第19話 炎の奉納 人形劇の配役
クラスの朝会が終わり、私とサラは先生に校長室に来るように言われ、私はサラの手を引いて校長室に向かいました。
(サラちゃんの手硬いけど、でも、温かくて落ち着くんだよなあ…)
私がノックすると、中から聞き慣れた優しいテイア神殿長の声がする。
「どうぞ、お入りなさい」
私はゆっくり扉を開けると、静かな空気が私を包み、重ねた呼吸が少しだけ速まった。
そこにはバハド校長、ミューズ学長、テイア神殿長、テミス副神殿長がこちらを向いて、微笑んでいた。
「呼んだのは他ならない、君たちにお願いがあってな。今年の『炎の奉納』を君たちに任せたいと思っているのだよ」
バハド校長がにこやかに話しかけ私とサラは顔を見合わせ、私は嬉しさのあまりサラに抱き着くと、サラの頬が朱色に染まった。その様子をほほえましく見ていたミューズが話しかける。
「あなた達が2年間練習してきた舞がね、評価されたのよ。私も何度か見に来たけど、炎の軌跡が夜空に星座を描き、月弓が放つ光がその星々を結ぶ …… 600年前のあの夜の再現よ。芸術的にもとても評価ができる舞だと思うのよ」
テミス神殿長が深く頷き言葉を受け継ぐ。
「あなた達は完全に融合し合えている。まさに、ヘスティアとアルテミスの愛を再現させているわ。両神殿の関係性の象徴ともいえる舞を是非、民衆に披露して欲しいの」
私はサラの両手を握ったままテイア神殿長の顔を見つめると、にっこり女神のような優しい微笑みを返してくれました。
私は次にサラを見つめると、サラは私を見つめながら一瞬だけ視線を泳がせ、耳を赤くし、頬を朱色に染め、私を包み込む優しい笑顔で頷いてくれました。
私とサラは固く手を繋ぎ4人に向き直り笑顔で応えました。
「はい、謹んでお受けします」
私達は校長室を後に、ミオとコハクが待つ教室へと急いだ。
「ねえ、サラちゃん、今から10日後にアクエスコロシアムで、関係者の前でお披露目して、最終決定はそこでするんだって」
「うん、しっかりそれまで練習を怠らないようにしないとね」
教室のドアを開けると、最初の講義が終わった後の休憩時間で雑談していた、ミオとコハク、そしてニコニコ顔のカレンが出迎えてくれた。
(えー、何でカレンちゃんがそこにいるのよー)
(私は人形劇を楽しむ観客よ。面白そうな劇だったら飛び入りで人形になるかしら…フフフ)
((人形劇、ね……何か企んでる顔だけど、乗せられるのも悪くない気がしてきた))
早速、私はミオ、コハク、カレンを呼んでサラと一緒に、校長室での話しの報告をします。
ミオは話を聞きながら、私達の前で神殿を中心に二つの丘にある、それぞれの神殿の地形図を書きあげて、この続きは講義が終わったらね。
みんなソワソワで、私はお尻がムズムズ、早く抗議終わんないかなーと考えながら、頭の中でお披露目のイメージをして、そっと、サラの横顔を見て、サラと私の舞を重ねうっとりしていました。
月弓が舞えば、私の炎はサラの瞳に宿る……そんな光景が、頭の中に咲き誇っていた。
講義が終わり、私とサラのお披露目の時の作戦タイムが始まりました。
誰とはなしに私の机の周りに椅子を持ってきて、5つの額を合わせて作戦タイムです。
先ずはカレンが口を開きます。
「ねえ、ティアさんとサラさんの奉納の舞の名前は決めたのかしら?こういうのは名前が肝心よ」
サラが「ミューズの言葉をそのまま使うのはどうかしら…『炎月星紡の舞』はどうかしら」
