邂逅
◯
結局、あれから何時間も寝付けなかったけれど、やがて泣き疲れて、気がついたら朝を迎えていた。たぶん二時間ぐらいは眠ったのかな。
(学校、行かなきゃ……)
スマホを確認すると、午前七時。そろそろ支度をしないと授業に間に合わなくなる。
ぼんやりとする頭で、昨日のことを思い出す。
放課後の夕暮れ、ハーバーランドで遠野くんと会って、たくさん話をした。そしてそのすぐ後に、彼は事故に遭ったのだ。
遠野くんが亡くなった。
夢であってほしかった。
もしかしたら本当に夢だったんじゃないかと思って、クラスメイトたちと繋がっているSNSアプリを開こうとすると、
「真央。そろそろ準備をしないと、学校に遅れますよ」
スマホのスピーカーから、ラビの声が届いた。
口調が昨日のままだった。以前の少年っぽさはなくなって、まるで落ち着いた女性のような声色。それも敬語。
その声を耳にした瞬間、昨日のことはやっぱり夢じゃなかったのだと悟った。
遠野くんはもういない。
事故で亡くなってしまった。
今日は、学校で全校集会でも開かれるのだろうか。
全校生徒の前で、先生の口から彼の死を告げられるのかと思うと、その場の空気を想像しただけで、私は耐えられそうになかった。
◯
重い足を引きずって、始業時刻ギリギリに教室まで辿り着くと、そこはいつもと変わらない賑やかさで満ちていた。
まるで昨日の事故なんてなかったかのように、見慣れた顔のクラスメイトたちはそれぞれ楽しげに談笑している。
みんな、遠野くんのことなんてどうでもいいのだろうか。確かに彼は普段から一人でいることが多かったし、特定の誰かと仲良くしていたイメージもないけれど。
それでも、クラスメイトの一人が亡くなった直後にしては、あまりにも関心がなさすぎるのではないか——と、そんな憤りにも似た感情を胸の奥でくすぶらせていると、
「あれ。一ノ瀬?」
すぐ隣から、声をかけられた。
見ると、入口そばの席に腰掛けた男子がこちらに視線を向けている。
垂れ目がちな瞳。ワイシャツの袖から覗く引き締まった腕。どこか余裕のある居住まいから、一見して強者の風格が窺えるその人物は、
「……遠野くん?」
彼が、そこにいた。
昨日、車に撥ねられて亡くなったはずの遠野くんが。
まるで信じられない光景に、私は思わず自分の目を疑う。
もう二度と会えないと思っていたその存在が、いま、私の目の前にいる。
「え。あれ。遠野くん? どうして、ここにいるの? 昨日亡くなったはずじゃ……」
わけがわからず、私は声を震わせる。
もしかして幽霊?
それともただの幻?
戸惑う私をまっすぐに見上げながら、彼はさらに思いもよらぬことを口にした。
「いや、何言ってんだよ。昨日死んだのは一ノ瀬の方だったはずだろ?」
「え?」