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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第36話 許都遠征 ~交渉~


荀彧、曹仁が曹丞相府に行っている間、水晶玉の琴葉蜘蛛が映し出す映像を見ながら、曹英を襲いに来た盗賊の話をしていた。


妃良が口を開いた。

「あの盗賊たちがいなければ、私たち今日は外で待たされ続けましたね」


美優が頷き華蓮を見つめた。

「本当に絵に書いたような展開、華蓮の人形劇なの?」


華蓮がじっと水晶玉を見つめながら応えた。

「あら、嫌ですわ、盗賊が現れたこと自体、神の奇跡ではないですか…

私の知らない神が奇跡を起こしたのですね…ウフフフ」


芳美が華蓮に非難の顔を向けた。

「もう、華蓮はいつも分からないことは、そうやってごまかすんだから…

子供の頃から変わってないわね。

でも、あまりにも出来過ぎていて気になりますね」


理沙が腕を組み華蓮に向き、聞いた。

「華蓮、いつもペルセポネとは、転生させる魂と断絶する魂の閾値の見直しや、魂の選別を巡って、いつも議論してるし、仲いいでしょ。

ちょっとペルセポネに頼んであの三人の魂をひっ捕まえて、事情聴取してきてくれない」


華蓮がにっこり微笑んだ。

「仕方ないですわね、

でも、神の知らない奇跡…気になるのでちょっと聞いてこようかしら」


空気が揺れ、華蓮の姿が霞のように消えた。


妃良が皆の方を向いて嬉しそうに話した。

「これで謎も解けるわね。

今回の件、私ですら解せなかったので…直ぐに華蓮、戻ってくるわよ」


冥界のことが分からない美優を見て、妃良が説明した。

「美優は芸術の女神だから、冥界には疎かったわね。

冥界と地上界では時間の観念が違うのよ…冥界の1年が地上の半日というところかしら。

だから華蓮が戻るのはすぐなのよ」


そうこうしているうちに華蓮が帰ってきた。

「魂、探すのが大変でしたわよ…でも、分かりましたわ」


理沙が華蓮に説明を促すと、話しだした。


「漢口の野営地で、丘に人影が現れたのを覚えているかしら?」


皆が頷く。


「その三人、南州夜影賊衆の残党で、曹英がいることを知っていたのよ。

でも私たち、二百人いるでしょ、曹英の周りに人がいなくなるのを待っていたのよ。

それで、城門前で曹英と従者三人になったので、賭けに出たみたいよ」


美優が華蓮に質問した。

「曹英一人のためにずっとついてきたの?」


華蓮は頷く。

「そおね、曹操の妹だから、人質としての価値が高いからね…

一生遊んで暮らせるわよ」


神の奇跡でなかったことに一同納得し、再び水晶玉に目を移した。


―――


水晶玉が映す、曹丞相府の階段を下る映像になった。


妃良が立ち、夢咲の兵士に号令をかけた。


「隊列を組みなさい!直に荀彧と曹仁が来ます」


言葉が終わるか終わらないうちに、馬の走る音が聞こえ、徐々に大きくなった。

馬が嘶き、急停止し、土煙が風に流された。


馬を飛び降り、走り寄ってくる荀彧と曹仁。

二人とも帯刀せず、丸腰だった。

七人の女神の前に走り寄り片膝ついて、頭を下げたまま荀彧が話し出した。


「大変お待たせいたしました。

曹操様は、ぜひお話をしたいとのことでした。

宴席も用意していますので、是非に迎賓楼へお越し願いたいとのことでした」


妃良は頷き優しく話します。

「荀彧さんと曹仁さん、帯刀もせずに…そこまで私共を恐れなくてもいいのですよ。

そのご厚意受けさせてもらいます」


「はは、では案内をさせていただきます」

と、荀彧は告げ、曹仁も後に続き馬に跨った。


馬はゆっくり迎賓楼へと進んでいった。




―――


前方に屋根に緑の瓦、梁は朱色、壁は白の五階建ての大きな建物が見えてきた。

