第2話『帰り道、ジャスト』
──帰り道、というのは魔物に遭いやすいらしい。『神様』に、教えてもらってことだ。
夕方、俺は電柱よりも高く飛びながら、言われた女の子──つまり、嘶真凛を監視していた。
「……すげぇ、犯罪臭」
嫌な顔になるのを、筋肉で感じる。この時点では、未だ犯罪者の域を出そうになかった。
そう。この時までは、だ。
瞬間、俺は空をふと見ている事に気づく。いや、見させられているのか。
それに気がついて下を見ると、地面からは半透明の巨大な怪物が、触手のようなものを這わせて現れていた。
「なるほどね……っ」
狙いは、どう考えてもあの少女。
俺は迷う事なく、急降下する道を選んだ。
急降下の直前、俺は空中に手をかざし――金属バットを取り出した。
空間抜刀。
以前、ムカつくヤローに教わった技の一つだ。
「さて――そんじゃま、一発」
手に取った金属バットを全力で振りかぶり、急降下の勢いに任せて――俺はバットを半透明の怪物に叩きつけた。
近くで見ると、どうにも気味が悪い。魚か蛸か、とにかくぬめっとした感触がしそうな――はずだった。
「なにっ」
俺の攻撃は、するりとヤツの体を抜けて、地面に激突させてくる。
つまり、通らなかったのだ。
「どういう――」
言うが早いか見るが早いか、俺は真正面から――半透明の怪物に睨まれていた。
無数にある眼が、俺だけを見ている。
「おっとぉ……こりゃヤバいんじゃねーか?」
ふと後ろを、真凛が居るはずの所を振り返る――が、そこには誰も居なかった。
「え」
もう帰ってしまったのか。地面に金属バットを叩きつけた音が、死ぬほど響いたというのに。
「一体どこに――」
その答えは、割とすぐに分かった。
「やれやれ……キミ、力の差ってのが分からないのかい?」
上空。それも、怪物を見下ろす形で真凛は浮いていた。
「奴ら”スケルトン”は、コンバート時点で既に人身を超えた存在。倒せるのは――ボクぐらいなものだろうさッ!」
手を勢いづけて降り下げる真凛。すると、狙いすましたような雷が怪物の元に降り注いだ。
感電、なんて生易しいモノじゃない。アレは――天罰だ。
そう感じさせるほど、圧倒的な力を、彼女は行使していた。
「すげぇ……」
ソラが晴れ、怪物が消え去った後。少女の目付きが、一瞬で変わったように感じた。
「……あれ? ナニコレ……私、浮いて――ッ!」
瞬間、少女は飛び方を忘れ落ちてゆく。
「危ない!」
空から落下してくる少女を、俺は無い羽根を羽ばたかせて――上空で受け止めた。
少女の重みはかなりのもので、思わず地面を滑走して着地してしまう。
そして俺は、真凛を抱き留める形で立っていた。
「いてて……あ、ありがとうございます……」
地面に足を着ける真凛。その姿からは、とても先ほどの力を行使している姿が想像できなかった。
「……まぁ、これが仕事だからな。それよりお前、さっきのカミナリって――」
「カミナリ……空から落ちた……って、アナタッ! よくもやってくれたわね!」
「……はい?」
突如として怒られたことに、俺は何の心当たりも無かった。
「アレほど、相談なしの『入れ替え』は無しだって前決めたばっかでしょ! 早速破って、知らない人に迷惑かけるなんて……一体どうしてくれるのよ!」
真凛が怒鳴った次の瞬間、彼女の瞳の色が変わったのが目視で確認できた。
「知らない人……って訳じゃないんだけどね、真凛。それに、スケルトンが現れたら仕方が――おや、自己紹介がまだだったね」
ここまで来て、真凛は俺に怒っていたわけでは無いことに気が付く。
次に、目の前の少女が先ほどのスケルトンとやらを倒した存在であるということが、本能で察知できた。
と言う事は、この子は――
「やぁ、久方ぶりだね。赤城大河。――ボクは管理者。まぁ、簡単に言えば神様、かな?」
神に魅入られた、という言葉の意味を、俺は初めて認識していると思う。




