表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/126

第30話 許都遠征 ~技巧の聖女 黄月英~


◆楓草畑 ◆


黄月英は羨望の眼差しで華蓮を見つめ尋ねます。


「華蓮様、鮮やかな賊掃討作戦でした」


華蓮は少し不服そうな表情を見せます。


「さて、どうかしら … 今回の劇は全然ドラマティックじゃなかったわ」


貂蝉は華蓮に肩を寄せ、身体を摺り寄せます。


「一日の馬行軍を経て、賊を殲滅しただけの戦いだったけど …

それは人にはできないことです。

貂蝉、感激しました!」


華蓮は貂蝉の優しさに微笑み、

「そうね、今回はそれで良しとしましょうかしら」


華蓮と貂蝉、月英の前には緑豊かな楓草が風になびき、

辺り一面に広がっていました。

空には赤く染まった満月が三人の影。


華蓮は月英の顎を持ち上げ瞳を絡ませ、

息のかかる距離で優しくささやきます。


「ねえ、約束通り月を赤く染めて見ましてよ」


月英の瞳は潤み、黙って華蓮を見つめます。


華蓮が言葉を続けます。

「聖女の話し … どうかしら?」


月英は頬を朱色に染めながら答えました。


「はい、元からお受けする所存でした …

それに、華蓮様の操り糸の技巧を見て、

お使いするのはあなた様しかいないと確信を持てました」


貂蝉が心配そうに月英に尋ねます。


「孔明の婚約者としての立場はどうなるのかな?」

「はい、実は私には双子の妹、婉貞えんていがいます」

「月英の別の呼び名が婉貞ではなかったんじゃないの?」

「私達姉妹のいたずらで、二人で月英を演じてまいりました」

「えっ、何のために?」

「二人で一役、学費は半分、時間は倍、合理的だと考えたのです」

「ふーん、天才が考えることは私には理解できませーん」


貂蝉は笑いながら、孔明のことも解決しそうと感じ、安心した様です。


華蓮が口に手を当てて話します。


「そうよね、だから私も今回の話を持ち掛けたのでしてよ」

「はい、華蓮様は直ぐに気付かれました」

「魂の色を見れば一目瞭然よ …

紫の魂が月英、純白の魂が婉貞、そして孔明が好きなのは…」

「純白の黄婉貞でございます」


三人が見つめ合い、口を隠し微笑み合いました。




◆美優たち一行◆


十頭の馬は蒼翼艦隊野営地を出発し、

賊の本拠地へと走り出した先頭には孫尚香と紗良が並んで走ります。

紗良は半月の弓を片手に持ち、

尚香は八尺の朱纏しゅてんの槍を片手で軽々と持ち、

二人とも黒髪をたなびかせ、その姿はまさに軍神のようです。


そして、その後ろを走る美優、麓沙と選ばれた舞踊団の女たち。

風を切り、走り去った後には、高貴な花の香りが残っているかのような錯覚を覚えます。


紗良の肩には蜘蛛の琴葉が乗り、指示を飛ばします。


「紗良ちゃん、そこ右!」


地を蹴る蹄の音が街中にとどろきます。


「うぉー、危ない」


横から荷車を引いた牛が出てきましたが、

上手にかわし、後の馬も続きます。

まるでムカデの様な敏捷性を持って、グングン前へ進みます。


「あっ、見えたよ!あの赤い大きな楼が賊の本拠地だよ」


紗良は返事の代わりに、馬の腹を蹴ります。

馬は加速し、入り口の門が見えてきました。


門には三尺の涯角槍がいかくそうを持った漢の影が見えます。


瞬間、紗良は弓を構えます。

その姿、まさに狩猟の神の姿でした。


刹那、尚香の朱纏の槍が紗良を制します。


尚香が大きな声で呼びかけます。


「趙雲どの、趙雲殿ではないですか」


「おお、そなたは孫家の妹の尚香か? …

やけに、美しくなられたのう」


「えっ、そうかしら?」頬を朱色に染める尚香でした。


―――


紗良は仲間と知って安心して星愛の消息を尋ねます。


「すまぬ、今賊の掃討を終えたところでな …

まだ、建屋の中には踏み込んでおらぬのだ」


紗良は趙雲に一礼し、琴葉に尋ねます。


「星愛はどこ、どこにいるの?」


「うん、ここから奥に見えるあの建物だよ」


と答える琴葉。


「美優様、これから星愛救出に行ってもいいでしょうか?」


「もちろんですとも、でも気を付けていくのですよ」


紗良は一礼し、奥の建物に馬を走らせて行った。


―――


建物につくと、外で伸びている男二人を無視し、

馬から飛び降り開き戸を慎重に開く。


外からの光に気付き星愛が開き戸を見ると、

そこにはよく知った影が立っていた。


「紗良!!」


喉の痺れも無くなり、渾身の声を上げる星愛。


その声を聞き、紗良は星愛に近寄り、縄を解き抱きしめる。

二人とも玉のような涙が溢れる。


それを見ていた従者たちも、同じように玉のような涙を流した。




◆楓草畑 ◆


馬旅の疲れか、月英は華蓮にそっと寄り添って立っていた。

華蓮は月英の腰に優しく手を回し貂蝉に囁きます。


「貂蝉、あなたは美優と合流してお手伝いをしてあげて …

浄化にはあなたの神能も助けになりましてよ」


「はい …」


貂蝉は月英を見て、優しく微笑みながら言葉を続けます。


「華蓮様はこれから、私の新たな姉妹作りをなされるのですか?」


華蓮は朱色に染まる月英を見ながら話します。


「それは、月英の気持ち次第よ」


貂蝉は月英の頬を優しく撫で耳元で囁きます。


「月英、あなたが姉妹となるの、楽しみにしているわね」


貂蝉は一礼すると馬に跨りその場を後にしました。


「さあ、あそこの東屋で私達は少し休みましょうか?


