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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第134話 激闘たらい船②


「さあ、各班が出発地点へ移動を開始しました。

 皆、緊張の面持ちで話し合いながら進んでいるようですね……

 華蓮、どんなことを話し合っていると思います?」


「あら、知っていても話せませんわよ。

 絵蓮、守秘義務って知っていますかしら?」


「あらら……華蓮様、それ答えになってません」


「知らない方が楽しめることだってありますわ。

 それより絵蓮、私たちも火の見櫓の上にある席へ移動した方がよくてよ」


「おお、そうですね。ではいったん移動するので放送を切ります」


絵恋の実況と華蓮の解説が、音響器を通して襄陽区全体に流れている。

私たちはその放送を聞きながら、作戦を話し合いつつ移動していた。


「まずは攻めと守りの配置を決めないと」

そう言うと、「守りは私たちに任せて」と、

恬香(しずか)が自信に満ちた表情でこちらを見つめてくる。


亜衣がふわりと浮かび、私の前に回り込んで微笑んだ。

「星愛、私たち、華蓮様の信仰の力以外にも力が湧いてきてるみたい」


その横で扶美が頬を少し赤く染めて頷く。

「私たちにも、信者という名の推しができたみたいなの」


秦の四女神の中で一番背の高い斯音が、大きく頷いた。

「こう……今までにない力が湧いてくる感じがするの」


珍しく斯音が腕をぶんぶん振り回す。

本当に、ぶんぶん音が聞こえるほどに。


(えっ、腕を振るだけで音が鳴るってどういうこと……?)


恬香が私の瞳を覗き込み、自信ありげに微笑む。

「秦の時代では北方防衛総司令だった私を信じて。

 灯花庵の守りは任せて」


紗良が頷きながら言った。

「うん、蒙恬(もうてん)の守りは鉄壁だよ。

 旗の守りは秦の四女神に任せていいと思う」


私も納得して微笑み、頷いた。

「ええ、秦の皆さんに守りはお願いするわね」


秦の女神たちは顔を見合わせ、嬉しそうに両手を叩き合った。


(わあ……また一段と四人が可愛くなった。推しの力って本当にすごい)


