲の未来が少し変わるかもしれないね」
曹英は、少し緊張した顔で頷いた。
「うん、私…ちゃんと話す。夢咲に入りたいって」
その夜、私たちは大きな寝床で五人並んで、星の下で眠りについた。
そして、朝が来た。
―――
◆ 迎賓楼での五女傑のお茶会 ◆
迎賓楼の中庭には、円卓を囲み、夢咲の五華が揃っていた。
池には白い雲が流れ、その周りには色とりどりの花が咲き誇っていた。
五華はそれぞれ、異なる色の衣をまとい、香り高い茶を前に座って談笑していた。
私と曹英、紗良、碧衣と琴葉が五華の前に出て頭を下げた。
妃良が微笑みながら私に言った。
「さて、今日は誰が何を語りに来たのかしら?」
私は一歩前に出た。
「曹英が、夢咲に入りたいって言ってるの」
女神たちは顔を見合わせ、嬉しそうに笑った。
妃良が、「お茶の香りが、いい決意を運んできたようね」
と言った。
こうして、曹英の夢咲入りをめぐる、優雅で少し不思議なお茶会が始まった。
―――
妃良がお茶をすすりながら微笑み曹英に聞いた。
「曹英が夢咲に入るのは、皆大歓迎よ」
曹英がお辞儀をし、妃良が言葉を続けた。
「でも、曹操がこんなに賢くて、可愛い妹を手放すとは思えないわね。
簡単には許してくれないと思うけど、曹英には何か考えがあるの?」
曹英は、女神五人に昨日、大鳳浴場で話した内容を伝えた。
「私と星愛、紗良、碧衣、琴葉で舞踊を曹兄の前で披露するの。
そこで、私たちの絆の深さを見てもらうの」
美優がニコリと笑う。
「皆、筋は良いから形になると思うけど、
練習は三日間になるわね…かなり厳しい練習になると思うけどその覚悟はあるかしら?」
私たちは静かに頷いた。
それを見た美優は妃良の方を向いて、話した。
「私はこの子たちで踊れると思うわ。
ただ、ここの将の魂は大分擦れているから、掃除しないと素直には受け入れないと思うの」
理沙が同意する様に頷く。
「最初に、麓沙、貂蝉、尚香の歌劇で、『アクエス神話』を上演するのはどうだろう?」
芳美が頷く。
「そうね、アクエス神話で心を浄化した後がいいわね」
美優が頷く。
「アクエス神話、星歌の聖女・麓沙、星舞の聖女・尚香に心奪われ、
色欲の聖女・貂蝉に魂を覆う心が脱がされ…
純粋な魂がむき出しになる」
華蓮がニコリと微笑んだ。
「そうそう、あそこの陣営にはアダマスの輝きを持つ魂の者が何人かいたわよね、
浄化してあげれば、目ぼしい魂に、糸で印をつけられるかしら…
冥界で魂を探すのは骨が折れるので、これで探す手間が省けるかしら」
芳美が頷き、「アダマス級の者が二人いましたよね…
確か、荀彧、司馬懿という男でした」
華蓮が頷き話しはじめた。
「アダマス級の魂を持つものは非常に少ないのよ…
是非、女神に転生させて夢咲に呼びたいのだけれども、どうかしら?」
妃良は頷いて私たちを見て優しく言った。
「将来の夢咲のためにも、この計画は是非とも成功させましょう」
曹英の瞳が潤み、頭を下げた肩は震えていた。
◆魂の呼吸合わせ(1日目) ◆
いよいよ、私たち五人の特訓が始まった。
美優はお茶会を抜け、私たちは皆、迎賓楼の裏庭に集まった。
そこは、石畳が敷かれた静かな空間だった。
美優は左に麓沙、後ろに貂蝉、右に孫尚香を従え、足を組んで座っていた。
いつも微笑んでいる美優が、真剣な表情で私たちを見つめた。
「舞はね、技ではなく、魂の呼吸なのよ」と語り、まずは瞑想から始まった。
五人が円を描いて座る。
そして、星歌の聖女の麓沙が、歌を歌う時の呼吸法を私たちに教え、
星舞の聖女の孫尚香が舞を舞う時の呼吸法を私たちに教えてくれた。
周りの夢咲舞踊団の者たちも、熱心に話を聞いていた。
美優が呼吸法の意味について説明した。
「歌の呼吸と舞の呼吸を融合することで、舞台で互いの気配を感じ取れるようになります。
