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第03話 新たな道筋


瑠璃の家はモノレールで二駅先の湖の近くにある神社の境内の奥にありました。


紗良は久しく来ていなかった瑠璃の家を探すように、


「そうそう、古い神社だつたんだよね、懐かしいな。

家はこっちの方なのかな?」


私は境内で掃除をしている瑠璃の母親を見つけて軽く会釈をしました。


丁度、瑠璃の母親が境内を掃除しているところで、軽く会釈を返しこちらに来て話し始めた。


「あら、待っていたわよ、星愛ちゃんに紗良ちゃん。

話しは電話で瑠璃から聞いてるわよ。

こんなところで何だし、さっこっちに来なさい」


何となく一方的に話され、今日も唖然となってしまった私。


家に案内され、玄関に入る。

廊下にはいろいろな神様の絵があり、父親の趣味だった。

でも私は神様の絵を見るのが好きで、今でもよくこの家に遊びに来ています。


「このお家、何度来ても飽きないよね」


私は独り言のように呟きながら、廊下の神々の絵を眺め回した。


紗良は珍しそうに目を輝かせ、

「わあ、ここは本当に素敵な場所ですね。

神様の絵がたくさんあって、まるで別世界に来たみたい」

と感動を隠せない様子。


私の傍に寄り添い、紗良は優しく微笑む。

「星愛ちゃん、ここは本当に落ち着く場所だね。

神様の絵も素敵だけど、瑠璃ちゃんの家の雰囲気も温かいよ」


(いや、普通これだけ神様の絵があったら異様に感じるでしょ…

紗良は弓道部が忙しくて疎遠になっていたけど…)


と心の中で思いつつも、私はこの家の雰囲気が好きなのだった。


そして、いつものように女神ヘスティアの絵の前で足が止まる。

「うーん、私この神様とどっかで会ったことがあるのかしら…

知っているような気がするんだけど、気のせいかしら」


紗良は「気のせい、気のせい」と軽く手を振り、

瑠璃は意味深な笑みを浮かべながら荷物をまとめに自分の部屋へ消えていきました。


私たちは和室に通され、畳の匂いに包まれる。


父親が現れ…その目が一瞬、鋭く輝いた。


「えっ…どうかされました?」


私の問いに、父親は神主の袂を揺らしながら笑う。


「いえね、神様が依り代に降りる時の『気』にあなた方の『気』が似ていて。

瑠璃が最近になって『あの子たちは神様かも』とずっと主張していまして…

確かに、微かに感じるものはありますが、気にしないでください」


(そんなこと言われて気にしない人はいない…)

と私は思い、吹き出しそうになりました。


ふと、父親の呟きが耳に触れる。


「星愛ちゃんは昔からよく遊びに来ていたのに、今になって『気』が変わってきたのかな…」


(神主さんにそんなこと言われたら、気になるじゃないですか…)


