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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第21話 炎月星紡の舞 終焉


部屋に光が幾多の線となり差し込み、鳥の鳴き声で目が覚める。

隣ではサラが静かな寝息を立てて眠っていた。

起こさないようにそっとベッドから降りようとすると後ろから声がした。


「ティアちゃん、おはよう」


「おはよう、サラちゃん」


私はミオとコハクの空のベッドを見てつぶやきます。


「あの二人、今日は最終チェックでもう出かけたみたいだね」


「うん、頑張っているよね。明日の本番、私達もしっかりやらないとね」


私は隣に座ったサラの肩に頭を預け、星紡ぎの歌を小さな声で口ずさみました。


サラが、「今日のお昼、コロシアムの様子見に行ってみようか?」


「うん、いいね、ずっと練習で神学校から出ていなかったし、

『炎の奉納』前日の街の様子も見てみたいしね」


今日は練習をしない日と決めていた私達は昼過ぎに街に出てみることにしました。

アクエス島は人口9万人の島で、中心には火山、オリーブと葡萄が有名な島です。

最近はミオが設計した温泉施設が有名になり、観光客も多く訪れるようになり、

港も拡張して、今風で言うと一大リゾート地に変貌を遂げようとしている島でした。


「サラちゃん、すごいねー、船がたくさん、マーケットにも人がたくさん」


私はサラから離れないように紗良の手を握りしめコロシアムまで来ました。


「見てよ、ティアちゃん、コロシアムが様変わりしているよ」


「うわー、設計図を見て何となくイメージ出来ていたけど凄いわね、ここ何人くらいは入れるのかな?」


「そうだね、1万に以上は入れそうな感じだね」


「サラちゃん、ここで私達は『炎月星紡ぎの舞』を奉納するんだね」


私とサラはお互い見つめ合い、しっかり手を握りしめお互い見つめ合い、炎の奉納に臨む気持ちを確かめ合いました。


その頃、反対側の観客席では4人の男たちが工事の様子を見ながら、話し込んでいました。

準備で忙しく立ち回る人々の中で、その4人は浮いて見え、不穏さえ感じる雰囲気が漂っていましたが、誰一人声を掛ける者はいませんでした。

そのうちの一人が、舞台の天幕を見上げながら、薄く笑った。その笑みは……冷たかった。


あまりにも人がごった返す人ごみに酔いそうだったので、神殿にも、温泉にも寄らず、今日は神学校の宿舎でゆっくりすることにして、街を後にしました。


夜遅く、すっかり日に焼け、そして自身に満ちた顔のミオとコハクが帰ってきました。


(えっ!こんなに二人、逞しい表情だったかしら)


「いよいよ、明日だね」コハクが白い歯を見せ、指を立て笑って声を掛けてきた。


「うん、私達も頑張るよ。絶対に成功させるんだから」


私はこぶしを握り、ゆっくり頷くと、他の3人も自信に満ちた顔で頷き、

静かな夜が更けていきました。

遠くからは、寝ない街の声に混ざり、時折、犬の遠吠えが聞こえる夜でした。


ティアがベッドで目を閉じると、遠く犬の遠吠えが突然狼の叫びに変わる——まるでアルテミスの聖獣が何かを警告しているようで。


私はサラと手を繋ぎ安心すると、やがて意識から外れていき、静かに胸を上下させ、眠りについていきます。


サラが眠りかけのティアの額に唇を押し当てる。

(たとえこの世界が焼けても…)