荀彧の話だと、滞在期間中は使用人を含め自由に使っていいとのことだった。


迎賓楼の敷地には白の玉砂利と池に映る空、風に揺れる柳。

曹操の力の象徴のような造りで、入り口には使用人が頭を下げて並んでいた。


香が焚かれ、高貴な雰囲気を演出し、使用人もすべて女性との気の使いよう。

他に滞在者がなく、完全に夢咲の貸し切り状態だった。


私は行き届いた庭、建物の大きさに目を見張っていた。

「ねえ、紗良ちゃん、ここ凄いわね」


紗良も周りを見渡して驚いていた。

「曹操って、余程の権力者なんだね」


曹英が顔を朱色に染めた。

「兄の命令で、最近、建物の改築が進んでいたの。

この迎賓楼は私が孫権のところに行っている間に完成した建物よ」


建物一つ見ても、曹操の権力の大きさがひしひしと伝わってきた。


私たちは入り口を通され、昼食の準備が整っているとのことで、

そのまま大広間に通された。


私たちが許都に入ることが許され、僅かな時間なのに、

円卓には豪華とは言えないが二百人分の料理が並べられていた。

ずっと、野営での食事だったので兵士の顔は自然と笑顔になっていた。


使用人の毒味が終わると、食事が始まった。


夢咲では仕事については厳しいが、それ以外の時は上下関係もなく、自由に過ごせる風土だった。

また、三週間近い長旅で緊張していた精神が解放されたのか、食事が始まると広間は女性の声と笑顔で満たされた。


荀彧が妃良の横に座り、これからの事を話していた。


私と紗良、碧衣、琴葉、曹英は同じ円卓に座り話を楽しんでいた。


曹英がこれからの事を話し出した。

「曹兄は忙しい人だから、今夜までには結論を出すと思うの」


紗良が曹英を見つめました。

「じゃあ、星愛の提案も今日するのかな?」


(えっ、どうしよう、難しいことは母(芳美)が話すと言っていたけど、私説明しないといけないよね)


曹英が私を見て頷いた。

「私の、星愛ちゃんだから、絶対に大丈夫よ」


紗良が反論した。

「どさくさに紛れて、星愛は、私の星愛だからね」


碧衣がたまりかねて二人の間に入った。

「ほらほら、お二方、何を揉めているの…美味しく食べようよ」


琴葉がニコニコしながら手を叩きます。

「紗良ちゃんに、曹英ちゃん仲がいいね。

この琴葉ちゃんが、せーんぶ、二人のことは見てきたからね。ウフフフフ」


紗良と曹英は顔を赤らめ、下を向きました。


(あわわわ…この四人を見ていると、私の説明もこうなっちゃいそうで心配。でも、母の言葉を信じて、私も頑張らなきゃいけないわね)


曹英がゴマ団子を頬張り、よく噛んだ後、飲み込み、皆に話した。

「ねえ、ねえ、明日から何しようか?

許都のことなら私に任せて」


私は目を輝かせて曹英を見つめます。

「私、美味しいもの沢山食べたい。

それに、旅の間ずーっとお風呂に入っていなかったから、ゆっくりお風呂にも入りたい」

「あら、お風呂ならここにもあるわよ。

会議終わったらみんなで一緒に入ろうね」


紗良、琴葉、碧衣が目を輝かせ頷いた。


―――


食事も大方終わったころ、理沙が席を立ち、手を叩いた。


「これより会議に出席しない者たちは休息の時間とする。

今日より五日間休息するとよい。

出立は六日後とする」


大広間に歓声が広がった。


「では、会議に出席する物を発表する。

妃良総帥、芳美軍師、華蓮将軍、美優将軍、聖女貂蝉、聖女麓沙、聖女尚香、星愛、紗良と私を含めて十名とする」


私が小声で紗良に尋ねた。

「ねえねえ、総帥なんて言葉今まで使ってこなかったでしょ」

紗良が応えました。

「うん、多分、夢咲は国ではないから女王だと辻褄が合わないからだと思う」

私は頷いた。

「そうか、確かに女王だと変よね」

(でも、何で女王だったんだろう…不思議だなあ)


