表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/78

第6章 信長まさかの隠居

待ちに待ったスペイン艦隊との対決

 信長はその頃、頻繁に名古屋港に設置された造船所を訪れていた。全国から拉致して集めた船大工たちも二代目になっている者もいた。


「大型軍艦と中型駆逐艦の見通しはどうだ?」

「はい、駆逐艦のほうは、九鬼衆の鉄甲船を大型化して小型大砲を付けるだけなので何とかなりますが、大型軍艦は現状のものの改良点が思いつきません。南蛮船のひとつでも手に入ればどうにかなりそうですが。」

「そうか。ところで駆逐艦と大型軍艦、海上ではどちらが速い?」

「駆逐艦です。何と言っても軽いし、漕ぎ手の数も多いので小回りがききます。」

「ふむ、なるほど。で、小型大砲の火力はどんなものかな?」

「命中すれば駆逐艦は沈没です。大型船は、そうですな、5発ぐらい食らえば沈むかと。」

「なるほど、わかった。ならば駆逐艦に注力してくれ。高性能なのを50隻頼む。」

「了解しました、信長様、改良型鉄甲船、仕上げて見せましょう。」


 1581年、信長は鳴海城で忍びの首領斑鳩雷蔵と密談をかわしていた。


「信長様、おひさしゅうござる。」

「斑鳩の、ひさしいな。壮健そうだの。薬の商いも順調のようじゃ。名古屋城には黄金の山ができそうじゃぞ。天晴れだ。」

「信長様がご提案なさった商いでございます。我らの功績ではございません。しかし、この商いのおかげで、日本各地の情勢が手に取るようにわかりますし、薬箱を補充しに訪れる各家庭で漏れ聞く話は非常に貴重な情報となっております。これもひとえに信長様のおかげ。」

「うむ、きょうはそちに頼みがあって来たのじゃ。手練れを選んで、異国に潜入させてはもらえぬか?」

「異国でございますか。ご命令とあれば、もちろんお引き受けいたしますが。」

「うむ、異国というのは、シャムとルソンと安南じゃな。すでに何人か日本人がいるようだが、詳しいことはわからん。この三国に侵入して、スペインの動きを探ってもらいたい。言葉も覚えないとならんし、そうした才のある優秀な忍びを、それぞれの国に5人ずつ、計15人を選抜して送ってくれ。荒事もあるかもしれんし、くノ一の色仕掛けも必要になるかもしれん。人選は任せたぞ。今月中に出発できるよう手配せよ。」

「はっ、お任せください。」


「おーい、信長、順調そうだな。そろそろスペインに仕掛けるのか?」


「うむ、もう少し先じゃな。戦を仕掛けると南蛮貿易が止まる。そこが問題じゃな。」


「うん、そこが問題だね。ただ、南蛮貿易の相手はポルトガル人であってスペイン人ではない。やつらはときに密接に協力するけど、とりあえず別の国だ。スペインは、日本にとって貿易相手としてはそれほど大きな存在ではない。それにそのうち、スペインはイギリスに負ける。自分たちが「無敵艦隊」と呼んで世界の海の覇者であるかのごとく喧伝していた海軍があっけなくイギリス海軍に負けてしまうんだ。まるで今川や武田が信長に負けたように。まだ先の話だけどな。」


「なるほど、ならばやってみる価値はありそうじゃな、3年後あたりにでかい花火を打ち上げることとしよう。」


 1584年、宗教省はスペイン人の宣教師、イエズス会のアレッサンドロ・ヴァリニャーノを呼び出した。彼に告げられたのは、晴天のへきれき、まさかの布教の禁止であった。「我が国の民に奇天烈な教えを広め、洗脳した後で国家不服従に仕立て上げようとした罪、万死に値する。よって国内で活動中の宣教師をすべて拘束する。なお、代表者のアレッサンドロ・ヴァリニャーノは、スペイン政府への書状を持ってマニラなりどこなりへ出国することを命じる。」


 半年後、斑鳩雷蔵の元にマニラに潜伏していた忍びが報告に戻ってきた。彼はマニラから台湾まで交易船で移動し、台湾で船を乗り換え石垣島へ、石垣島から先は小舟に忍び道具の帆を張って、宮古島、琉球、奄美、種子島、指宿へ進み、そこから早馬を乗り替えて尾張まで1ヶ月で到着したのだった。


「お頭、ただいま戻りました。マニラの状況を報告いたします。2ヶ月前、日本から宣教師がマニラに戻り、総督府は大混乱に陥りました。市内の民たちにもすぐに状況が伝えられ、道ばたでは取り乱して神に祈る民たちの姿が認められました。われわれは薬の商いで現地の民と語り合える関係を築いておりましたので、手分けして情報を集め、総督府の方針を知るに至りました。宣教師が持ち帰りました日本の封書には、身代金として銀1トンを差し出さなければ宣教師たちをサメの餌にすると書いてあったそうです。総督府は激怒し、日本へ大艦隊を送って艦砲射撃で日本を火の海にすると脅して宣教師を取り戻すか、それが失敗したら砲撃で実際に日本の町を焼き払うつもりのようです。」

