第18話 10歳の夏の『炎の奉納』に向けて
◆8歳のある夜の会話◆
8歳の頃からティアとサラは夕食後、神学校の神殿へ出かけ、
二人で舞を踊るのが日課になっている。
ティアが真ん中で、炎を模した舞いを踊り、
サラがその周りで弓を持ちティアを守る様に舞う。
ティアの金色の髪が炎のように渦を巻き、その足跡が残す炎は、瞬く間に床を這い、赤金橙の花弁が次々と咲き乱れる。
まさに神々だけが歩める光の絨毯——
一方サラの銀色の矢は、月光の軌跡を描き、空中で三日月型に展開すると、神殿の柱を正確に射抜く。
二人の息が合うたびに、神殿の床に光の花が咲き乱れていく。
舞を見ながらミオとコハクが話している。
「ねえ、ミオ姉、あの二人本当に溶け合うような舞をするね」
「だって、あの二人いつも一緒でしょ?夜なんか抱き合って眠っているのよ。
仲がいいのは分かるけどさ、使えている神様違うし...」
ミオは無意識に自身の胸のリボンを弄び、遠い未来を見つめるような目で呟いた。
「神殿のしがらみと子供の純粋な気持ち...どちらが重いのかしら...」
「ミオ姉は妬かない妬かない、それに、別に神殿同士いがみ合っていても…
ていうか、ムルド神殿長がおかしな動きしてるだけなんだけどね。
それに、ヘスティアとアルテミスってとても仲が良かったんでしょ?」
「うん、そうね、神様は仲が良かったって言うのに…ムルドが悪いね」
「話変わるけど、サラの持っている弓は秀逸だね。
素人の私にもわかるよ」
「でしょでしょ、月弓とまでは言わないけど、私の傑作よ。
指でなぞる三日月紋章は、触れると微かに青白く光り、3つの星が三角に配置されている。まるで夜空の星座図のよう——
矢を放つと矢は空で三つに分かれ、運命の如く標的を貫くのよ。
...私が作った弓でサラはティアを守るのね」
ミオは感慨深げに胸に手を当てた。
「ミオ姉の物を作る創造力は凄いね。
そして、その弓を扱えるサラも凄いと思う」
「ところで、なんていう名前にしたの、あの弓?」
「半月弓よ、神器月弓には及ばなくとも月の様な光を備えた弓よ」
「へぇ、良い名前だね」
コハクは思わず頬を緩ませほほ笑んだ。
こうして小さな日課はやがて伝説へと変わり、
2年の時がアクエス島に新たな風を呼び込んだ——
◆8歳から毎夜舞を踊り続け、10歳になる年の4月の夜◆
「サラちゃん…ほっぺ柔らかくて…むにゃ…気持ちい……むにゃ」
「いやん…ティアちゃんったら、もう…でも幸せ…スースー」
(800の眼は見逃さないのよん。この甘い関係が将来どうなるのか…)
コトハが不安に脚を震わせた瞬間、天空をアルテミス神殿の方へ剃刀のような神気が走った。
星愛、紗良、澪、琥珀、琴葉が同時に叫ぶ。
(えっ、何、この神気。この島で感じたことのない神気)
いつの間にか蜘蛛のコトハの姿が蜘蛛の巣から消えていた。
◆アルテミス神殿・神殿長室◆
金髪の少女が現れると同時に、蜘蛛の巣から800の眼が光った。
「誰だ?」
ムルドが叫ぶより早く、少女の指が優雅に上がる。
ガクンと床に膝をつく神殿長。
「100万光年早いわ」
カレンドールは靴先でムルドの顎を上げ、冷たい微笑を浮かべた。
「落ちぶれ神官長、あなた権力が欲しいんでしょ?ウフフ」
欲望を透かして浮き上がらせる、怪しく光る紫の瞳にムルドの瞳は釘付けとなる。
カレンドールは心の中を読み取り、せせら笑う。
「うーん、そんな簡単なことでいいのね、私が手伝ってあげるわ」
ムルドの瞳は怪しく光り、コクリと頷く。
「契約しましょう」
宙に描かれた赤い紋様が、ムルドの口から白い何かを吸い出した。
ムルドの背中が紫に光、カレンとの契約の証が刻まれる。
その証にはカレンドールの神能の一つが刻まれていた。
「刻印が全てを導くわ、そして最後の楽しみは夏までお預かりね。
それまでこの島で、楽しい演劇を見物させてもらうわ。ウフフ…」
振り向いた視線が蜘蛛の巣を灰に変え、赤い外套が翻り、次元の亀裂が音を立てる。
残されたのは、皺になった絨毯と、光る液体が滲む床に座る影だけだった——
◆神学校寮・ティアたちの部屋◆
(はっ、危ない、危ない。感は良いみたいね…危うく丸焦げにされるところだった)
四人の小さな乙女の寝息が聞こえる部屋に戻ったコトハは「いやー、危なかった」と呟き一息入れていた。
その後、コトハに憑依している琴葉は私、紗良、澪、琥珀の質問攻めにあっていた。
紗良が大声を出す。
(えっ!カレンドールで間違えないの?嘘でしょ…何でこんなところにいるの?)
