表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/125

第33話 許都遠征 ~沙市軍議~


四月とは言え夜明け前の軍営は、吐く息はまだ白く、

帷幕の中央に据えられた長卓には、まだ湯気の立つ湯と冷え切った地図が並んでいました。

誰も言葉を発さない。

ただ布靴の軋みと、紙の端をなぞる指の音がやけに大きく響いていました。


私たちは碧衣と合流し、帷幕を目指しました。

四人が砂利を踏む音が朝の静けさに響いていました。


私の右手を曹英が握り、左手を紗良が握り、碧衣はクスクス笑っていました。

「ねえ、あなたたち本当に仲がいいのね。

でも、急襲されたらどうするの?手が使えないわよ」

「いいのですよ。私が盾となり星愛を守ります」と曹英が言うと、

「そして私が剣となり、星愛を守る」と紗良が続きました。


「何か悪いものでも食べたのかしら…仲がいいのはいいけど、程々にね」


私は顔が赤くなりましたが、二人は平然としています。


「ねえ、やっぱり恥ずかしいから二人一緒に手を繋ぐのは止めようよ」

「いえいえ、私は星愛といつも一緒に居る訳ではないのですよ。

だから、星愛と一緒にいる時は手を繋いで当然のことなんですよ」

「私も物心ついた時からいつも手を繋いでいたので、こうするのは当然のことだよ」


後ろを歩く曹英の従者は口元をそでで隠して微笑んでいます。


(うわぁ、何かこの二人変な連帯感持っているわね。昨日の夜、何かあったのかしら)


そうこうしているうちに陣営が見えてきました。


曹英の従者は控えの席へと案内され、私たち四人は帷幕の入り口に立った。


「ねえ、手を繋いでいると帷を開けられないから、手を離してちょうだい」

「私が右側、曹英が左側を開けるから大丈夫だよ」

と、紗良が言い、曹英と目を合わせ、二人が帷を開けました。


帷が重く揺れ、星愛が入ると同時に、全員の視線が私たちに集まりました。


(もう皆さん来ている!?やだ、こんな姿見られて恥ずかしい)

私の顔が朱色に染まりましたが、幕内の席を見ました。


向かって左側の席には、奥から関羽、張飛、趙雲…

何故だか琴葉が張飛の膝の上に座って、こちらに手を振っていました。


そして右側には孫尚香、黄月英、貂蝉、麓沙が座っています。


そして神座は五席用意されていました。


私たち四人は下座に座りました。


まだ私たちに視線が向けられ、その視線は敬意でも敵意でもなく、

測りかねる“期待”の色を帯びていました。


私たちが席に腰を下ろすと、華蓮、芳美、中央の席を空け、理沙、美優の順に席に就いた。


今日の軍議は夢咲の行く末を決める――その重みを誰もが知っていたのです。


最後に妃良が現れ中央の席に立つと、一同が深く礼をし、妃良が席に就く。




「さて、今回の南州夜影賊衆討伐の第一の功労者に褒美をとらせたいと思います。

関羽、張飛、趙雲」


「ハッ」


三人は席を立ち、頭の前に手を合わせ、深く礼をした。


「望む物を申してもよいのですよ」


妃良は長兄である関羽を見つめ問うと、関羽は恭しく頭を下げ希望を述べました。

「恐れながら申し上げます。

今回の遠征は、我が主の華蓮様の護衛を務めよとの命によるものでして、

こちらが勝手に行ったこと。

褒美をいただくなど言語道断、我が主の意に背くことになります。

―――

しかしながら一つ願いがございます」


「その願いとは何でしょうか?」


「妃良様に申し上げます。

戦の経過だけでなく、この場で得られる知見があると信じます。

この後の軍議に参加させて頂きたくお願い申し上げます」


華蓮がニヤリと笑い関羽を静かに見つめました。


妃良は華蓮が言った通りのことを、澄ました顔で関羽が願い出たことが可笑しかったようで、

口元が緩みかけましたが、そこは堪えて、ゆっくり頷きました。


(あら、妃良さん、肩が震えていますよ …)


