第12話 明かされる謎、神の緊急集会①
深い霧の中を手探りで進むように、混沌とした意識をかき分けながら、私は澪に質問した。
「澪は2700年間、人界で暮らしていたから天界の状況は全然理解していないよね」
澪は眉を寄せ、少し前のめりになって頷いた。
その表情には、2700年の地上界生活が刻まれているようだった。
「20年前の天界緊急集会の話をしようか」
私はゆっくりと思い出しながら語り始めた。
「私の弟であり、今でも天界の長であるゼウスから緊急集会を開くというお達しがあってね」
紗良も目を細めて言った。
「あの時は、私も何事かと思って、星愛と一緒に集会に参加したのよ」
「話を続けて」 澪が真剣な表情で促す。
私は琴葉の方へ視線を送った。
「琴葉、『創世神話』の天界集会のところを朗読してくれる?」
琴葉は深く頷き、スマホの画面を慎重にスワイプした。
その指先がわずかに震えているのが見えた。
『創世神話』のページを開き、低く重い声で読み始めると、
上に向けたスマホの画面から3Dの映像が浮かび上がった。
白いコロシアム神殿の映像が映し出され、神々が神殿へと入ってく流れに乗ってカメラも一緒に神殿へと入っていった。
神座を見渡すと、神座はすべて埋まり、5,000人規模の神が招集されたようです。
この規模からみて、今回の緊急集会が間違いなく重要な集会であることが感じ取れた。
神々が神座に着くのを待ってコロシアムの舞台がせり上がってきた。
舞台中央には全知全能の神ゼウスが立ち、神座に座る神々を見渡した。
その眼力に神々は静まりゼウスが口を開くのを待ちます。
「地上より邪神の痕跡が57.3%減衰。この事態をどう解する?」
私はいきなりゼウスが言っている言葉の意味を理解できず、隣に座る紗良を見ると数字の意味を理解しているのか真剣な表情で舞台中央を見ていた。
暫くすると、下層神々の席から嘲笑が渦巻いた。
「願ったり叶ったりじゃないか」
「我らが祝杯を!」
漆黒の手袋を嵌めたゼウスが掌を天へ翳す。
《沈黙》の神能が空間を支配し、神々を慰撫の念で静かにさせた。
(あの弟はどうも形から入るのよね…あんな掌を天へ翳さなくても沈黙の神能は発動できるのにね。あー恥ずかし、恥ずかしい)
私は恥ずかしくなり、顔を赤らめた。
「風羽凌」
呼名と共に私の甥の風羽が舞台中央に立ちます。
中央上空には巨大映像が映し出され、神々の視線は巨大映像に移ります。
風羽が空中に光の三次元海図を展開する。海底5,000m地点の地形が表示されて赤く点滅するのを待ち、風羽が口を開いた。
「まず、邪神の温床と呼ばれる海底5,000mにある盆地が、もぬけの殻になっていました」
空中に浮かび上がった映像を見て、その場にいた神々は信じられないという表情を浮かべ、緊張感が高まる。
私も紗良も同様に、お互い顔尾を見合わせ、驚いた。
海図が10,500mまで急降下し、画面は歪んだ空間領域を映し出す。
「そして、邪神の温床から近いマリアナ海溝の海底10,500mの地点に空間の歪みを発見しました」
「我々、夢咲学園調査部が検知した重力異常値は1.72×10⁻⁶m/s²。これはブラックホール形成臨界値の0.3%にあたる」
戸惑いを隠そうともせずに、澪が話に割り込む
「ちょっと待って、空間の歪って何よ。ありえないわ!空間歪みを生み出すには10⁴³eVのエネルギーが必要なのよ。ましてや海底でそんな事態が…そんなの創造神の私の設計図にも無いし、具現化することなんてできないわよ。」
私は、興奮する澪を落ち着かせるため、もっともらしい嘘をつきました。
「そうよね、現在科学ではワームホールだって証明できていないし、ましてや空間の歪み何て有ってたまるものですか!と思うのは当然ね。だから、澪、話しの続きを聞いて」
私は澪を落ち着かせ、琴葉に朗読の続きを読むように促しました。琴葉がスマートフォンの画面を再びスワイプすると、画面が発光し3D映像が浮かび上がり、朗読を再開した。
風羽は空間歪みが発生したことに衝撃を受けた神々のざわめきが収まるのを待ち、話しを続けた。
「夢咲学園が検知した重力異常値は、間違えなく空間歪から観測されています。そして、重力異常のベクトルが時間経過とともにわずかに変化していることに着目し、発生源を計算より求めた結果、530光年離れたペテルギウスであることが分かりました」
(まさか、ペテルギウスが巨大恒星だとしても、いくらなんでも530光年離れた地球に…)と私は思いを巡らせていると風羽の次の言葉に衝撃を受けた。
「一番可能性があるのは530光年離れたペテルギウスが超新星爆発を起こし、ワームホールを形成した可能性にたどり着きました。我々夢咲学園調査チームは今回の空間歪みの発生源をペテルギウスの超新星爆発でできたワームホールが原因と考えています」
