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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第120話 冬の市前夜


夜になっても中央通りの人混みは衰える気配を見せなかった。

行き交う人々を眺めながら、私たちは温香酒と温果茶で体を温め、

楽しいおしゃべりで心までほぐしていた。


「ねえ、そろそろ移動した方が良いと思うのですが……」


斯音が心配そうに華蓮を見つめて声をかける。


「あら、そうね。明日のためにも早く休んだ方が良いと思うし……

そろそろ歩きましょうか」


「わぁーい! 今度はどんな屋台があるかなあ!」


琴葉が燈澄(デンチェン)に楽しそうに話しかける。


「私、甘いものが食べたいな」

「おっ、いいね」


琴葉が燈澄の手を取って走り出そうとした瞬間、

私が琴葉の襟首を、燈灯(デンデン)が燈澄の襟首を同時に掴んだ。


「あなたたちは荷車に乗ってなさい」


声がぴたりと重なり、私と燈灯は顔を見合わせて頷く。

そのまま琴葉と燈澄を荷車に押し上げた。


琴葉十七歳と燈澄十一歳は、どうやら精神年齢が同じらしい。

二人とも頬をぷくりと膨らませ、こちらを睨んでくる。


「あらあら、お二人とも大人しく荷車に乗っていなさい。

これからもっと人が多くなりますわよ」


華蓮が目を細め、優しく微笑むと、

二人はしゅんと肩を落とした。


荷車に乗せた二人を見届け、私たちはゆっくりと歩き出す。


「ほら、これあげるよ」


絵蓮が金色に輝く、棒に刺さったリンゴを二人に手渡した。

受け取った二人は、舌を出してペロリと一舐めする。


「うわー、甘いね、燈澄!」

「琴葉ねえちゃん、これ、ほっぺがとろけちゃいそう……!」


満足そうな二人を見て、絵蓮が微笑む。


「それはね、りんご飴って言うんだよ」


「へえ、りんご飴か……おいしいね」


琴葉が言うと、燈澄はりんご飴を舐めながら嬉しそうに頷いた。


私たちは人の流れに乗って白い円柱状の大きな建物を目指した。

石畳を歩く足音と、荷車の車輪が石の隙間を越えるたびに響く音が、

等間隔のリズムとなって心地よく耳に届く。


建物に近付くにつれて、その圧倒的な大きさに目を見張った。


「華蓮様、あの建物はいったい何なんですか」

私は驚きのあまり、華蓮の顔を覗き込んだ。


「うふふ、コロシアムよ……

アクエス島のコロシアムの設計図をエミリアから貰って、建設したの」


アクエスという言葉を聞き、子供の頃に母から聞いた話を思い出した。

「アクエス島って、私のお母さんが話してくれた沈んだ島のことですか?」

華蓮はニヤリと笑い、頷いた。


「そうよ。そこで初めて『炎月星紡ぎの舞』が奉納されたコロシアム。

何故だかあなたと紗良が同じ舞を舞える……うふふ、どうしてかしらね」


私と紗良は顔を見合わせ、小首を傾げた。

紗良が華蓮を見ながら尋ねる。


「まさか、私たちがあそこで舞うんですか」

華蓮はコロシアムを見上げ、首を振った。


「いえ、今回はあなたたちはあくまでも私のお友達として招待したのですよ。

仕事のようなことはさせられませんわ」

その時、絵蓮が含み笑いを浮かべたのを私は見逃さなかった。


(きっと華蓮様のことだから、何か考えているに決まっている)

――あら嫌だわ、私がそんなことするように見えますの?


私は苦笑いを浮かべ、華蓮は小首を傾げてみせた。


その時、碧衣がコロシアム入口の掲示板を見て呟いた。

「えっ、お母さん……なに、五華彩音(ごかさいおん)って何?」

「えっ、どうしたの?」


私が碧衣の隣に立ち、彼女が見ている絵告(えこく)文を覗き込むと、

驚きのあまり言葉を失った。




――――――――――――――――――――


十一月二十六日 二日目奏会

出演 五華彩音(ごかさいおん)


歌姫(かき) 妃良ヘラ

戦絃(せんげん) 芳美テイア

琴機(きんき) 美優ミューズ

低絃(ていげん) 芽衣ペルセポネ

鼓師(こし) 理沙テミス


天より降る光華の調べ


※楽器を持ち、黒のサングラスをかけ、中指を立てる五人の絵が描かれている


――――――――――――――――――――




「う、うそでしょ……お母さん、何も言ってなかったわよ」


私の呟きに、紗良と琴葉、曹英も近寄ってきて呆然となった。


「うわ! 美優母さん、なんか可愛い……」と琴葉が呟いた。


碧衣が両手を頬に当て、朱色に染めながら複雑な気持ちを言葉にした。


「嫌だあ、この花裳(かしょう)、太ももから膝まで見えてるわよ……

それに、赤と金の衣に、胸元には鳳凰の羽根飾り」


曹英が横に立ち、碧衣の言葉を代弁するように呟く。


「斬新、でも可愛い」


私は母の露わな姿に頬を染めつつ、その隣の絵告(えこく)に視線を移した。



――――――――――――――――――――


十一月二十五日 一日目奏会

出演 麗麗姉妹

歌姫(かき) 愛麗(あいれい)(アフロディテ)