「うん、良いわね。炎と月が織りなし星が生まれる。二人の息があって成される星の誕生って感じで良いわね」
私はサラの頬に擦り寄り、サラは「キャッ」と小さい声を発し、頬を赤く染めます。
「はいはい、お二人さん、そこまで。ここからは仕掛けの話しよ」
5人のヒソヒソ話は日が傾くまで続き、最後はみんなが満面の笑顔で終わりました。
10日後の初披露が待ち遠しく思う5人でした。
きっと10日後、夜空に星が生まれる。私たちの舞が、本当の神話になる。
◆10日後のお披露目の夜◆
コロシアムの中心にある舞台は松明で赤く浮き上がる。
舞台から見た観客席はミオが考案したオリーブ油灯がほのかな灯りを照らしています。
舞台から見ると、海蛍の明かりが等間隔に揺らいでいるかの様に見えます。
私とサラちゃんは舞台のそでで手を繋いで観客席を見渡していました。
「ねえ、サラちゃん、ざっと30人くらいかしら…」
「そおね、私達はいつもの通り『炎月星紡』を舞うだけよ。心配なのはミオとコハクと私たちのクラスの子たち…私達の動きにうまく融合できるかしら」
「大丈夫よ、琥珀ちゃんが先頭に立って指揮取っているんだから。それよりカレンが作った衣装どうかしら…似合っているかな?」
「うん、とても似合っているよ、ティアちゃん」
二人は両手を握り、見つめ合い、額を合わせ、立ち上がり、舞台の中央に立つ。
ティアが舞うと、舞台の炎は二人の舞を優しく照らし出し、サラが射ると銀河の星々が流れる。
二人の舞に合わせ咲く灯の花々と打ちあがる星の花火。
ティアの炎がサラの矢に吸収される瞬間、観客席のオリーブ灯が一斉に金色に変化。
袖に仕込まれたカレンの髪が、灯を不自然に引き寄せる危うい美しさ。
舞台は幻想的な舞を見せ、やがてティアとサラは溶け合い、新たな光の星を生み、
二人のシルエットが融合する時、600年前の女神たちの影が天蓋に浮かび上がる。
「はあ、はあ、はあ」
肩で息をするティアとサラ、固く手を繋ぎ、深くお辞儀をすると、鳴り止まぬ拍手。
サラがティアの汗を手でふき取ると、その汗に『星の誕生』の、
輝きが凝縮されていることに気付く。
サラの指先がティアの頬を撫でるたびに、汗の粒が小さな星となり、夜空へ昇るようだった。
ミューズが今回の炎の奉納の評価報告書に「人類史上最高の芸術」と記載した。
テミスとテイアがにっこり笑い、バハド校長の目には涙が浮かんだ。
『炎月星紡の舞』が認められた瞬間だった。
抱き合うティアとサラに駆け寄るミオとコハクとカレン。そして、協力した神学校の生徒たち。
みんなが抱き合い、笑顔が、汗が、涙が星を紡いでいった。
そして空には、小さな神話がまた一つ、芽吹いていた。
(おや、アルテミス神殿の蜘蛛の巣に反応が…怪しい…)
コロシアムの蜘蛛の巣から1匹の蜘蛛が姿を消し、糸の揺れの余韻だけが残る。
その余韻に一人の少女だけが気付いていた。
(あれー、コトハちゃんどこかにお出かけしたわね …… 人形劇の開幕が近そうね … フフフ)
◆コロシアムで舞を披露している頃◆
ムルド神殿長がアルテミス神殿本部の神官と巫女と面会していた。
「おや、本部のお偉い神官様と巫女様がこんな時間に何用ですかな?
…ひょっとして、お忍びの二人のために宿を用立てせよとの相談ですかな?」
脂ぎった顔に不健康な赤みが差し、口元から下品な笑みが零れる。
「ライオス様、この下品な男は…全く、テミス様の言う通りの色ボケ神官ではないですか」
「まあまあ、ロクサ嬢、落ち着きなさい。ところムルド君、テミス様は不在なのかな?