そんなことを思いながら、私は紗良に尋ねた。


「ところで、攻めについては何かいい案あるかしら」


紗良は自信ありげに皆の顔を見回し、口を開いた。


「まずは、二人でたらい船一艘にしようと思うの」


碧衣が静かに頷き、紗良に同意するように言った。

「私も同じ意見。それに、紗良が狩射手(しゅしゅて)でしょ」


碧衣がニヤリと笑うと、紗良は静かに頷いて続けた。


「戦いは商業区を囲む運河……

 私のたらい船は流れに沿って先に進んで、角から射程で待つつもり」


曹英がハッとしたように声を上げる。

「ま、待ち伏せするのですね!」


紗良は苦笑しながら頷いた。

「まあ、待ち伏せと言えば待ち伏せだね。

 でも、射程に入ったら確実に射抜く自信はあるよ」


私は納得して頷く。

「で、漕ぎ手はどうするの?」


紗良は燈澄(デンチェン)に視線を向け、優しく微笑んだ。

「燈澄、お願いできるかな」


最年少の燈澄は少し不安そうな表情を浮かべる。

紗良はその頭をそっと撫でながら言った。


「大丈夫。私たちの船は常に先頭にいるし、

 私が狩射手をしている間は、敵を射程に入れさせないよ」


紗良の言葉に安心したのか、燈澄はぱっと笑顔になった。

「うん、分かった……私の命は紗良姉ちゃんに預けるね」


一同が顔を見合わせ、思わず笑い合う。


「大丈夫だよ。万が一、水竹筒の水がかかっても死ぬことはないから」


紗良は燈澄と目線を合わせ、頬を摺り寄せた。

「紗良姉ちゃん、恥ずかしいよ……」


そう言って頬をぷくっと膨らませる燈澄が、なんとも可愛らしかった。


「ところで、残りの六人はどうするの?」


私が紗良に尋ねると、紗良はゆっくりと頷いた。


「今回は、攻め手の基本を触即離(しょくそくり)で行くのがいいと思う」


琴葉が「しょくそくり……?」と首を傾げる。


紗良は苦笑しながら説明した。

「勢いよく接近して、一度打ち込んだら即座に離脱する戦法だよ」


曹英が腕を組み、片手を頬に当てて考え込む。

「じゃあ漕ぎ手は、碧衣、燈灯(デンデン)、それと私か星愛(ティア)ね」


紗良は首を横に振った。

「碧衣の射手としての腕は惜しいから……

 漕ぎ手は燈灯と曹英、それから星愛にお願いしたい」


そこで亜衣が口を挟む。

「私の星愛と燈柚(デンヨウ)は組ませたら駄目よ」


紗良は苦笑しつつ頷いた。

「うん。攻め手は、燈灯と碧衣、曹英と燈柚、そして星愛と琴葉だね」


曹英と亜衣は安堵の表情を浮かべ、燈柚はしょんぼりと肩を落とした。


「もう、燈柚は……。私だって星愛と組みたいんだから。

 しっかり射手として、漕ぎ手の私を守ってね」


曹英が声をかけると、燈柚は静かに頷き「はい」と答えた。


その返事を聞き、紗良は話を続ける。

「そして陣形は、敵を突破するわけじゃないけど……

 鋒矢(ほうし)の陣形が崩れたように見せかける“鋒矢崩れ”でいくよ」


紗良がそう言って恬香を見つめた。


「分かったわよ。崩れた後は私たちが矢面に立ちながら、

 誘い込むように下がればいいのね」


「うん。嫌な役だけど、お願いするわ」


こうして作戦がまとまったところで、商業区の南東の角が見えてきた。


私たちが角地に着くと、係りの女官が声をかけてきた。


「お待ちしていました。攻め手の皆さんは、この白衣をお召しください」


二人の女官が差し出した白衣を、攻め手の皆が手に取り袖を通す。

その瞬間、胸の奥がきゅっと引き締まった。


「おう、おう、お似合いですな」


声のした方を見ると、程普が立っていた。


「今回は負けましたが、来年のためにも最後まで観戦することにしました」


諸葛瑾がにっこりと笑う。


「おはようございます。皆さん、お揃いなんですね」


私が笑顔で挨拶すると、程普がニヤリと笑った。


「なかなか凛々しいお姿ですな。

 呉水軍の私たちが出場しないと、寂しくはありませんか?」


「呉水軍の名は全土に轟いていますからね。

 少し物足りないかもしれません」


と、紗良も負けずに応じる。


「でも、周瑜殿と魯粛殿が鍛え上げた夢咲水軍……応援してますぞ」


そう言って目を細め、私を見る程普。


「お二方とも、お亡くなりになられています」


私が答えると、程普は食い下がるように言った。


「左様でしたな。亡くなったお二方は、今どちらで暮らしておるのかな」


このやり取りを見ていた諸葛瑾が、慌てて割って入る。


「お亡くなりになられているということです、程普殿……

 ここは、亡くなったことにしておきましょう」


「さようか。亡くなったことにすればよいのじゃな」


私を程普と諸葛瑾が睨む。

私は二人を見て小首を傾げ、「何のことかしら」と微笑んだ。


その様子を見ていた女官が、控えめに声をかける。


「そろそろ試練開始のお時間です。

 さあ、たらい船へお移りください」


女官は私と程普の間に入り、軽く追い立てるように誘導した。


――キャッ!