月英は華蓮の瞳を見つめ、求めるようにコクリと頷きました。


月英の頬のように染まる朱色の月の下、

月英は華蓮に寄り添い、一つの影となり東屋へと消えていった。


夜気の冷たさ、東屋を吹き抜ける夜風、草いきれに混じる樹液の香り。

朱色の月に包まれたとき、月英の胸にも小さな高鳴りが走った。




◆星愛と紗良一行 ◆


紗良が私を抱きしめ、温もりを確かめた後、落ち着いた表情に戻る。


楊鈴やんりん、私達は他にも囚われている者がいないか、家探しをして回るから、

この馬を使って琴葉と一緒に状況を報告しに行ってくれ」


楊鈴は額の前で両手を組み、深々とお辞儀をした。


「サラ様承知しました …


ささ、琴葉様も馬に乗り一緒に美優様のところに参りましょう」


楊鈴は馬に乗り、その前に座る琴葉。


「楊鈴の胸はふかふかだね、髭だるまとはまた違った乗り心地だよ!」


楊鈴は頬を染めました。


「何をおっしゃるのですか、琴葉さまったら…

参りますよ」


楊鈴が手綱を引くと向きを変える馬。


「じゃあね、星愛、紗良 … あまり無理しないでね!」


楊鈴が馬の腹を蹴ると、走り出す馬。

大きく手を振る琴葉 …

そしてみるみるその影は小さくなり、夜のとばりに消えていった。


紗良が私達を確認するように見ます。


「さあ、私達は他に人がいないか探しながら美優と合流しよう」


「うん、ところであそこに明かりの様な物が見えないかしら?」


私は少し離れた先に、明暗を繰り返す弱い光を見つけ更に尋ねました。


紗良は私が指を指した方を見て言います。


「なんか、不思議な光だね …」


「あっ、あの光り、たまに君山楼でも見ることがあります」


従者の劉明りゅうみんが答えました。


私の好奇心に火が付きます。


「なになに、ちょっと行ってみない?ねっ、行こうよ」


紗良は優しく微笑み、みんなを見て頷きます。


「うん、君山楼で見られるってことは、調べる必要はありそうだね」


私は満面の笑顔で「じゃあ、決まりね!」と声を上げました。


―――


東屋の中では華蓮に寄り添い座る月英の影がありました。


「月英、私の聖女になるとその命は永遠になりますわよ …

そして私を永遠に愛する神となるのよ」


優しく月英の神を撫でながら華蓮が尋ねると、

月英は静かに頷き、頬を朱色に染め、潤んだ瞳で華蓮を見つめます。


「はい、私は華蓮様の聖女として永遠に連れ添います」


月英は目を静かに閉じ、まつげを震わせ、華蓮を待ちます。


華蓮は月英の唇に自分の唇を重ねると、

月英の心が開かれ、魂が共振し、紫色に淡く揺らめきます。


月英はこの世のものとは思えない感覚を味わいながら、

早まる心臓の鼓動に合わせ、激しく瞬いていきます。


やがて、華蓮の神核が紫色の光を放ち、

月英の魂を優しく包み込んでいきます。


「あぁ、華蓮様 … 私はとても幸せです」


華蓮のすべてを受け入れ、

消え行く意識の中で、華蓮の愛に包まれ安らいでいきました。