「宜しい、関羽の願い、叶えることとします。

―――

以上で、軍功褒章は終わりにします」


突然の軍功褒章が終わり、待ったをかけた張飛。


「いや、待たれ!我ら以外にもっとおるであろうが。

華蓮様はどうじゃ、われら公安郡から沙市までの二十二里を一日と僅かな刻で走り抜けられ、

しかもじゃ、あの鬼神のごとく活躍は…」


ニヤリと微笑み、華蓮が話に割り込みました。

「張飛さん、私はそこにいる黄月英を技巧の聖女として迎えることが出来ましてよ。

これ以上、私は何もいりませんわよ」


月英の頬が朱色に染まり、潤んだ目で華蓮を見つめた。


「では、そこにいる孫尚香はどうじゃ、あれだけの踊りを舞い人々を魅了したのじゃぞ」


尚香はにっこり微笑み応えました。

「私の朱纏のしゅてんのやりをご覧ください」


張飛の目線が、なお光をたたえる、幾千もの銀糸が揺らめく槍に移った。


「芳美様と華蓮様の力が宿る、これは神器に生まれ変わった槍。それに…」

尚香の頬が朱色に染まり美優を見る。

「私は美優様に星舞の聖女として迎え入れて頂いたことが何よりの褒章です」


「では、そこのチビ達はどうじゃ、そやつらも炎月星紡ぎの舞では大活躍であったであろう」


(えっ、私たち!?なんて答えようかしら…でも、何で私たちなの)


私が何か言おうと息を吸いかけた、その瞬間 ―――

紗良が私を制して立った。


「私には新たな親友が出来ました」


華蓮の方を一瞥して、曹英を見る紗良。

曹英は一瞬だけ唇を結び、それから柔らかく微笑んだ。


「思い悩んで、胸を痛めていた私の気持ちを共有して、助けてくれる親友。

曹英との出会いが無ければ私は今も苦しんでいたと思います。

何よりも得難い仲間を得ることが出来、それ以上何を望むのですか」


私のことを紗良と曹英が見つめました。


(えっ、二人して、そんな顔で私を見ないで…私が何をしたの!?)


張飛は呆気にとられた顔で、黙り、腰を下ろしました。


「髭だるまそんなに落ち込むな」


ペシペシ!