そして私は紗良と目が合い、思わず吹き出した。


「ごめんなさい、私たちが神様だなんて。

生まれてこの方、奇跡も起こせない普通の人間ですよ」

紗良の言葉で、空気が柔らかく解ける。


ほっとした空気の中、瑠璃の母親が運んできたお茶の湯気がゆらめく。


私は湯飲みの温もりに包まれながら、ふと口を開いた。


「瑠璃ちゃん、ここで育ったんだね…

きっと、たくさんの思い出があるんでしょう」


瑠璃の優しい笑顔が頭に浮かぶ。


三人でお茶を啜りながら、瑠璃の父親が語り始めた。


「この家には、千年以上も前から人々の祈りが込められてきたんです」


その深みのある声に、私たちは自然と身を乗り出した。


話の切れ目で、紗良が湯飲みを置く音が響く。


「ここには本当にたくさんの神様がいらっしゃるんですね。

きっと、一つ一つに大切な物語があるのでしょう」


私は紗良の肩にそっと寄りかかり、

「私たちも、この時間が素敵な思い出になるといいな」

と呟いた。


紗良の微笑みが、柔らかな灯りの下で輝く。


「星愛、これからも一緒に過ごす時間を大切にしよう。

この瞬間が、私たちにとって特別なものになると思うよ」


そっと握り返す手の温もりが、神聖な空間に溶けていく…


和室の入り口が開き瑠璃がたくさんの荷物を持って現れ、私は思わず声を掛けた。


「あっ、来た! わぁ…2週間分となると荷物も多いね」


瑠璃が引きずるスーツケースの重さに、思わず目を見張った。


瑠璃の父親が夢咲学園まで送ってくれることになり、車に揺られながら…


「最近、神隠しが急増しているんです」


父親の声が車内に重く響く。


父親の目がフロントガラス越しに遠くを見つめる。


「相談を受けることも多いが、私の元に来る頃には…

肉体だけが残り、魂は消えていることがほとんどです」


紗良の指が私の掌をぎゅっと掴んだ。


「魂が残っていないというのは…

何か大きな力が働いているのかもしれませんね」


ふと、父親の声が柔らかくなる。

「ただ、一度だけ…魂を救えたことがある」


紗良の瞳が輝き、私の手を温める。

「そのお話、聞かせていただけませんか?」


心配そうな私の目を、紗良は優しく見つめ返した…


瑠璃の父親はミラー越しに遠い目をして語り始めた。

「神隠しが増える前のことです。

氏子の息子さんが魂を抜かれ、すぐに駆けつけました…」


フロントガラスに映る父親の瞳が、過去の光景を追う。


「笑ったままの表情で、目に生気のない子が……

じっと座っていたんです」


私たち三人の視線が自然と交差し ――


「それ、空港職員と同じ状態では…?」と瑠璃が指摘すると、


父親のハンドルを握る手が強くなる。

「瑠璃もそう思うなら間違いない。

幸いその時は神社の近くで、すぐ気を追跡することができました」


信号で止まった車内で、父親の声が低く響く。


「邪神はまだ近くにいた。我が家に伝わる『神眼』で

その黒い気を追いました…瑠璃が感じる『気の色』もこれです」


(あの時の瑠璃の話は…!)