夢咲の正体はまだ誰も知らない。




「では、名前を呼ばれたものは、これより曹丞相府に移動する。

皆の者、解散!」


一斉に立ち上がり、礼をする夢咲の兵たちだった。


―――



◆曹丞相府謁見の間 ◆


そこには異様な光景があった。

本来は、高い位置に座る曹操だが、他の将と同じ床に椅子が置かれていた。

そして、曹操の陣営は左側に並び夢咲陣営が来るのを待っていた。


歴戦の将である張遼が、隣の文官の程昱に耳打ちした。

「おい、何か間違っているぞ、我らと同じ高さに曹操様の椅子が置かれ…

もう座って待っているではないか」

「張遼さま、これは曹操様と荀彧様が決めたこと。

我らには計り知れぬことと…」


程昱が外を見つめ呟いた。

「こ、これは、まずい、何か来ますぞ」

張遼も武者震いして同意した。

「おう、わかっとるわい」


曹操は静かに開いた大扉を見て、目を細めました。

昼下がりの柔らかい陽の下、鳥たちが一斉に飛び立つのが見えました。


曹操は立ち上がり、入り口まで歩いていくと、

荀彧を先頭にゆっくり階段を歩く夢咲陣営の姿が見えてきた。


謁見の間にいた将たちは一斉に夢咲の女将に向け額の前に手を組み、深々と頭を下げた。


張遼が小声で程昱に呟やいた。

「あれは、まずい、人ではないぞ」

「分かっています、お静かにして下さい」


陽を背にした十人の姿は、まるで神々の降臨のように輝いていた


―――


早速、夢咲と曹操陣営の交渉が始まった。


荀彧が曹操の横に立ち進行を始めた。


最初の議題は曹英救出と、後から伝わった、南州夜影賊衆の討伐の褒章についてだった。


「紗良様、このたびの曹英救出ありがとうございました」


一斉に曹操陣営の目が八歳の娘にそそがれる。

どの顔も信じられないという思いがにじみ出ていた。


曹英が曹操の横から現れ話します。


「紗良様が私を助けてくれたのは事実です。

賊に抱えられる寸前に紗良様の放った矢は三本に分かれ、全ての賊の額を射抜きました」


ざわつく曹操陣営に対して荀彧が咳を一つして黙らせた。


「紗良様、何かお望みはありますか?」


「私は、ただ人の道からそれた賊から曹英を助けただけです。何もいりません」


再びざわつく将を、「静かにしないか!」と一喝した曹操。

一瞬にして静けさを取り戻す。


「ではこうしましょう。実は、夢咲は長江を往来する船舶を苦しめてきた南州夜影賊衆の討伐をしました。この褒章と合わせて、夢咲で何か希望する物があれば教えて頂けませんか」


上から目線にならないように、荀彧はかなり気を使っていました。


芳美が答えます。

「私たちは人の道に従っただけです。

ただ、盗賊の本拠地の土地の権利と沙市の港の権利をもらい受けたいと思っています」


荀彧の顔色が変わる。

「いや、しかし、あの土地は劉璋管轄のちです。我らに認める権利はありません」


芳美が微笑み曹操を見ます。

「本当にそう思いですか。いずれ曹操殿の管轄になると思っていますが…」


周りの武将は呆気に取られていた。

下手をすれば、曹操が打ち首の命を出してもいい褒章だった。

でも、今は荀彧と曹操が小声で話し合っていた。


「曹操様、もうすべて見透かされています」

「分かっている、荀彧よ、どうしたものかのう」

「いずれ我が領地になり、夢咲が拠点を置くことで得られる利益の方が大きと考えます」

「うむ、夢咲は南州夜影賊衆の討伐し、水上の戦力も確かだな」

「私もそう思います。夢咲に任せれば長江の交易は栄えると考えます」

「分かった、荀彧よ、承知したと答えよ」


話が終わり、荀彧が承知したと応えた。

本来なら、曹操の将からはざわめきが起きてもおかしくない場面ではあった。

だが、華蓮が悪戯をし、神威を発動し曹操の将たちを黙らせていた。


(ウフフ、面白いわね、将たちのあの顔)