私も驚いてしまいました。
(えー、やだあ…もう紗良ちゃんの追っかけはしないって言うから、見逃してやったのにって…あれはつい最近か…今は紀元前700年だったわ)
(目的は…(震える声で)私の神核…転生の記憶が詰まった結晶…を見たいだけだって…。彼女、力は澪ちゃんと良い勝負だから私には実際何もできないけどね。ただ、お風呂やトイレまで覗くんだもん)
(ほんと、許せないわね)と本気で怒る私。
澪が、(断絶神のカレンドールだから、魂の取引でもしに来たのかしら…)
(でもさ、私達、転生神にとってはおかしな魂の転生先で悩まなくて済む、転生不能なゴミ魂を処理してくれるありがた~い掃除屋さんなんだから!)と、笑いながら答える琥珀。
(そうですよ、地上界の人の子は断絶神のことを死神、悪魔と言うけど、(ため息)人間が自分の行いを反省する日は来るかしら...自分たちの行いが悪いから断絶神との取引に応じていることに気付いて欲しいですねー)と琴葉が話をまとめました。
夜も深まり、5人は明日の成り行きを見ていくことで話しの折り合いを付けました。
月が完全に隠れ、部屋に残ったのは、5人の不安な息遣いだけだった。
その静寂が、最も恐ろしい予感を孕んでいました。
翌日は大きな出来事が二つありました。
◆神学校のティアたちのクラス◆
朝会の時間になり、先生が一人の可愛い金髪の子を連れて入ってきました。
「今日からこのクラスに転入してきたカレン君だ、みんな優しくしてあげてくれ」
(……… んっ?)昨夜は久しぶりに遅くまで話していたので、意識がぼんやりしている私。
「はじめまして、アルテミス神殿からの推薦で、今日から皆さんとこの教室で学ぶことになりました。カレンです!
よろしくお願いします」
(えっ!?この声カレンドールじゃないの。あっあー、間違いない。金髪で碧眼の可愛いいけど、チビのカレンだ!)
(チビって何よ!ちょっと星愛、あなたの声駄々洩れって言うか、あなた、ティアに憑依しているのね。ははーん、試練受けているんだ)
(相変わらず、頭は切れるわね)
(星愛がいるっていう事は紗良ちゃんはサラに、澪に、琥珀も…ははーん、昨日の蜘蛛は琴葉ちゃんね。琴葉ちゃんは無事だったかしら?
(黒こげの蜘蛛になるところだったよ、カレンちゃん。今度からは相手をよく見てね!)
「…と言うわけで、カレン君はミオ君の横の席ね。ミオ君しっかり面倒見てやってくれよ」
「ハイ、先生。カレンさんよろしくね、ミオです。分からない事があったら何でも聞いてね」
「うん、よろしくね」
(とこれで、カレン、あなた魂の取引してきたの?)と紗良が尋ねる。
(そうよ、あなたの神殿長、心当たりはあるでしょ)
(まあ、あの腹黒神殿長だから仕方ないね。で、どんな取引してきたの?)
