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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第123話 蕪でぽん


夜明けとともに始まった智遊祭。第一の試練が終わり、

陽は完全に昇りきり、気持ちの良い青空に白い雲が島のように浮かんでいた。


青空の下、絵蓮の声が高らかに響き渡る。

「さあ、第一の試練を突破した六百五十一人の勇者の卵たち。

次なる試練を目指し、北の区画へ移動だー!」


「うぉー!」「我らが真の勇者だー!」「行くぞー!」

突破者たちから威勢の良い声が上がった。


「きゃっ」

耳を押さえた亜亥が、私の胸に顔を埋めてくる。

「大丈夫? ちょっと、お祭りというより戦場みたいよね」

私が亜亥の頭を撫でていると、紗良が割って入った。


「亜亥、あなたどさくさに紛れて何しているの?」

「えっえー、周りがうるさくて聞こえませーん」


紗良に続き、曹英も加勢する。

「もう、亜亥! 今は智遊祭の最中でしょ……

そんなことしないで。

あなた、元は秦の二代目皇帝でしょ? こんな雄叫びで怖がるはずないわよね」


「そうですよ。亜亥さんは秦の二代目皇帝だったんですから、怖いはずありません」

普段は大人しい燈柚(でんよう)までが、私から亜亥を引き離そうと肩を持つ。


「嫌よー! 離れたくありませーん!」


叫ぶ亜亥に、紗良と曹英、そして燈柚が一斉に加勢する。

「あなたは油断も隙もないんだから!」

「私たちの同盟を反故にする気なの?」


たまりかねた碧衣が一喝した。


「こんなところで何をしているの!

ほら、女神たちを乗せた流星が移動を始めているわよ!」


皆の視線が流星へ向く。

視界に入ったのは、動き出した流星と、それを追う参加者たちの背中。

土煙が空しく風に流れていた。


「あなたたち、急ぐわよ!」

私が声を張り上げ、私たちは慌てて参加者の背中を追った。


(あっ、前を行くのは玄さんだ!)


だいぶ前を走る玄さんがこちらを振り返り、余裕の笑顔を見せた。


「なによ、人の回答盗んでおいて……頭きちゃう」

思わず声に出して不満を漏らす。


碧衣が私の肩を軽く叩き、落ち着いた声で言った。

「星愛、そんなに怒らないの。怒ったら負けよ」


曹英が横に並び、覗き込むように笑う。

「ほらー、そんなに怒らないで。可愛い顔が台無しよ?」


「だってー、あの笑顔は何よ……!」


恬香(しずか)が碧衣に代わって横に並び、走りながら諭すように言った。

「孫子曰く、怒りは喜びに変わり、恨みは楽しみに変わる。

ですが、滅んだ国は再び立たず、死んだ者は生き返らない……だそうですよ」


紗良が感心したように声を上げる。

「さすが、元・秦の北方防衛の総司令官、蒙恬(もうてん)殿ですね。

確か、怒りは一時的な感情だけど、戦争で失うものは永遠に戻らない……

だから感情で動くのは愚かだ、という教えでしたよね」


恬香は紗良に視線を送り、静かに頷いた。

「そうです。防衛学術院で教授をされているだけのことはありますね」


紗良は笑顔で頭を掻きながら、

「いやー、それほどでもありませんよ」


「星愛お姉ちゃん、足が疲れたよー!」

燈澄(デンチェン)が息を切らしながら声を上げた。


さらに追い打ちをかけるように、斯音が声を張り上げる。

「大変ですよ! おしゃべりしながら走っているから、

どんどん離されています……このままでは失格もありえます!」


私は李斯の声に我に返り、檄を飛ばした。

「みんな、あと少し! あと少し頑張るわよ!」


「おー!」

返ってきた声は、どこか弱々しく聞こえた。


しばらく走ると、流星が次の区画のところで、停泊するのが見えた。


「みんな! まだいける、間に合うわよ!」


掛け声は上がらなかったが、皆の表情は真剣そのものになり、走る速度も上がった。

疲れたと言っていた燈澄(デンチェン)は、長女の燈灯(デンデン)と琴葉に手を引かれ、必死に走っている。


私たちが橋を渡り切るタイミングを見計らったかのように、絵蓮が声を上げた。


「おっと、何とか間に合った玄冥原班の夢咲五華と秦の四女神、そして灯花庵の三姉妹!」


一斉に視線が私たちへ向けられる。


「良かったねー!」「いいぞー!」

中には「間に合わなければ良しー!」という声まで混じっていた。


(相手を少しでも減らして勝ちたいのかしら……

それにしても、女神に対してもそんなこと言うなんて、

智遊祭では本当に“みな平等”ってことなのね)


