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第23話 ニケの試練


私達はアテナの神殿を後に2層を目指しエレベーターの前まで来ました。


「ねえ、ねえ、エレベータの上ボタン使えるかな?」琥珀が何気なく私に聞きます。


(何よ、この子ったら、縁起でもないこと言わないでよ)


私はドキドキしながら上ボタンを押すとドアが静かに開きました(ホッ)


「見なさいよ、ちゃんと開くでしょ。階層ボタンだって…ほら、2層が押せるじゃない」


平然を装い私は2層のドアが開くのを待ちます――スー


静かにドアが開くと、1層とほぼ同じ作りの景色が広がります。


1層と違うのはスーパーコンピュータが無く、その場所は濠の様に神殿を取り囲んだ池と、池を取り囲むように並んだ月桂樹でした。


月桂樹の葉が静かに揺れ、水面に緑の影が揺らめいた景色はとても落ち着きます。


ニコニコしながら琥珀が、「あー、ここ間違いなくニケの層だね」と言いました。


「うん、彼女らしいね」と、サラも同意し、一同頷きました。




神殿は、白い大理石作りで羽根と月桂樹をモチーフにした精巧な彫刻が施され、赤いラインが梁に沿って描かれています。


そして、神殿中央には、今にでも羽ばたきそうな、双翼の白い翼と三本の飾り槍の上に、月桂樹の冠が飾られています。


瑠璃が思い出したように「ちょっと、迂闊に祭壇には近づかないで!」


「そうよ、アテナの部屋ではみんな意識無くして、そのまま倒れ込んだのよ」と碧衣も訴えます。


私は真顔で「じゃあ、どうしよう―――祭壇の前で横になって試練を待つ?」


華蓮が「そんな不格好な姿勢で待つのかしら?私は嫌よ」と口を膨らませます。


紗良が「でも、いきなり倒れて頭撃つよりは余程いいんじゃない?どっちに白意識無くなれば寝かさられるんだから」


「紗良の言うことだし、そうする事にしましょうか」と華蓮は紗良の瞳を見つめ、同意しました。


私は「紗良の言うことは絶対なのね。もう、下心見え見えなんだから」と言いながら祭壇の前で横になります。


華蓮は意識のない澪を優しく降ろし、見つめる華蓮の瞳に一瞬4つ葉の紋様が浮かぶ

(たとえこの身が滅びても)…


「今度は誰が試練を受けるんだろうね」と琴葉が話しつつ、残りの5人も祭壇の前で横になりました。


13回の鼓動を数える間に祭壇の周りが赤く光り、

床の冷たさが突然灼熱に、神殿の香りが鉄臭く変わる ―― これが神々の記憶の滋味…

そして、意識が創世神話の中へと落ちていきました。


「もういいかなあ」琥珀が上体を起こし、それに倣って、華蓮、碧衣が上体を起こしました。


今回の試練は私と紗良、琴葉、碧衣が選ばれました。






◆転生門の前◆


「紗良ちゃん、いよいよ8回目の転生だよね、転生の記憶は残らないけど、やっぱりここに立つとドキドキするね」


「大丈夫だよ、星愛。きっと、帰って来られるよ。私達には目標があるでしょ?」


「そおね、20回転生して宇宙神になる目標 ……

これが終われば、後12回。

澪ちゃんのことが気がかりだけど …… 」


私の顔が曇るのを見て紗良が私を抱きしめてくれた。


「大丈夫さ、澪の神核が壊れたって話しは来てないでしょ?

きっと、地上界のどこかにいて、いつかまた会える日が来るよ」


紗良は私の頭を優しく撫でてくれた。


「もうママ達、こんなところで何をしているの?

もう早くいきましょうよ」碧衣が頬を膨らませ出発を急かす。


「碧衣ちゃんは転生今回が初めてだよね、気負わないようにね」


「まあまあ、みんな、仲良く行こうよ。

この琴葉ちゃんがいる限り転生は安全なのです」


「琴葉はどこからそんな自信が出てくるのかな?

