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第01話 追いかけてくる謎の気配

私の名前はヘスティア。

アルテミスと4柱の神核とともに、満月の夜を選び、月の光に導かれ天界から地上界へ、新たなる神となるべく旅立ち、やがて聖母となる女性のお腹に新たな女神として宿りました。


当時、女子大生だった私のママは私を出産後、大学院を卒業し夢咲学園高等部の理事長に就任。

私の連れのママも大学院を卒業後、夢咲学園高等部の校長に就任しました。


そう、夢咲学園は天界の神々が転生して地上界に降り立つ時に、スムーズに地上界の生活に移行できるための大きなゆりかごだったのです。


私とアルテミスもその例に違わず夢咲学園大学部に通う女子大生に宿りました。




あれから、18年、私は今、灯里星愛ともりてぃあとして、アルテミスは月弓紗良つきゆみさらとして夢咲学園高等部2年I組に在籍しています。




そして今、楽しい修学旅行だったはずの空港荷物受け取りロビーで事件が起こりました。


飛行機を降りて、荷物受け取りロビーに集合して点呼を取った時には、私たちのクラスは全員で39名でした。


私達はターンテーブルの前で機内預けの荷物が流れてくるのを待っていました。


突然、私は何か胸騒ぎがする嫌な気配を感じ、背筋に蛇が這い上がるような冷たさが走り、その直後、誰かの吐息が首筋にかすかに触れた感触が残りました。


同時に、生徒たちの雑談を破る琥珀の大きな声が響き渡りました。


「センセーーーッ!」


琥珀の声には普段の明るさがなく、慌てた声がロビーに響きます。


「センセーーーッ、――― 大変です!!」


私は驚いて、「えっ、琥珀、どうしたの?」と問いかけました。


そして、コハクの足元を見ると、空港職員の女性が倒れていました。


見たところ外傷は無い様でしたが、表情は笑顔のまま固まっていて、見開かれた目がガラス細工のように生気を失って、魂が抜けた様でした。


そして、先程の嫌な気配が弱くなっていたのに気付きましたが、誰かの視線の様な物を未だに感じています。


倒れた職員の周りには直ぐに先生と空港の職員が駆け付けて対処し、騒然としていた荷物受け取りロビーは、やがて、平常を取り戻しました。


騒ぎの間、私はスーツケースがターンテーブルを何周したのかなとぼんやり思いながら、自分の荷物が回って来るのを待ちました。暫くすると、可愛い熊のマスコットが付いた私のスーツケースが視界に入り一安心しました。


私はスーツケースをターンテーブルから降ろし、空港出口で私達を迎えに来ていたバスに乗車しました。

そして、バスが出発する前に点呼が取られ、40名の生徒が揃っていることが確認され、バスは出発しました。


未だに感じる弱い嫌な気配。ふと、隣の紗良の顔を覗くと、疲れのためかぐっすり眠っていました。起こすのも可哀そうだと思い、私は紗良の肩に頭をのせて目を瞑り、少し安心できたのかいつの間にか寝ていました。


そう、この時生徒が1名増えていることに誰も気付かず、まだ神に覚醒していない私と紗良も気付かずに帰路についていました。ここから私たちの予測していなかった、でも、2,800年前の悲しい出来事が火種になっている戦いが始まりました。


自宅に帰り一息入れて気付きました。


(あれ、嫌な気配が無くなっている)