ブレーキランプに照らされ、父親の横顔が浮かび上がる。


「魂を封じた依り代さえ見つければ、

父親に子供を抱かせ、邪神の残り気を追跡しました」


三人は静かに話の続きを待った。


「私達は邪神に気付かれぬよう、距離を保って追跡しました」


父親の言葉と共に、車が再び動き出す。

信号の青い光が、三人の顔を一瞬照らした。


「邪神は湖近くの雑木林にある、忘れられた祠へ向かい…

しばらく留まった後、公園方面へ移動しました」


ハンドルを握る父親の指が、記憶の中で祠の扉を開く。


「祠を調べると、魂を宿したぬいぐるみが一つ。

すぐに魂返しの祈祷をすると、子供の目に生気が戻ったのです」


ミラー越しの父親の目が、無念さを滲ませる。


「ただ、邪神がどんな者だったかは分からず仕舞いだった。

それに恐ろしくて追う気にもなれなかったんですけどね」


父親は少し悔しそうな表情で語り終えた。


私が思わず尋ねた。

「でも、邪神はなぜすぐに魂を取り込まなかったんですか?」


父親はゆっくり話始めます。

「恐らく…

必要な時だけ、必要な量だけ魂を糧とするのでしょう。

祠には複数のぬいぐるみがありましたから。

 …

そして魂の依り代に封印しておくことで、

魂は衰えることなく、残し続けられると考えているんですよ、

 …

その祠には複数のぬいぐるみがあったから、

大方、魂を自身の身体に取り込み終えたから、

新たな魂として、氏子の息子に目を付けたと考えているんですよ」


学園内の私の自宅に車が止まり、父親は最後に私達に警告しました。


「深追いは禁物ですよ」


私たちは感謝を伝え、瑠璃の父の車を見送り、私の家へと足を運びました──




ちょうど私たちが瑠璃の家に向かっている頃──

夢咲学園では、神々を交えた職員会議が開かれていた。


「政府の指示通り、事件性はなし。休校措置は取りません」


そんな結論の中、理事長室には星愛の母と紗良の母だけが残る。

理事長の指が、机の上に広げられた神代文書を撫でる。


「最初はなぜ、結界だらけの神の臭いがするこの学園を選んだのか不思議だったけど…」


紗良の母は窓際でため息をついた。


「このタイミングで事件が起こるなんて…

あの神様が狙って現れたわけじゃないでしょうに」


「でも、ひどいわ。1か月後にあの子たちの大切な試練が控えているというのに…

『手出し無用』だなんて」


理事長の拳が、神聖な紋様の刻まれた机を軽く叩いた。




寝る前、瑠璃が布団の上で身を乗り出しました。


「ねえ、父の話だと邪神が犯人みたいだけど…

あれ、相当頭がいいんじゃない?」


紗良は瑠璃の方を見ながら、ゆっくりとうなずきます。


「うん、そうかも。だってこの学園、至る所に結界が張ってあるんでしょ?」


瑠璃の目が興奮で輝く。


「そうよ!特にこの家の結界は桁違いに強いの。

うちの神社なんか比べものにならないわ!」


私は思わず布団の上で姿勢を正した。


「えっ…そんなに強い結界が?全然気付かなかった」


瑠璃の話に驚きつつも、すぐに表情を引き締める。


「でも今は、その邪神のことが気になるわ…」と眉をひそめる。


「どうやって学園の結界を突破したのかが気になる」


瑠璃の言葉を思い返し、続けた。

「この学園の結界を抜けて教室まで入り込んだということは──

邪神は並外れて賢いか、結界の弱点を知っているか…」


一瞬ためらい、声を潜める。


「もしくは、完全に闇落ちする前の『神の魂』が残っているのかも」


三人はお互い目を見つめ合い、沈黙が続きました。


(えっ、このままだと、相手が誰なのかに話しが流れていきそう。

今大切なのは青木さんの魂のことだと思う)


「ねえ、青木さんの魂って取り込まれていない可能性もあるのかな?」

私は話の方向性を青木さんの魂に目を向けるようにした。


紗良が指を顎に当て、ゆっくりと考えを述べた。


「邪神はすぐには魂を取り込まないと言っていましたよね。

空港職員と青木さんが立て続けに狙われているなら…

魂は依り代に封印されていると考えた方が自然じゃないかな」


三人の視線が交差し、希望の光が浮かぶ。


私はベッドの上で体を起こしながら、頭を巡らせる。


「邪神が青木さんの魂をまだ取り込んでいないなら、時間はあるってことだね」


紗良が私の目を真っ直ぐ見つめ、深く頷いた。


「うん、邪神が青木さんの魂をまだ手放していないなら…

何か特別な計画があるのかもしれない」


瑠璃は膝の上で拳を握りしめ、目を輝かせた。


「そうだよね!青木さんの魂が依り代に残っているってことは、

邪神がたくさんの魂を集めて、何か大きなことを企んでるはず!

―― 想像もつかないけど…」


巫女の直感が働くのか、瑠璃の声が熱を帯びる。


「青木さんの依り代さえ見つけられれば、父に魂返しをしてもらえるわ!」


三人はそれぞれの推理を交わし、邪神の行動パターンを必死に読み解こうとしていた。


ふと、私は核心をつく質問を口にした。


「ねえ、邪神が青木さんの魂をまだ取り込んでいないなら…

彼女の魂を見つけて守れれば、邪神の計画を阻止できるかもしれないよね?」


紗良と瑠璃の瞳が同時に輝き、二人が頷く動作が重なりました。


「そうだね!でも問題は──」と紗良が指を立て、

「どうやって依り代を探し出すか、よね」


三人は頭を寄せ合い、青木さんの魂を探す作戦を練る。


瑠璃が指先で空中に作戦図を描くように話し始めた。


「私たち、邪神の気配を感知できるでしょ?

学校で星愛は東階段、紗良は西階段に立って、――

気配が強まったらすぐ教室にいる私に連絡して」


私の顔がぱっと明るくなる。


「そっかあ、気配が強くなった時に瑠璃に連絡すれば、

その時席に居ない生徒が邪神ということになるね、

それにその邪神と顔を合わせることが出来るかもしれないしね」


紗良の頬が緩み、目がきらりと光った。

「なんだか、サスペンス劇場みたい」


話し合いの末、明日の作戦を決めると──


三人はすっと布団に入り、月明かりに照らされながら、

少女たちの寝息が静かに重なり合う。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


初めて小説を書いて、投稿した作品です。


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作品作りの参考にしますので、よろしくお願いいたします。

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