そして華蓮の神核に月英の神核が呑み込まれ、

東屋全体が煌めきました。


―――


私達は静かに光の発生源に近づいていきます。

小さな声で紗良に囁きます。


「ねえ、紗良、星の瞬きに似てないかしら?」


「うんそうだね、何か生きているような、神秘的な光だね」


そして私は目を見張るのでした。


朱色の月に照らされた、楓草が風に揺られ、

その近くにある東屋は紫色に光を壁から漏らし、とても幻想的でした。


「えっ、これ全部楓草なの!?」


医の心得のある劉明が頷きます。


「間違いなく、楓草です。

これだけの量があれば、痛みに苦しむ者をどれだけ助けられるか …」


私は劉明の言葉を聞き、その優しさに心を打たれ、

そして、この楓草を何かの役に立てたいと思いました。


紗良が真剣な表情になり、私達に囁きます。


「ここからは、慎重に進まないといけなくなる …

私が先頭を行くので、従者四人は星愛を囲むように続いてきて!」


全員が頷き、紗良は先頭を務めます。


———


「あー、… かれんさまー!!」


完全に華蓮の神核と月英の魂が神核融合を起こし、

激しい紫色の光を放ち、魂が神核化していきます。


その瞬間紗良と四人の従者がそっと覗きます。


「えっ、華蓮様?私の知らない女の人と…何しているの」


私は前の従者が邪魔で東屋の様子が見えませんでした。


従者の後ろでじたばたしている私の目を一人の従者が振り向き、私の目を手で覆いました。


「えっ、何するのよ!? … 私にも見せて」


従者は私の言葉を意に帰さず、私を抱えその場を静かに走り去ります。


他の従者は唖然としている紗良の口元を押さえ、

襟を引っ張り後退させます。


紗良は抗うことなく再び呟きました。


「あれは、何?」


―――


「ウフフ、見られちゃったわね …


月英おめでとう、今日からあなたは技巧の聖女 黄月英よ」


そして華蓮は呟きました。


「見たのは紗良ね … 

お返しとしてあの子の神核を見させてもらおうかしら。ウフフ」


月英は瞳に涙を浮かべ華蓮の胸に顔を埋めます。


「私は華蓮様に永遠の愛を誓います」


いつしか朱色の月は紫の雲がかかっていました。

夜風に混じる樹液の香りが甘く、瞳の奥が熱くなるようだった。


私は遠ざかる東屋の光を心惜しく、見つめていた。


一方の紗良は、視線が星愛に戻ると、胸の奥の熱が、

星愛への視線を拒めなかった疼きを覚えました。


そしてこの日を境に、紗良の私に対する態度が少しずつ変わっていくのでした。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

■ 気に入っていただけたら、☆☆☆☆☆評価やブックマークをお願いします!

■ ご意見・ご感想はコメントへお気軽にどうぞ。

更新は木曜日、日曜日を予定しています。原稿たまりましたらそれ以外の日にも更新します。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