額に玉のような汗を浮かべ、肩で息をしながら絵蓮の次の言葉を待つ。


「ほほー、どうやら間に合いましたな」


横を見ると、ニヤニヤ笑う玄さんがいた。


「うわっ! 玄さん!」


玄さんは人差し指を口元に当て、

「これから説明ですぜ」と静かに言う。


私が流星の方へ視線を向けると、絵蓮が声を張り上げようとしていた。


「さあ、次の試練は『(かぶ)でぽん』!」


「やったー!」「山を掛けて来て良かったー!」「うっそー!」

参加者からは様々な声が上がる。


「蕪を十本抜いて持ってきた者に回答権が得られまーす。

そして、問題はここにいる九柱から出題されます!」


「イェーイ!」「私は絵蓮様に山を掛けてきたよー!」


(山を掛けるってどういう意味なのかしら)


「蕪十本を持って、問題を出してもらいたい女神の前に並んでください。

その女神にちなんだ問題が、女神から直接出されます!」


「キャー!」「ミューズさまー!」「華蓮さまー!」

推しの女神の名を叫ぶ参加者たちの声が響き渡った。


「さあ、問題は正解が出るたびに難しくなっていきます。

それは、過去の智遊祭からの正解数の累積でーす。

そ、そして華蓮様の問題は、いまだ正解が出ていません!」


「玄さん、それってどういうことかしら?」

私は、知っていそうな玄さんに声を掛けた。


「まあ、第一の試練で世話になったし、特別ですぜ。

華蓮様の問題は『今まで断絶した魂の数は五年前に二千を超えました。

さて、今は幾つでしょうか?』という問題」


玄さんはニヤリと笑い、私の瞳を覗き込む。

私は頷き、続きを促した。


「過去の智遊祭で、数えるように答えが増えていき、

今は二千百九十一で止まっているんですぜ……

ということは、二千百九十二が答えか、それよりさらに多いか」


「二千百九十二かもしれないし、それ以上かも……

華蓮の問題は博打ね」


斯音が私の耳元で囁く。


「私たちは堅実にいきましょう。試練が始まったら恬香から話があります」


私は恬香の方へ視線を送る。

彼女はニヤリと自信に満ちた表情で、前に並ぶ女神たちを見据えていた。


絵蓮が最後に、試練を抜けるための条件を発表した。


「答えられるのは一人一問正解のみ。五問正解で試練通過でーす!

四人以下の班は、全員が正解することを条件に、一人二問正解を認めます。

では準備はいいかーー!!」


「おー!!」

一斉に参加者から声が上がる。


絵蓮が静かに笛を口元へ運び、思いきり鳴らした。


ピッ―――!!


