表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/146

第128話 屋台対決①


小春日和の穏やかな昼前、私たちは中央広場へ向かって歩いていた。


「星愛、全然連絡しても返事ないし、星紡ぎの呼吸もしていなかったのでしょ」


曹英が少し責めるような口調で言う。


「ごめんね。お母さんの顔を見たら、つい……。

本当に久しぶりで、昔のことを思い出していたの」


「親子水入らずですもの。邪魔する方が野暮ですわよ」


華蓮が珍しく私を庇うように微笑んだ。


「まあ、勝てたから良かったけれど……」


曹英が肩をすくめる。


「そういえば、斯音はアストレイアを見つけたんでしょ? しかも屋根の上にいたって」


驚いて尋ねると、曹英は頷いた。


「ええ。斯音は考え事をするとき、よく屋根に登るのよ。

同じ“秩序”を司る神同士、通じ合うものがあったみたい」


「それって“通じた”じゃなくて、密かに答えを教えたってことじゃない?」


「声が大きい」


曹英が人差し指を口に当てて制した。


「でも、アストレイア様って正義の女神なんでしょ?」


「それは人の子の都合ですわ。

アストレイアは最後まで地上に留まり、正義を訴え続けたわよ。

それでも人は殺戮をやめなかった。

それに比べれば、答えを教えるくらい、神にとっては小さなことですわよ」


華蓮の言葉に、胸の奥がふっとざわめいた。


私は曹英の方へ向き直る。


「ところで、みんなは?」


「もう中央広場に集まっているわよ。

星愛がいないって、大騒ぎだったんだから」


そんな話をしているうちに、前方から民衆のざわめきが一段と大きくなってきた。

そして、絵蓮のよく通る声が響いた。


「はーい、みなさん! 第四の試練『灯花庵を追跡せよ』──」


少し間があき、


「違うだろー!」

「八柱の女神を探せだ!」

「そうだそうだ!」


わははは、と笑い声が広場いっぱいに広がる。


盛り上がる中央広場。その熱気に、なぜだか私は少し恥ずかしくなり、頬が温かくなった。


「そうだったねー。一時は誰も女神を見つけないで終わるかと思いました!」


「ははははー!」「そうだ、そうだ!」


「でもー、灯花庵の偉い人たちのおかげで、なんとか勝敗が決まりました!」


と・う・か! と・う・か! と・う・か!

わあーーっ!


「なに、この掛け声……」


思わず呟くと、曹英がジト目で私を覗き込んだ。


「星愛が薬屋でお茶とお菓子を楽しんでいる間、ずっとこの声援が会場を沸かせてたのよ。

ほんと、恥ずかしかったんだから」


(ああ……曹英が不機嫌だった理由はこれね)


「ごめんね、曹英。もっと早く薬屋を出て戻ればよかった」


「はあ……もういいわよ。星愛も楽しかったんでしょ」


「うん」


私が素直に頷くと、曹英はそっと私の手を取り、皆が待つ場所へと歩き出した。


「わあ、来た来た!」


私に気付いた琴葉が嬉しそうに手を振る。

燈澄(デンチェン)が駆け寄ってきて、勢いよく抱きついてきた。


「ねえ、星愛姉ちゃん! 私たち一番だよ、一番!」


本当に嬉しそうに笑う。


斯音がこちらを向き、静かに親指を立てた。


(えっ、嘘でしょ……斯音ってそんなタイプじゃないのに)

――四百年も地上界にいれば性格も変わりますわよ。

  それに、女神になったばかりだから最初は色が無いの……

  あなた達の色に染まってきているのかしら。

(それは……きっと良いことよね)

――さあ、神のみぞ知るってことかしら。

(華蓮様は神ではないのですか)

――その突っ込みは聞こえないかしら。


華蓮を見ると、すまし顔で牛の背に座り、腕と足を組んでいた。


「さて、結果発表だよ!」


絵蓮の声が中央広場に響き渡る。


「一位は──“灯花庵の偉い人”だー!」


拍手と声援が一気に湧き上がる。


「なんと、二位以下を大きく引き離す、八柱すべての女神を発見したー!」


再び割れんばかりの拍手と歓声。


「いやー、なんだか恥ずかしいですねー」


さすがの琴葉も、この熱狂ぶりにはたじたじのようだった。

他の者たちも、どこか顔が引きつっている。


「さて、残り七つの席! 勝ち残ったのは──!」


絵蓮は会場を盛り上げながら、次々と班を紹介していった。


二位:許褚と郭淮が率いる “黄河の猪親子”