歌姫(かき) 虹麗(こうれい)(イリス)


協力音華隊(おんかたい) 夢咲舞踊団


天華奏でる麗双(れいそう)の宴


※愛麗と虹麗が頬を寄せ、微笑む絵が描かれていた


――――――――――――――――――――




「ねえ、この麗麗姉妹って、めちゃくちゃ可愛いんだけど」


「どれどれ」


皆が集まってきた。


「なにこれ」「こんな可愛い、いえ美しい人いるなんて」「ほにょにょー」


思い思いに感嘆の声を上げた。


今度は亜亥が最終日の絵告(えこく)を見て声を上げた。


「こちらの三日目も凄いわよ……みんな出演しているわ」




――――――――――――――――――――


十一月二十五日 一日目奏会

出演 五華彩音、蓮蓮姉妹、麗麗姉妹

協力音華隊 夢咲舞踊団


同時開催

夢咲襄陽府智遊(ちゆう)祭 決勝戦


君は歌姫たちに祝福された奇蹟を見る!


空に浮かぶ歌姫と、地上では泥沼でもがく人々の絵が描かれていた。


――――――――――――――――――――




私は口元を隠し、怪しげに笑う華蓮に声をかけた。


「華蓮様、この最終日の絵は何ですか……

人々が争い、もがき苦しんでいるように見えるのですが」


「うふふ、気のせいよ……私は人々が楽しそうに踊っているように見えましてよ」


曹英が私の横に立ち、まじまじと絵を見た。


「うっ、何ですかこの阿鼻叫喚の絵図は」


「えー、どれどれ」

琴葉が絵を覗き込む。

「うわー、何これ……地獄絵図じゃない」


絵蓮がたまりかねて声を上げた。

「あまり変なこと言わないでね。絵師さんに失礼だと思わない?」


「えっ、これって、絵蓮様が描いたのですか」


私は絵蓮の顔を覗き込むように訊いた。


「そうよ、なかなかの力作でしょ」


「いえ、それよりこのもがいている人々は何を意味するのですか」


碧衣が真剣な顔で絵蓮に尋ねた。


「えっと、それはね――」


きぃーーん


「あっ、あっ」 トントン 「天より降る声、響いておりますか。」


「きゃー! 麗麗姉妹さまー!」


コロシアム前で前日から入場待ちをしていた人々から黄色い声援が飛ぶ。


「じゃあ、いきますねー」


ダカ、ダダ、ダン、ダダ……


ボンボロボロボン


ギュイーーーン!