「おー、あれこそ、色ボケ巫女ですぞ。どうせ、今晩もどこぞの男と一緒に酒でも煽っていると思いますぞ」
「明日は当然テミス様とムルド君は朝の御祈りの時間には二人揃っておるかな?」
(さっきから黙って話を聞いていれば、支部とはいえ神館長の儂は呼び捨てで、テミスは様付け、気に食わんな…)
「二人が揃わないと話はできないと、何を偉そうに、身の程わきまえろ!」
カレンドールに刻まれた4つ葉の紋章の内、2枚の紋章が紫色の光を宿す。
オリーブ油灯の炎が怪しく揺れ、ムルドの瞳が紫色に輝き、
ライオスとロクサがムルドの前に跪き、首を垂れた。
ムルドの紋章から伸びる紫の糸が、ロクサの首筋に絡まる。
「伽巫女の伝統ではな…まずはこの神殿の暗室で作法を教えよう」
ライオスが跪いたままの体が、不自然に痙攣している。まるで糸で操られる人形のようだ。
ロクサの巫女装束の襟元が、ムルドの指に引っ張られ、かすかに肌が見える。
「ふん、本部の巫女も所詮はこういう女じゃ」と唾を吐きかける。
「おお、おお、良い眺めだ、何を話しに来たか話してみろ」
「今回の訪問は、内示を伝えに来ました。テミス様はアルテミス神殿本部副神殿長兼、アクエス支部神殿長に就任、ムルド様は本部の神官の任を伝えに来ました」
「もういいぞ、ライオス、儂からの命令があるまで、お前は宿屋で一人待て。もう下がっていいぞ」
ライオスは頭を下げ神殿を後にした。ライオスの目には紫の炎が揺らいでいた。
「さて、ロクサと言ったな、お前は今日より儂の伽巫女に任命じゃ。テミスが巫女として来てから、伽巫女が廃止され、儂も神殿の外に求めるしかなくて、丁度手頃のものが見つかって良かったわい」
「さあ、付いて来い!たっぷり可愛がってやるからのう」
ロクサは黙って頭を下げ、ムルドの後に続いて歩く。目には涙が浮かんでいた。
◆一方のコロシアムでは◆
私達は今回の『炎月星紡の舞』の披露が成功し、悦びの余韻を残し帰路についていた。
「ねえ、もう寮に戻るには時間がかかるし、みんなでお風呂に泊っていかない?」
と私が提案する。
実はアクエス島には澪の考案で大浴場が経営され、今では一大温泉リゾートとして本土から多くの観光客を呼ぶまでに成長していた。
カレンがニコニコ顔で、みんなに聞こえる大きな声で提案する。
「私行ったことないし、明日は学校休みだから、ここまで頑張った疲れを癒すためにも、みんなで行こうよ」
私達、今回のお披露目では私を含め10名の生徒が参加していて、みんな笑顔で賛成しました。
(おや、私の力が強くなったみたい。感じからすると2枚の葉を使用したわね。さてさて、どんな人形劇になるか楽しみ…あっそう言えば、あの下品な男に女性には使うなと言うのを忘れていたわ…私も女性だし、女性を傷つけることは許さないんだから…テヘ)
一人でほほ笑むカレンを見て不思議に思い尋ねてみました。
「ねえ、カレンちゃん、何か良いことあったの?」
「その内、ティアちゃんにも何が起きているか分かるわよ。
人形劇の終焉を先に知るのは楽しみも半減、ルール違反よ。フフフ」
◆暗室の中では◆
800の赤い目が天井で光る中、ロクサ巫女装束に手をかけるムルド。
装束が解け、白い肌が覗かれた。
(この、色ボケムルド、下品にも程があるわ…でも知らないわよ…最後に泣くのは………)
「ぎゃー」醜い悲鳴が、暗室の外にも漏れ響く。
暗室の壁が静かに震えた。次の瞬間…、暗室から飛び出したロクサの姿が、そのまま巫女宿舎へと消えていった。
暗室の中では背中の葉の一枚を黒焦げにして、大きなやけどを負ったムルドが泡を吹いて倒れていた。
ロクサは巫女宿舎に助けを求めに駆け込んだ。
そして、コロシアムから帰ってきたテミスと従者の巫女3人と鉢合わせになった。
気丈なロクサはテミスに、今起こったことを細かく話した。
話しを聞き終えたテミス。
「もうムルドには慈悲は必要ないわね。
クミルとサテラ、ライオス神官の様子を見に行って。
いずれにせよ、カレンドールに魂を売った男、最後はろくな死に方はしないわよ」
法と掟の神テミスとして、完全にムルドを切り捨てた。
◆一方、アテナの神殿で映像を見ている瑠璃と碧衣◆
「瑠璃ちゃん、何か凄いことになっているね。ドラマより面白いんだけど」
「うん、うん、ただ星愛たちはのんきに温泉入って、澪はどや顔で温泉自慢して…
カレンドールは満足げな顔して……」
瑠璃の背中を叩くものに気付き後ろを振り向くと…
「ごきげんよう、瑠璃に碧衣」
「えっえー、何でカレンドール様がここにおられるんですか?」
「ちょっと瑠璃、冷静になりなさい。よく見て、カレンドールは私たちのクラスの黒羽 華蓮さんみたいよ」
「フフフ、今頃気付いたの…ところで面白いもの見ているわね…
あー、思い出すは、楽しい人形劇だったものね」
「何でカレン様がここにいられるのですか?」
「私は断絶神よ、どの空間にも自由に行き来できるのだから」
「カレン様、そういう事ではなくて、何で私達の白い塔に入ってきているんですか?
