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織田家のアナザー・ジャパン  作者: 青い水


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第72章 エルナニ事件

そりゃモンパルナスののビストロでワインを飲んだら良い感じに酔っ払いますってば。しかし天寿くん、即興で韻を踏むなんて才能あるのでは?


「わー、なんか見たことがない料理がある!」アンカとミラのハーモニー。

「何これ、巻き貝?」ユミカとピアのハーモニー。

「えーと、メニュー(カルト)を眺めていた天寿が言った。「それカタツムリ。」

「えっ.....」固まる4人。

「いや、食ってみろって、絶対美味いやつだ。」

「ハムッ...おいひ~!」4人の顔がほころぶ。


 エスカルゴのほかにテーブルに並んでいるのは、鳥のフリカッセ、白身魚のムニエール、どれもが白ワインにぴったりの品々。ワインはアルザスのピノ・グリとフリウリのピノ・グリッジョ。


「私たちの任務って何だっけ?」ミラが少し噛み気味に言った。

「ん~、聞いてなかったような。」ユミカが無責任に言った。

「パリの情報集めじゃないの?」アンカがざっくりと答えた。

「そんな曖昧な指示ってあるの?」ピアが疑問を挟んだ。

「パリの生活にしっかり溶け込んでパリジャンになる!」天寿は酔っている。


「ノンノンノンノン、そうはいかない(サ・ヌ・ヴァ・パ)!」


左隣のテーブルから憤った男の声が聞こえた。


「そうはいかないよ、ムッシュー、この戯曲は改変させない!」男の剣幕が激しい。

「しかしユーゴーさん、舞台はコメディー・フランセーズです。」相手は引き気味だ。

「良いかね、ミュレーくん、ぼくたちは古い殻に閉じこもってアレクサンドランを紡いでいるわけにはいかないんだ。文学も生活も、これからはもっと自由にならなければならない。自由こそわれわれが進む道の先に咲く花なんだ。道を切り開かなければならない。進んで行く道を自らの手で切り開かなければならないんだ。」ユーゴーと呼ばれた男は熱弁を振るう。

「観客が暴れ出すかもしれません。」ミュレーは理想が蹂躙する現実を心配している。

「ともかく改変はなしだ。『エルナニ』はこのまま舞台にかける。」男は銀貨をテーブルにたたき付けると席を立った。


「ブラヴォー、ムッシュー!Je croise les doigts!」酔って上気した顔で天寿は中指と人差し指をクロスした。

あなたは誰だ(ヴ・ゼト・キ)?」不審そうにユーゴーが尋ねた。

「Nous sommes le dragon d'or du vent fort!」天寿は陽気に組織名をバラした。

「ちょ、ちょっと!」ミラとアンカが天寿の腕をつねる。

「疾風に乗って空を駆ける金色のドラゴンか、素晴らしい!」ユーゴーは気に入ったようだ。

「君たちを招待しよう。」ユーゴーは5人に劇場のチケットを渡して店を出た。


「はっはっは、ドラゴン・ドールとヴァン・フォールで韻を踏んでいたからな。」天寿はチケットをもらってご満悦だ。

「何々、戯曲『エルナニ』、5幕、公演場所:コメディー・フランセーズ。」

「行くの?」ミラが尋ねる。

「お芝居観たい!」ユミカはうっとりしている。



『エルナニ』初演の日、コメディー・フランセーズにやってきた一行は,その偉容に驚き喜んでいた。


挿絵(By みてみん)


 劇が始まった。すると、何と言うことだろう、客の一部が立ち上がって激しいブーイングを始めたではないか。そして、それを咎める反対派の罵声、それに反応する怒声、ついには手を出す者、取っ組み合いの喧嘩をする者、もはや劇どころではなく収拾が付かない劇場内の混乱。5人は持ち前の機敏さで上手に混乱を避けてロビーへ待避し、状況を観察した。どうやらこの劇について賛成派と反対派がはっきり別れて喧嘩になっているようだ。


挿絵(By みてみん)


「せめて芝居が終わってからにして欲しかったな。」天寿が苦笑する。





そういえば『レ・ミゼラブル』を書いたのもヴィクトル・ユーゴーですね。

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