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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第31話 許都遠征 ~曹英との出会い~


大麻草畑を後に私達は朱色の大楼を目指して歩き出しました。


空の月はいつの間にか、白く輝き薄っすらと途中の建物の影を浮かび上がらせていた。


こんな時は、いつも紗良が手を繋いでくれるのに、

今日は手を繋いでくれませんでした。


私はそっと紗良と手を繋ぐと、紗良は身体を固くさせ、

頬を朱色に染めました。


「あら、紗良 … 顔が赤いけど熱でもあるの?」と尋ねると、

「えっ、そんなことないよ、身体が火照っているだけ」

「そう言うのを、熱があるっていうんじゃないの?」

「大丈夫、他に悪いところはないから」


「本当かなあ …」

と言って私は紗良の額に私の額を当ててみました。

「ヒャッ」

紗良は更に顔を赤くして、小さな声を出します。


「うーん、熱は無さそうね…」


「ねえ、紗良はあの紫の光の中に何かを見たの?」


「えっ、え、眩しくてわからなかったし、従者が私をすぐに引っ張ったから…

光しか見えなかった」


紗良の表情が変わったので、あまり聞くのも可哀想と思い、

それ以上聞くのを止めにすることにしました。


そんな話をしながら私達は、

建物の中に囚われたものがないか一軒ずつ確認して移動しました。


そして私は少し立派な造りをした家を見つけ、入り口の前に立ちました。

扉には大きな南京錠が掛かっていました。


私は足元に倒れている男を見て、鍵を持っていないか探ってみました。


(あっ、あった)


男の腰には、大きなカギがぶら下がっていました。


私はその鍵を手に取り南京錠を開けようとしたとき、

紗良が私の手を押さえ、首を横に振りました。


「危ないから、私が開けて中の様子を見るよ」


紗良は冷たく重い南京錠を手に取り鍵を差し込む。


ガチャ


重厚な金属音とともに、南京錠が外れます。


ギィー


紗良は慎重に開き戸を開けます。


室内からはわずかに甘い香りが漏れ、

絹が擦れるかすかな軋み。


「何者!!」


暗い室内から、凛とした声が通ります。


「我ら、夢咲の者!主らは何者ぞ?」


少し和らいだ声になり、透き通った子供の声が返ってきました。


「私は魏の国の曹英そうえいです…、あの、丞相の妹です」


私は透き通った子供の声を聞いて、胸が高鳴り、


紗良の後ろから声を掛けました。


「ねえ、安心して、賊はみんな私達が倒したわ!」


「えっ!?本当ですか…」


「うん、そうよ。だから安心して出てきて」




そろそろと、一人の少女と女性従者三人が出てきました。

高貴な雰囲気を漂わせる漢服を身につけ、

知的な雰囲気を漂わせる瞳、

利発そうなその口元…


年齢は私達と同じかしら。


紗良が四人を見て声を掛けました。


「皆さん、怪我はありませんか?」


曹英がしっかりした口調で答えます。


「大丈夫です、助けていただきありがとうございます」


曹英に合わせ、他の従者三人も深々と頭を下げた。


私が紗良と再会した時は玉のような涙が出たけど…

曹英は涙を見せずに、しっかり礼をする気丈さ。

でもよく見ると、礼をする肩が震えているのに気付き、

親近感が湧きました。


(この子もきっと私と同じなんだわ)