まあ、余程の事が無い限りみんな帰って来られるだろうけどね…」


私達家族は手を繋いで、顔を見合わせ転生門をくぐりました。




◆地上界へ◆


私達の神核はゆっくり地上界を目指し舞う様に降りていきます。


「あら、今回は大きな湖に浮かぶ島みたいね」と私が呟きます。


紗良が目を細めて言います、「田畑が密集している場所と、大型の船を作っている場所、そして立派な建物を中心に街が拡がっているね」

碧衣が感嘆の声を上げます。「あら、軍船がきれいに整列しているわ。整然と並ぶ姿に、私、うずうずしてきた」


そして、琴葉が飛び跳ねるように叫びます。「うっそーー!?私討ち死にだけは嫌よ、絶対嫌なんだからね!!」


私達は琴葉の声を聞いて一斉に笑います。


でもこの雑談も、地上の乙女のお腹に宿った瞬間、神の記憶が封印されるので、神の記憶が封印され、会話もできなくなるのです。


徐々に、私と紗良、碧衣、琴葉の神核の位置が離れていきます。


「じゃあ、みんな、また天界であおーねー」と最後は琴葉の叫びで、それぞれの家の屋根を通過し乙女のお腹に4人の女神が宿りました。


まるで、乙女のお腹に神の記憶が吸収されるように意識が薄れていきました。




◆蜘蛛の巣設置大作戦◆ (琴葉視点)


「うんぎゃー、うんぎゃー、うんぎゃー …」


目を開けると美しい女性が私を抱いている。

(ミューズしゃん、私、琴葉よー)


「おー、よし、よし、良い子ね、琴葉ちゃん…あら、授乳の時間かしら」

(あら、神の声が聞こえるっていう事は…試練を受けている琴葉ちゃんが憑依しているのね)


美優は優しく琴葉の頭を持ち、漢服を少し開けさせて授乳を始めた。

「おー、よし、よし」

(琴葉ちゃんの試練は何度目の試練になるのかしら?)


(2度目の試練ですー)


開けさせた衣類を正し、寝付いた琴葉を寝所に運び添い寝をする美優。

(2度目の試練なら、実体琴葉ちゃんが特別なのは分かるはね?)


(えー、最初の試練の憑依では蜘蛛だったので…確かに蜘蛛は特別でしたが…今回は人の子でしょ…正直言って、わかりませーーん)


(あらあら、未来では随分あか抜けているのね ――

あっ、そうそう、話し戻すけど、蜘蛛の転生ね … アクエス島でしょ?)


(せいかいでーす。でもよく分かったですねー)


(蜘蛛からの転生は、アクエス島だけなのよね ……

実はね星愛、紗良ファミリーの乙女役はテイアとティアそして私が割り振られているの)


(へー、そうなの、じゃあどうしてあの時私は蜘蛛だったの?)


(星愛とテイア、紗良とテミスは強力な神核融合で結ばせる目的があるの ――

あの時、紗良ちゃんも一緒だったでしょ?)


(うん、でもー …… 転生門には帰って来なかったんだ ……)


(知ってるわ、華蓮から話は聞いたわ。可哀そうなことしたわよね …

でも、導き神として華蓮が澪を見守っているから)

――


(話がそれちゃったわね、実はね、神様は二人までしか宿せないの。

それに今から分かるけど、あなたには特別な、本能のような物が神核に刻まれているのよ)


(ほんのーー?)


「うぎゃー、うぎゃー、うぎゃー」


「あー、よし、よし、よし ―――、あら、臭いまちゅねー、直ぐ交換してあげまちゅね」


(そう、あなたは人にも蜘蛛にもなれる神能が使えるのよ。何のためだかわかるかしら?)



手慣れた手つきでおむつを替える美優。


(えー、なんですかー …… あっ、『創世神話』ですねー」


「キャッ、キャッ …… キャ、キャ ……… スー、スー ………」


(ところで、琴葉ちゃん…あなた随分とあか抜けた話し方するわね。

いったいいつの時代から来たの?)