「えっ、だって玄関開いていたわよ。それにね、風羽に頭下げられてね…面白そうだし、あなた達に協力することにしたんですのよ」
何かに気付いたのか慌てて、眠っている紗良の前に立つ碧衣。
「安心しなさい、眠っている相手の神核に触れて覗くような、姑息なことはしないから。
それに紗良ちゃんは星愛ちゃんとの神婚の儀を決めたみたいだし、正室の座が駄目なら、側室になって ……どうせ私はあなた達、転生律神の輪の中には入れないもの… フフフ」
カレンドールが現れ、アテナの神殿では大変な騒ぎになっていたようでした。
アテナの神殿ではカレンドール、瑠璃、碧衣の三人がじっと映像を見守っていました。
映像を見る華蓮の横顔を見て不思議に思い瑠璃が尋ねた。
「ねえ、華蓮さんは星愛ちゃん達みたいに、試練を受ける必要はないの?
700年前のこの映像に関係する女神たちはみんな、映像の中に意識があるみたいだけど」
「私は断絶神よ。天界、地上界、冥界の空間を自由に行き来できるの。
全ての界で同じ時の流れの中を私というものを刻んできたんですのよ。
ほら、私の人生はこの糸のように一直線。あなたたちのように輪にならないのよ」
「だから、各界の記憶が連続した時間で残っているから試練を受ける必要もないという事なんだ」
碧衣は納得した様に答えた。
華蓮はニンマリ笑い、頷いた。
「じゃあ、澪ちゃんはどうなの?
澪ちゃんも人としてこの紀元前700年以降、2700年生きてきたんでしょ。
今の澪ちゃんにも連続した記憶があるという事でしょ」
瑠璃が華蓮に持っている疑問を投げかけた。
「そうね、でもそれは人として転生した記憶。
もし、3000年の呪縛が解かれ、人として亡くなったら、もうお分かりでしょ?」
碧衣が無意識に自身の首飾りを握る
「つまり…澪さんが死ねば、私たちと過ごした日々も全て …… 無かったことに? ……
そのため、記憶を残す必要があるから、この試練を受けているということなのか…」
(あら、碧衣って子は紗良の血を強く受けているみたいね。すごくクールな感じでいいわね。フフフ)
そして、3人が見ている映像は翌朝の映像に切り替わる。
星愛たちが天使の様な寝顔でごちゃまぜで寝ている、温泉宿舎の大部屋。
巫女の宿舎の巫女長の部屋で朝食を食べながら、何やらヒソヒソ話しをするテミスと3人の巫女。
アルテミス宮殿を出て、街中を歩く二人の神官。
「ウフフ、こうやって3つの映像で見ると ……」
指先で3つの映像を繋ぐ糸を紡ぎながら
「これでやっと私の糸が主人公たちに届いたわ、人形劇が数段楽しくなるわね」
これよりそれぞれの立場で役者たちが人形劇を演じ、物語が核心に迫っていくことを物語るかのように、アテナの祭壇は輝きを増した。
そして、神々の舞台は、いよいよ核心へと踏み込んでいく。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
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本日22話まで投稿を予定しています。引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!