笑いながら張飛の頬を叩く琴葉。

「でも、私はあなたの者にならないからねー」

「わかっとるわい」と言いながら、琴葉の頭を撫でる張飛。


妃良が関羽、張飛、趙雲の席の方を向いて話しました。

「これが夢咲なのです。

私たちとあなた方は黄巾の乱で初めて会ったのは覚えていますか?」


関羽が静かに頷きました。


「あの時のことは良く覚えております。

我ら、三兄弟の契りの後でしたな…我らは戦で疲弊した国を立て直すべく、

漢王朝を復活させ、国を統一することで平和を取り戻す誓いを立てました」


「そう、そして私たちは弱い子女を救いながら流浪の旅を続けていました。

そして、私たちは国という形ではなく他の形で統一を模索していた時でした」


「そうでした、まだあの時は流浪の旅の途中でしたな。

でも、今は夢咲という形で民を集め、まとめ上げている」


「はい、私たちは戦の糧となる国は持ちません。

今は、孫堅から頂いた洞庭湖で共同体を形成していますが、民の出入りは国を問わず自由にしています。

朝ごとに蒸し饅頭や餃子、粥が振る舞われ、子らは読み書きを覚える。

そして夢咲から出ていくものは僅か、そこにいるだけで、皆、満たされた生活が送れているからです」


大きく頷く関羽を見て、妃良は話を続けました。

「なので、生活の中で得る者が十分あり、改めて褒章を求める者がいないという事なのです」


静まり返る軍議の席。


朱色の大楼や広場、その周りの小屋には、今までこの地に流された遺恨や、昨夜の賊強襲撃の傷跡が形として残っていた。


傷跡の残る地で、お腹を満たし、ぐっすり眠る子女の姿があり、久方ぶりの安寧の時が流れた。

そして、子女たちの静かな寝息が逞しく聞こえ、新たな時を確実に刻んだ。


新たな陽が昇り、柔らかい朝の光が差し、春の温もりが感じられた。

遠くから聞こえる鶏の鳴き声が朝を告げた。


それを合図にしたかのように、妃良が話を続けました。

「あなた方と私たちが求めるものは、方法は違いますが、目的は一緒だと思います。

戦乱の世を終わらせ、人々に安寧を与えること。

―――

そして、私たちのやり方が次の段階に入ろうとしているのです。

その答えがこの軍議で示されると思います」




妃良が資料から目を上げ、皆を見回して言った。


「では、私たちの未来のための軍議を続けます」


一同が静かに頭を下げると、帷幕の内はしんと鎮まった。


パン、パン――澄んだ音が響く。


「品々を持ってお入りなさい」


妃良の声に応え、布靴の擦れる音が幕の外から近づき、持参した品々が布の中央に並べられていく。

そこには、真鍮色のオリーブ油灯、長い葉束、光沢のある絹、瑠璃瓶の目薬が布の上に並んだ。


思わず眉を上げる。昨夜、自分が話した品物――一体誰が。

視線を巡らすと、琴葉が舌を出して手を振り、華蓮が柔らかく微笑んでいた。


(あの二人……最後に話すつもりだったのに)


