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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第127話 八柱の女神を探せ 前編:試練の真相


次の試練の場は商業地区だった。

第一の試練が早く終わったため、閑散としていた大通りは、あっという間に観客で溢れ返っていた。


中央広場に設置された高台に絵蓮が立つ。

「観客の皆さーん! この中央広場には観覧符をお持ちの方のみ入れまーす!

それ以外の方は試練の妨げになりますので、コロシアム区域の観影台で観戦してくださーい!」


ざわめく観客たち。


「もう、私の言うこと聞かないと“メッ”しちゃいますよー!」


絵蓮が右手で拳を作り、自分の頭を軽く叩くポーズをとる。


「キャー!」「エレンさまー!」「えれん、えれん!」


私はその光景を見ながら、荷車に座る華蓮へ小声で囁いた。

「絵蓮様って、明るいとは思っていましたけど……薬でも飲んでいるのですか?」


華蓮は苦笑しながら私を見る。

「あまり失礼なことを言わないでくれます? ああ見えて、メソポタミアでは冥界の女王と呼ばれていたのよ」


「め、め、めそぽたみあ……めそ……」

「曹英! これから試練があるのよ、気をしっかり持ちなさい!」


私は曹英の両肩を掴んで軽く揺する。

ハッ、と曹英の瞳に光が戻った。


「もう、曹英、心配させないでよ」

「ご、ごめんなさい……」


華蓮が扇子で口元を隠しながら言う。

「あなたたち、本当に飽きませんわね。昔は彼女、とても恐れられていたのよ。

でも信仰の力が薄れて、今では羊の皮を被った羊でしてよ」


――コラッ、華蓮はそんなこと言わないの。

 本当は華蓮もここに立つはずなのに、

 『あら、私のんびり観戦したいですわ。あなたに信仰の力を分けているの、お忘れかしら?』

 ……人を脅しておいて、ひどい女神ね。


「うふふ、お陰様で私はここでのんびり観戦できていますわ」


「か、華蓮様……やっぱり華蓮様は華蓮様ですね……」


そんな会話をしているうちに、観覧符を持たない観客たちは、

ぞろぞろとコロシアム区域へと流れていった。


商業地区の中央広場が試練出場者と観覧符を持った観客だけになり、落ち着きを取り戻す。

少し寒さを和らげ始めた陽が心地よく感じ、鳩が羽音を立てて飛び立つ。


絵蓮が舞台に立ちにっこり笑う。

「さて、皆さんこれより第五の試練を始めまーす!」


「待ってましたー!」、「楽しみー」

様々な歓声と拍手が飛び交う中、絵蓮が手を上げると静まり返る会場。


「では、試練を発表します。

第五の試練は『八柱の女神を探せ』だー!」


「やったー!」、「イェーイ」、「これだねー」

試練参加者や観客が沸き上がる。

どうやら人気の試練のようだった。


「今日、襄陽府民となって隠れるのは八柱の女神でーす」


最初に登場したのは、アストレイアだった。

「キャー、アストレイアさまー!」、「一目見た時からあなたを推しと決めました!」

今回の智遊祭からの参加の女神なのに、既に沢山の崇拝者が生まれていた。


続々と紹介される女神達。


妃良ヘラ芳美テイア美優ミューズ芽衣ペルセポネ理沙テミス

の夢咲連環府の初代五華たち。


そして、愛麗アフロディテ虹麗(こうれい)(イリス)麗麗姉妹。


会場は割れんばかりの熱狂の渦となる。


「さあ、試練参加者は、これから南東の角、南西の角、北西の角、北東の角――

四つの角に散りまーす!」


商業地区の中央広場は、試練出場者と観覧符を持つ観客だけになり、ようやく落ち着きを取り戻していた。


私は紗良の肩にそっと寄りながら呟く。

「四つの角地から開始になるのかしら……」

紗良は静かに頷く。

「そうなるだろうね」


絵蓮が再び声を張り上げる。

「五回戦進出の十二班は、三班ずつ四つの角に移動してもらいます!

では、移動先の発表をするよー!」


「南東角の第一走班は――玄さんいちぞくー!」


ウォーーッ!