「うむ、大義であった。ではさっそくその旨を信長様に伝えよう。」


「やあ、信長よ、ついに来るな、スペイン海軍!」


「ああ、見ておれ、なめてかかると痛い目を見るということを教えてやろう。」


「楽しそうだな。」


「それはそうよ。天下統一も果たした今、これがわしの最後の戦じゃ。楽しまなければの。」


 1585年、名古屋港沖合5kmの海域に旗艦サンタ・アンヘラを中心に、スペイン軍のガレオン船10隻が現れた。それぞれが3門から5問の大砲を備え、小高い岩礁のように海でそびえ立っていた。迎え撃つ織田の海軍は、大型軍艦5隻、中型駆逐艦50隻であった。季節は夏、南東の季節風はスペイン軍にとって追い風になる。追い風を受けて、スペイン軍は何のためらいもなく距離を詰め、射程内に日本の軍艦を捉えようとする。日本の大型船は、的にならないようにいったん敗走する。ガレオン船と違って日本の大型軍艦はガレー船と帆船の中間型なので、帆で捉えた風力に船倉の漕ぎ手の力が加わるのでガレオン船より速い。ガレオン船の砲弾はなすすべなく海に落ちた。

 その間に中型の駆逐艦は見事な連携でガレオン船を囲み、可動式の小型大砲の照準をガレオン船に向けた。ガレオン船の甲板からは、駆逐艦の動きが視認しにくい。駆逐艦の船体は海の色に偽装されていたのである。これは九鬼水軍と金竜疾風の合同訓練で発案された作戦であった。集中砲火を浴びて、まず1隻のガレオン船が沈んだ。ガレオン船の反撃で駆逐艦も何隻か大破した。ガレオン船の甲板からは、鉄砲による狙撃で駆逐艦の砲手を狙ってきたので、戦死者も出たが、倒れた砲手に代わって船室から次の砲手が現れ、攻撃は続けられた。砲撃の手数の違いは圧倒的で、なおかつ手こぎと帆の併用でスピードは圧倒的に駆逐艦の勝ちだったので、1隻、また1隻とガレオン船は沈没し、残りは旗艦と3席になった。ここで駆逐艦の攻撃方法が変わった。主に砲列を狙って破壊し、敵の攻撃力を無力化してから侍衆が鍵縄を投げて敵船の甲板に躍り込み、白兵戦を仕掛けたのである。こうなると、しばらく刀を振るう機会がなかった侍衆は、待ってましたとばかり敵をなぎ払い、甲板は血の海になるのだった。旗艦サンタ・アンヘラ他3隻のガレオン船は鹵獲された。

挿絵(By みてみん)

 凱旋を待っていたマニラの総督府は戻ってこない艦隊にしびれを切らしていた。「何が起こった(ケ・ア・パサッド)!」総督は机を叩いた。そこに職員が書類を持って入室した。

「失礼します、総督、海軍から報告がありました。昨日、15時34分、台湾沖の海上で、船首像の一部が発見されました。拾い上げて確認したところ、我が軍の戦隊に間違いありません。撃沈された模様です。」

「なん、だと!」

「その後、その付近を捜査しましたが、軍艦の一部と思われる漂流物がいくつか発見されました。どうやら迎撃されて全滅した模様です。」

「まさか、あの蛮族が、黄色い猿が、我が誇りある無敵艦隊を撃破しただと!ありえん、あってはならん!これはいかなる神の試練か?国王陛下になんと報告すれば良いのか。ともかく本国へ報告だ。大変なことになった。」


「おーい、信長、ついにやったな。」


「おうよ、興奮と快感でおかしくなりそうだったぞ。」


「国内の反応はどうだ?」


「みんな大喜びで万々歳じゃ。日本中あちこちで民に餅が振る舞われての、北から南の果てまで信長様バンザイじゃ。」


「それは良かったな。これから様々な改革に着手するのだから民の支持が何より大事だ。ところでおまえの嫡男は何歳になった?」


「信忠か、28歳になりおった。今はもっぱら清洲城におる。」


「ならばそろそろ家督を譲れ。」


「なんでだ?わしはまだまだ。」


「いや、あんたはまだまだ長生きするよ。でもあんたが死んで家督を譲られたとき、あんたの息子はもう爺だぜ。爺ではもう何もたいしたことはできない。そうは思わんか?」


「まあ、たしかいそうじゃの。」


「この国にはまだまだやらなければならないことがある。歩みを止めるわけにはいかないんだ。それはあんたもわかっているだろう?」


「うむ、たしかに。ならわしは隠居になって好き勝手させてもらおうかの。」


「ならば良い遊びがあるぞ。国を広げるんだ。」


「ほう、国をとな。朝鮮でも攻めるのか?」


「いや、これだけは言っておくが、朝鮮と中国には手を出すな。ろくなことにならん。未来の日本人が大迷惑だ。遺言として子孫末代まで伝えろ!」


「そうであるか。」


「琉球と台湾を日本に組み込むんだよ。」


「琉球には王国があって、たしか明と朝貢関係にあるな。台湾はポルトガルが手に入れようとしているらしいが、まだ何も手を付けていない。」


「今なら、台湾をもらっても、ポルトガルは手を出せないだろう。スペインの惨状を見たばかりだしな。琉球も、明に貢ぎ物する立場より日本になったほうが富も安定も手に入りそうだ。試してみる価値はある。ただし、おまえさんはもう第六天魔王じゃないんだ。乱暴なことはするなよ。もうそろそろ爺になりかかっているのだから、太っ腹な笑顔で仲間に引き込むんだ。」


「なるほど、それも面白いな。ではさっそく根回しに取りかかるか。」



信長はご隠居さんになってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