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織田家のアナザー・ジャパン  作者: 青い水


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第62章 ヴァンパイア捕獲作戦

久しぶりに動きの多い章になりました。


 ハプスブルク家セルビア総督府の執務室でエルンスト・フロムバルトと軍医ヨハネス・フリュッキンガーが会談している。


「なるほど、ドクター・フリュッキンガー、貴殿のおっしゃるとおりです。原因を解明せずに現象のみを消去する、それは科学の取るべき道ではありません。火矢で焼き尽くせば、啓蒙されていない村人たちが死体に杭を打ち火を放つ行為と同じことになります。われわれは証拠を保全し、原因を解明しなければなりません。」

「ご理解いただきありがとうございます。」

「あの魔物の捕獲の対策は?」

「はい、総督府工廠の技官の協力で、私が帯同いたしました異国の戦士の道具がハプスブルク家の金属加工技術で強靱化されますので、安全に捕獲されるものと確信いたしております。ハンガリーでは捕獲に当たったのは2名でしたが、次回は完全を期すために5名で臨みます。」



「さて完成したぞ、嬢ちゃん。」ドワーフのような技師がミネルネに蜘蛛糸を渡す。

「じゃさっそく試してみるね。何か強い斧かサーベルを貸して。」

「おう、これを使いな。」ドワーフ(じゃないけど)は武器を渡した。


 ミネは蜘蛛糸を展開した。工廠に金属の蜘蛛の巣が張られる。ルネがサーベルで切りつける。跳ね返されて刃がこぼれた。「これならどうだ!」ドワーフ(でも良さそう)が渾身の力を込めてバトルアックスを振り下ろした。蜘蛛糸は大きくしなり反動で斧をはじき返した。ドワーフのような技師は跳ね飛ばされた。


「これならゾウでも拘束できるぞ。」技師は起き上がりながら言った。

「この忍具で5人がかりならどんな魔物にだって勝てる。」ミネは確信した。



 捕獲作戦は次週早々に開始された。失敗したときの保険に弓隊が300名とその護衛が300名、後方に展開した。ヴァンパイアは葬られた墓で眠ることで腐敗を免れる。自らの瘴気(ミアズマ)で汚染した土が現世における存続を支えるのである。墓を暴き土を撤去してしまえば、帰るべき場所を失ったヴァンパイアはやがて滅びる。

 一行はヴァンパイアの墓に到着した。墓を暴いて中を見ると空っぽだった。新しい犠牲者を求めて放浪しているのだろうか?この先に村がある。襲撃するとすればそこだろう。犠牲者が出る前に捕獲するか。だが、もし村に移動した後にやつが戻って来たら、そしてもし汚染土を持って次の隠れ場所に移動したら、手がかりは永遠に失われてしまう。


「二手に分かれましょう。ひとつは村へ、もうひとつはここで待機。」カイアが指示する。

「双子は連係が良いからまとめるとすると、一組はミネルネと私、もう一組は夢火夢水とフロムバルトさん、そしてフリュッキンガーさんね。」

「それぞれの組に伝令役の兵士5名と馬を付けよう。」フロムバルト長官が手配した。


 村探索組のカイアとミネルネは、森の木立を跳躍しながら進んだ。伝令5名は馬に鞭を入れ早足でそれを追った。悲鳴が聞こえた。家畜の牛が目の色を変えて暴走している。耳の後ろから血を流している。噛み傷だろうか。カイアは蜘蛛糸を投げつけた。大きな金属の蜘蛛の巣が展開し、牛は絡め取られた。ハアハアと激しくあえいでいるが、その息に腐敗臭のような瘴気が感じられる。ヴァンパイアに栄養を与えてしまったのだろう。

カイアは伝令を呼び、待機している兵士10名と拘束用のロープ、そして運搬用の檻を手配するよう伝えた。家畜をロープでグルグル巻きにした上で総督府に運び、しかるべき医師や科学者に調査させようというのだ。ヴァンパイア事件に何らかの疫病が絡んでいるなら、噛まれた家畜の身体から原因究明のヒントが得られるかもしれない。そのとき村のほうからまた悲鳴が聞こえた。一行が村に入ると、今度は豚がグルグルと円を描きながら暴走して、村娘に衝突していた。村娘は頭から血を流している。カイアは駆け寄った。ミネは蜘蛛糸で豚を絡め取った。


「大丈夫?」

「餌をあげようと豚舎に行ったら突然...」


 カイアは娘に傷薬を塗って包帯を巻いた。豚を調べていたルネが、「あった!」と指さした。豚の顔に噛み跡があった。カイアは再び伝令を呼んで、牛と同じ処置を指示した。


「牛、豚と来て、次は鶏?それとも羊?生意気なグルメね。」カイアは舌打ちした。

「きっと近くにいるはずなんだけど。」ミネが周囲を警戒する。

「伝令に兵士の増援を要請させようよ。人手が足りない。」とルネが言った。

「そうね、家畜小屋と各民家の入り口を見晴らせましょう。」カイアは伝令を飛ばした。


「大変です!」慌てふためいて伝令がすぐ戻ってきた。

「最初の伝令がやられました。馬も人間も森の中で絶命しています。」

「くっ、やられた。森の中に潜んでいたのね。」カイアは唇を噛む。


 森へ急ぐ一行に戦闘音が聞こえてきた。森の中で、夢火と夢水が蜘蛛糸でヴァンパイアを絡め取ろうとしているが、月明かりを浴びたヴァンパイアのスピードは速く、すんでのところで展開した蜘蛛糸をすり抜けてしまう。カイアは伝令の兵士に耳打ちし、伝令は馬に拍車を当てて駆け去った。


「5人がかりなら、いくら月光を浴びていても...」

「抜け出る隙はないわよ。」ミネとルネの時間差ユニゾン。

「よし、かかった!」カイアが叫んだ。

「かかったけど、蜘蛛糸も絡まっちゃった。」とミネとルネ。

「大丈夫、これでおとなしくさせる。」カイアが何かを魔物に投げつけた。


 断末魔のような叫びを上げてヴァンパイアは動きを止めた。展開し絡まった蜘蛛糸の中で、それはまるで間違って蜘蛛の巣に引っかかった蟇のように伸びていた。背中には何やら白い塊が付着していた。


「カイア、何を投げたの?」ミネルネが尋ねる。

聖餅(ホスティア)よ。近くの教会からもらってきてたの。」


やっと捕獲したヴァンパイア、どうしてくれましょう?

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