(えへへへ、それはがですねー、大体1800年後から来たんですよー)


(あら、1800年で20回の転生の旅が終わって、今は宇宙神になるための21回目の転生なのね ――― 

そうそう、あなたも知ってると思うけど、未来の出来ごとは話さないでよ)


(イエス、マム)




◆深夜◆


日付が変わる夜中 ――


ポンッ ――


音とともに白い煙が立ち込め、現れたのは ……


(うっひょー、えっ、えっ、えーーーーーーー!?)


(あら、気付いたでしょ … そう、『情報屋蜘蛛さん』の神能が生きているのよ ―――


それにね、蜘蛛の時は憑依している琴葉ちゃんと実体琴葉ちゃんは完全にシンクロするの)


(えっえーー!? …… いや、待ってください … アリエス島の時 … 『創世神話』を作る思いは、実体も憑依している私も同じ思いだから、思ったように動いていると思っていたんだけど …… そー言う事だったのねー!?)


(そうよ、まだ実態は赤ちゃんだけど、人の言葉が分かる様になれば、憑依している琴葉ちゃんが、蜘蛛にって念じれば、いつでも情報屋蜘蛛ちゃんになれるの)



(でも今はどういうことなの?)


(赤ちゃんの時は日付が変わった時から、日の出まで蜘蛛の姿になるのよ)


(…なるほど、そういう事だったんですね)


(さて、仕事よ ――

星愛と紗良、そして碧衣の屋敷に蜘蛛の巣を張りに行くわよ ―――)


(イエス、マム)


「麓沙!麓沙! …… 」


ドアを開け片膝をつく麓沙、面を上げると ――


(えー!?、アクエス島の歌姫ロクサしゃーん)


「そうよ、私の聖女になったことはアクエス島の時から知っているわよね」


(まさかの再会です)


「さあ、まずは星愛のところに行くわよ」


「はっ」

(イエスマム)


青白い満月の明かりを頼りに闇夜に消えていく二人と一匹だった。




芳美テイア軍師の館◆


麓沙が門をたたくと、覗き窓から目が二つ ……


「ようこそおいで下さいました、美優将軍」


「うむ、夜分すまぬな。通るぞ」 …


兵士は深く頭を下げて、「芳美軍師から話しは聞いております。ささ奥へ」


(ミューズしゃん、将軍様やっているの?なんか、芸術の神には似つかわしくなーい)


(フフフ、聖母役のだいご味よ。いろいろな経験出来て結構芸術の糧にもなっているのよ。――

ねえ、麓沙ちゃんはそう思わない?)


(そうよね、色々な役出来て聖女になって良かったー、って思うこと多いもんね)


(うわー、二人とも役者さんですわね)


奥の寝所に通されるとですね、芳美テイアが眠っている星愛を抱いていいたのです。


(星愛、さっきまでぐずって大変だったの … だから声は出さないでね)


(分かったわよ、芳美 … 琴葉ちゃんは早く蜘蛛の巣張って、早々に引き上げるわよ)


(あー、琴葉ちゃんまた蜘蛛なの?)憑依している星愛が話しかけます。


私は、部屋の一番高い見晴らしの良いところまで移動しながら星愛に応えてあげました。


(違うよー、今回は人の子よ。でもね、蜘蛛にも変身できる神能持ちの特別な人の子なのさ …… フフフ、フフフ、フフフフ …… )


(ところで、琴葉ちゃん他のお家には行ったの?みんなどこのお家にいるのかな…)


やっとのことで蜘蛛の巣を張り終えて、糸を出しながら梁からゆっくり落ちて美優の肩に乗りました。(決まったわね)自分ではなかなかかっこいいと思うのです。


(星愛ちゃんのお家に来たのが初めてだよ、直ぐに会えるよ、それまではお楽しみ。ねっ!)