「はじめーーー!!」


一斉に畑へ駆け込み、蕪を抜き始める出場者たち。

私たちは恬香を中心に額を寄せ合った。


「いい? 回答する班と、蕪を抜く班で分けます」


恬香の言葉に皆が頷き、彼女は続けた。


「星愛、紗良、琴葉、碧衣は、それぞれの母親から問題を受けるの」


「うん、うん」


皆が真剣な表情で頷く。


「そして、燈柚(でんよう)が五人目の回答者」


「えっ、私!」

動揺を隠せない燈柚。


恬香は燈柚の両手をそっと取り、優しい表情で諭すように言った。


「今までで、燈柚が女神のことを一番知っていたの。

私たち秦の四女神はずっと星愛と一緒にいたから、

ほとんど女神のことは分からないのよ……

だから、お願いするわ」


燈柚は静かにコクリと頷いた。


「そして、燈澄(デンチェン)は女神席の横に陣取り、

残りの者が抜いて持ってきた蕪の見張りをする」


燈澄はニッコリ笑い、「任せて!」と大きな声で返事をした。


「それと、反感を買うから銀の鉄扇で蕪は抜かないこと」


恬香が碧衣と目を合わせると、碧衣は静かに頷いた。


「よし、最初は皆二本ずつ抜いて回答者に渡して、力のある紗良は三本ね。

ではみんな行くよ……はしれーーー!!」


私たちは他の班よりだいぶ遅れて、蕪畑へと走り出した。


「さあ、抜くわよーー!」

私は大きな声を出し、蕪の葉をつかんで力任せに引いた。


「エイッ!」


どすん――


「いたぁーい!」


手には葉っぱだけが残り、蕪は地面の中に取り残されていた。


「キャー!」「手の皮がむけるー!」「フン……フン!」ドスッ……


(うわっ、みんな蕪抜けないみたい。こんなに難しいものなの……?)


「やったー! もう五本抜けたよー!」


琴葉の喜ぶ声が畑に響く。

救世主登場に、皆の視線が琴葉へ集まった。


「えへへ、そんな見ないでくださいよー、照れますねぇ」


頬を染める琴葉の手には、葉っぱが五本握られていた。

再び、皆は黙って蕪との格闘を始める。


その中、たまりかねたように燈灯(でんでん)が声を張り上げた。


「蕪を抜くときは、葉を根元で束にして、斜め上に“こじる”ように引くのです!」


スポッ――


「それでも抜けないときは、片手で土をほぐしてから抜くのです!」


スポッ――


「そして、大きい蕪は一度押し込んでから抜くのです!」


スポッ――


「すごいわ」「ほんとねー」ぱちぱちぱち


十一人が燈灯を取り囲み、感嘆の声と拍手を送っていた。


そんな私たちを余所に、

問題に答えられなかった参加者が、早くも蕪抜きに戻ってきた。


「おー、これは星愛殿に曹英殿ではないですか」


声の主に視線を向けると、恰幅のいい大男が立っていた。


(げ、許褚(きょちょ)さん……もう問題終えて蕪抜きに戻ったの……)


「あらー、許褚さん、ごきげんよう」

思わず、愛想笑いを浮かべて挨拶をする。


「まだ蕪を抜けないでおるのかな……

ほれ、こうやって抜くのですぞ」


「フンッ」


ズボッ――


あっという間に五本の蕪を抜き、去り際に声を掛けてきた。


「敵に蕪を送るような真似はしませんぞ……

第三の試練でお会いでき……そうもありませんな。

はっはっはっ」


五本の蕪を抱えて立ち去る許褚だった。


「……私たち、駄目かしら」

曹英がぽつりとつぶやく。


「まだ諦めるのは早いですよ」


声の方を見ると、二十五本の蕪を抜き終え、額の汗を拭う燈灯がいた。


すかさず、恬香が厳しい顔で言い放つ。


「作戦変更よ! 蕪抜きは燈灯に任せます。

あとは、私たち秦の四女神は等間隔で燈澄(デンチェン)の蕪の陣まで並び、

受け渡して蕪を運ぶ。

私たちに残された最後の方法よ」


皆が頷くのを見て、私は声を上げた。


「さあ、回答者は蕪を五本持って女神のところまで走るわよ!」


一斉に持ち場へ散り、回答者たちが蕪を抱えて走り出した。


私は芳美の前にできた列に並んだ。

予定通り、紗良は理沙、琴葉は美優、碧衣は妃良の前で順番を待っていた。


そして、燈柚(でんよう)芽衣ペルセポネの列に並ぶ。


一番列が長いのは華蓮の前だが、数字を答えるだけなので回転は速かった。


その列の一番後ろでは、そわそわと落ち着かない様子で前を見つめる人物がいた。

そう、玄さんだった。


紗良と碧衣は回答を終え、微笑みながら私に視線を送り、

そのまま蕪の搬送の手伝いに走り去っていった。


琴葉が並ぶ美優の列は華蓮に次ぐ長さで、私より少し後方に位置していた。

私は係の者に蕪を五本渡し、母の前に立つ。


(十七歳のお母さん、可愛くて綺麗だな……本当に輝いている)