大切なのは、互いの魂を意識し、その気配を感じ取るの」
私たちは目を瞑り、互いの魂を感じ取ろうと意識を集中していました。
美優が、「目の前のオリーブ油灯の炎を皆の魂と思い、動きを汲み取りなさい」
と助言した。
すると私の目の前の炎が一段と明るくなり、皆の魂の波動の様な物を感じられるようになった。
昼過ぎには、曹英を覗く四人の前に置かれたオリーブ油灯の炎は力強い炎を宿した。
そして、曹英の魂が揺らいでいるのが誰にも感じ取れるようになっていた。
曹英の隣にいた琴葉が手を握り、伝えた。
「焦らなくていいよ。私たちは繋がって、曹英を支えているから」と言い、微笑んだ。
(あっ、少し曹英の心が静まったみたい)
私の呼吸法は少しずつ精度を上げ、曹英の魂の揺らぎもわかるようになっていた。
「曹英、いい感じに魂が落ち着いてきたよ」と声をかけた。
自然と、皆が隣合うものと手を繋ぎ輪となっていた。
やがて、曹英もそれぞれの魂が心の中で創造できるようになった。
すっかり日が暮れ裏庭に、曹英の前のオリーブ油灯が明るい光を放ち、
そして中央のオリーブ油灯は中心が青から暖色系の色を宿す、龍の瞳の炎を宿した。
◆型と感情の融合(2日目) ◆
空には星が残り、東の空が白みかけてきた。
迎賓楼の裏庭には一本のオリーブ油灯とその周りの5本のオリーブ油灯が一晩中灯りを絶やさず燃え続けていた。
周りのオリーブ油灯に照らされて、五人の影が揺らめいていた。
少女たちは、魂の呼吸合わせの鍛錬を陽が昇る前から静かに行っていた。
陽が昇るとともに、花の香りをのせた風が彼女たちを包んだ。
美優と聖女三人、そして夢咲舞踊団の面々が五人の少女を囲む形で並んだ。
美優が席に着くと私たちは目を開け一礼し、美優の言葉を待った。
美優が静かに指導を始めた。
「星愛、舞を踊るときどんなことを表現しようとしているかしら」
表現って…私は今まで、教わったことを上手に再現することを考えてきたので、思っていることをそのまま答えた。
「私は、教わった型を上手に再現することで精一杯です」
美優は真剣な表情で、私たち五人と夢咲楽団員に語り始めた。
「舞は感情の記憶をなぞるもの…自分の願いを込め、助け合い、融合させていくのよ」
私たちは、黙って頷くと、明後日の踊りのテーマと私たちのテーマを教えた。
「テーマは『夢は咲くよ』、大せつな親友の曹英の夢をみんなで咲かせてあげて」
そして、個人のテーマを教えてあげるわね
「星愛は『星紡ぐ者』、紗良は『月光の狩人』、碧衣は『未来の守り手』、琴葉は『絆の証人』、そして曹英は『星の胎動』」
私たちはその言葉の意味を魂に宿し、話し合い、私たちが協力した許都までの道のりを思い出し、その物語を舞で表現することにした。
最初は、動きが合わず、衝突も起きるが、美優が「舞は衝突を越えて、調和に至るもの」と諭した。
もう日が暮れようとした頃には、舞いに魂の呼吸をのせ、お互いの動きが感じ取れるようになっていた。
それは、五人が一人の踊り子になったかのようだった。
◆ 絆の証としての舞(三日目)
最終日は、五華が見守る中、迎賓楼の中庭で通し稽古をした。
緊張する曹英に私が声をかけた。
「私たちは一人じゃない。舞は、私たちの絆そのもの」
と語り、五人が手を取り合って五華の前へ。
舞の最中、風が吹き、灯花が揺れ、空に星の粒が舞う演出。
最後のポーズで、五人の手が星環を描き、空に光の輪が浮かぶ。
舞の最後、曹英の瞳に涙が浮かび、灯花の炎が彼女の魂に呼応するように揺れた。
それを見ていた妃良が「この舞は、魂の契りね」と微笑む。
夜空には、五つの星がきれいな線を描き、流れていった。
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