品が揃うのを見届け、妃良は星愛に声をかけた。

「さあ、これらの品について説明して頂けますか」


紗良と曹英がそっと手を握り、背を押してくれる。


「は、はい」


琴葉と華蓮に鋭い視線を送りつつ席を立つ。

まさかここで振られるとは思わなかった。

背と脇に冷たい汗がにじむ。


左右を見れば、紗良と曹英の瞳が励ますように輝いていた。


「まず、この案を思いついた経緯からお話しします」

野営地で竈番を務める私は、頻繁に食材調達に出る。張飛の厳めしい顔が、どこか父のように頷いている。


「目薬や絹で物々交換をしてきましたが、大きな荷で人手も要るし……」

琴葉は張飛の膝に乗り、髭をいじりながら私の話を聞き流している。


「五銖銭の束を持って行っても、国が滅べば使えなくなる、偽物かもしれないと信用されず、交換してもらえませんでした」

趙雲と視線が合い、思わず胸が高鳴る。


「証文も全く取り合ってもらえず、いつも汗だくでの調達でした」

そこで思いついたのが、夢咲独自の紙幣。

まずは夢咲の物と交換可能にし、徐々に普及させ、やがて他国の品とも替えられるように――」

麓沙の優しい眼差しに包まれながら続ける。


「そのためには夢咲の物品を流通させる必要があります」

尚香も心配そうに見つめている。


「ここにあるのはそのための品です」


華蓮の目が一瞬光った。


「オリーブ油灯。夢咲にしかない、蝋燭よりも明るい灯りです」

美優が穏やかに頷き、理沙は真剣な眼差しを向ける。


「火に使うオリーブ油は夢咲独自の精錬法によります。

それから、この楓草。劉明の話では鎮痛薬の原料になるそうです」

頬を染めた劉明が視界の端に映った。


「そして従来の交換品――絹と目薬、さらには船を加えます」


妃良が満足そうにうなずく。

「これらを大陸全土に広め、人々の生活に潤いを与える。交換所を各地に設置し、安全地帯とし、弱き者の砦とするのです」

母が優しい笑みで拍手を送るのが見えた。


「ありがとう、星愛。私たちはその案をそのまま実現していこうと思います」

妃良が立ち上がり、場の全員が私に向けて手を打った。胸の奥で熱いものが広がる。


―――


「最後の議題になります、芳美、お願いできるかしら?」


皆が静まり返り、芳美軍師に注目する。

「さて、先ずは前に座っている、紗良、碧衣、星愛。

お疲れ様でした」


私達は複雑な表情を浮かべつつも、今回の盗賊の件で自らの力を知り納得はしました。


「私たちも、南州夜影賊衆は知っていたけど、

まさか本拠地が動くとは思っていませんでした…

みんな、危ない目に合わせてごめんね」


碧衣が目に涙を潤ませながら立ち上がり、詰まらせながらも発言した。

「ふぁんめいさま、決してそのようなことはございません」


悔しさと自分の力のなさを痛感し、これ以上の言葉が出ない碧衣でした。


芳美は頷き、でも、情けはかけずに話を続けます。

「これからは、指揮は直接妃良様が取り、軍師として私が、将軍として理沙が乗船します。

兵は200、残り250はこの地に残り治安維持にあたります。

なお、舞踊団はそのままとします」


芳美は皆が頷くのを待ち、黄月英に声をかけました。

「技巧の聖女 月英、夢咲が作るオリーブ油灯と専用のオリーブ油、それと、紙幣と紙幣の原版作りを任せたいと思います。

期間は三か月、できますか?」

「恐れながら申し上げます。

私一人では一年はかかります。

ただ、私の師匠の澪様、妹の婉貞の力があれば可能と存じ上げます」


「関羽殿、澪殿と婉貞をお借りすること、孔明は許すと思いますか?」

「はっ、孔明殿は大局を大切にする御仁ゆえ、必ずや協力すると存じ上げます」

「ありがとう、では華蓮と琴葉をつけましょう。

今一度早馬で公安郡に戻り、劉備殿と孔明殿に説明して頂けませんか?」

「もとより協力の所存です」


琴葉が喜び、張飛の髭を引っ張ります。

「髭だるま、もう少し一緒に居られるねー」

「これ、髭を引っ張るのはよさんか」


関羽が見かねて咳払いをし、声をかけた。

「これ、軍議は終わっておらぬぞ」

「す、すまん、兄者」


軍議の席がこのやり取りで和らぎ、芳美が話を続けた。

「さて、星愛、紗良、碧衣も経験のため同行してもらいます。


許都より戻るときは、舞踊団と星愛、紗良はここに戻り、開発されたであろう商品を持ち、舞踊団と共に長江、黄河、海岸線に夢咲の拠点を築いてもらう予定なので、そのつもりでいなさい」


碧衣と曹英が不安な表情を浮かべた。


二人に頷き、芳美が告げた。

「碧衣は長江を守る任に就いてもらいます。

これから、長江、黄河、海岸線まで夢咲の拠点を広げるのです。

海上護衛の訓練に力を入れてください」


最後に曹英に話しかけた。

「曹英さんは許都に入るまでは私達と一緒に行動しましょう。

でも、曹操の腹心に私達といるのを見られると、肩身が狭くなるかもしれないので、

許都には従者三人とお入りください。

遠巻きながら、護衛もつけるので安心してください」


曹英は星愛と紗良と別れることを思い浮かべたのか、複雑な表情をしながらも、お礼の言葉を伝えた。

「芳美さま、配慮ありがとうございます」


芳美は皆を見回し、申し立てる者が無いことを確認し告げた。

「では、これで軍議は終わりとします」


―――


日の出に始まった軍議も終わり、賊の本拠地は朝食を終えた者たちが復興に向けて動きだしていた。


その光景を馬に跨り、関羽、張飛と琴葉、趙雲、華蓮、黄月英が眺めていた。


趙雲がこの光景を見て口を開く。

「なあ、兄者たち、戦の傷は消えたと見えるか」


関羽が髭を撫でながら応える。

「お前たちにはどう映る…でも、こうやって皆、生きようとしているんだ。

我らと夢咲、方法は違うが、早く太平の世を築きたいものだ」


琴葉に髭をいじられている張飛が続く。

「おうよ、安心してうまい酒を毎日飲みたいものじゃ、

ガハハハハ」


関羽は呆れた顔で張飛を見た。

「そう言えば、今回の旅で、酒乱のお前が一滴も酒を呑まなかったな…

良いことじゃ、良いことじゃ」


華蓮が皆を見、言いました。

「さあ、行きますわよ。感傷に浸っている暇はありませんわ。

私についてきなさい」


華蓮が馬の腹を蹴ると一斉に馬が走りだす。

土煙を残し、その馬群はどんどん小さくなっていった。


それを見送っていた、星愛、紗良、曹英。

曹英が呟く。

「私、絶対にあなたたちと旅に出るわ」


それぞれの思いを乗せ、時代は動き出していきました。

春の匂いを含んだ風が、彼女らの背を押していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