ポポロポロロン


……


「いー、ある、さん」  ギュギュギューーン


コロシアムの中から、聞いたことのない音楽の調べが響く。

コロシアム前の人々が手拍子を入れたり、手を振って思い思いに踊りだす。


「か、華蓮様、これはいったい……」


華蓮は私の方を見てニヤリと微笑み、口を開いた。


「明日の公演の音合わせが始まったみたいね……

しばらく聞いていくのもいいかもしれないけど、

あなたたちは明日が早いから、先を急ぐわよ」


そう言い、華蓮は腕を組み、先を歩き始めた。


私は華蓮の横に歩み寄り、声をかけた。


「華蓮様、コロシアムの奏会に出演するのは、皆女神なのですか?」


華蓮は静かに頷き、私の質問に答えた。


「私たちの神威や神能は、経験や信仰によって高められるの」


「それと、今回の奏会と関係があるのですか?」


「ええ、大ありよ……

よく考えてみなさい。奏会で人々の心を酔わせるだけで大きな経験になるし、

その女神を推したいという気持ちは、そのまま信仰心に繋がるのよ」


「奏会をすることで、経験や信仰を高めるということなのですね」


「平たく言えばね。

でも、女神推しの力は神殿で拝むよりも、はるかに大きな信仰心を生むの」


「それほど、信仰心に困っているのですか?」


「今は困っていないわよ。

私みたいな断絶神は信仰の力も必要ないのだけどね……

妃良が危惧しているの。最近いろいろな神が台頭してきて、将来が心配だとね」


「それで、奏会なのですか」


「ええ、そういうことになるわね。

音楽を通して信仰の力を得るという試みが、襄陽府で行われている奏会なのよ」


「女神様もいろいろと大変なのですね」


「うふふ、大変なのは転生神かしらね。

断絶神は黒い魂を断絶するだけで、

人の子に転生先を伝える仕事の1000倍の経験をもらえるのよ」


「うわ、転生神って大変なのですね」


「でもね、一番経験を稼げるのは、神が人の子へ転生すること。

一回の人生を歩むだけで、1000万倍の経験をもらえるのよ」


「そしたら、皆人の子に転生すればいいじゃないんですか?」


「うふふ、それなりのリスクがあるから、

よほどの物好きな神しかしないわよ」


そんな話をしながら歩いていると、宮観式道観の形式を持つ建物が迫ってきた。


紗良が驚いて華蓮に尋ねた。

「えっ、華蓮様の神殿はここなのですか」


「驚いたかしら……うふふ」


「驚くも何も、夢咲の神殿と言えば白亜の大理石で重厚に作られているものばかりで、

宮観式の建物は無かったと思うのですが」


驚きながら門をくぐると、

深い木の柱と黒い瓦、金の装飾が静かに輝き、

白亜の神殿が並ぶ夢咲の中でひときわ異彩を放つ神殿が姿を現した。


燈灯(でんでん)が目を輝かせて建物に見入る。

「素晴らしい造りの神殿ですね。瓦一つ一つにも職人の思いが込められています」


燈灯の言葉に相槌を打ち、扶美が口を開いた。

「秦の頃に住んでいた上林苑の邸よりは小さいけれど……

こんなに細かく瓦一枚一枚に華蓮様の紋様が彫られているなんて。

作った人の思いが伝わってきます」


華蓮は満足げに頷き、建物について話した。

「この神殿は襄陽府民の寄付によって建てられたのですわよ」


私たちは淡い灯花の光に照らし出される神殿を見渡した。

建築様式は完全に襄陽式で、

高い外壁に囲まれ、重厚な門の奥には静かに巡る回廊が続いていた。


本殿に入ると、中央には“断絶の大鎌”が祀られ、

その前には奉納舞のための舞台が設けられている。

天井は開放され、月光が舞台を照らす構造になっていた。


華やかさよりも静謐(せいひつ)さを重んじた神殿は、

華蓮の断絶神としての本質をそのまま形にしたような、

機能美と凛とした美しさを湛えていた。


「華蓮様の女神像が見当たらないのですが」

私が尋ねると、華蓮はニヤリと笑い、大鎌へ視線を送った。


「あの大鎌が御神体らしいわよ……

まあ、私にとってはどうでもいいことですわ。

人の子に好きなようにさせているのですよ」


取り留めのない話を、絵蓮が遮るように割り込んできた。


「明日は早いし、そろそろ本題に入ったらどうかな、華蓮」


「そうでしたわね」


華蓮は再びニヤリと笑い、一枚の封書を私に手渡した。

厚手の黒い封筒は特別感を放ち、中の紙を取り出して一読した。


「か、華蓮様、何ですか『夢咲襄陽府智遊(ちゆう)祭参加券』って」


碧衣が珍しく驚いた顔を浮かべて参加券を見つめる。


「うそでしょ、私たちにあの地獄絵図に参加しろというのですか」


琴葉と燈澄(デンチェン)は顔を見合わせて喜んだ。


「ねっ、私が言っていた通り、智遊祭に参加できるでしょ」

「さすが琴葉姉ちゃんだね」


紗良は頭を抱え、曹英は能面のような表情になる。


意外にも、秦の四女神は楽しそうに微笑んでいた。


「華蓮様、智遊祭って何をするのですか」

あまり否定的になるのもよくないと思い、私は尋ねた。


「簡単なことよ。質問に答えて正解すれば次に進める。それの繰り返し。

参加者の中で最後に残った班が優勝……単純でしょ」


華蓮の話が終わるのを見計らって、絵蓮が続けた。


「優勝した班には、特別室で行く長江・黄河・長巴モノレールの豪華旅行が贈られるんだよ。

しかも、買い物に使う費用は百万星(しん)までは襄陽府が支払うんだよ」


「うわー、楽しそう」

琴葉はすっかり優勝して旅行を楽しむ気になっていた。


他の土地を見て周るのは、確かに今後のためにもなりそうだ。

皆の顔を見ると、一様に頷いていた。


「分かりました。参加することにします」


華蓮は満足げにニヤリと笑った。


「明日は夜明けとともに始まるから、それまでに会場にきなさい」

と皆に伝えた。


私たちは静かに頷いた。


こうして私たちは、冬の市で行われる智遊祭に参加することになった。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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