三位:馬岱と関平が率いる “劉備の平岱さん”

四位:隣の襄陽城 “静かなる事務の人”

五位:遥々ここまで来た楼蘭の “西域隊商”

六位:程普と諸葛瑾が率いる “長江のナマズ”

七位:因縁の相手 “玄さん一族”

八位:洛陽から来た騒がしい集団 “洛陽の迷子隊”


以上の八班が、準々決勝へと駒を進めた。


再び絵蓮の声が中央広場に響き渡る。


「みんな、なんで第五の試練が昼前に終わったか、わっかるかな〜!」


「ヤッタイ! ソレ! ヤッタイ! ソレ!」


手拍子を交えた屋台の大歓声がどっと上がる。


「えっ……なに、この大歓声……?」


私は思わず皆に尋ねたが、全員が一斉に首を横に振った。

華蓮は牛の背で足を組み、楽しそうにこちらを見て微笑んでいる。


(華蓮様、何か知っているのですか?)

――あら、絵蓮がこれから説明するわよ。

  私はあなた達が途方に暮れる顔を楽しみにしているの……うふふ。


私は絵蓮へ視線を移した。


「みんな、わかっているねー!

第六の試練は──みんな大好き、屋台対決だーー!」


「待ってましたー!」「食い倒れマース!」「やったー!」


観客の声が一斉に上がり、会場は大盛り上がりだ。


「いえいえ、何……屋台対決って……?」


私は呆然とし、他の皆も同じように口を開けて固まっていた。


「うふふふ、面白いわねぇ」


華蓮がニヤニヤしながら私たちを観察している。


「さてさて、必ず行われる屋台対決がこれから始まりまーす!

出場者は、食材の準備は万全ですかー!」


「おうっ!」


参加者たちが一斉に賛同の声を上げた。


「えっ……えっ……食材って何……?」


絵蓮の説明は容赦なく続く。


「では、一位のチームから広場に設営された屋台を選んで、

仕込みに入ってくださーい!

一番いい場所を選んでね!」


私たちは何も返事ができなかった。


「そして、八位まで屋台を選び終えたら、敗退した班も参加してくださーい!

せっかく用意して持ってきた食材は、ここで消化してくださーい!」


さらに絵蓮は続ける。


「準々決勝進出の班、売り上げ上位四班が明日の準決勝進出でーす!」


私たちが何の準備もしていないことなどお構いなし。

大盛り上がりの中央広場で、否応なしに屋台対決が始まった。


「始まっちゃったよー」


琴葉が他人事のように言うのを聞いて、私は気を引き締めた。


「まずは場所選びよ……」


曹英が頷き、北西にある屋台を指さす。


「あそこしかないわ。大通り沿いは良さそうに見えるけど、

人の流れが邪魔になるもの」


恬香が相槌を打つ。


「それに、船着き場も避けたいし、奏会のコロシアム側も混むわ。

となると……曹英の言うあの屋台ね」


皆が頷いたのを確認し、私は声を掛けた。


「行きましょう」


私たちは静かに北西の屋台へ向かった。

華蓮の乗る牛が、荷車を引きながらゆっくりと後に続く。


「あっ、あった! 私たちの食材!」


思わず声を上げると、燈灯(デンデン)がにこやかに頷き、私と目を合わせた。


「小籠包とゴマ団子!」


私と燈灯は同時に声を上げ、思わず笑い合った。

そして華蓮の方へ向き直る。


「華蓮様、ありがとうございます。

このことがあったから、食材まで用意して、

私と燈灯が来るのを暗いうちから待っていてくださったんですね」


そう言うと、華蓮は荷車の方を見たまま答えた。


「あら、嫌ですわ。何か勘違いしているようですね……

私はただ、昼餉に小籠包とゴマ団子を食べたかっただけですのよ」


振り向かずに言う華蓮の背中を見て、私は思った。


(きっと、華蓮様らしからぬ顔をしているのよね)

――あら星愛、何か言ったかしら。

(い、いえ、何でもありません)


私たちが動き出すと、他の班も屋台を選び、それぞれの持ち場へ散っていった。


屋台に着くと、まずは担当決めから始めた。


「この中で料理できる人は……」


秦の四女神は揃って目を逸らす。

琴葉は妙な手の動きをしながら「任せて!」と声を張り上げ、

曹英は「な、な、なんでも……ござれよ……」と慌てふためく。

紗良と碧衣は堂々と「料理は無理!」と言い放った。


(はいはい、そうですよね)

――あなたたち、本当に大丈夫?