「倒れている賊がいつ起き上がるとも限らないから」


私は朱色の大きな楼を見て言います。


「あそこの、楼に私達の仲間がいるの、一緒に行きましょう」


曹英と従者の表情が明るくなり、頷きました。


私は曹英に歩きながら声を掛けました。


「曹英はどうしてここに連れてこられたの?」


「私ね、孫権のところから許都に帰る途中だったんだけど、

江陵付近で賊と遭遇し…」


突然押し黙り、右手で顔を覆い、小さな身体が震え、

涙を浮かべ、声にならなくなる曹英。

従者の一人が涙を浮かべながらも、気丈に代わりに話し出しました。


「私達の乗った船が襲われ、男や年寄りは河に突き落とされ、

何の抵抗もできない女と子供だけ残され…ここに連れてこられました」


「他の子供や女性はどうなったの?」


「女性たちは煙がたかれた部屋へと連れ込まれ…

子供達は売り物だから大切にしろと話しながら、連れていかれました」


紗良が「どうして、あなた達は連れていかれずに別の塔にいたの?」

と尋ねました。


「曹英様が曹操の妹ということが分かり、

人質として扱うことにしたようで、そこの家に監禁されました」


「私も同じ、でも奴らは私の従者を襲おうとした…

絶対に許されない行為だわ」


私は泣き崩れた曹英の肩を抱き、寄り添うように歩きました。


やがて、大楼の前の広場まで来ました。

広場の真ん中では木が焚かれ、辺りを照らし出していました。


そして、奥の大楼は怪しい煙が漂っていました。


―――


私は美優を見つけ、歩み寄りました。


私に気付いた美優も、歩み寄ってきて私を優しく抱きしめ、

頬ずりをしました。


私は堪えていた物が噴き出し、目から玉のような涙が溢れてきました。


「無事で何よりでした…」


紗良を見て、「紗良もしっかり頑張ったわね」


「ありがとうございます、美優様」


と言い、曹英の方を振り向きます。


すると、孫尚香が驚いて曹英に声を掛けました。


「えっ、曹英じゃないか! 

何でこんなところに…私の兄の別邸にいたのではないのですか?」


「えっ、尚香なの?

随分と御召し物も女性らしく変わり、化粧もされ…

まるで別人の様ですね」


「私ね、美優様に永遠に好みと心を捧げることにしたの。

愛の力がそうさせたのかしら … ウフ」


「あ、あいの力ですか?」


曹英とその話を横で聞いていた私は口が開き、

目が点になりました。


「ウフフ、面白い話をしているわね。

八歳の子供に愛の力とか分かるわけないわ」


後ろから声がし、振り向くと華蓮と見知らぬ美しい女性が立っていました。


そして、華蓮と見知らぬ女性を見た紗良の頬がみるみる赤くなりました。


華蓮は紗良に近寄りお腹をさすりながら言いました。


「でも、紗良は知っているかも知らませんね、ウフフフフ」


紗良は下を俯いて、少し震えているように見えました。

私は咄嗟に華蓮と紗良の間に割り込み、両手を広げました。


「華蓮様、私の紗良に触らないでください!」

「あら、紗良は星愛の物だったのかしら?」

「そうです、私の紗良です!」

「あらあら、愛も知らないのに…可愛い星愛ちゃんね」


紗良の身体はみるみる火照ってきているようでした。


そして、私の頭を撫でる華蓮でした。

何か頭を撫でられていることに対して、私の心の奥が「およしなさい!」と言えと、叫んでいる様に訴えていましたが、華蓮は私の目上の人、そんなこと、口が裂けても言えません。


そんなやり取りを見ていた、張飛が関羽に言います。


「兄者、なんとかしてやれんか。

あんなチビ助に、華蓮様も大人気ないと思わないか?」

「張飛よ、神の考えることは人知を超えているんだぞ」

「まっ、またそれかよ、兄者 … 

趙雲はどう思う?」


趙雲は白い歯を見せ笑いながら親指を立てるのみでした。


そうこうしているうちに、蒼翼艦隊から200名の援軍が駆け付けました。


―――


蒼翼艦隊の隊列が整うと、美優の表情が厳しくなりました。


「さあ、皆の者、聞け!!」


優しい美優が厳しい声を出し、私は少し驚きましたが、

それだけに、緊張感が伝わってきます。


「増援の兵はここにいる女子供、

倒れている賊、男どもをこの広場に集めなさい!

もう、大楼の煙は無いと思うけど、吸い込まないように中止しなさい。」


ザッ!