(まあ、2度目の憑依だから、勝手もわかるし … でも自由に動けて羨ましいな … 琴葉ちゃん――)


美優が芳美に声を掛けました。


(あまりゆっくりもできないの、これから、理沙将軍と妃良陛下のところに行かないといけないから)


(分かってるわよ、夜道気を付けてね) ―― もう少し話したそうな芳美軍師だった。


(麓沙、急ぐわよ) ―― 夜も更けて時計があるとしたら2時前くらいになると思うのですよ。




理沙テミス将軍の館◆


次の館は松明の火が煌々と燃え、門が開いていました。


美優が凛々しい顔つきになり門番に声を掛けています。


「火急の要件故、そのまま通らせてもらうぞ」


門番は美優の顔を覗き込み … 「はっ、美優将軍どうぞそのまま、理沙将軍は寝所におられます」 


「うむ」 ―― 美優将軍と麓沙は早足で理沙将軍の寝所に向かいました。


(あら、いらっしゃい。無事出産できたみたいね)


(理沙、あなたもね)


実はですね、神の出産は人の出産より楽で、お腹が光に包まれ、光子がそのまま赤子の形態を形成するので、いたって簡単なのです。


私はまたもや一番見晴らしのいいところに蜘蛛の巣を張ります。


(ねえ、琴葉ちゃん。星愛とはもう会ったの?)


さすが星愛の第一婦人候補、直ぐに星愛の事を聞いてきました。


(うん、話してきたよー。母子ともに元気だった)


紗良は安心し(良かった)と心の声を漏らしていました。


(理沙、悪いけど先を急ぐので、また今度ゆっくりお茶しましょうね)


(ええ、分かったわ)理沙は優しく微笑んだのでした。


(蜘蛛の巣張ったし、紗良ちゃんとはいつでも会えるからねー)


紗良は嬉しそうに(待っているよ)と言って私達を送りだしてくれたのです。




◆妃良(夢咲国女王陛下)の館◆


妃良の館は一段と高い塀に囲まれ、門は平から松明が一面を温かい灯で照らしています。


「お待ちしておりました、芳美軍師様!」


「うむ、妃良陛下のところに参って良いか?」 ―――


「はっ、今案内の女官が参ります。今しばらくお待ちください」


「うむ」――


(ねえ、ミューズしゃん、さっきから気になっていたんだけど、妃良って、星愛しゃんの妹のヘラシャンなの?)


(そうよ、あなたの叔母さんでしょ?)


(うん、とーっても可愛がって貰ったんだよ。でもどうして天界の王女がここに?)


(今ね、天界では実験的に地上界とを結ぶ拠点を作っているのよ。

夢咲計画と言ってね、その一環でこの地に小さな国、夢咲を作ったのよ ――

初めての拠点作りだったから、神能に異界移動を持つヘラ自ら乗り出してきたっていうわけなのよ)



――― 暫くすると女官が現れ、妃良の寝所へと案内された。



寝所に入ると、碧衣に母乳を与えていた妃良がこちらを見て声を掛けた。


「来ましたね …… 待って居ました。その肩に乗っている蜘蛛娘は琴葉だね ――」


(妃良叔母さん、蜘蛛娘は余計だけど …… 最近天界で見ないと思っていたらここにいたんだね)


(琴葉ちゃん、無事に会えて良かった)碧衣が声を掛けてきた


私は柱を登りながら返事をした(うん、今ね、星愛と紗良に会ってきたとこなんだよ)


(えっとね、みんなの家に蜘蛛の巣張ってきたんだよ。――

みんな、元気にしてたよ)


(じゃあ、琴葉ちゃんは自由にみんなに会いに行けるようになったんだね …… 羨ましいなあ)


私はお尻から糸を出し、―― スーーッ、着地 ―― 、またもや綺麗に美優の肩に降りました。


(3年もすれば、歩けるようになって、きっと、みんな自由に会えるようになるよん)


(うん、そうね … 楽しみだわ)と碧衣が答えた。


(ねえ、碧衣ちゃん、話し変わるけど … 私達ってどこの国にいるのかしら … ひょっとし …

 中国?)


(みたいだわね … なんか面白そう)と、わくわく声の碧衣。


(そんなあ、三国時代の中国に転移していたの … うわあ … )


―― 外から甲冑がすれる音、窓越し越しからは並んだ槍の穂先が月明かりに反射し、青白く光りながら、移動していきました。


そうです、私達は三国志の舞台に立っていたのです。


波乱万丈な生涯が間違いなく約束されてしまいました。


この日から、私たちの命運を賭けた戦いが始まった――



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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次回更新は7月27日 22:00頃を予定しています。引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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