たらい船の思った以上の揺れに、私は驚いて声を上げる。

桟橋から琴葉がニヤリと笑って見ていた。


「じゃあ、行きますよー!」


勢いよく跳び、たらい船に飛び乗ってくる。


どんっ――。


「ことはー!」


思わず縁を掴んで叫ぶ。

飛び乗った琴葉は両足を開いて踏ん張り、腰に手を当てて高笑いした。


「きゃはは、星愛は臆病ですねー」


私の顔を覗き込む琴葉に、私は舌を出して応戦する。


「べーっだ! 琴葉がすることはお見通しよ」


私と琴葉のやり取りを苦笑しながら見ていた他の者たちは、

ゆっくりとそれぞれのたらい船へ乗り込んでいった。


最後に、ふわりと浮いた四女神が中型のたらい船へと乗船した。


「きゃー!」、「ういてるわー」「ふわふわー」


秦の四女神が浮いて船に乗るだけで、歓声が上がった。

なんとなく、また四女神が輝きを増したように見えた。


「あっ、あーーー!」


音響器から、絵蓮の声が突然響き渡った。

周囲が一瞬静まり返り、観衆が次の言葉を待つ。


「――はいっ! それでは、いよいよ本日の最初の試練、『回る周る』の競技が始まります!」


絵蓮の明るい声が商業区全体に広がり、音響器越しにも大歓声が巻き起こる。

船着き場でも同じように歓声が沸き上がった。


その盛り上がりとは対照的に、運河の水面は朝日を受けてきらきらと輝き、

左回りの流れがゆっくりとうねりながら、これから始まる激闘を待っているようだった。


「まずはスタート位置の確認からいきますわよ。

 昨日の屋台試練で一位を獲得した灯花庵の皆は――南東の角からの出発ですわ」


華蓮が涼しい声で続ける。


「二位の劉備の平岱さんは南西、三位の黄河の猪親子は北西、

 そして四位の玄さん一族は北東からのスタートとなりますわよ」


「いやぁ、こうして見ると、四方から一斉に流れへ乗り込む形になるんですね。

 これは見応えがありますよ!」


絵蓮が興奮気味に言うと、華蓮がくすりと笑った。


「ええ。しかも運河の流れは左回りに調整されていますから、

 どの班も最初の角をどう曲がるかが勝負の分かれ目ですわね」


「なるほど〜! 特に灯花庵の皆さんは南東からの出船ですから、

 最初に北東への流れに乗る形になります!」


「そうですわ。流れに逆らわず、いかに早く加速に乗れるか……そこが鍵ですわね。

 そして北東には玄さん一族が出船しているはずですわよね」


「華蓮、出船している“はず”とはどういうことですか?」


「ええ、流れに逆らって逆行するのは大変でしょうけれど、

 流れに乗らずに角で待つことは可能ですもの」


「なるほど、角の死角で待ち伏せするのですね!」


(あちゃー、私たちの作戦言っちゃってる。わざとこの話にした!?)


――うふふ


(あー、やっぱり。絵蓮様をこの話に誘導したんだ)


「あらあら、どこかの班が、待ち伏せなんていう卑怯な手を使うみたいですわね」


(華蓮様、もうそれ以上言わないでください!)


――うふふ、星愛は待ち伏せなんて卑怯な手を使うのかしら


(華蓮様、人の心を読むのは止めてください)


私と華蓮の言葉の戯れが始まりかけたところで、

絵蓮が息を吸い込み、声を張った。


「――おっと、各班、たらい船に乗り込みました! 漕ぎ手の皆さん、緊張の面持ちです!」


華蓮が続ける。


「灯花庵は、紗良と漕ぎ手の燈澄、碧衣と燈灯、星愛と琴葉、曹英と燈柚。

そして秦の四女神が中型船ですね」


「わぁ……どの班も気合いが入ってますね! では――」


絵蓮の声が一段と高くなる。


「試練開始まで、あと(ウー)!」


水面がざわりと揺れ、各班の視線が一斉に前へ向いた。


(スゥ)(サン)(リュウ)――」


華蓮が静かに告げる。


「皆さま、どうかご武運を」


「――(イー)!」


絵蓮が叫んだ。


「試練、開始です!!」


号令と同時に、四方の角からたらい船が一斉に流れへ飛び込んだ。

水しぶきが高く上がり、運河の流れが一気に騒がしくなる。


「おおっと! 灯花庵、出だしが速い! 紗良さんの船、流れに乗るのが上手いですね!」


「ええ、狩射手としての判断力が光っていますわ。最初の角をどう抜けるか……見ものですわね」


私たちの船も、ぐんと前へ押し出されるように流れへ乗った。

胸が高鳴る。


――いよいよ、試練が始まった。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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