神軍の衣がすれる音が一斉に聞こえ、兵士たちが散りました。


そして美優が私達を見ます。


「紗良、曹英とその従者、関羽、張飛、趙雲はこの広場を明々とする薪を集めてきなさい!」


そして、星愛は炎を調整しなさい」


最後に琴葉に言います。


「緊急軍議です。

直ぐに妃良、芳美、理沙にここに来るように伝えなさい」


「はーい、では行ってまいりまーす」

と、言葉を残し、蜘蛛の姿になった琴葉が消えた。


―――


小一時間もすると、広場には少なくとも五百人が集まった。

私の焚き火の灯りが、人々をやわらかく照らした。


そして、美優は華蓮に男どもの運命を委ねます。


「華蓮、あなたの呪縛の糸を男どもに埋め込んでいいわよ。

どうせ、転生しても意味のない魂。

あなたの好きな呪縛を掛けていいわよ」


「ウフフ、いいわね」


華蓮は上唇を舐め、男どもに冷笑を向けます。


「皆さん、聞きなさい。

弱者や夢咲の者に歯向かわないでくださいな。

私が魂をいただきますわよ … ウフフフフ」


華蓮は天空から男どもの頭に人形の糸を落とし、

糸は頭を貫通し、身体の中に消えていった。


威勢のいい男が立ち上がり、叫びます。


「ふざけるな!訳の分からないことを言っているんじゃねぇ!!」


と言った瞬間、男は紫の炎に包まれ、その存在が消え去った。


「ウフフ、儚いわね。

痛みが無いだけ、慈悲だと思いなさい、ウフフフフ」


そのあまりにも可愛くて、美しい美貌の下に隠れたサディズムに、

他の男たちは、顔が青くなり、身動きが取れなくなりました。

下半身を汚す者、泣き叫ぶもの、頭を抱える者と様々だった。


その中一人の男が叫び、逃げ出した。

「うわあ…妖女だ、幼女が出たー!!」


それを合図に、男達は一斉に立ち上がり逃げ出した。


「待てい!」槍を構え張飛が怒鳴る。


華蓮が大きな声で言います。


「あらー、情けない男は逃げるのみですねー、

でも、安心しなさい。

この呪縛からは逃げられないわ。


弱者を助け、魂を少しでも白くなさーい」


と言って、男達に、逃げる自由を与えた。


張飛は英雄の勘で、華蓮の怖さを心の芯から感じ取り、

その反面、逃げる男どもの滑稽さに腹を抱えて笑う。


「おう、おう、面白いのう!何人が人として死ねるか楽しみじゃ」


「おい、兄者!

兄者も華蓮に毒されてきておるぞ」

と、趙雲がからかい半分で張飛に声を掛けた。


―――


男どもは広場から逃れ、残されたのは大麻の煙漬けにされてきた女達、

そして、父母の顔を知らぬ子供達。

性病が蔓延し、多くがすでに罹患していた。


その様子を見て美優が、私達に話します。


「皆の者は、決してこの光景を忘れてはなりませぬ。

私利私欲性欲の塊の醜い男どもが残した光景です」


私達は美優の言葉を心に刻むのでした。


ふと、夜空を見上げると、光の尾を引いた流れ星が三つ近づいてきて、

私達の上空で消えました。


(えっ?凄く不思議な流れ星ね…あんなの見たの初めてだわ)


そして、しばらくすると三人の女性が私達の前に立ちます。


(えっ、妃良様、理沙様、それにお母様 … 洞庭湖にいるのでは?)


