表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/67

向田くんの証言

 

「どういうこと?」

「何それ聞いてないんだけど!」

「おい悠生。一体何言い出すんだよ!?」


 周りのクラスメイトたちからは口々に戸惑いの声が上がる。


 ハルカちゃんが交通事故に遭った。

 向田くんはそう言っている。

 けれど昨日の彼は、事故に遭ったのは遠野くんだと言っていたのに。


「天江が事故? そんな連絡はなかったぞ。今朝は体調不良だって親御さんが言ってたが」


 先生は怪訝な目で向田くんを見つめている。


「悠生。お前なに寝ぼけてるんだよ。そういう夢でも見たのか?」


 近くにいた男子が半笑いで言うと、向田くんは至極真剣な様子で「夢なんかじゃない!」と反論する。


「オレは昨日、目の前で見たんだ。ハルカがトラックに轢かれて、すげえ血が出てて、全然目ぇ覚まさなくて、救急車で運ばれて……。お前らだって、昨日のニュース見てただろ!? ハルカが死んで、お悔やみのメッセージいっぱい書いてたじゃんか!」


「はっ? 何だよそれ」


 彼のただならぬ様子に、周りも困惑している。


 向田くんとハルカちゃんは中学の頃から仲が良くて、今も同じ陸上競技部で活動している。だからお互いに冗談を言い合ったりするのはいつものことだったけれど、さすがに今回のこれはジョークとしては笑えない。


 そして何より私が気になったのは、彼の口にした事故の状況が、まるで遠野くんの事故とそっくりだったことだ。

 トラックに轢かれて、救急車で運ばれて。そのまま亡くなってしまったことがニュースで発表されて、SNS上ではクラスメイトたちからの追悼メッセージが溢れた。


 そして今はなぜか、その一部始終をクラスメイトたちは覚えていない。


(これって……)


 何か、説明のできない現象が起きている。


 思わず遠野くんの方を見てみると、彼もまた私の方を窺っていたようで、お互いに目が合った。

 彼はそのまま、おもむろにイスから立ち上がったかと思うと、


「向田、ちょっと来い」


「は?」


 つかつかと向田くんの方へと歩み寄り、有無を言わさぬ様子で彼の腕を掴むと、強引に廊下の方へと連れて行く。


「え。ちょ、おい。遠野。何なんだよ急に!」


 吠える向田くんには構わず、遠野くんは教室の扉の前まで来ると、


「一ノ瀬も来い」


 と、私にも声をかけてくる。


「え、私……も?」


「当たり前だろ」


 彼の迫力に押されて、私も恐る恐る席を立つ。


「こら、お前たち。どこへ行くんだ。今は休み時間じゃないぞ!」


 黒板の前に立つ先生はそう声を荒げたけれど、


「授業が始まるまでには戻るんで」


 遠野くんはそう淡々と言って、微塵も悪びれることなく、私たちを連れて教室を後にした。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