コロシアム神殿に連なる神座に座る神々の殆どが、理解を超えている話で、神々の法衣が逆巻き、古代文字の紋章が順次消滅し始める。空間歪みの映像を見た神々の瞳孔が収縮し、畏怖と嫌悪が交錯しているかのようだった。
「ちょっと、待ってよ、重力異常値は1.72×10⁻⁶m/s²だったんでしょ、この値だと... 私の設計図の式…∫(cos(πn)+i sin(πn))dn=0が…虚数単位が実数化してる!こんな事あり得ない!超新星爆発のエネルギーで換算したら、せめてこの倍は必要よ」
「澪の言いたいことは分かるけど、まだ話は途中だよ。ねっ、落ち着いて最後まで聞こうよ」
澪に落ち着くように紗良は声をかけ、琴葉の背中に刻まれた《未来預言》の紋章が七色に輝き始め、スマホ画面に投影された聖典文字が量子分解する。その輝きはまるで、ペテルギウスの最期の光のようだった。
「創世神、創造神、太陽神の神々は気付いたかもしれませんが、重力異常値が半分足りないのです。
私達調査団が深海の空間歪み内部に飛び込むことも考えましたが、その周波数が邪神の生体信号を検知したため、ここから先は不可侵領域と判断しました」
風羽は一旦話を区切り、映像を瑠璃の神社の近くにある湖に切り替えた。
「これを見てください」
カメラがズームアップする先には、広葉樹の丘陵が映し出され、その奥には180°回転した地面の映像が確認できた。
初めて映像を見た澪の興奮は更にピークを越えていった。
「ねえ、これどういう事なの、ど・う・い・う・こ・と・な・の?」琴葉につかみかかりそうな勢いでした。
私は「澪、落ち着いて。この先答えが出てくるから」
3D映像では創造神が秩序の神杖を握りしめ、杖先の結晶が砕け散る。
その眉間に刻まれた紋章が亀裂を走らせ、
太陽神の瞳が金色に輝き、その視線が空間歪みを焼き尽くさんばかりだ。
「これは、私達調査団が発見した第二の空間歪みからの映像です。
エネルギー量から換算して間違えなく、マリアナ海溝の物と同じ物でした。
場所は七森貯水池の畔、そう、夢咲学園の近くにあったのです」
俄かに騒めく神座。私と紗良も顔を見合わせました。
「嘘でしょ、瑠璃の家の近くじゃない」
「そして、この映像は空間歪み出口の映像で、映像が歪み内部を通過することで180°回転していると思われます。そしてこちらの写真映像を見てください」
正常な写真、成層圏からの写真、空間歪みの写真が映し出されました。
「依り代《月読み》の量子センサーを空間歪に投下し安定性を計測。空間歪を通過することに問題ないと判断した我々は、空間歪を通り、現地に移動しました。これはその時撮影した写真です」
風羽が映像を切り替えると、神々の声が重なり合い、神殿を震わせる。
一部の神々が期待を込めた視線を風羽に注ぎ、その瞳は新たな可能性に輝いている。
ゼウスが掌を天へかざし、沈黙の概念が空間を支配した。
神殿全体が静寂に包まれ、新たな物語の幕開けを感じさせる。
風羽は静まり返った神座とゼウスに一礼して、話しを続ける。
「この調査で分かったことがあります。バルーンによる成層圏での写真撮影と計測機による地形予測、体積計算、重力、成分分析の結果、地球と双子星と言っても過言ではない星と判断しました。また、ここにある空間の歪みは七森貯水池にあるものと全く同じであること。そして、今ある情報だけで判断すると生態系も地球と同じ進化を遂げていると考えています。
これはもう、地球を鏡に写した様な星と言っても過言ではない星であるという事で、私達調査団はこの星を銀鏡と名付けました」
「あと二つ重要なことがあります。一つ目が銀鏡星はペテルギウスを中心にして地球から1,060光年離れた位置にあり、ペテルギウスと直線状にある全く質量の同じ二つの星が、重力波エネルギーの均衡を保ち、バランスを取っているという事です」
風羽が重要な事実を述べると、澪の瞳が大きく見開かれ、その瞳に恐怖が滲み出る。
紗良が澪を抱きしめながら、澪の背中に刻まれた紋章が光りだす。
「まっ、まさか、じゃあ銀鏡星がなければ、または地球と異なった質量の星だったら、ワームホールはホワイトかブラックホールのなった可能性も…地球は吹き飛ぶか、飲まれる運命だったという事なの?」
澪の身体が震え、その震えが紗良にも伝わる。
紗良が澪を優しく抱きしめながら、「そうだよ」と一言呟く。その声は優しく、しかし確かな覚悟を感じさせる。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。
■ 気に入っていただけたら、☆☆☆☆☆評価やブックマークをお願いします!
■ ご意見・ご感想はコメントへお気軽にどうぞ。
次回更新は7月23日を予定しています。引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!