(華蓮様がお手伝いしてくれるのですか)

――そうしたいのは山々ですけど……規則違反になりますわよ。

(逃げましたね)

――どうとでも言いなさい。


華蓮はニヤニヤしながら私の顔を見つめていた。


「私と燈灯(デンデン)燈柚(デンヨウ)が料理を担当します」

「任せて!」


二人は自信満々の表情を見せた。


「琴葉と燈澄(デンチェン)は、忙しそうにちょこまか動いて注文取りをお願いね。

それだけで十分可愛いから、客引きになるわよ」


「えへへへ、そうですよねぇ」


琴葉はもじもじしながら照れ笑いを浮かべ、

「お姉ちゃん、しっかりしてよ」

と、燈澄が袖を引っ張った。


(燈澄がいれば、大丈夫そうね)


私は二人に頷き、今度は扶美と亜亥に声を掛けた。


「扶美と亜亥は会計と接客をお願い。

看板娘として、愛想をたっぷり振りまいてね」


「ふふ」


二人は微笑みながら頷いた。


「紗良と碧衣、斯音は食材や部材集めをお願いできるかしら」


三人は安心したように頷いた。


最後に曹英へ視線を向ける。


「曹英は総指揮をお願い。

人の動き、材料、部材、売り上げまで管理してくれるかしら」


曹英の顔がぱっと明るくなる。


「大丈夫。私に任せてください」


そう言って微笑んだ。


私が右手を差し出すと、皆が次々と手を重ねてきた。


「さあ、始めるわよ!」


「おう!」


掛け声とともに、皆がそれぞれの持ち場へ散っていった。


斯音たちが食材と部材を集めに走り出すと、屋台の周囲は一気に慌ただしくなった。


「まずは竈ね……」


私は荷車の端に積まれていた煉瓦を一つひとつ手に取り、地面に並べ始めた。

華蓮が牛の背からこちらを見下ろし、口元に手を当てて微笑む。


「星愛、自分で積むのね。頼もしいわ」


「ええ。火加減は料理の命ですから」


煉瓦を積み上げ、空気の通り道を作り、底に薪を組む。

手のひらに土の感触が残り、自信からか胸の奥が少し熱くなる。


(よし、これで火は安定するはず)


次に、燈灯(デンデン)燈柚(デンヨウ)が鍋や杓子を抱えて戻ってきた。


「星愛姉ちゃん、鍋あったよ!」

「杓子も、蒸し布も!」


二人は息を弾ませながら、嬉しそうに調理器具を並べていく。


「ありがとう。これで小籠包が蒸せるわ」


私は竹ざるを手に取り、竈の上に置いて高さを調整した。

蒸籠の代わりにするには十分だ。


「席はどうする?」


扶美が問いかけると、亜亥が木の板を抱えてきた。


「ここに並べれば、風も通るし、お客さんが座りやすいわ」


二人は手際よく板を並べ、布を敷き、簡易の食卓を作り上げていく。

琴葉と燈澄(デンチェン)はその周りをちょこまか走り回り、客の導線を確認していた。


「お姉ちゃん、ここ通れる?」

「うん、いい感じ!」


その様子を見て、私は自然と笑みがこぼれた。


(この子たち、本当に頼もしいわね)


やがて、斯音たちが袋いっぱいの食材を抱えて戻ってきた。


「豚肉、玉ねぎ、調味料、全部そろったわ」

「皮の材料も確保した」


三人とも誇らしげな表情だ。


「ありがとう。これで準備は万端ね」


私は竈の前に立ち、深く息を吸い込んだ。


「さあ、灯花庵の屋台を始めましょう」


その声に、皆が一斉に頷いた。


屋台の周囲には、すでに人々のざわめきが広がり始めている。

火をつける音、鍋が触れ合う音、遠くから聞こえる他の班の掛け声。

そのすべてが、これから始まる戦いの合図のように思えた。


「よし……行くわよ、みんな」


私は火打ち石を手に取り、竈へと火を落とした。

ぱち、と小さな火花が散り、薪が赤く灯る。


屋台対決の幕が静かに上がった。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

■ 気に入っていただけたら、☆☆☆☆☆評価やブックマークをお願いします!

■ ご意見・ご感想はコメントへお気軽にどうぞ。


更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