その声は月に消え、星の光が、炎月星紡の舞の軌道を描いたように、空にゆらめいた。




◆アクエスコロシアム◆


翌日は神学校で昼食を取りゆっくり、コロシアムに神学校のみんなと一緒に移動します。

天気が良く、夏の日差しがまぶしい昼下がりでした。

今日に向けそれぞれの役割を持って頑張ってきたみんなです。

太陽の日差しに負けないくらいの自身がそれぞれの顔には溢れていました。


コロシアムに到着すると、学生たちはそれぞれの持ち場へと姿を消していきます。

私とサラは身体をほぐし、直ぐにリハーサルに入ります。


「凄い!サラちゃん、舞台から全部見渡せる。

ここに、沢山の人が私達を見に来るんだね……」


サラがティアの手に自分の小指を絡める。


「ほら、アルテミスもヘスティアもこうして誓いを交わしたって壁画に描かれていたわ」




後ろを振り向くと、観客席を改造したひな壇に神学校と芸術学校の生徒たちが並び、私達の準備を待ちます。


私達が舞台に用意された控室に隠れると大きな銅鑼の音とともに、ロクサの歌の調べが始まる。


「ねえ、サラちゃん、音が響いてよく聞こえるね」


「うん、あの観客席の後ろの壁、音が反響する様に設計されているみたい」


「凄いわね、ミオちゃん。見た目は小さくて可愛いのに、発想力が凄すぎる」


そして、最後のパート、私達の出番です。

全身全霊を込めて踊りを舞いました。

ティアの足跡が残る舞台床に、炎が星座の模様を浮かび上がらせる——それはヘスティアがかつてオリンポスで描いた最後の絵と同じものだった。

踊りを終えた舞台には静かな余韻が残り、やがて、コロシアムの入場を待つ人の騒めきに変わっていきました。


そして、アクエスの街並みを一望できる展望席にはコハクを中心に伝令で走る学生 …

コハクの横には小さな蜘蛛を肩に乗せたカレンが期待の眼差しで開演を待っていました。


「ありがとうね、いい席を用意してくれまして」


コハクは無言でカレンに笑顔で応えます。


「さあ、これから終焉が始まりますわよ。琴葉ちゃんもその赤い目にしっかりと人形劇の終焉を焼き付けなさい」




陽が傾き始めた頃、オリーブ油灯の明かりが灯り、一斉に花火が打ち上げられ、今までにないスケールの「炎の奉納」が始まりました。


ロクサの歌の調べがコロシアム全体を包み、聴くもの全てを魅了しました。

ミューズの言う通り、歌姫は本物でした。


芸術院の生徒たちが無意識にロクサの歌に合わせ、指で空中に糸を紡ぐ動作を始める——気付けばコロシアム全体が巨大な織機のように動きだしていた。




「さあ、私達で番ね、サラちゃん行くよ」


サラはにっこり笑い、無言で親指を立てると、同時に奈落がせり上がり、私達は舞台の真ん中に立ちます。


すると目の前の貴賓席に居た、ライオス神官長、バハド校長、アクエス領主が瞳に紫の炎を宿し立ち上がり、ニヤリと笑いながらムルドが立ち上がります。

ライオス神官長が大声で叫びます。


「皆の物、聴け!アルテミス神殿としてこの炎の奉納は汚されていると宣言する」


コロシアムの観衆は一瞬にしてライオスに視線が奪われ、耳を傾ける。


「この島にいる4人の父無し子はみな真っ赤な嘘だ!――

ヘスティア様を語るティアはバハド校長とテイアの子!――

我がアルテミス様を語るサラはムルドとテミスの子!――

ミオ、コハクはアクエス領主とミューズの子!――――」


観衆はアクエス領主がいることに気付き、ライオスの言葉に従うように信じ始めた。


「その、偽りの聖母、いや、魔女3人を断罪せよ!」


今回の件で、私達4人はそれぞれの頭角を現し、大人顔負けの事を10歳の子供たちがやり遂げてきた。

そのことをよく思わない大人たちがどこともなく、叫び出す。


「母子を断罪せよ」、「母子を断罪せよ」、「母子を断罪せよ」 ―――




当のティア、テミス、ミューズは涼しい顔で座っていた。


私達子供達は母の態度を見て、慌てることなく静かに立ち銅鑼の音を待つ。


ミューズがロクサに一言思念を送る(始めなさい)


ロクサの手が天に上がると、観衆の声を無視して、大きな銅鑼の音が鳴り響き、『炎月星紡ぎの舞』が始まる。

一斉にオリーブ油灯の火が消え、コロシアムとヘスティア神殿、アルテミス神殿が月明かりに照らし出された瞬間、3か所同時に花火が打ち上げられ、ロクサの歌声がコロシアムとその周辺に静かに流れていく。


テイアの言葉を覚えていたテミスが迷わず白い三本の矢を放つ。

光りの女神の神威を込められた矢は、流星のように白く輝き、きれいな子を描きながら、そしてアクエス領主、バハド校長、ライオス神官長の頭上で破裂し、白い光の粒子で身体を包み、やがて紫の炎は消えそのまま座りこんだ。


間髪入れずにムルドに照準を合わせ矢を放つと、3本の矢は割れることなくムルドの頭上で破裂する。白い光の粒子がムルドを包み込む。


「ギャー、熱い、熱い、………」


背中に刻まれた3枚の葉が紫の炎を宿しムルドを焼き尽くした。

光りの粒子が肉の焼けた臭いを消し去り、炭を土へ変えていった。


そして、カレンの最後の神能が働き、ムルドの記憶は人々から消えてなくなった。


その瞬間、民衆は私達に注目し、『炎月星紡ぎの舞』を堪能した。


私とサラは回転しながら舞を踊り、糸から灯が零れ落ち、サラの月弓から放った矢が青白い星屑を産み、渦を巻き銀河を形成していった。


そして流れるように炎が両神殿にもたらせ、温かい灯で照らし出しました。


人々はその光景に息をのみ、温かい照らし出される両神殿と、まだ知らぬ銀河の形に思いを馳せていた。


銀河の中心では融合した私とサラが舞い踊り輝き続けていた。



やがて、舞を終え私とサラは力を使い果たし抱き崩れた。

二人の顔にはやり遂げた幸せな笑顔のまま二人の世界に墜ちていったようでした。




静まり返った席からは、やがて絶賛の声と、拍手が鳴りやまなかった。


拍手が星々と共鳴し、コロシアム全体が一時宇宙に浮かんだように輝く ―― 観客の瞳に映ったのは、生まれて初めて見る神々の微笑だった。


テイア、テミス、ミューズは顔を見合わせ微笑み、舞台に向かって拍手を送りました。


カレンドールは展望席でほほ笑みながら、拍手を送っていました。


(フフフ、今までにない楽しい人形劇でしたこと)