(駄目よ、紗良ちゃんの頼みでも言えないわ。あなた達は未来から来た傍観者。歴史を変えられたら禁忌に触れるでしょ。
………
その内に分かるはよ、可憐な人形劇を私と一緒に楽しみましょ)
私はこの台詞に聞き飽きていましたが、本人はとても満足像な表情をしているので、突っ込むのは止めにしました。
私達も傍観者として話しの成り行きを観覧することにしました。
◆もう一方の神学校の校長室◆
早朝、テイアがアクエス神学校の校長室に姿を現しました。
テイアの母は既にバハド神殿長から神殿長の席を譲り受け、テイア神殿長に昇進しました。
そして、バハド神殿長がその人望を買われ、アクエス神学校の校長に就任していました。
優雅な笑顔で挨拶をするテイア。
「皆さん、おはよう」
そこには、バハド校長、テミス アルテミス神殿副神殿長、ミューズ芸術院のミューズ学長と、
今では立場は大分変わっていますが、昔なじみの顔ぶれです。
ここに、アクエス領主が不在なのは病気で床に伏せているからです。
テミスが椅子に背筋を伸ばし、浅く座り、気品ある姿勢で口を開きます。
「昨日の神気、皆さん感じたかしら?アルテミス神殿からだと思うのだけど、テミスはなにか知っている?」
「ええ、カレンドールよ。ムルドと契約を結んだと言っていたわ」
テイアは頬を緩めて、目を細めて口を開きました。
「あら、カレンドールに目を付けられたんだ…もうムルドは終わったわね。
で、どんな神能を授けたと言っていたの」
「生意気に秘密だって言っていたわよ。どうせ精神操作系の神能だと思うけど、ムルドには猫に小判よね」
ミューズが「まあ、丁度良かったんじゃない?どうせ、ムルドは転生しても消化不良を起こして消滅する運命でしょ。転生先を悩まずに済んで私達転生神も助かるでしょ?」
もう、バハド校長は3人が神であることは知っているかの様に話します。
「いやー、平然と私達人にとっては怖いことを話す。慈悲も何もないですな。でも、皆さんがいるから私も安心できるのです。
ところで、今日はカレンドールの話しではなくて、もっと大切な話しで皆さんここに集まったのでしょう?」
テイアとミューズが大きく頷き、テミスが話し出します。
「私も副神殿長になり、かなりローマ本部にも顔が利くようになりました。
1週間後にはアルテミス神殿のアクエス支部の神殿長兼、本部の副神殿長に就任する予定なの。
でね、本部でその内示を貰う時に提案したのよ」
「どうぞ、そのまま話してください」とテイアがテミスに促す。
「もう、この島では有名になっているけど、ティアとサラの炎と月弓の舞、8月の『炎の奉納』で奉納舞として披露し、両神殿の友好が強固な物と知らしめる許可をね」
そう、アクエス島にあったのは600年前まではヘスティア神殿だけだったのです。
それをヘスティアとアルテミスの関係性を考えて、少しでも一緒に居られるようにしようと言う島民の想いで、アルテミス神殿に申し入れて、アルテミス神殿の支部が作られたのです。
その背景をアルテミス神殿本部の神官はよく覚えていて、今回の申し入れを許可した様です。
ミューズが手を叩いて喜びます。
「あの舞は、芸術的にもとても高い域に達していると思うわ。まるで、二人の神が溶け合い、幾多の星を夜空に散りばめ、炎の情熱を静かな情熱を宿した月明かりが守る。そんなイメージを感じるわ。ぜひ披露すべきよ。テイアもバハドも賛成でしょ」
「もちろん、賛成です。今年の『炎の奉納』は熱くなりそうですな」
「そうね、今年は本土からも沢山人が来そうなので、『炎の奉納』は私達二つの神殿の強い結びつきを世に知らしめるいい機会になりそうね」
満場一致で『炎の奉納』で私と紗良の『炎と月弓の舞』が披露されることになりました。
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