私は呆気にとられ三人を見つめました …

そして他の者も動揺を隠せず三人を見つめました。


私達を見渡し、最初に口を開いたのは妃良ヘラでした。


「皆々方、私達に聞きたいことは沢山おありでしょうが、

まずはここで助けを求める子女を救うのが筋です」


(確かに、そのようね、みんな魂が抜けたような表情だし、

生きる気力を感じられないわ)


一同が妃良の言葉に頷いたのを確認し、命じた。


「芳美は、浄化の光を朱纏のしゅてんのやりに込めて頂けるかしら?」


芳美は頷き、尚香から朱纏の槍を受け取り浄化の光の加護を槍に込めます。


加護を受けた槍は、光のオーラを纏いました。


それを見た妃良は頷き、次に華蓮に命じます。


「華蓮、その朱纏の槍に星愛の炎を吸い寄せ、

光と炎を融合させた星の粒子を放出する糸の加護を与えてもらえる?」


「まあ、仕方ないわね」


と、華蓮は槍を受け取り加護を付与し、尚香に渡しました。


妃良が「尚香、その槍を一振りしてみて」


尚香が頷き、槍を旋回させると、華蓮の無数の糸が槍からのび、

星愛の焚火の炎を拾い、光と融合させ星の粒子が溢れ出しました。


それを見ていた美優が満足げに頷き、舞踊団に命令を出します。


「さあ、炎月星紡ぎの舞を始めるわよ。

みなさん、立ち位置につきなさい」


その言葉を聞いて私の心の奥が疼き、

紗良は半月の弓を無意識に握りしめます。


私は炎を優しく燃えるように薪で調整し、

その背中を守る様に紗良が立ちました。


(えっ、なんか、どこかでこれって経験したことがあるような…)


そして、舞踊団の星紡ぎの歌が始まると、

歌姫の聖女麓沙の歌声が厳かに響き、夜の闇に吸い込まれ、

舞姫の聖女尚香の槍の舞が幾千もの星の粒子を生みだし、


そして、私は星紡ぎの歌など知らないのに、

歌に合わせ炎の揺らぎを調整していました。


紗良も無意識に天空に向けて矢を放つと、

その矢に吸い寄せられるように星の粒子が舞い上がり、

やがて、浄化の粒子となり地に降り注ぎました。


妃良が呟きます。


「これが、星紡ぎの舞なのね … とても尊く、美しいわね」


妃良の隣にいた芳美が頷き、小声で話します。


「そうよ、これがアクエス島で奉納された星紡ぎの舞」


芳美は、紀元前700年のアクエス島で、

ヘスティア神殿神官長ティアとしての記憶を思い出し、

その時の星紡ぎの舞と、目の前で行われている舞を比較し、

過去を懐かしんでいた。


曹英はこの光景を目の当たりにし、目を輝かし呟きました。


「私と同じくらい女の子が、まるで神のように舞っている …

何て神々しい女の子たちなの」


歴戦の三人の漢も目を奪われました。


張飛が小声で関羽に尋ねました。

「おい、兄者 … あれは何だ。神の子の舞か?」

関羽が真剣な表情で舞を見つめながら応じました。

「うむ、あの舞の領域に足を踏み込むのは、いや、踏み込めまい…」

趙雲が頷き呟きます。

「この大陸の宝だな、国を超えた宝だ」


関羽が顎髭を撫でながら言いました。


「国を超え、守らねばならぬ者たち …

我らより先に奇跡を起こすかも、

いや、あの女子たちが大人になった時この大陸を統一するであろう」


全員が、舞の美しさに心打たれ、

優しい炎と光がこの広場を温かく抱きしめ、

お互いの立場を超え、人々の魂が一つになった。


そして、舞い降りる星の粒子に、疲れた心は癒され、

癒しの粒子が降り注ぎ、病も鎮まっていった。


ある女は自身の身体の回復に歓喜し、

またある者は、自分が囚われた時に失った者を思い出し、

名前を叫びながら号泣するものと悲喜こもごもでした。


ただ、愛情を知らない子供達は、

悲しいことに、感情表現が乏しく、無表情のものが大半だった。


こうして、賊の本拠地は完全に夢咲が掌握し、

ここで囚われ生活を虐げられた子女に希望の光を与えたのでした。


星の粒子が去った後、夜空にはかすかな紫の残光が漂っていた。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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次回更新は8月10日(日)を予定しています。引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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