私とサラはいつの間にか宿舎のベッドに運ばれていました。


横で寝ているサラの寝顔が愛おしく感じられた。

寝顔に月の光が触れ、自分の息が自然に寄っていき、再び寝息を立て眠りにつきました。






◆それぞれの旅立ち 12歳の春◆


あれから1年半が過ぎ、私達は大人への第一歩を踏み出す時が来ました。

私達仲良し5人組の新たな旅立ちです。


アクエス港で私は名残惜しみながらミオちゃんの両手を持ちます。


「ホントに言っちゃうんだね。本土に行ってもたまには島に帰ってきてね」


コハクがミオとカレンに笑いながら声を掛けます。


「ホント、お前ら、凸凹コンビだよな。まさかカレンがミオと一緒にいくというとは思わなかったけど。向こうでも楽しくいいコンビでいなよな」


「でこぼこコンビは余計でしてよ。大体、ミオは私が居ないとまだ子供なのよ」


「煩いわね、あなたがどうしても本土で服飾の勉強したいって言うから、ライオスさんに頼んで本土に連れていくんだから」


「フフフ、そうだったかしら … 私にはあなたが涙を浮かべて一緒にいこうと言った記憶しかありませんのよ」


時間は無常に流れ、ライオスに促され二人は船の中に姿を消していきました。


ミオはアクエス島の上下水の完備や、温泉施設の設計など土木技術を買われ、ローマ本土に技師として招待され、カレンは装飾の勉強をするということで本土に行くことにしたそうです。


サラがコハクに話しかけます。「ねえ、コハクちゃんは寂しくなるね」


「いや、そうでもないよ。アクエス領事が引退して、ミューズママが領事を引き継いで、私が16になったら領事を継ぐ予定なんだよね。だから、覚えること沢山あって、寂しいなんて思っていられないよ」


「それに、ティアとサラもヘスティア神殿とアルテミス神殿が統合された神殿で巫女の修練に入るんでしょ?暫くはなかなか会えなくなるね」


お互い少し寂しい顔になり、出向しようとしている船を見ます。


船尾にはミオとサラが大きく手を振っています。

ミオの目には涙が浮かんで、何か叫んでいるけどここまで届きません。


私達も手を振り応え、自然と思い出が頭を駆け巡り、みんな涙を浮かべていました。


ゆっくりと、船が港を離れていく時に大きな縦揺れが島全体を襲います。

「キャッ」と私は小さな悲鳴を上げると、サラが「大丈夫だよ」と抱きしめてくれました。

やがて、揺れは収まり、船の乗客を見送りに来ていた周りの人たちも、立ち上がり何だったんだろねと話していました。


「ねえ、火山が爆発したわけじゃないのに不思議だね」とコハクが話します。


火山の揺れは経験あるけど、この揺れはもっと違うものでした。


私も「うん、何だったんだろう」と遠く離れていく船を見ながら呟くとサラが、


「見て、海面が下がって海の底が見えるよ」と驚きの声を上げます。


「うわ、海の底ってこんな風になっていたんだ」とコハクが驚きの声を上げているのを聞きながら、私は遠く離れて見えなくなる船を眺めていました。

すると、海が山のように盛り上がり、だんだんとこちらに近づいてきました。


「見て、海が!」私の声に驚いてサラとコハクも海を見つめます。


それが、グングン迫ってきます。


私達は呆気にとられ、ただ見つめるだけでした。


それが波だと気づいた時には何もできず、ただ呆然とするだけでした。


咄嗟に、サラが私とコハクを抱きしめ叫びます。


「流されたらおしまいだよ」


……………


静かに近づいてくる大きな山。


……………


みんなの手には力が入ります。



海に飲まれ、投げ飛ばされ、内が起こったのか分からないまま





「ハッ!」と目を覚ますと、そこには瑠璃と碧衣の顔がありました。


私の瞳には大粒の涙が浮かびました。


そう私達は幸せの中、津波にさらわれ亡くなったのです。


「えっ!澪は?澪はどうなったの?」


瑠璃と碧衣はゆっくり首を振りました。


横には目覚めないまま眠っている澪の姿がありました。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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本日22話まで投稿を予定しています。引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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