拍手と声援が会場を揺らす。

次々と班の名前が読み上げられていく。


「あれー、まだ私たち呼ばれませんねー」

琴葉はつまらなそうに頭の後ろで手を組み、足元の石ころを蹴り飛ばした。


「琴葉姉ちゃん、とうとう最後になったね」

燈澄(デンチェン)が見上げて苦笑する。


「そして、最後! 北東の角の第三走者はーーー!」


会場が一斉に叫んだ。


「灯花庵の偉いひとーー!」


「ぷっ」


荷車の牛に横座りしていた華蓮が噴き出す。


「えっ、何その名前、勝手に決めないでよ!」

私の抗議の声は、歓声と拍手にあっさりかき消された。


私たちは顔を見合わせ、ただただ呆れるしかなかった。


「そして、この大きな砂時計が三つありまーす。

第一走班が走り出したら一つ目の砂時計の砂が落ち、

砂が三分の一落ちたら二つ目の砂時計が動き、第二走班が走り出します。

さて、第三走班はいつ走るのかなあ?」


絵蓮が耳に手を当て、観客に問いかける。


一斉に声が返る。

「二つ目の砂時計の砂が三分の一落ちたらー!」


「正解です。でも皆さんには何も出ませんからねー。

三つの砂時計の砂が落ちきるまで、

女神様を探した柱数を競い合いまーす!」


「おぉーー!」

会場は雄叫びと拍手で最高潮の盛り上がりを見せた。


「上位八班が第六の試練に進出できまーす。

では、皆の者、散れーー!」


「おぉ!」


今度は参加者たちの雄叫びが上がり、一斉に各班の開始地点へ走り出した。


牛に横座りしながら、華蓮が袖で鼻を隠す。

「土煙を残して……嫌ですわね。

私たちの出番はまだ先。ゆっくり歩いても間に合いますわよ」


私たちは顔を見合わせ、クスリと笑い合った。


「あなたたち、何が可笑しいのかしら?」

すまし顔の華蓮が尋ねてくる。


「だって、綺麗な黒の御召し物を着た少女が牛の上で横座りですよ」

私は笑いをこらえながら答えた。


「あら、そうかしら」

華蓮は気にも留めず、「さあ、行くわよ」と私たちに声を掛ける。


牛が引く荷車は、音の余韻を残しながらゆっくりと動き始めた。


私たちは移動しながら作戦を立てた。


「私は芳美、紗良は理沙、琴葉は美優、そして碧衣は妃良」

私がそう言うと、紗良が頷く。

「そうだね。私たちのお母さんのいる場所はすぐに分かりそうだよね」


曹英が燈柚(でんよう)を見ながら言った。

「そして、燈柚もすぐに分かりそうな気がするけど……」


燈柚は腕を組んで少し考え、ぱっと明るい笑顔になる。

「たぶん、虹麗(こうれい)様なら潜伏場所が分かると思います!」


私はふと思いついて提案した。

「私たちには星紡ぎの呼吸があるでしょ」


琴葉がニコニコしながら手を打つ。

「そっかあ、星紡ぎの呼吸なら離れていても話ができるよね!」


恬香(しずか)が首を傾げ、微笑みながら言う。

「私たち秦の四女神は、星紡ぎの呼吸を聞くことも話すこともできます」


「ということは、私たち八手に分かれてもいいわね」

私がそう言うと、皆が頷いた。


「残りの女神のうち、愛麗に自信がある人はいるかしら」

亜亥がにっこり笑って手を上げる。

「なんとなく分かる気がします。愛麗はきっと、あそこにいるはず」


「じゃあ、愛麗は任せるわね」


「では、芽衣のいる場所が分かりそうな人は?」

一同が静まり返る。


「冥府の女神かぁ……じゃあ、アストレイアの場所に見当がつく人は?」


斯音が手を上げた。

「法の番人には、秦の番人である私にお任せください」

自信に満ちた表情で私を見る斯音。


「そしたら、曹英と扶美、恬香(しずか)燈澄(デンチェン)の二手で

芽衣を探してもらえるかしら」


四人は静かに頷いた。


そして、名前を呼ばれていない燈灯(でんでん)

不安そうに私を見上げる。


「燈灯にはね、琴葉のお目付け役をしてほしいの。

だって琴葉のことだから、どこかに行っちゃいそうで心配なの」


「はい」

燈灯はニッコリ笑って頷いた。


琴葉は口を尖らせて言う。

「そんなことないんだけどな……ちょっと屋台でつまみ食いするだけだよ」


その言葉に、皆が顔を見合わせて微笑み合った。


牛の上に座る華蓮が、にっこりと微笑む。

「あなたたち、灯花庵でずいぶん仲が良くなったみたいね」


やがて、北東の角地が見えてきた。


北東地点の第一走班は『劉備の平岱(へいたい)さん』だ。

すでに走る気満々で、出発地点に立っている。


(なんて安直な名前の付け方なの……)

――うふふ、絵蓮の性格が出ているのよ。

  彼女は名前なんてどうでもいいと思っているの。

(それにしても雑すぎない? 私たちなんて『灯花庵の偉い人』よ)

