第56章 イタリア紀行
サルディニア、行ったことがない。いいな、青い海。Mare blu!
サルディニアの海は限りなく青い。マイアミと比べても、ハワイと比べても、どこかしら異世界を感じさせるビーチだ。5人は泳ぎを我慢できなかった。特にカイアは、名前がハワイ語で「海」なので、そしてあの人魚ラナのひ孫なので、我慢できるはずはない。ひい婆さんと同じ遊び「イルカ乗り」を始めた。
サルディニアの街並みは美しく、古代の遺跡が点在していて、見物して回る一行の興味は尽きなかった。
「あ、料理屋さんだよ!」カイアが小さくてかわいらしいリストランテを見つけた。
「入ってみるしかないね。」夢火と夢水の兄妹ハーモニー。
「なんか美味しそうな匂いがする。」ミネルネは鼻をクンクンさせた。
グルメの補給を終えた船は、ティレニア海を南下して、イタリア半島の足先の部分に当たるメッシーナ海峡を通ってイオニア海へ抜け、それから北上してイタリアの踵部分を経由してアドリア海へ入った。海は凪いで限りなく青い。
「Bleu, bleu, l’amour est bleu, bleu comme le ciel, qui joue dans tes yeux. ♩」カイアの歌。
「カイア、それ何?」ミネルネのユニゾン。
「青い海を見てたらつい。」
「だからその“つい”ってのが怖いんですけど。」
「水色って言うじゃない?」文脈逸脱症のカイア。
「でもブルーよね?てことは青なんじゃ??」
「たしかに。水色って青に白を混ぜた感じだけど、この海は青だわ。」
船で一夜を明かした翌日、一行はヴェネツィアに入港した。
ヴェネツィアは町の中を運河が縦横に巡り、石畳の小道がその間をつないでいる。水面に揺れるゴンドラと壮麗な建築が織りなす風景は、この町を訪れた一行を魅了してやまなかった。一行は静かな波音を聞きながら、サン・マルコ広場を目指して歩き始めた。
「お泊まりしてもっと見物したい!」とミネルネのわがまま。
「さすがにそれは怒られるやつ。」夢水はわりと冷静。
「リンツへ行く手立てを考えないと。」
「乗合馬車とかないかな?」カイアはキョロキョロ見回した。
「そんなキョロキョロしてたら泥棒のカモになるよ。」冷静な夢水。
「インフォメーションとかないのかな?」時代錯誤なカイア。
「町の人に聞くしかないか。」
「あ、あそこからコーヒーの香りが!」夢火が鼻をクンクンさせる。
「お、カフェのようだ。行ってみよう。」
「お店の人に聞けばきっとわかるよ。」
「Buongiorno! Signore.」カイアの巻き舌が良く回る。
「Cosa desidera?」髭で小太りのマスターが愛想良く近づいてきた。
「んーとね、エスプレッソを5つ。」
「ところでマスター、乗合馬車でリンツへ行きたいんだけど、どこから出てる?」
「メストレから出てる。メストレまではゴンドラに乗りな。」
「ゴンドラ?楽しそう!」はしゃぐミネルネ。
リアルト橋の付近に設けられた小さな波止場で、一行は待機中のゴンドラに乗り込んだ。ゴンドリエーレが器用に操る艶やかな船体は、水面を滑るように進み始める。
「すごい!まるで絵本の中みたい!」ミナが目を輝かせる。
「アモーレ!」ルナも頷きながら両手でゴンドラの縁を掴む。
運河は徐々に広がり、ヴェネツィアの壮麗な建物が遠ざかる。振り返ると、背後にリアルト橋のアーチが小さくなりつつあった。 「風が心地いいな」とカイアがつぶやくと、ゴンドリエーレが微笑み、「メストレまで順調に着きますよ」と頼もしく声をかけた。
楽しいイタリアとお別れして、寒くて灰色のドイツ語圏に入ります。




