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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第101話 玄冥原会議


昨日は星を眺めながら、戦のことやこれからの未来について語り合い、静かな夜を過ごした。

しかし、今日の会議のことを思うと、遅くまで眠ってはいられず、私は夜明け前に目を覚まし、ロックモービルに跨った。


風防に情報が浮かび上がり、夜が明けぬ暗闇に淡い光がこぼれる。

「おはようございます、星愛(ティア)様」

「おはよう、ロクちゃん。漢中の平原が見える高台に連れて行ってくれるかな」

「お任せください、しっかりつかまってください」

「まだみんな寝ているから、静かにお願いね」

「はい、かしこまりました。灯りを消して、音を立てずに進みます」


モーターが静かに回り、ロクは滑らかに動き出した。

玄冥原の台地には、一晩中灯されていた灯花が並び、焚火の残り火の煙が漂っている。

ロクは北側の斜面を器用に登り、やがて眼下に広がる漢中を望む小高い岩場へとたどり着いた。


漢中の台地はまだ真っ暗で、小さな灯りが点々と瞬いていた。


後ろを振り向けば、玄冥原の台地が広がっている。

標高二千メートルの大巴山山系に広がる広大な高原。

東西六キロ、南北三キロにわたる平坦な草原は、切り立った岩壁と緩やかな斜面に囲まれ、まるで天空に浮かぶ島のように見えた。

夏でも涼しい風が吹き抜け、灯花に照らされた幕営から立ち昇る焚き火の煙が細い筋となって空へと消えていく。


遠く漢中盆地の方を見て、まだ見えぬその姿を頭の中に描いていると、背後から渋みのある低い声が私の名を呼んだ。


星愛(ティア)様、随分早くからお目覚めのようですな」


振り向くと、そこには徐庶が静かに立っていた。


「徐庶さんも、早いお目覚めで」

「ええ、たぶん私も星愛(ティア)様と同じで、この目で漢中の広大な土地を眺めたいと思い、ここに来たのですよ」


ニッコリ笑う徐庶に、私も笑顔で応えた。

「同じですね。これからが本当の私たちの戦の始まりです。

その前に、敵情視察をと思いました」


お互いに頷き、静かに漢中の台地へ視線を移す。


東の空がうっすら紫に染まり、やがて白み始め、ゆっくりと大地が姿を現す。

緑豊かで、まさに穀倉地帯と呼ぶにふさわしい肥沃な土地だった。


「素晴らしい大地ですね」

「そうですね。この大地を今以上の穀倉地帯とすることは、夢咲――いえ、中華にとって大きな意味があります」


私が静かに頷くと、徐庶はさらに言葉を続けた。

「そして、長安と巴東を結ぶ夢咲長巴道は、長江と黄河を繋ぐ大動脈となります。

物流を通して民を豊かにし、中華内の交流も盛んになり、全土の発展に大きく寄与することでしょう」


私は目を閉じ、頭の中で徐庶の言葉を描き、ゆっくり瞳を開けた。

東からの朝陽が漢中の台地に注ぎ、緑豊かな大地が黄金色に輝いていた。


徐庶の両手をしっかり握り、「お願いします」と力強く言った。

星愛(ティア)様は皆からの信任が厚いので、今日の会議では思う存分発言してください」


私は頷き、再びロックモービルに跨った。


玄冥原を見ると、台地の縁には雪解け水の泉が湧き、兵たちはそこから水を汲み炊事や救護に用いていた。

岩壁の上には見張りが立ち、遠く漢中盆地へと続く谷道を鋭く監視していた。


―――――


陽が昇り、幕内に明かりが差していた。

山鳥の鳴き声が遠くの木々から響き、幕内まで届いていた。


幕内の席には、左列に龐統、徐庶、孫瑜。

右列には孫尚香、紗良、碧衣。

向かい側には劉明、小喬が腰を下ろしていた。

そして奥の席には私と華蓮、後ろには琴葉とホログラムのミレイアが控えている。


「皆さん、おはようございます」


皆が腰を上げ、奥の席にいる私たちへ一礼した。

私は頷き、席に座るよう促して話を始めた。


「玄冥原での戦、大儀でありました。

皆様のお力で、一日で邪神趙高を討伐することができました。

心より感謝いたします」


皆が静かに頭を下げたのを確認し、私は続けた。


「まずは、論功行賞から……」


そう言いかけたところで、龐統が片手を上げて遮った。

星愛(ティア)様、夢咲には論功行賞を求める者はおりませぬ」


紗良も頷き、言葉を継いだ。

「そうです。皆、職業として兵を務めている者たちです。

ここに来る前に周瑜殿と話し合い、特別手当も支給されていますので、不満はないと考えています」


私は困った顔で、「でも、それでは……」と言いかけると、孫瑜が優しく口を開いた。

「それを言うなら、今回の一番の手柄を立てたのは華蓮様と星愛(ティア)様です。

夢咲の兵は、今のお二人と同じ気持ちでいると思います」


華蓮は腕を組みながら短く言った。

「私は褒美など要らないわ」


小喬が優しく微笑み、話をまとめた。

「救護班も褒賞を望む者はいません。

皆、自分の務めとして働いただけです」


「そうですね……夢咲では職業として取り組んでいるのでしたね」


私の言葉に皆が満足げに頷いたので、次の議題へと話を進めることにした。


「では、玄冥原も平定し、いよいよ漢中の地が見えてきました。

ここからは夢咲長巴道を通す領主との交渉と開拓が鍵となります」


孫瑜が「まずは人選ですね」と言った。

私は頷き、皆からの意見を待つと、龐統が手を上げて自らの考えを述べた。


「やはり、長は星愛(ティア)様で良いかと思います。

そして表の補佐役には紗良様と孫尚香様が適任でしょう。