芳美が優しく声を掛けてきた。

「星愛ちゃん、よくここまで来れたわね」

「ありがとう、お母さん。ここにいるのはみんなの力のおかげだよ」

「あなたも、ずいぶん成長したわね。本当に嬉しい」


芳美は満面の笑みを浮かべて静かに頷き、

子供の頃に物語を語ってくれた時のような口調で問題を出した。


「では、光の母テイアにまつわる質問をするわね。

私が司るとされた“価値ある光”とは何の光でしょう?」


「お母さん、簡単すぎるよ。それは銀でしょ。

銀の光沢は価値ある光って、いつも言ってたもの」


「そうね。あなたが小さい頃が懐かしいわ。

次の試練に進めるように応援してるわね」


芳美はそっと私を抱き寄せ、頬を摺り寄せてくれた。


「ありがとう。私、みんなと一緒に頑張るね」


私は芳美の瞳を見て頷き、その場をあとにした。


ちょうど琴葉が美優の質問に答えるところを通りかかる。


「へへん、音楽に深く関わるムーサはエウテルペでしょ」

「よくできたわね、琴葉ちゃん」

「お母さん、ギューってして」

「いいわよ」……「若いお母さんも同じ香りがするね」


そんな会話を耳にしながら、私はニッコリ微笑み、

抜いた蕪を集めている燈澄(デンチェン)のところへ向かった。


燈澄の足元には三十本の蕪が並べられ、

皆が集まって試練の様子を見守っていた。


私の顔を見ながら、恬香が難しそうな表情で口を開いた。

「もう、第三の試練の残り席は二十しかないみたいなの……

芽衣様は最近参加するようになった女神ということで、

問題の難易度も低いから、華蓮様に次ぐ人気で燈柚(でんよう)は待たされているわ」


芽衣の列に並ぶ燈柚を見ると、前には回答者が一人だけだった。


「でも、何とか通過できそうな感じね」


そう言った瞬間、聞き慣れた声が華蓮の列から響いた。


「答えは、二千三百ですぜ!」


「うふふ、やっと正解にたどり着いたわね」


華蓮が断絶した魂の数の答えにたどり着いた瞬間だった。

回答者の顔を見ると、両手を挙げて喜ぶ玄さんと、

その後ろで手を叩いて喜ぶ玄さん一族の姿があった。


(何たる運の持ち主なの……たしかあの班は十二人)


「ま、まずい……不正解は許されないわね」


私が呟くと、恬香は芽衣の列を見つめながら真剣に頷いた。

視線を燈柚へ移すと、ちょうど問題を受けているところだった。


芽衣が燈柚の顔を見て、にこやかに微笑む。

「あら、あなたは灯花庵の侍女の燈柚ね。

ミレイアが、あなたは成績優秀だと話していましたわよ」


芽衣の微笑みは、まるでその場を春のように暖かく包み込んでいた。


「ありがとうございます。でも、まずは問題をお願いします」

燈柚は冷静な表情で、芽衣に問題を促した。


「そうね。あなた、冷静に状況を分析しているみたいね」

芽衣は静かに頷き、音楽を奏でるように問題を告げた。


「私、ペルセポネは、昔はある理由で冥界に留まる時期がありました。

その理由は何かわかるかしら」


燈柚の表情が一瞬だけ曇り、すぐに明るくなった。

「冥界の食べ物――冥界と契約を結ぶザクロの種を食べたため、

冥界に“縛り”が生まれたからです」


「そう、正解ね。それに古代ギリシアでは、

ザクロは結婚・契り・夫婦の絆を象徴する果実だったの。

つまり、ハデスが私にザクロを食べさせたのは、

冥界の妻としての契約を結ばせる意味もあった。

……ひどい話よね。でも今はその契約も切れて、自由にやっています。

うふふふ」


ピッピ―!!


絵蓮の笛がけたたましく鳴り、女神と回答者の間に割って入った。


「おしまーい! 玄冥原班が今、試練を通過して三百人になりました!」


「うっそだー!」「また来年も参加してやるー!」「キャー!」……

通過できなかった参加者たちの悲鳴が会場を揺らした。


その時、ペルセポネが燈柚の耳元で囁いた。

「あなた、見どころあるわね。私の聖女にならない」


燈柚は首を横に一度振り、何かを小さく囁いた。


芽衣が私の方を見て、首を傾げながらにっこり笑う。


(うっ……背中に何か冷たいものが……)


一瞬寒気を覚えたが、私たちは燈柚の周りに集まり、

第二の試練を乗り越えられた喜びを分かち合った。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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