荀彧が議題を次へと進めた。


「続いて、中立を保つ夢咲との不戦条約についてです」


芳美が書状を曹操に手渡しした。


「私たちは攻撃なき者には攻撃はしません。

常に中立を保っています。

また軍需品も取引は一切しません。もちろん軍との取引もしません。

ですので、戦の中でも私たちの船は攻撃しないとの条約を結んでいただきたい」


曹操は内容を読み、卓の上に書状を置き荀彧、程昱、王必、鍾繇が一読し全員が頷き、下がる。


芳美と曹操が卓に来て、芳美は星環印を押し、曹操は魏公印を押し、条約が成立した。


それぞれが席に戻ると、女官たちが夢咲の特産品を手に持ち現れた。

歩くときに絹が擦れる音を残し、特産品を中央に並べた。


ではこれらの品々の説明を星愛様、お願いします。


私が前に出ると、再び曹操の将が驚きの顔を見せました。


(何よ、八歳の娘だと思って馬鹿にしているのかしら。許せない)


将の驚きが逆に私を落ち着かせ、各製品の説明をした。


「こちらは、オリーブ油灯です」

オリーブ油灯に火をつけると、ゆっくり謁見の間が明るくなっていった。

「そして、燃料はこのオリーブ油です」


「そしてこちらは、楓草の鎮痛効果を抽出した丸薬と塗り薬です。

殆どの痛みに効果があります」


次に目薬を手に取り説明した。

「こちらは、夢咲の目薬で、目が疲れた時、かすれた時に効果があります」


「最後に、呉では最上級の絹として扱われています」


私は曹操陣営の将の顔を見回して本題に入ります。


紙幣の試作品を卓上にそっと置いた。

「私たちの製品はこの紙幣でしか交換できない仕組みを作ります。

また、夢咲の商品扱い場に置いてあるもの全てこの紙幣で取引を行います」


私は黒い布で影を作り、紙幣に刷り込まれた星の粒子を光らせた。


謁見の間の空気が一瞬止まり、将の顔が一斉に驚く。


「このように特殊な加工が施され、偽の紙幣は作れません。

そして、この紙幣を使った交易条約を結んでください」


曹操は予想外の申し出に驚きの表情を隠せなかった。


直ぐに荀彧が曹操の横に移動し耳打ちをします。


「この件、全く予想できませんでした」

「うむ、荀彧はどう思う?」

「発想は良いと思いますが、果たしてうまくいくか疑問が残ります」

「儂もそう思う。軍需品は扱わないという事だから、影響はないかの?」

「はい、曹操様。ただ…普及した場合、経済は夢咲の物になります」

「うむ、ただ普及すれば国の経済は今まで以上になると思うが」

「曹操様、国を憂うのであれば、経済を夢咲に託すのも一つの道かと存じます」

「まあ、子供の戯言じゃ、普及するまい」

「宜しいのですか?」

「普及したとしても、国が豊かになるのだから良いではないか」

「はは、曹操様の仰せのままに」


長い二人の話し合いも終わり、交易条約も締結された。


本来は宴の予定であったが、華蓮の神威に当てられたのか中止となった。


長い会談も日が暮れる前には無事終わり、夢咲の意見が全部通った会談だった。


曹操が荀彧に聞いた。

「そう言えば、貂蝉と孫尚香がいたであろう、何故そのことを夢咲に聞かなんだ?」

「曹操様もお分かりでしょ、あのお方たちは人であり、人ではないお方になっていた」

「そうじゃの」


神々が去った後の空間には、言葉では表せぬ重みが残っていた。

曹操陣営の将たちはしばらくの間、無言で動くものはいなかった。

日が暮れかけた時に将たちは立ち上がり、家路へとついた。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は木曜日、日曜日を予定しています。

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