さらに影の補佐役として、徐庶殿と魯粛殿を推薦いたします」


「徐庶殿と魯粛殿を推す理由を教えてください」

私が尋ねると、龐統は顎に手を添えながら答えた。


「徐庶殿は誠実で仁義を重んじる人物であり、領主からの信頼を得やすい。

また、地形や戦略眼に優れ、開拓に必要な助言を惜しまないでしょう。


一方の魯粛は外交と経済に通じ、交易の未来を見据えた構想を描ける。

彼の柔軟な交渉姿勢は、領主や民衆の不安を和らげ、物流の大動脈としての長巴道を築く力となる。


二人の助言は必ず交渉と開拓を円滑に進め、夢咲の未来を大きく拓くはずです」


腕を組み、静かに目を閉じて龐統の言葉を聞いていた徐庶に私は声をかけた。

「徐庶殿、私も龐統殿と同じ意見です」


私がそう言うと、皆の視線が徐庶に集まった。


「もちろん、この大役、喜んでお受けいたします。

魯粛殿もきっと喜んでくださることでしょう」


そう答えた徐庶は、ゆっくりと頭を下げた。


続いて、華蓮が腕を組み、微笑みながら新たな人物を推薦した。

「秦の四女神も交渉に加えてほしいわね。

元は秦の扶蘇(ふそ)蒙恬(もうてん)李斯(りし)胡亥(こがい)

交渉能力は十分にあると思うわ」


孫瑜が華蓮に視線を向け、支援するように発言した。

「心強い四人、まさに四柱ですね。

ですが、華蓮様の本来の目的は他にあるのではありませんか」


華蓮の瞳が細められ、ニンマリと笑みを浮かべた。

「さすが、孫瑜さんね。

そう、女神としての所作を覚えてもらいたいの。

星愛(ティア)、紗良、孫尚香、そして先生役の星蓮(元は伏皇后)の側使いとしてね」


(ちょっと……何この人材。皆、一国を動かせる人物たちじゃない)


華蓮が私を見て微笑む。

「この布陣なら、交渉や開拓に失敗などあり得ないでしょう」


(なんだか、すごい圧を感じるのですけど……)


人の心を読んで楽しむように意地悪な笑みを浮かべる華蓮を見て、負けじと微笑み、力強く言った。

「これだけの人物が揃うなど、とても心強く思います。

必ずや、夢咲長巴道計画を成功に収めてみせます」


その言葉に、皆が賛同の拍手を送った。


続いて、夢咲長巴道の工事の進捗について、碧衣から説明があった。

「今回の戦で、巴東側から玄冥原への高架橋工事は進められます。

ただし、大巴山系の急勾配を星馳で高架橋資材を運ぶのは困難です」


徐庶が目を細めて問いかけた。

「では、リニアモノレールでの輸送となりますね……。

しかし、往路と復路の二線での輸送では、距離が延びるほど効率が落ちるということですか」


碧衣は徐庶を見て頷いた。

「玄冥原の次は漢中南鄭駅です。ここに工事資材を保管していきます。

資材を蓄えている間に、長安から城固までの橋梁工事を進めます。

最後は漢中の内部では星馳で資材を輸送し、漢中南鄭と城固を結びます」


徐庶は碧衣の説明を聞いて微笑み、私の方へ視線を向けた。

私も微笑みながら皆に尋ねた。


「私は碧衣の提案通りに工事を進めようと思います。皆さんはどう思いますか」


私が問いかけると、龐統が「異議なし」と声を上げ、皆が拍手を送った。


(ふふふ、これで温泉計画を議題に載せられる)


「では、交渉班が南鄭で交渉をしている間、空白の時間ができますね。

ここで私から提案があります」


私がそう言うと、皆の視線が集まった。


「実は玄冥原には良質の温泉があります。

また、大巴山系からの恩恵で湧き水も豊富です。

これらを活かして、玄冥原に神殿と温泉保養地を作りたいと思います。

鎮魂と再生――魂と人間双方の休息の場とするのです」


龐統が腕を組み、大きく頷いた。

「そうですな。我らの今は、英霊や戦災に巻き込まれた魂の上に成り立っている」


孫瑜も同意し、大きく頷いた。

「また、傷や病を癒す施設を置けば、魂と身体の両方の休息の場となりますな」


席にいた者たちから拍手が起こり、玄冥原の開発は承認された。


華蓮が私を見て尋ねた。

「当然、祀る神はペルセポネ、ヘカテ、エレシュキガルの三柱ですわよね」

「はい、霊道のある地にふさわしい神だと思います」

私が答えると、華蓮は満足げに微笑んだ。

「エレシュキガルの信仰の力が弱かったから、彼女も喜ぶでしょうね」


私は華蓮に微笑み返し、最後の議題を切り出した。

「これより漢中に夢咲が入りますが、夢咲を知らない民が多いと思います。

劉備や曹操の軍勢が手を出すことはないでしょうが、誤解が生じる可能性はあります。

また、野盗の類が襲撃してくることも考えられます」


徐庶が目を細め、低い声で言った。

「たとえ攻めて来ようとも、紗良様と孫尚香様なら万の軍勢でも容易に撃退できましょう。

しかし、これは人を殺めるための軍ではなく、誤解を起こさせないための軍ですね」


「はい。軍がいるだけで野盗は手を出せません。

そして、星馳やロックモービル、ジャイロバイクを並べれば、夢咲だとすぐに分かります」


皆が拍手を送り、軍の随伴が許可された。

部隊は星馳、ロックモービル、ジャイロバイク各二十台の大隊として編成されることになった。


漢中への進出は、浮島夢咲から魯粛、星蓮、そして大隊の到着を待ってからとなった。




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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

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