ハルカちゃんと私
「どのみち、どの世界線でも、オレたち四人はあの現場付近にいたってことだよな。これって、たぶん偶然じゃないよな? オレたちが『観測者』として選ばれた理由と、何か関係してるのかも」
そう語る向田くんの顔には、隠しきれない高揚感が滲んでいる。
「向田。お前、この状況を楽しんでるだろ。遊びじゃないんだぞ」
そんな遠野くんの指摘に、向田くんは「わかってるって」と苦笑する。
向田くんはSFが好きなのだと、前にハルカちゃんが教えてくれた。中学の頃には二人で一緒にSF映画を観に行ったとも言っていた気がする。
とても距離が近くて、まだ付き合っていないのが不思議に思えるくらい仲の良い二人。
今現在ハルカちゃんに避けられている私からすれば、なんだか向田くんのことが羨ましく思えてしまう。
きっと、向田くんみたいに明るくてたくさん喋る友達の方が、ハルカちゃんは一緒にいて楽しいんだろうな——と、半ば無意識のうちに彼女の方へ目を向けると、
「…………」
いつのまにか彼女もこちらを見ていたようで、お互いの目がばっちりと合う。
ハルカちゃんが、私を見つめている。
どうしよう。何か言った方がいいのかな——と慌てて思考を巡らせているうちに、彼女はふいっと視線を逸らしてしまった。
ああ、またやってしまった。
こういう時、どんな風に声をかけていいのかわからない自分がもどかしい。
しかも中途半端にお互いを意識したことで、さっきよりも余計に気まずくなってしまう。
「どうかしたのか、二人とも」
遠野くんの声が届く。どうやら私とハルカちゃんとの雰囲気に何かを察したらしい。
「もしかして、いまケンカ中か?」
ぎくり、と全身が強張る。
ケンカ中か、なんて直球の言葉を投げかけてくるところは、さすが遠野くんだ。
「あ、えっと、その……」
私はしどろもどろになりながら、どう答えていいものかと悩む。その隣で、ハルカちゃんはツーンとしたまま明後日の方角を見つめていた。
「おい遠野。そっとしといてやれよ。ほんとデリカシーがねえな、お前」
向田くんが呆れたように笑う。けれど遠野くんは表情一つ変えることなく、
「別にケンカぐらい好きにすればいいけどさ、そのせいで会話にならないってのだけは勘弁してくれよ。せっかくこうして集まって話してるのに、大事な情報を共有できなかったら意味がないからな」
至極もっともなことを彼は口にする。
「ちょ、お前……鬼かよ」
どこまでも真っ直ぐな遠野くんの発言に、向田くんは若干引いていた。
見方によっては、ちょっと冷たく聞こえる遠野くんの言葉。けれど彼の言っていることは何も間違ってなどいない。
せっかく今こうして、私たち四人は顔を突き合わせて相談しているのだ。なのに仲違いをしているからといって会話ができないとなると、今ここに集まっている意味がなくなってしまう。