世界の分岐
「オレが、死んだ? ……ハルカは、その事故の瞬間を見たのか?」
「見てたし、昨日のあの瞬間、一緒にいたじゃん! 二人でハーバーに行った帰り、駅に向かって歩いてたら急にトラックが突っ込んできて……!」
ハーバーランドのそばの、JR神戸駅付近での事故。
やはり彼女が見たのもあの事故のことのようだった。
私たち四人は、昨日のあの瞬間に、それぞれが別の人物の死を体験している。
ありえない話だった。
何かの間違いとしか思えない。
けれどただの思い違いにしては、あまりにも珍しい偶然が重なりすぎている。
「なあ」
向田くんはスマホに耳を当てたまま、再び私たちと目を合わせて言った。
「これってさ、あれじゃね? あの……えーっと、何だっけ。SF映画とかでよくあるやつ」
「SF?」
「ああ。なんか、選択肢の数だけ世界が分岐する、みたいな……。主人公がさ、もしもあの時この行動を取ってたら、今頃はこうなってただろうなっていう世界線が存在するやつ」
「パラレルワールドですね」
向田くんの説明に、そう答えたのは私のスマホだった。
「え、ラビ……?」
私は驚いてポケットからスマホを取り出す。
先ほどスピーカーから発せられた声は、間違いなくラビのものだった。画面を見ると、例のウサギっぽいキャラクターが愛らしい顔でこちらを見つめている。
それまでアプリを開いていた覚えはなかったけれど、いつのまにか手が当たってしまったのだろうか。
「あー、そうそう! パラレルワールド! まさにそれじゃね? オレたちがいま置かれてる状況」
パラレルワールドというのは、現実の世界と並行して存在する別の世界のことだ。過去のある点において、別の選択肢を取った場合に誕生する世界線。私も漫画かアニメか何かで見たことがある。
「いや、パラレルワールドって。そんなのフィクションの中だけの話だろ?」
遠野くんは半ば呆れたように言う。
「そうだけどさ。でも現にいま、オレたちはそれっぽい体験をしてるじゃんか。昨日の事故の瞬間、オレたち四人はそれぞれ別の世界線を体験したんだよ。これがパラレルワールドじゃなくて何だっていうんだ?」
どこかムキになる向田くん。
そういえば、彼はSFが好きなのだと前にハルカちゃんが言っていたような気がする。
「オレたちみたいな高校生が主役の青春SFはな、舞台は夏だって相場で決まってんだよ。明後日から夏休みだしさ、時期的にも丁度いいだろ?」
一体何が丁度いいのかはよくわからないけれど、彼はどこか興奮した様子で力説する。
明後日から夏休み。そういえばそうだったなと、私は再びスマホに目を落として日付を確認した。
と、そこであることに気づく。
夏休みを目前に控えた今日は、七月十八日のはず——だけれど、なぜか画面に表示された今日の日付は、七月四日になっていた。