――まあ、他の人から見ればその通りでしょうね。

  ほら、あの組み合わせを見なさい。面白い四人じゃないこと。


視線を向けると、諸葛瑾と程普の孫権組。

その隣では、馬岱と関平の劉備組が笑いながら話していた。


私たちに気付いた程普が声を掛けてくる。


「おお、これは星愛様に灯花庵の偉い人たち」


私は顔が引きつりそうになるのを堪え、笑顔を作った。

「これはこれは、『長江のナマズ』の皆さんではありませんか」


程普の顔が一瞬引きつるのを、私は見逃さなかった。


(勝った……)


諸葛瑾が静かに頭を下げる。

「北東地点には、赤壁の連合が集まったようですね」


紗良が懐かしそうに頷く。

「そうですね。あの頃が懐かしく思えます」


程普がにこやかに尋ねてきた。

「周瑜殿は夢咲で存分に働いているようですな」


関平と馬岱が呆気にとられた表情で程普を見る。

諸葛瑾は鋭い眼差しで私たちを見つめた。


「きゃはは……程普のおじちゃん、亡くなった人の話して。

今度お茶を飲みに行った時は、最高級のお菓子用意しておいてね」


程普は苦笑いしながら頭を掻いた。

「いやはや、琴葉ちゃんにはこの程普も骨抜きですな」


わははは――


声は笑っているが、目は笑っていなかった。


その時、突然音響器から声が響き、私たちの会話を断ち切った。


「さあ、第一走班の皆さん、準備は良いかなー!」


絵蓮の声が音響器から響き、周囲の視線が一斉に集まる。


「あれー、何も聞こえないなあ」


敵味方関係なく、皆が顔を見合わせた。


「おー!」


雄叫びが一斉に上がる。


「はーい、良く聞こえました!」


――ほとんど聞こえるわけないでしょうね。

(華蓮様、それ禁句です)


私と華蓮は目を合わせ、ニヤリと笑った。


「さあ、行くわよ……さん、あーる、いー……!」


ぴぃぃぃーーーー!


けたたましい笛の音とともに、劉備の平岱たちが一斉に走り出した。


「馬岱、そっち方面は任せたぞ!」

「おう、関平も南側を頼む!」


十二人の平岱たちは、あっという間に街の中へ消えていった。


諸葛瑾が額に手を当て、走り去る背中を目で追う。

「どうやら二手に分かれて捜索するようですな」


「そのようですね。ナマズさんはどうやって捜索する予定ですか?」

私が尋ねると、諸葛瑾はニヤリと笑った。


「そういう偉い人は、どうするおつもりですか?」


「ふふふ」

「ウムム」


睨み合う私と諸葛瑾。その間に紗良がすっと入ってくる。


「もう、お二人とも。睨み合っていても仕方ありませんよ」


「左様ですぞ。謹らしからぬ態度だな」

程普も仲裁に入った。


私と諸葛瑾は顔を見合わせ、同時に笑う。

「まあ、自分のところの作戦を言うものはいませんよね」

「そうですな。こんなところでいがみ合っても仕方ありますまい」


こうして私たちは、次の出走までしばし雑談をして過ごした。


「さあ、そろそろ第二走班の出番だよー」


華蓮の声が一瞬で、緊迫感を与えた。


「さて、我らが出番だな」


程普が言うと、諸葛瑾が頷き答えた。


「では、作戦通りで行きましょう」


再び、音響器から絵蓮の大きな声が聞こえてきた。


「それでは、数えるよーー!!さん、あーる、いー、……」


ピィー――!


「行け――!」程普の声が響きわたる。


『長江のナマズ』は一気に走り出した。


程普の檄が飛ぶ。


「儂はこのまま正面を行き、二手に分かれろ!

瑾は右を行き、二手に分かれる!」


「オウ!」


声を残し走り去る長江のナマズを見ていた琴葉が叫ぶ。


「あれー、四人がこっちに来るよー!」


私は驚いて、じっと目を凝らすと、確かに四人の男と女がこちらに走ってくる。


「なんで、開始地点に戻ってくるの」


私が呟くと、私の隣で目を凝らしていた紗良が呟く。


「違う、劉備の平岱さんでも長江のナマズでもない」


よく見ると、四人はふらふらになりながら、走るのを止めて歩いているようにも見える。


目が良い琴葉と燈澄(デンチェン)が顔を見合わせ、大笑いしながら声を揃えた。


「あー、あれー……玄さん一族だー!」


肩で息をし、ふらふらになりながらもこちらへ向かってくる玄さんたち。

そのさらに後ろには、六つの人影がゆらりと揺れていた。


柔らかな小春日和の陽が、不穏な影を運んでくるようだった。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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