私はそのことに胸騒ぎを覚え、スマホで紗良にメッセージを打ち込んでみましたが、取り越し苦労だったらと思い、メッセージを送るのを止めました。


そして、私は月明かりに守られるようにいつの間にか眠りについていました。


翌日のクラスは修学旅行の思い出や、お土産を見た家族の反応とかの話しで、いつもより騒がしい雰囲気の朝でした。

私は思い切って紗良に昨日の荷物受け取りロビーでの話をしてみました。


「えっそうなの、実は私も感じていたの。でも、星愛に心配かけちゃダメと思い、黙っていた」


「そっかあ、紗良も感じていたんだね」


「うん、あの時、一瞬だったけど確かに強い気配を感じた。そして、琥珀の先生を呼ぶ声で正気を取り戻し、辺りを見回したけど気配が薄れて、正体は分からず仕舞い」


「私ね、家に帰って気付いたんだけど、バスの中でも微かに感じていた嫌な気配が無くなっていたの。紗良はどうだった?」


「私も一緒だよ、学校の門を出た辺りから嫌な気配が無くなっていた」


私は紗良を手招きして耳元で囁きました。


「で、今も感じるでしょ?」


紗良はセミロングのツインテールの黒髪を少し揺らしながら頷いた。


「うん、廊下側の後ろの席から確かに嫌な気配を感じるね」


そんな話をしていると、朝会の時間になり教室に先生が入ってきました。

いつもは、挨拶をしながら教室に入ってくる先生が、今日は挨拶もなく元気がない様子でした。

きっと、修学旅行から帰った次の日だから、疲れが残っているのかしらと思いながら、ぼんやり先生の方を見ていました。


先生が教壇の前まで来ると日直が号令をかけ挨拶をし、開口一番に青木さんの話しを始めました。


「昨日、修学旅行から帰ったばかりだが、青木桃花あおき とうかが緊急入院することになった。

まだ詳細は分かっていない」


えっ、修学旅行の帰りにあんなに元気そうに話していた青木さんが入院って、私は嫌な気配と今回の緊急入院の件が重なり不安を覚えました。

そして隣の席の紗良を見ると、紗良も同じことを感じたのか私を見て首を左右に軽く振りまた。


(何も言うなという事かしら)


と思い手を上げるのを躊躇していたら、神楽坂瑠璃かぐらざかるりが手を上げていました。


「先生、青木さん、緊急入院っていう事ですけど、昨日の空港ロビーで倒れていた女性職員と同じなのではないんですか?私、あの後、ずっと寒気がするんです」


その瞬間、間違えなく廊下側の後ろの席の方から感じる嫌な気配が強まり、私と紗良は目を合わせ、気が強まったことを確認し合い、瑠璃を見ると、緊張した面持ちになっていました。ただ、直ぐに嫌な気配は薄くなり、わざと気を強くして瑠璃を威圧したように思えました。


因みに、神楽坂瑠璃は生徒会では私の片腕で書記を務めています。そして、自宅の神社では現役の巫女をしている彼女もまた、気配は感じていた様でした。でも、嫌な気配を感じている中での、さっきの質問はまずいな、と私は思いました。


結局、先生は「今朝、家庭から連絡があって、詳細はまだ話せる程わかってはいないみたいだ」の一点張だった。


昼休み、私と紗良は話合い嫌な気配の件で理事長室に行くことにしました。そう、私のママの灯里芳美ともりよしみ理事長なら事情を知っているはず。

紗良は私の手を優しく握り、理事長室に向かいながら、心配そうな表情を浮かべます。


「星愛、大丈夫?もし何かあったら、いつでも私が側にいるよ」


理事長室の前に立つ私と紗良。

今日の理事長室の扉は重く感じたけど気持ちを決めてドアを叩きました。


“トントン”乾いた音が響き中から「どうぞ」と灯里理事長の声がした。

私と紗良が理事長室に入るとそこには、学校長であり紗良の母親、月弓理沙つきゆみりさ校長が神妙な面持ちで灯里理事長と話し合っている最中だった。

私と紗良は灯里理事長と月弓校長の緊張した空気を感じ取り、少し身を固くした。


「ママ、何か重要なことがあるんでしょう?私たちにも教えて」


私は声を優しく、でも、しっかりとした意志を込めました。

理事長と校長の表情を見て何かあると感じたのと、今は嫌な気配も感じられなかったので今度は大きな声で尋ねました。


「ママ、青木さんの件、何か隠しているでしょ?空港の荷物受け取りロビーからずっと嫌な気配を感じているの。青木さん、目を開けて魂の抜け殻の様になって倒れていたんじゃない?」


紗良が続けて質問します。


「理事長、青木さんも空港で倒れた職員と同じように倒れていたんじゃないんですか?」


理事長は私達の質問を受け優しい微笑みを浮かべ答えました。


「空港職員のことは詳しくは知らないけど、あなたが言っていることは大方合っているわ。昨夜、青木さんは帰宅途中に魂の抜け殻のようになって倒れていたのを発見されたのよ」


私と紗良は目を見合わせた後、紗良が続けて話しました。


「やっぱりそうだったんですね。星愛の言う気配、私も感じている。それに、今朝、嫌な気配がする中で、大きな声でその気配のことと、青木さんが倒れたことに関連があるんじゃないかと先生に質問していたの」


私は一呼吸置いて言葉を続けた。


「ママ、今もその気配をクラスで感じているし、神楽坂さんが質問した時に更に気配が一瞬強くなった。早く何とかしないと大変なことになると思うの」


理事長と校長は顔を見合わせ、校長がうなずくと理事長が少し考えてから口を開きました。


「星愛と紗良は神隠しは知っているかしら?」


私と紗良は顔を見合わせ、私が理事長に尋ねました。


「話には聞くけど、興味はないし、そんなことあるとも思っていないわ。その神隠しと今回の件が何か関係あるの?」


理事長はゆっくりと言葉を選ぶように話し始めました。


「そうね、実際には神隠しではないのよ。よく都市伝説とかでエレベーターが無い階に止まって人がいなくなったとか、電車で寝込んでいて気付いたら知らない線路を電車が走っていた、神社の周りを走っていたらいつの間にか誰もいなくなっていたとかいろいろあるよね。」


私と紗良が頷くと、理事長は話を続けました。


「あなたのクラスでもこの手の話が好きな子はいるでしょ?例えばあなたの親友の月島琴葉つきしまことはさんは、超常現象サークルの部長さんだし雑談として話すことあるでしょ。実はね神隠しって半分あっていて、半分間違っているの。実際には星愛ちゃんや紗良ちゃんが空港で見た職員さんと同じで、魂が抜けたように表情が固まって動かなくなった人たちのことを指していることが多いみたいね。」


私と紗良は突然理事長が神隠しの話を始めて、戸惑いの表情を浮かべたが、そんなことはお構いなく話しを続けた。


「魂を抜かれたように倒れた人は、大体が病院に運ばれるけど、原因が不明の生命機能は正常だけど意識が無い状態。病院でも治療の方法がなくて、大概は精神病院で寝たままの状態で入院している方が多いらしいの。そして、政府ではこの病気の様な奇妙な症状を国民の混乱を招く恐れもあるから極秘扱いにしている。知らない人から見れば、ある日、突然倒れた人の姿が見られなくなり、家族もその理由の説明ができず、いつの間にか神隠しに合ったような噂が立つのも仕方ないはね。この話しは私も公安局の人に聞いたばかりで、半信半疑なんだけどね」


紗良は私の手を優しく握りながら、落ち着いた声で話し始めます。


「神隠し……そういうことが実際に起きているのですね。でも、本当の原因は……魂が抜けた状態……

俄かには信じがたい話ですけど、今回の件もあるから本当なんですね」


私は紗良に寄り添い、その話について深く考え込みます。


(確かに、琴葉も超常現象についてよく話してくれるけど、こんな現実的な理由があるなんて……。でも、病院でも治療できないなんて、どんな状態なのかな……)


紗良は私の不安を感じ取り、優しく包み込むように話を続けます。


「公安局の人が言っていたように、混乱を招く恐れがあるから極秘扱いになっているのだから、私たちもこの話を他の人には広めないほうがいいのかもしれないね」


理事長が口を開きました。


「紗良ちゃんのいう通り、あなたたちを信頼して話したの。今の話しは他の人には話さないでね。間違えなく学校は大混乱になるし、国からも情報を漏洩させない様にと言われているの。


そ・れ・に、あなたたちはいつも学園トップで安心しているけど、今は2週間後の3学期の試験に集中する時だし、こんなことよりもっと大きな……」


理事長は何かを言いかけ、慌てて口を噤んで、話しを終わらせました。


「いえ何でもないわ、しっかり勉強しなさい」


と釘を刺され、私達は理事長室を後にしました。




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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